私が全身粉砕骨折をクレイジー・ダイヤモンドで治してもらわなかったのは、仗助の能力が未だに未熟であるということ以外に理由がある。
不自然だからだ。当たり前だが、全身粉砕骨折してたら、人間はそんなにすぐ治らない。
だがスタンドとは不思議なもので、一瞬にしてなかったかのようにしてしまうのである。
そんなことされたら、私がエジプトの旅に同行していたからとか、正体がバレたくないからという理由なしにしてやばい。
びっくり人間としてテレビの取材来ちゃうかも。学会に特別症例として報告されちゃうかも。
そういう配慮であったのだが、病室で何度か会った花京院にその話をすれば、彼は大いに頭を抱えた。
「仗助君はスタンド使いなんですね?」
「ああ。危ないことに巻き込みそうだから今まで言ってなかったが、そうだ」
「そして、その能力は治療なんですね?」
「もっといろんなことができる素晴らしい能力だけど、まあそうだね」
「その力を使えば、あなたはこれ以上ここで苦しむこともないわけだ」
「まあそういうことになるのか? 虚弱体質は治せないが」
「だが骨折は治せる、そうですね」
「はい」
花京院の目が据わっていたので、つい敬語で返事をしてしまった。
「今すぐ治してもらってください」
「えーと、だからそうすると、仗助の存在がバレたり、私の存在がバレたり」
「僕がうまいことやりましょう」
そんなことできる?
「最悪うまいことできなくても構いませんね」
「構うが。何、どういうことだ。すっごく構うぞ、甥の安全にかかわることなんだから」
「僕にも思うところはありましたが、あなたのことを考えていろいろ飲み込みました。それが、今、全部、台無しになろうとしています」
「台無しになっちゃうのか……?」
「僕はあなたが救われるべきだと思っている。僕たちのためにほとんどの傷を肩代わりしたあなたの痛みを、僕が代わってやりたいと何度思ったことか――代わらなくてもいいんじゃないですか。治せるなら治してください、今、すぐに!」
ブチギレ花京院だ。初めて見たが、これは手が付けられない。
「たかが甥の安全のために、あなたは自分の体のことを全部捨てる気ですか」
「聞き捨てならんが。旅に参加した目的は甥の命のためだぞ。これからの甥の安全のためになら、ちょっと全身粉砕骨折して、一生右腕が上がらないかもしれないとか、二度と歩けないかもしれないくらいは気にならない――」
「僕が! 気になると! 言ってるんです!」
「はい」
最悪そうなるかもってだけで、リハビリ頑張ったら動くようになるかもしれないですって言われてたんだけど……。
それを今言っても花京院の怒りを増長させるだけな気がするな。
そもそもなんで怒られているのかピンと来ていない。私はやれることをやっているだけだ。
「これは誓って言いますが、あなたの甥だって気にしますよ」
「それは……そうだね。仗助は自分の能力に気づいてから、隙あらば私にスタンドを使って来ようとしている。全力で止めてるんだけど」
「止めてないで、受けなさい」
「はい」
「そんなに心配なら、これからの展望について話しましょう。まずあなたをすぐに退院させます。それから病院で事後経過を見るタイミングをできる限り後ろに遅らせる――あらゆる理由をこじつけて。そうすればあなたの体に驚異的な回復が起きたことは後々わかっても、いつから元気になっているかは病院側にはわからずじまいだ。経過を観察していない時期に回復したのなら、症例を報告しようにも資料不足。あなたの心配するような、医学会でやり玉に挙げられることもなければ、スタンド使いであることがどこかに漏れる可能性も随分低くなる」
「素晴らしく現実的なルートが見えたがしかし、私の退院タイミングなんかをこっちが決められるのかね」
「この病院はもうスピードワゴン財団の息がかかってます」
「でぇ?」
変な声を出してしまった。
なにしろ私がこの病院をわざわざ選んだのは、スピードワゴン財団の系列ではないからなのだ。
「高校を卒業し、僕は財団に就職しました。そしてこの杜王町は僕の地元ですから、何かと拠点にすることがあるでしょう。そうなれば、病院ときちんと連携が取れていなければ困る。僕というスタンド使いは、財団にそれだけの投資をさせるに値する人材というわけだ」
花京院すっげえ。
「本来なら、地元は離れるつもりだったんですがね」
「私のせいか?」
「いいえ。僕がそうしたかったというだけです。そしてあなたの怪我を今すぐにでも治したいというのも、僕がそうしたいというだけだ。で、仗助くんはここに呼びますか。それとも、あなたを自宅まで届けるほうが良いですか」
「……自宅まで届けてもらってもいいかい。どうせ退院するならそっちのが楽だ」
即断即決だな、花京院。
最後に言い訳だけさせてもらいたい。
「私が粉砕骨折しているにもかかわらずそのままでいるからこそ、さすがの花京院だって仗助に治療のスタンドがあるとは思わなかったわけだろう。だから私の甥を守ろうという思惑は成立していたわけで」
「それ以上言うと嫌いになりますよ。仗助くんを」
「そっちをか? じゃあ黙ろう」
言い訳失敗だ。