「少し散歩に行ってくる」
「あらそう。今日はいい天気だしね。仗助ー! 素子が散歩行くって!」
なんで仗助に報告するんだろう。
そう思っていれば、仗助の部屋から「ちょっと待て!」という声が返ってきた。
「ちょっと、父さんがいないんだからアンタしかいないでしょうが! さっさとしなさい!」
「だぁあ、キリがいいとこまでもうちょっとなんだって!」
ともすれば、姉は仗助がやっているゲームの電源から引っこ抜きそうな勢いだったので、私は慌てて止めに入った。
「こら、姉さん。ゲームは急にやめられないんだ。少し待ってやれ」
「そうだよなあ!? やっぱねーちゃんは俺の味方だぜ!」
「あんまり甘やかすんじゃないの」
姉さんが叱る役を完璧にこなしてしまうので、私はついつい仗助を甘やかしてしまう。
それで結局、私はなぜ仗助を待つのか理由がわからないままに彼を待った。
区切りがいいところでテレビゲームを中断すると、仗助は立ち上がる。
「よし、いいぜ。散歩だよな」
私は瞬きを繰り返した。
「仗助も来るのか? 私一人で問題ないよ」
「「いや。ダメ」」
流石親子、完全なハモりだった。
「私だって一昨日ナンパされたばっかよ。外は危ないんだから」
「それは姉さんが美人なだけだろ」
「アンタにも同じ血が流れてるでしょ!」
「暴論だなぁ」
姉の欲目だ。そう思うだろう、と仗助に尋ねれば、真顔で首を横に振られた。
「ねーちゃんはモテる」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
「なんで自覚がないのかわっかんねーとこが恐ろしいぜ」
心当たりがまったくない。
首を傾げながらも、杜王町がそれなりに危ない街であることは確かにそうなので、仗助の随伴は拒否しなかった。
散歩の目的地は特にない。
体力の続く限り歩くだけで、体力が無くなる前に帰ってくるだけだ。
自分の体のメンテナンスのひとつである。
虚弱故に、トレーニングには耐えられないので、歩くことで体力増強を狙っている。
幼少期虚弱体質であった、あの童話作家・アンデルセンもそうしていた。私もそれに倣っている。
「あっ、仗助くん!」
「……おう」
歩いていると、仗助のクラスメイトに声をかけられた。
仗助はかろうじて返事をしたが、それ以降ムスッとして黙っている。
こういうとこ私に似てシャイなんだよな、仗助も。
このくらいの歳の男の子は、女の子と素直におしゃべりできなくなるものか。
叔母として、仗助のクラスメイトにはきちんと挨拶しておく。
「こんにちは、愛ちゃん、裕子ちゃん、麻衣ちゃん、恵ちゃん」
「きゃあ! 覚えていてくれたんですか、素子さん!」
「無論覚えているさ。前回も元気に挨拶してくれただろう? むしろ、よく私の名前を覚えていたね」
「覚えてますよ、当たり前じゃないの! 仗助くんのお姉さんの、東方素子さん。みんなの憧れなんだから!」
お姉さんではなく叔母なんだけどなぁ。
そうツッコミを入れるか迷っていると、ふと麻衣ちゃんの制服に気になるところがあった。
「タイが曲がっているよ。失礼」
胸元のリボンを軽く引っ張って、平行に直してやる。
問題がないか少し離れて確認すると、なにやら麻衣ちゃんが私の顔を見つめていたので、よくわからないがにこりと微笑んでおいた。
「はい、これでかわいいね」
「きゃあーっ!」
「ずるいわよ!」
「アンタ直してもらおうってわざとリボン曲げたわね! 抜けがけよ!」
「そうよそうよ!」
「うるさいわね、やったもん勝ちよ!」
なるほど、仗助にリボンを直してほしかったのか。
だとすれば、私が直してしまって申し訳ない。
だが仗助は女子生徒のリボンを直すようなことはしないだろう、ガールフレンドでもない限り。
青少年たちの恋愛は眩しいなあ。私には間違いなくあんな時代はなかった。そもそも必要を感じられなくて、病弱を言い訳にほとんど学校に行っていないからな……。
フレッシュな女子4人に手を振って別れ、仗助と散歩を続ける。
「で、モテるって自覚はできたのか、ねーちゃん」
「うん? そうだね、仗助はよくモテるね」
「ダメだこりゃ……」
百合最強のセリフ「タイが曲がっていてよ」
塩対応の仗助の隣にファンサしまくるお姉さんがいるため、女生徒の目的が徐々に変わっていった
最初に主人公の名前を呼ぶのは家族であるべきかと思い、投稿順を変更。明日4部の1話相当の話をあげます。