私は少し浮かれていた。
少々面倒で立て込んでいた仕事にケリがついたからというのもあるが、今この場所に会いたい
スピードワゴン財団でのいくつかの作業を済ませた後、私は急いで彼のもとへやってきた。
「久しぶりだね、会いたかったよイギー」
賢い彼は、すぐに私が誰だかわかったようだ。
イギーは触れられるのをあまり好まないが、久しぶりに会う私が少し撫でるのを許してくれた。
私はイギーに会えた嬉しさでにこにことしながら、心配事を聞いた。
「最近困っていることはないか? ポルナレフは雑なところがあるからね。あるいは財団の人間についての不満でも構わないけど。人というのは他の生き物のことを想像するのが苦手だから、君が困っていても気がつけていないかもしれない。なにか君のために出来ることがあればいいんだけど、イギー」
「アゥ」
「そうかい? それほど困っていないというのならよかった」
「ウゥ……」
「ふふ。残念ながら食べ物について、健康管理が優先というのは私も同じ方針だな。イギーには長生きしてほしいもの。ガムは嗜好品だからな、毎日腹いっぱい食べるものじゃないよ」
「アォン!」
「ふむ。確かにそれは一考の余地があるかもしれない。君をスタンド使いとして働かせるのなら、それなりの報酬がないといけないだろう。欲しいものは? うん、だからガム以外ね……君は欲がないな。食欲はあるけど。もっとないのか? いい寝床とか、行きたい散歩ルートとか。それに関して現状満足できているというのなら、言うことはないのかもな。うーん、難しいね。ポルナレフはどう思う?」
実はずっとそばにいたポルナレフは、唖然とした顔で私を見た。
「ポルナレフ?」
「お……お前……犬語がわかるのか!?」
「はあ? わかるわけないだろ」
ポルナレフがずっこけた。
「じゃあさっきまでの会話はなんだよ!?」
「犬語がわからなくともイギーの表情くらい読める。私が先に言語化すれば、それに対してイギーの思うイエスノーやそれ以上くらいわかるだろ」
「わかるかぁ!」
「それはポルナレフ、君の鍛錬が足りない。犬についてもっと学びなさい」
「勉強でなんとかなんのかそれは!? 絶対特殊能力だろ、お前の!」
「……ふむ? 意外と否定できないな」
私は動物の体を乗っ取ることができるから、それが何か関係を――どうかな?
動物の体の中に長く入ると思考能力を失い、実質死ぬことになるので、軽々に試すことができない。
「だがイギーはかなり正確に英語を理解している。
スタンド使いは念話ができ、言語の壁を越えた会話が可能だ。
種族の壁すらもある程度越えられる、と私は考えている。
あいにく、イギーが念話で正確な会話を試みてくれたことはないが、できないわけではないのでは、というのが私の考えだ。
「イギーッ」
「あはは、そうか。イギーがそう言うのなら」
「だからなんつったんだ!?」
イギーはポルナレフとうまくやっているらしい。
私は見逃したが、DIOとの戦闘でなにがしかの絆が芽生えたのかもしれない。
そうでなくともポルナレフはからかい甲斐のある男だからな。イギーも好きだろう。
さて、用事はもうとっくに済んでいる。少々長居しすぎた。
私は財団職員の体を借りているため、あまり長く居座っては彼を給料泥棒にしてしまう。
名残惜しいのは真実だ。仲間と別れるときはいつでもそうだが、イギーに関しては尚更である。
人と犬では寿命が異なる。こうして彼と会える時間は、あとどれだけあるだろうか。
「また君に会いに来れる用事があればいいんだけど」
「アゥ」
私はイギーの鳴き声にびっくりして、それから少し笑った。
「ならばお言葉に甘えて。次は君に会うために、来るとしよう」
フン、とイギーが鼻を鳴らした。