走る体力はないので早歩きでここまで来たのだが、それだけでもわき腹が痛い。
普段の運動不足がたたりすぎている。
しかし今回は感動の再会――いや、感動の初対面であるので、できるだけ格好をつけなければなるまい。
痛くない振りなら得意だ。病弱は真実であるので、たいてい体のどこかが不調なのだし。
「ちょっ、ねーちゃん! こんなとこまで歩いてきて平気なのかよ、体調は?」
バス停の近くにある池まで来ると、仗助が駆け寄ってきた。
過剰な心配だが、仗助には彼が幼少の時から私の病弱さを晒してきているので致し方ない。
「今日はいい方だ。それより仗助、亀が苦手なのに触ろうとするなんて珍しいね。実は好きになってきたのか?」
「いーや、苦手だね。でもちっとは克服したい気持ちがあるっちゅーか……」
2人して、池にいる冬眠から目覚めたばかりの亀を眺めた。
仗助がおそるおそる亀に指を伸ばすのを、私は薄く笑いながら見ていた。
「苦手なもののひとつやふたつ、あったっていいじゃないか」
「でもねーちゃん爬虫類好きだろ? いつか飼いたいって言うんじゃあねえかと思って」
「仗助が苦手なら飼わないよ。得意でも飼わないかな、私は自分の面倒を見るので手一杯だ」
私は爬虫類に限らず、動物全般が好きだ。
まさかそれに配慮して爬虫類を克服しようとしてくれていたのだとは思わなかったが、私は甥が苦手な動物をペットにしようとは思わない。
まず飼うなら犬猫でよくないか。飼わないけど。
「爬虫類で言うなら、私は亀よりイグアナの方が好きだし」
「イグアナァ!? 流石にハードル高いぜ……!」
「おいおいおい、俺らのこと無視してんじゃねーぞ!」
亀を眺めながら仗助と会話していると、不良に絡まれた。
無視していたつもりはなかったが、話しかけられた覚えもないな。
なんだか脇でぎゃいぎゃい騒いでいるなという認識でしかなかった。
「友達か? 仗助」
「いや?」
私はこの時代の不良の行動原理というのがわかっていないので、彼らが難癖をつけてくる条件や理由をあまり理解していない。
だがどうにも、仗助が目立つから、という理由で絡んできているようだ。
確かに目立つし、出る杭を打っておこうということかな。今日は入学式だ。
「弟の不始末はお姉ちゃんにとってもらおうか、ああん?」
「……そうなるのか?」
弟か。そりゃ確かに私は仗助からねーちゃんと呼ばれているが、歳は10以上離れている。
そんなに若く見えるつもりもないのだが……しかしまあ、これくらい年の離れているきょうだいもいるだろうし、そういう感じで見られたのかな。
私は大人しく頭を下げた。
「すまなかったね、君たち。仗助がなんの粗相をしたのかはわからないが、代わりに謝ろう」
「いやいや、ねーちゃんが謝ることないって! 俺が謝ります、ごめんなさい!」
仗助が私を制し、しっかり頭を下げる。
ちなみにこの辺は私の教育である。謝ってすむなら謝っておけ、暴力ですべてを解決するな、という方針だ。
姉の方針は舐められる前にぶん殴れ、である。父の方針は人を守るためなら殴ってよし。
基本的に血の気の多い家系であるので、私が少しは冷静の方にバランスを取らないといけない。
「その改造制服は脱いで置いて行きな、財布もだ! 先輩を舐めてんじゃあねえぞ」
「すんません」
「チンタラしてっとそのアトムみてーな頭も刈りあげっど!」
「あ」
仗助の髪型を馬鹿にするような話は禁句だ。
「このヘアースタイルがサザエさんみてェーだとォ?」
ほらキレちゃった。こうなるともう手が付けられない。
私はとばっちりを食らわないよう、数歩後ろに下がった。
私はもちろん仗助に、スタンドを悪用するなと教えているが、ここまで頭に血がのぼっていると問答無用だ。
仗助にとってスタンドは自分自身でもあるので、本気で殴ろうと思ったらそりゃスタンドが出てくる。
クレイジー・ダイヤモンドで殴られた不良の先輩は、不完全な形で顔面が治っていく――見事なブタっ鼻だ。
「やれやれ。こいつが俺が探していたジジイの身内だとはな……」
ボコボコにされた不良たちは、泡を食って逃げ出した。
それを見届けた仗助も、ある程度理性が戻ってきたのだろう。
自分を見ている、自分にどこか似た男にようやく気がついた。
それから、その隣にいる、仗助と同じくらいの歳ごろの男の子にも。
私はこの情景が記憶にある
散々原作に介入して、少しは流れを変えたと思っていたのだが――運命というのはやはり存在しているのかもしれない。
康一くんがこの場にいるのが、その証明というやつなのかも。
「ええと、ねーちゃんを歩かせたくねーんで、話はここで聞いてもいいっスか?」
流れになかったのはこの部分くらいだった。
私は冬眠から目覚めたばかりの亀のいる池の、その縁に座って事態を眺めていた。
承太郎に話があると言われた仗助は、そう言ってこの場に留まることを選択した。
できた甥である。その後ジョセフ・ジョースターの不倫の話と、スージーQがお冠な話を聞いて、「俺のせいでお騒がせして申し訳ない」と素直に頭を下げたことからも明らかだ。
「仗助君のお姉さんということは、あなたも不倫で出来た子ってことォ!?」
「あはは、いや違う。正確には私は仗助の叔母だ。仗助のお母さんの、妹だよ」
康一くんが私を見て驚いたので、笑って否定しておいた。
ジョセフ・ジョースターの不倫は、65歳の一回きりだ。
「仗助が私をねーちゃんと呼ぶのは、おばさんと正直に呼ぶと、姉がキレるからだ。自分より年下の女がおばさんと呼ばれているのに耐えられないらしい。私はおばさんでも構わないんだけどね」
「いや、俺は学んだぜ。女性は何歳でも
あんまり神妙な顔で仗助が言うものだから、思わず笑ってしまった。
必要な処世術かもしれないので、わざわざ訂正をしなくとも構わないだろう。
「さて、それで話は変わるが、承太郎。ようやく会えて嬉しいよ」
「
「そうだとも」
そのやり取りだけで、我々の間では十分だった。
ようやく会えたというのに、承太郎は辛気臭い顔をしていた。
「お前は隠したがり、こちらは暴きたがった。だから答え合わせをするときは、こっちが有利に立っていると思っていたんだがな」
「初めに言っただろう、私が隠したい理由は私のためじゃないと。それって実は君たちのためだったんだぜ、承太郎」
「何はともあれ、ようやく会えたな」
ぎゅっと握手をしたが、だんだんうれしさがこみあげてきて、それだけでは足りなくなった。
だから私は手を放して立ち上がり、承太郎にハグを求めた。やれやれという態度で、承太郎はそれを拒まなかった。
「な……なんだぁ!?」
おっといかん。仗助にとってみれば、正体も知らない父親が急に特定された上に、年上の甥が現れ、遺産相続の話になるという、とんでもない話なのだ。
それがさらに年上の甥と、元から知っているはずの叔母が、ただならぬ関係――とでも思われたら、余計に頭が混乱するだろう。
「失礼。実は承太郎とは昔からの知り合いでね。というか仲間? 友達? まあ言い方はなんでもいいか。仲良しさんなんだ」
「はぁ!? そうだとしたらいろいろと辻褄があわないんじゃあないのォ!?」
「なんの? ああ、私が東方素子だというのは、今初めて言った。だから遺産を相続すべき人間が他にもいることを、これまで承太郎が知らなかったというのは真実だよ。私と彼は顔も知らない友達さ」
康一くんが疑問を呈した。
「顔も知らずに友達になんてなれるものなんですか?」
「なれるさ。君にならわかるだろう、仗助」
私のスタンド能力について、仗助は知っている。
だから「あー、うーん」と未だに混乱しているものの、事態はだんだん飲み込めてきたようである。
「しばらくいるんだろう? 杜王グランドホテルはいいところだと聞いているよ」
「やれやれ。宿泊場所についてはまだ言ってねえぜ」
「ははは。杜王町で起きることのすべてを知っていると言ったら言い過ぎだがね、半分くらいは知ってるのさ」
私はウインクしてみせた。
初対面はうまくいった、と思いたい。
少なくとも、承太郎と仗助が殴り合うような場面にはならなかった。亀も無事だ。
私はそれなりによくやったと思う。
期待してくださっていた方には申し訳ないのですが、この小説は基本情報戦の主人公が上手くやればやるほど戦闘描写が少なくなるので、吉良吉影についてはナレ死の上を行く形になります(もういない)。そのうちもう少し詳しく書くかもしれないが今んとこ書いてないです。杜王町は主人公の頑張りでおおよそ平和です(何も起きないとは言っていない)。
個人的事情として、俺がジョジョを読むきっかけになったのが友人に「吉良吉影に似てる」と言われたことなので、吉良吉影をまともに描写できない呪いがかかっているのだった。