「……やばい、いややばくはないんだけど……」
「どうした?」
「見られている」
「何?」
「視線をやるな、気づかれる」
周囲を確認しようとしたポルナレフを制止する。
先ほどまでの呑気な雰囲気を消したポルナレフが、すっと目を細める。
「敵か」
「ポルナレフ。ここは日本で、結構平和なんだぜ。ちょっとは肩の力を抜いたらどうだい」
「……そうは言ってもよ。お前がそういう風に言うときいつもな……」
確かに、襲撃の予告ばかりだったか。
ポルナレフの警戒を消すため、私はことさらのんびりと言ってみせた。
「甥とその友達だなあ。なぜ隠れてこっちを見ているのかはわからないが」
「ほーん。そりゃ叔母さんが知らん男と歩いてたら気になるんじゃあねーの?」
ポルナレフがいきなり肩を組んできた。
「デートってことにすりゃ安心するかもな!」
「そうか? まあ、私はどう見られても別にいいが」
肩を組んだままのポルナレフとは、顔が近い。
近づいた顔はみるみる白けて、ポルナレフが言った。
「なんだつまらん、女としてちょっとは照れるとかねーのか」
「ポルナレフ、男としてちょっとは私をドキッとさせるとかないのか」
「こんにゃろ~、生意気なこと言いやがって」
頭をぐりぐりやる振りをされる。本当にやられたらたぶん頭がえぐれる。私はかよわいので。
顔こそ離れたが、ポルナレフは依然として私の肩に手を置いたまま言った。
「甥も紹介しろよ。今はまずいか?」
「どうだろう。探偵ごっこがしたいなら、邪魔するのも悪いしな」
仗助が私を追跡している意図が読めないので、どうしていいものか悩む。
ポルナレフが提案する。
「探偵ごっこし返してやればどうだ? なんで尾行して来てんのか、お前ならすぐわかるだろ」
「ふーむ? そうは言っても私は今生身だからな……ああ、じゃあポルナレフ、ちょっとの間命を預けた」
「は?」
ちょうどよく角を曲がり、仗助たちは視界から外れている。
このタイミングでいいだろうと、私はスタンドを使った。
「俺は叔母さんが変な男に引っかからないかが心配でよ……!」
「おいおい、お前の叔母さんってもう三十超えてんじゃあないの? いい歳してんだから分別くらいあるだろ」
「言っちゃあなんだが俺はこの家系を信じてねえの! 変な男を好きになる遺伝子が組み込まれてんじゃねえかと不安なんだよッ」
「実の親にすげえ言い草だな。母親にも父親にも」
私はスタンドを発動して、仗助の背後付近を歩いている人間の体を借りた。
そうして今、盗み聞きをしているわけである。
ポルナレフの言う通りで正解だった。彼らがやってることは探偵の身辺調査だ。
「でぇええ!? 抱きしめあってる!?」
やべ。そうなるよな。
私の本体は今、がらんどうだ。
意識をぷつんと失い、そのカラの体を今、ポルナレフがキャッチして持っているというわけだ。
ポルナレフも困っているだろうし、このあたりで戻ろう。私はスタンドを使った。
「急にすまない。わかったぞ」
腕の中から体を起こすと、ポルナレフは冷や汗をかいていた。
「お……お前……! マジでビビるからやめろ!」
「君の反射神経なら問題なく受け止められると思ったんだが、私の体をどっかにぶつけたか?」
「そういう問題じゃねえ! しっかり受け止めたけどよ、人間が急にぶっ倒れたらビビるっつの!」
「そういうものか? すまない、感覚が狂ってたみたいだな」
花京院だったら全然ビビらんのだが。
「君の推理で当たっていた」
「あん?」
「私の恋人なんじゃないかと思って尾行してきている」
「なんだ、かわいい嫉妬かぁ?」
「それよりももっと切実なものがあったな。君が第二のジョセフ・ジョースターなんじゃないかと心配していたぞ」
「……そうなってくると楽しい話じゃあねえな」
ポルナレフと一緒になって、沈痛な面持ちになる。
冗談の探偵ごっこの方がずっとマシだった。
相手は不倫の末生まれた私生児で、仲良く育った叔母が同じく不倫でもしないかと心配しているのだ。
笑える要素がどこにあろう。
「遊びじゃないなら付き合う義理もないな。話しかけてくる」
「待て待て待て」
仗助の誤解を解くために向かおうと思ったのだが、ポルナレフに制止される。
「それで俺のことをなんて説明するつもりだ?」
「友達」
「ぜってー信じねーだろ」
「なんで? 私の甥は疑り深いタイプではないよ」
「お前、旅のことは話してねえんだろ。あとスピードワゴン財団所属のことも。だったら俺とこんなに仲いい理由も話せねえだろうが」
「むむ。それもそうだが……」
仗助はさすがに、ペンフレンドでは納得しない……だろうな。
前にそれで痛い目を見ているので……。
ポルナレフは自信ありげに、己の胸をドンと叩いた。
「ってなると、この俺が誠実な人間であることを証明する方が早いってワケ!」
「難しいな。事実無根だし……」
「てっめえ!」
友達は一体何泰なんだ……。