アヴドゥルとポルナレフと一緒に街を歩いていたら、向こうから自転車に乗った父がやってきたので、ちょうどよかった。
びっくり仰天、という顔でこちらを見ている父をちょいちょいと手でまねいて呼び止め、立ち話をする。
「父さん、紹介しよう。私の友達、ポルナレフとアヴドゥル」
「こういうやつらとどこで知り合うんだ!?」
もっともすぎる。
私は真顔で、ポルナレフとアヴドゥルを親指で指してみせた。
「ペンパル*1」
「お前さん筆まめだのォ~!」
花京院をペンフレンドとして紹介している前例があるので、意外と受け入れられた。
私はともかく、この外国人の大男たちがこまめに手紙を書いているところは想像しにくくないだろうか。
「そして紹介しよう。私の父、東方良平だ。警察官をやっている。世界で一番格好いい男だよ」
「そんなに褒めても小遣いはやらんぞ~」
日本語で言ったものの、スタンドの念話も兼ねていたため、父にも2人にも伝わっているはずだ。
しかし、すねをかじっていたころの弊害がこんなところで。褒めたからと言って見返りが欲しいわけではない。
ポルナレフが、私と父の顔を何度も見比べる。
「似てねえな……」
「妻に似て美人な子だろう~うりうり」
「わはは。大丈夫だ、お父さんにもしっかり似てる、こういう適当なところが」
ポルナレフはフランス語で呟いたので、多国語話者ではない父は理解していないだろう。
でも雰囲気でなんとなくわかった感じで、適当なことを言っているのだ。
お父さんに頭をなでなで、顎をうりうりされながら、ぎょっとしたままの男2人を頼んでおく。
「わざわざ遠いところから来てもらったんだ。しばらく留まるというから、街で迷子にでもなってたら助けてやってくれ」
「任せなさい」
お父さんは胸を張った後、真顔になり私の耳元でささやいた。
「で、誰が本命なんだ?」
「おい。親のそーいうのが一番ウザいぞ」
もしそういう意味で紹介しに来ているなら2人いるわけないだろ。私はハーレム王か。
2人とも日本語に通じていなくて助かった。聞こえていたら気まずくなるわ。
「いや……なかなかパワフルなお方なので面食らってしまった。失礼しました、彼女とは親しくさせていただいています。モハメド・アヴドゥル、占い師です」
最後を日本語で言ったアヴドゥルは、ちょっぴりくらいなら日本語を話せるようなので、さっきの父の言葉を理解できていたかもしれない。
「なるほどな、共通の趣味か。娘も占い好きだからな」
「そうなのか?」
そうなのかって言っちゃダメだろ、アヴドゥル。一応たった今、我々の関係はペンフレンドって言ってあるんだが。
私のジト目に気づき、アヴドゥルは慌てて弁明した。
「ああいや、はい、そうですね! 彼女の占いは精度が高く、私も参考にするほどで……」
私も占い師になってしまった。
もしかして私の情報収集能力について占いと言っているのか。占いというには根拠がありすぎるだろ。
アヴドゥルはややパニクっているのか、英語で喋っている。父にはわからないだろう。
「で、こっちの君は?」
「ジャン=ピエール・ポルナレフだ。彼女には返しきれないほどの恩がある」
おい、ペンフレンドの父親に言うにしては重過ぎるだろそのセリフ。
私が手紙の中でなんかすごいことしてないと辻褄合わなくなっちゃうでしょうが。
無論、ポルナレフの発言も英語だったので、父には理解できないだろう。
フランス語にしなかったのは、英語なら理解できると思ってのことだろうか。
残念ながら日本人は義務教育を受けていても大抵英語を話せない。
「よしよし、娘を頼んだぞ。無茶するタイプだからな」
「うーん、2人も無茶するタイプだから頼むべき相手を見誤っているかもな」
「なにィ? 類は友を呼ぶっちゅーことか。いかんな。趣味が保身の友達はおらんのか」
「……いるな」
ホル・ホースがそうだ。彼は私を友達とは認めないかもしれないが、私は友達だと思っている。
彼が欲しいのは友達より相棒でも、私は相棒より友達が欲しい。
「んじゃそいつは大事にするんだぞ。どうせお前は自分の体を大事にできんのだから」
「失礼な。しているつもりだぞ、日々頑張ってメンテナンスしているし、よく寝てるし」
「寝すぎだわい! 友達と遊ぶためにも寝るのはほどほどにするんだぞ!」
「はーい」
親譲りの適当さで返事をして別れた。
2人は会話が終わった後でも私の父のパワフルさに圧倒されていたようだが、しばらくしてポルナレフが口を開いた。
「なんか……似てなかったか? ジョースターさんに」
「いい父親過ぎると困ることもある。娘の好きなタイプが父親になるっていうね」
「お……おう……」
なにも年齢まで寄せなくていいとは思うんだが――いや、ジョースターさんの方が随分と年上だな。
ポルナレフは何かに気づいたように息をのむと、小声で聞いてきた。
「ちなみにお前の本命がジョースターさんだったりは……」
「アヴドゥル、代わりに殴っておいてくれ」
アヴドゥルはポルナレフのみぞおちを容赦なくついた。
こいつ、父の言葉を理解していたのか。……いや、そういうの関係なく、普通に恋愛脳なだけかもしれない。
せき込むポルナレフを冷たい目で見ながら、私は言った。
「すでに十分すぎるほど複雑な関係なのに、私が姉の思い人に横恋慕してたら訳が分からなくなるだろ」
源氏物語だってここまで複雑じゃないぞ。
「悪かったって。いい父親だなァ~と思ったからよ、そりゃジョースターさんみたいなのがタイプになっててもおかしくねえと……」
「全部恋愛につなげなきゃ理解できんのか。それで言ったら私のタイプはジョースターさんよりアヴドゥルだ」
「なにッ!?」
とばっちりがいったアヴドゥルは素っ頓狂な声を出した。
予想以上に声がでかかったので、私もちょっと驚いた。
アヴドゥルはしどろもどろになっている。
「いや、その、もちろん嫌というわけではなくてだな」
「冗談のつもりはなかったが、そんなに動揺するなら冗談だってことにしておいてくれ」
「光栄だとは思っているぞ!」
「アヴドゥル、冗談だ。忘れろ」
恋愛脳のポルナレフと、お堅いアヴドゥルを、両方同時に相手すると面倒くさいな。
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