人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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来週はバレンタインデーなので恋の話しちゃお


【4部】間田敏和の恋愛

 間田敏和は面食いの自覚があった。

 アイドルグループでも一番かわいいと言われているメンバーが好きだったし(その子が一番かわいいと言わないやつを全員黙らせてきたという意味でもある)、好きなアニメでも公式設定で美女・美少女とされているキャラが好きだ。

 

 そんな間田が、その辺にいる女に恋をした。

 

 名前も知らない女は、たまに公園のベンチに座っている。

 眠そうにも見える、伏し目がちな様子で、ただそこに座っているのだ。

 

 それが不思議と目を引く。

 間田はたまに公園の近くを通ると、ベンチにその人がいないかをついつい確認してしまうようになり、ついには用事がなくともその公園に赴くようになった。

 

 ある日、公園に向かうと、運よく彼女がいた。

 その時、彼女は肩にリスを乗せて微笑んでいたのだ。野生動物のリスは、易々と懐くものではない。

 それを肩に乗せているなんて! どっかのヒロインでなければ納得ができない。

 

 間田は、最近特別な能力に目覚めた。

 パーマンに出てくるコピーロボット。なんて便利な能力なんだ。

「サーフィス」と名をつけたその能力を理解してから、間田はいろいろと試した。

 だがそれらがすべて試しであったのは、本当にやりたいことがあったからだ。

 

 この能力で、公園の彼女をコピーする。

 せっかく他人は持っていない能力を手に入れたのだ。普通のやつよりも、楽しく自由に、実りある人生を送りたい。

 

 間田はいつもの公園に、等身大のポーズ人形を持ち込んだ。

 彼女が良く座っているベンチから見える位置に置いておけば興味を引き、彼女が触れるかもしれない。

 

「何してるんだい?」

「ウワァーッ!」

 

 驚いた間田が上げた声に、むしろ相手が驚いたようだった。

 普段は半分くらいしか開いていない目を大きく見開いて、彼女は瞬きを繰り返す――まつげが長いなァと間田は思った。

 

「そんなにびっくりしなくとも。だがごめんね、真後ろからだったから、驚かせてしまったみたいで」

「い、いいいいや、いいんですよッ」

「随分大きなデッサン人形だね。絵を描くのかい?」

「え、ええまあ!」

 

 彼女は興味深そうに人形を見ている。

 間田は、これはチャンスだと思った。

 人形を設置しているところを見られたのは予想外だったが、彼女が興味を持っているのは予定通りである。

 

「そ、相談なんですが、この人形を立てるのを手伝ってくれませんか!」

「ん? 構わないけれど、私、そんなに力がないから役に立てるかな」

「いえいえいえいえいえ! ちょっと()()()()()構わないので!」

 

 彼女は首をかしげながらも、手伝ってくれるようだ。

 人形を立たせようと、確かに()()()

 

「やった!」

 

 彼女に触れられたサーフィスはすでに、()()()()()ある。

 急いでこの場を去らねばならない。間田は彼女から奪うようにして人形を抱え持つと「やっぱり別の場所で描くことにします!」と叫んで、無理矢理場所を変えることにした。

 

 彼女は不審に思っただろうか。

 最後に振り返ると、不思議そうな顔をしていたものの、振り返った間田に軽く手を振ってくれた。女神だ。

 

 場所を変え、すっかり姿の変わりきったサーフィスと向かい合う。

 能力は間違いなく発動して、そこにいるのは彼女そのものだった。

 

「こ……こんにちはって俺はなにを挨拶してんだッ自分の能力だぞ」

「こんにちは、間田くん」

「こんにちはァーッ!!!!」

 

 間田は自分の能力で操る人形に、飛び切りの挨拶をした。

 

「ふふ。とっても元気だね」

 

 間田は感動していた。サーフィスはコピーした人間の姿かたちから、仕草まですべてをコピーする。

 すなわち、言動・性格まで、すべてをだ。

 間田が以前クラスの女子をコピーした際には、あまりの態度の悪さに辟易したものだ。

 だが、彼女は違う。先ほど会話したときのような、柔らかい態度を保ったままだ。

 

「あ、アンタは今日から、俺のもんだ!」

 

 間田はサーフィスに指を突きつけ、宣言した。

 彼女はこてんと首を横に倒して、不思議そうな顔をした。

 

「言われなくとも、そうだろう? 私は君のスタンドなんだから」

「そ、そうだよなぁーっ。俺のスタンドなんだから、俺が好きにしていいんだよなぁー!」

 

 スタンドという言葉は初めて聞いたが、彼女の言うことなので、そのまま復唱した。

 おかしな話だが、本人から好きにしていいと許可が出ている。

 間田は、呼吸を荒くし、震える手で彼女の胸元に手を伸ばした――触れる寸前、彼女の手が間田の手をそっと包み込む。

 それは制止するには力のないものだったが、間田はそれ以上手を伸ばせなくなってしまった。

 

「間田くん。私は成年で、君は未成年だ。だから私()()そういうことをすると、未成年淫行になってしまう」

「そ、そうですよねェーッ」

「だから3年後ね」

 

 間田敏和は今、17歳である。3年後には成人を迎えている。

 数秒固まった後、彼女の言葉を理解して間田は叫んだ。

 

「3年経ったらエッチなことしてもらえるってことですかァーッ!?」

 

 サーフィスは、何も言わずにこりと微笑んだ。

 

「まず自己紹介だ。私は東方素子だよ。おばさんでもなんでも、好きに呼ぶと良い」

「素子さん……! なんて素敵な名前なんだ!」

 

 おばさんなどとんでもない。

 彼女の肌は普段から日に当たっていないのか、透き通るような白さを保っている。

 たしかに少しばかりやせぎすで、体や頬への肉付きが悪いが、そんなのは些細な問題だ。

 

 普段は遠くから眺めている体が、こんなにも近くにある。

 間田は夢中になって素子人形を見つめた。

 触れるのは許可されなくとも、脱いだところくらいは見せてもらえるかもしれないなぁーと、興奮していたために注意不足であった。

 

 男が一人、近づいてきていたのを見逃した。

 素子はそれに気づいて、なんでもないように挨拶をした。

 

「やあ仗助」

「こんなとこでなにやってんだ? 隣にいんのは……」

「彼は間田敏和くん。私のご主人様だよ」

「は?」

 

 仗助は聞き間違いかと思った。

 己の叔母から、とんでもないセリフが飛び出したからである。

 

「よ、余計なことを言うな!」

「余計なこと? 私が君の従僕であるのは事実なのだから、説明して何が悪いんだい?」

 

 呆然としていた仗助は、その会話を聞いて徐々に表情を怒りに変えていく。

 

「てめえ! 人の叔母さんを勝手に操ってなにしてんだ!」

「いいや、これは俺の素子さんだ! 俺だけの女なんだ!」

 

 修羅場になりそうな中、素子だけが落ち着いていた。

 

「まあまあ2人とも、そんなに大きな声を出すんじゃあない」

「アンタのせいで怒鳴ってんだよ!」

 

 仗助に怒鳴られても動じない素子は、自分の額を指でとんとんとついた。

 

「仗助、私の額をよく見てごらん」

「……ネジ?」

「そう。私は東方素子をコピーして作られた人形で、君の叔母さん本人じゃない」

 

 間田がスタンド使いであると仗助が理解すると同時、間田もまた理解していた。

 最近入学してきたという、ひときわ目立つ一年生。

 名前を東方仗助と言い――それは先ほど女神が名乗った苗字とおんなじである。

 

「な、なんだって……おばさん!? そうか、東方って!」

「白々しいぜ、てめえ! 俺への人質のつもりかァ!?」

「違ァう!」

 

 己を狙っての行動だと思った仗助だが、間田は否定した。

 間田が説明する前に、素子人形が口を開く。

 

「間田くんは本物の女性を前にするとオドオドしてしまうタイプだ。それにこういうスタンドを持っているとなると、いろいろと悪用してしまう危険がある」

「いままさにだろ!」

「これが悪用なら、かわいいものだろう? 私の本体はコピーされたことを知らないが、知ったとしても静観すると思うね。誰か別の女性がこうなるより、自分でよかったと」

 

 その言葉は、仗助には自己犠牲に聞こえた。

 間田は、自分が許されたと思った。

 素子本人にその意図を聞けば、「自分の顔をしているだけの人形がどうなろうと、私は困らないしなあ」と呑気な返事が返ってくるだろう。

 

「どうして間田くんが私を選んだのかはわからないが」

「え、ええっとですね、へ、へへへ」

 

 間田は即座に答えられず、笑って誤魔化した。

 

「私の顔が好きなのかな? それとも死にそうな感じの雰囲気があったら誰でもいい?」

「死にそうだなんて! 深窓の令嬢というか、薄幸の美人というか、ミステリアスな雰囲気がいいんです!」

「ふふふ。そんなに褒められたのは初めてだ」

 

 素子人形は本当に嬉しそうに笑うと、間田に顔を近づけ、彼の手を取った。

 間田は不意を打たれ、「ヒイッ」と情けない声を上げている――自分のスタンド相手だというのに。

 

「私は君のスタンドだから、触れても木の感覚しかしない。偽物の人間だ。それでも愛してくれるだろうか?」

「させるかァーッ!」

「じょ、仗助てめぇーッ! なにしやがる!」

 

 クレイジー・ダイヤモンドの殴打により、サーフィス――東方素子人形の腕が砕け、一部木に戻る。

 素子は半分取れかけて、ぷらぷらと揺れる己の腕を見ると、無感動にため息をついた。

 

「アンタも! なに高校生口説いてんだ!」

「悪いことしないように、言いくるめてたんだけど」

「もうやってんだよ! 悪いことはな!」

「私は間田くんと共にあることに異論はないんだが――なにしろこの体だと、苦しくないし、体も軽い。健康な体っていいね、たとえ木製でも」

 

 素子人形の顔色は、本人よりもわずかによく見えた。

 姿かたちを完璧にコピーするサーフィスだが、本人が感じている苦痛までは再現できない。

 

 仗助は、素子の言葉にわずかにたじろいだ。

 たしかに己の叔母はよくベッドから起き上がれなくなっているのだから、病弱であることは仗助も承知の上だ。

 だが、虚弱であることを嘆き、健康を羨む言葉を聞くのは、それが初めてだった。

 今まではそんな言葉のすべてを、仗助には聞かせまいとしてきたのだと――思ってしまっては、言葉を詰まらせる。

 

「仗助が嫌だというのなら、それを尊重したい。といっても私はやっぱり間田くんのスタンドだから、そういうことを自由にできるわけではないんだけどね。だから嫌だったら仗助、君が私を砕いてくれ」

 

 その言葉に、間田は悲痛な声をあげた。

 

「そんなこと言わないでくれ、素子さん!」

「間田くん。君に会えてよかった。ちょっと面白かったし――今度は私本体に直接声をかけると良い。お友達から始めよう」

「させるかってんだよォーッ! ドララララララ!」

 

 クレイジー・ダイヤモンドは今度こそ、サーフィス人形の全身を砕いた。

 

 間田の肉体に()()を行ったあと、仗助は怒り心頭といった様子で街を歩き回っていた。

 目当てはたった一人である。本当に説教をしなければならないのは、そちらであった。

 

「こんなところにいやがったか……」

「……どうした仗助? なんだか機嫌が悪そうだけど、嫌なことでもあったのかい」

 

 嫌なことがあったというよりも――仗助は顔をひきつらせており、ブチギレ寸前といった様子である。

 怒らせるようなことをした覚えはない素子は、困惑していたが、誠実に対応した。

 

「私が何か悪いことをしたというのなら謝ろう。事情を話してくれるかい?」

 

 それを聞いて、仗助は深呼吸をした。

 怒ってはいるが、無条件で怒鳴りつけるほどではない。

 なにしろ彼女の責と言えば、間田の怪しいデッサン人形に、無警戒に触れたことくらいなのだから。

 しかし、それを理性ではわかっても、感情では納得がいかない。

 荒々しい動作で素子の座っているベンチの隣に腰かけると、仗助は言った。

 

「いつもここにいんの?」

「元気な時はね。散歩の途中で休憩するのにちょうどいいんだ。鳩とかリスとかがいて楽しいよ。たまに散歩中の犬も見れる」

 

 素子は、自宅近くのそれなりに大きな公園にいた。

 ずかずかと歩いてきた仗助にビビり、鳩はある程度散っていたが、すでに仗助たちのいるベンチに近づきつつあった。

 素子は餌でもやっているのかもしれない、と仗助は思った。

 

「散歩中の犬ってことは、飼い主がいるってことだよなぁ……」

「……それは、そうだろう? 犬だけで散歩してたら野良犬なんだから」

「他に人間は通りがかんのか」

 

 尋問じみた質問に、やはり素子は困惑するばかりであった。

 

「そりゃあ、ここは公園だぜ。いろんな人が来る」

「ってなると、怪しいやつにいつも見られてるかもしれねえってことだよなあ」

「んん? それでいったら、私だって怪しいやつの一人なんじゃないか? 一人で公園に来て、座るだけ座って帰るだけなんだし。さっきも男の子に不審がられてしまったな、絵を描こうとしていたのに慌てて行ってしまって」

「いいや、違うね」

 

 ここまで冷静さをなんとか保ってきた仗助だったが、呑気すぎる叔母に、ついには耐えきれなくなった。

 ベンチから立ち上がると、素子に指を突きつけ叫ぶ。

 

「やっぱりアンタはヤバイ奴ばっか引き付けるぜ! ちょっとは自覚しろ! 天然たらしがァ!」

「……なんだ? 私が何したっていうんだ?」

 

 いつも温厚な仗助が怒鳴る原因が全く分からず、素子は困惑するしかないのだった。




「自分でも若干引いているんだが、アレって私の性格もコピーしているのか?」のパターンも考えましたが、無自覚たらしお姉さんの方がエッチなので(性癖)
東方仗助の護衛より前の話。
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