人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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【3.5部】東方仗助の決意

「君の力は、とっても優しい。ほら見てごらん、私の骨はすっかり治って、もう痛いところはないよ。ありがとう、仗助」

 

 当時の仗助は、叔母からの言葉に心底喜んだ。

 

「君は特別な力を持っている。力のある人には責任が伴うものだ。善い人になれ、仗助。姉さんや父さんに、いつでも胸を張れるようなことをしろ」

 

 仗助が自身の相棒にクレイジー・ダイヤモンドという名前を付ける前、叔母はそう言った。

 

 仗助はこの力を使って、みんなを助けられると信じていた。

 だがある日、この能力の限界が見えてきた。

 壊れたものを直すことはできる。割れたガラスも、折れた骨も、元通りにつなげられる。

 だが、この力は治療ではない。元に戻すだけだ。

 人や生き物の怪我は治せるが、病気は治せない。

 

 すなわち、生まれた時から()()()()()()()()()叔母を、元気にすることはできない。

 

 叔母を治せないことを仗助は悔いた。

 家族であっても誰にもこの能力のことは話すなと、叔母から何度も釘を刺されたにもかかわらず、母にうっかりこぼしてしまったことすらある。

 一度はなんでアンタが責任感じてんの、と笑い飛ばされたが、仗助のあまりの落ち込みように、流石の母も冗談ではないと思ったようだ。

 

「アンタに出来ることは他にもたくさんあるわ。素子が倒れてないか見守るだけでもいいし、重いものを代わりに持ってやるとか、悪いやつをぶん殴るとか、いっぱいよ」

 

 母はこう言った。

 

「仗助、アンタ強いんだから、素子を守ってやんなさい」

 

 祖父はこう言った。

 

「仗助、母さんと素子を守ってやるんだ」

 

 叔母はこう言った。

 

「仗助、姉さんと父さんを頼む」

 

 その言葉たちは、仗助の行動の指針になっている。

 家族を守らなければならない。自分は特別な力を持っているのだから。

 

「……ちょっと他人のフリしてくれないか?」

「無理だろ。諦めな」

 

 守るべき叔母が、なんだか怪しい男と一緒にベンチに座っている。

 当然、無視はできなかった。デートにしても見逃せない。怪しすぎる。

 

「ねーちゃん。そいつ誰だ」

「あー、うん。友達」

「友達? どこで出来たんだよ。いつも家にいるのに」

「……ペンフレンド」

「俺はねーちゃんが手紙書いてるところなんて見たことがねえぜ」

「そりゃ見えないところで書いているからさ」

 

 それなりの返答をしつつも、仗助をごまかせないことは本人が一番わかっているようだった。

 だが、なかなか口を割らないので、仗助は強硬手段に出ることにした。

 

「ドラァ!」

「おおっと!?」

 

 仗助がクレイジー・ダイヤモンドでカウボーイの男に殴りかかるフリをすれば、男は瞬時に手の中に拳銃を出現させた。

 チャチな手品などではない。確実になかったものが、瞬時に生み出されたのだ。

 仗助の持つ力と、似た種類の力を持っているらしい。これには半ば確信があった。

 

 仗助の祖父である東方良平は警察官だ。毎日この町を守ることを仕事にしている。

 だからこそ、仗助はよく見たことがあるのだ。この素子の目を。

 今の素子の目は、祖父がよくする「町を守っている人間の目」をしていた。

 

 なぜ病弱の叔母がそんな目をするのか。

 なぜ仗助と似た力を持つ男と親しげなのか。

 

 なぜ、叔母は仗助のクレイジー・ダイヤモンドを見ることができるのか。

 

 長年の疑問が、今解けようとしている。

 

「ホル・ホース、君ってほんとに堪え性がないぜ。なんでスタンド出すのさ」

「マジに殴られるかもしんねーだろうが。こいつはお前のこと大好きなんだろ?」

 

 男の持つ拳銃に手を添えて腕を下げさせる素子だが、カウボーイの男は肩をすくめて、しかし油断なく拳銃を握っている。

 素子は最後にはあきらめたような顔になって、仗助に言い含めた。

 

「仗助。危ないから、家に帰って、姉さんと父さんを頼む」

「いやだね。あぶねえっつーなら、アンタが一番危ないはずだ。俺はじいちゃんとお袋から、ねーちゃんを頼まれてる」

 

 家族は皆、仗助に、自分以外のことを頼んだ。

 仗助は、家族皆を守らなければと、強く思った。

 自分以外を一番に大事にするようなやつらなんて、自分を大事にしないに決まっているからだ。

 ホル・ホースと呼ばれたカウボーイのような男は、ピュウと口笛を吹いた。

 

「いい男じゃねえか。覚悟が決まってる」

「うるさいなあホル・ホース。女好きから鞍替えしたのか?」

「こんなときでも茶化し方は鋭いな、お前さん」

 

 素子はとうとう、俯いてしまった。

 

「私は君をこういうことから守るために、いろいろ頑張ってきたんだぜ。もう少しの間、守らせてくれたって良いだろう?」

「ならこれからは俺の番だ。守るっつーならよ、ねーちゃんが守られるべきだぜ」

 

 そう言えば、素子はすぐに顔を上げた。

 いつものけろりとした表情で、顔には涙の一滴も流れていない。

 

「泣き落としはダメだった。次の作戦はあるかな」

「もうねえだろ、最初から」

「あーあ。やだなー。ホル・ホースのせいだろ、目立ちすぎる。君の隣に本体でいるんじゃあなかったぜ、君が絶対会いたいとか言うの、無視すればよかった」

「責任転嫁もいいがね、これからのことを考えな」

 

 やけくそになったのか、素子は自分の頭の後ろで手を組んだ。

 ふてぶてしい体勢とは裏腹に、真剣な声色で仗助に語り掛ける。

 

「私は家族を守るために、この街ごと守っている。父さんがそうしているのと似ているが、私の場合、特別な能力を持っているものを相手にしているから、その危険度は段違いだ。それでも来るのか、仗助」

 

 答えなど決まっていた。

 

「あたりまえだろ」

 

 仗助は、授かったこの力を、守るために使えと、ほかならぬ叔母に教えられて育ったのだ。

 

「……で、ねーちゃんも特別な能力ってやつを持ってるってことでいいんだよなあ?」

「うーわ。お前、自分の甥にそんなことも話してねえのか? 流石に悪いだろそれは」

「ホル・ホースに悪いとか言われるの、ものすごい屈辱だぜ」

 

 素子は天を仰ぐと「確かに善人じゃないけどな……」とぼやいた。

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