「俺の言ったことは正しかったな、ン?」
正しく私を認識して、ホル・ホースは口角を上げた。
「大層な美女じゃあねえか。こりゃあ男が放っとかねえだろう。このホル・ホース、姫を守る騎士の役目を負えて、光栄だぜ」
ホル・ホースとの初対面に当たって、いろいろとリアクションを想定していたはずなのだが……これは予想外だ。
私はさすがに、口をぽかんと開けてしまった。
「……ホル・ホース、君が女に世界一やさしい男だということを鑑みてもだな……うん。言いすぎだ」
「どこがだよ、おひいさま。ヤマトナデシコは一歩下がって、ってやつかァ? それこそ似合わんだろ。賛辞くらい素直に受け取りな。アンタは綺麗さ」
いろいろと言いたいことはあったが、飲み込むことにした。
ホル・ホースは私が80歳の老婆の姿をしていても、同じことを言うのだろう。
これで言葉に嘘を感じないのだから本物だ。
私も彼のこの信条について理解していたつもりだが、いざ自分がやられてみると驚くな。
「多くをすっ飛ばしてしまったな。まずははじめましてだ、ホル・ホース。私は東方素子、よろしくね」
「世界中どこにいても俺を見つけられるアンタに対して、これで俺も対等になったか? 本体を知っているのなら、俺はいつでもアンタを暗殺できる。こんな風に」
自己紹介の直後、ホル・ホースはエンペラーを取り出して、私に突き付けた。
こちらの方が、最初に想定していたリアクションのうちで、驚くべきこともない。
私は肩をすくめて、銃口を見る。
「わざわざそんなことしなくても死にそうなのに、手間をかけさせるね」
ホル・ホースは剣呑な顔をやめ、がっかりしたようにため息をついた。
手の内でエンペラーをくるくると回し、手をポケットに突っ込む。
「まったく、ちっとは動揺したらどうだ?」
「そんな覚悟で君の前に出てきてないよ。本当に殺したいと思っているのならさせてやる。友達のよしみだ」
「友達じゃなくて相棒、な。影武者じゃないか確かめてやろうと思ったんだが……本体だったらフツー、殺されそうになって焦るだろ? だが思い知ったぜ、アンタそういうヤツだったな」
どういうやつだろうか。
死にそうになっても意外と諦めちゃうやつ、とかだろうか。事実ではあるが不名誉かもしれない。
「私は君を信じたから、姿を見せたんだ。これで殺されても君を恨みやしない。私が間抜けだったというだけだ――ホル・ホース、君は私を愚者にしたいのか、賢者にしたいのか、どちらだい」
ホル・ホースは両手を上げた。スタンドは、もう持っていない。
「端から殺そうなんざ思っちゃいない、悪かったよ脅かして」
彼は私を殺すつもりはないようだ。良かった良かった。
地元で銃殺死体になって発見されると甥っ子に多大なトラウマを与えてしまう。
そういう可能性もあるけどまあいいか、と思った悪い叔母を許してくれ。
「まったく、なんでそんな悪ふざけをしたんだい」
「ちっとはアンタの余裕を崩してみたくてな」
それなら最初のお姫様扱いで十分崩れているが?
ホル・ホースは私が常に余裕を持っているかのように言っているが、そんなことはまるでない。
私は余裕のあるフリが上手なだけで、内心は大体あっぷあっぷしている。
なにからなにまでお見通し、という態度を貫いているだけで、すべてを知っているわけではないのと同じだ。
動揺しっぱなしなのは本体にいる今、身体管理が甘く顕著だと思うのだが。
「ここは……君のようないい男を目の前にして、私は余裕を失っているよ……とか言うところか?」
「聞くなっつの」
やっぱり言うところだったのか?
ホル・ホースが望むようないい女ムーブは私には向いていなさそうだ。大人しく、素でいかせてもらおう。
ホル・ホースが差し出してきた手を握る。
「改めてよろしく頼むぜ、素子」
「よろしく頼むよ、ホル・ホース」
この後、ホル・ホースと私がのんびり公園でお話ししているところを、私の甥、東方仗助に見つかって大変なことになるのだった。