人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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順不同って言ってあるからってフラグ回収しないまま別の時間軸の話をしていいっていうんですか!?
うるせえ! 書きてえとこから書くんだよ! 計画性があったら順不同で投稿してねえだろ!
それもそうだな

と思ったので書き終わった順で投稿します


【3.5部】鋼田一豊大の親切

 杜王町のあちこちを、人の体をくるくる移動しながら探索していれば、ふと鉄塔に人が住んでいるのを見つけたので挨拶に来た。

 

「こんにちは。面白いところに住んでいるね」

「興味があるなら中に入ってみるかい?」

「ふーむ? じゃあお言葉に甘えて?」

 

 私が誘いを断らず、しれっと鉄塔の中に入ったのが意外だったのか、男は驚いたように鉄塔の上でのけぞった。

 しかしすぐににんまり笑うと、猿も驚くような素早い動作で鉄塔からするする降り、私の目の前に立った。

 

「かかったな! この鉄塔はなあ~、一人入ると次の誰かが入ってくれるまで……そいつは鉄塔の外に出られないのさ!」

「へえ、出たらどうなるんだ?」

「試してみると良い」

 

 私は言われた通り、鉄塔から出ようと手を出した。

 するとその手はまるでロボットのように、いや、まるで()()()()()()腕の形のまま鉄に変化した。

 鉄になった部分の感覚はない。そのまま腕をひっこめると、腕は元に戻る。

 

「面白い。じゃあ私はこれから、君の代わりにこの鉄塔で暮らさなければならないというわけか」

「その通りだ!」

「しかし身体能力があまり高くない私では、君のように高所で生活したら、すぐに落下して死んでしまうだろうな」

 

 私は太陽を直接目に入れないよう、手で影を作りながら鉄塔を見上げた。

 こうして真下から見上げると、かなりの高さであるように思われた。

 鉄塔の中腹に掛け布団が干されているが、この鉄塔の上でどうやって寝るというのだろう。

 私は鉄塔にちょっと足をかけて上に登ろうとしてみたが、やっぱりうっかり踏み外して落下死しそうだったのですぐやめた。

 

「ええっ? 登るのも難しいのか?」

 

 男はすぐに鉄塔の外に出るでもなく、私の様子を眺めていたようだった。

 そして真実登れなさそうなのを確認して、本気で驚いた顔をしていた。

 私はこれでも体育の成績は常によかったぞ。真面目な態度と座学が満点だったからな。

 

「うーん、できるかもしれないが、しばらく時間がかかりそうだ。コツを教えてくれるかい?」

「ああ、そのくらいなら構わないけど……って、あまりにも呑気すぎるだろう! 絶望はないのか!? もう出られないんだぞ、この鉄塔から、一生!」

「今まで君が生活してたんだろう? じゃあいきなり飢えて死ぬようなことはないだろうし、まあ、後のことは追々考えよう。それで登り方は教えてくれるのか? 別に罠とかじゃあないよ。まともに鉄塔も登れないのだから、君を退けるのも難しいことくらいわかるだろう?」

「……それもそうかもしれない」

 

 これで簡単に納得できるほど、私はちょろいように見えているらしい。

 男はひょいと鉄塔に登ると「この辺りを掴んでだな……」と本当にコツを教えてくれた。

 私は真面目に聞いていたが、彼も随分真面目に教えてくれたので、途中で笑ってしまった。

 落ちてもギリギリ骨折はしないかな、くらいの高さまで登って、2人で鉄塔に腰かけて少し話す。

 

「なんだ君、親切じゃないか。人を鉄塔の中に閉じ込めるような輩には見えないのにね」

「俺だってやりたくてこんなことしてるわけじゃあない」

「ではどういうわけだい?」

 

 男が話した内容はこの通りだ。

 この鉄塔を10万円で購入し、自給自足の生活ができるように自分で改造したこと。

 しばらくして、鉄塔に不思議な力があることに気が付いたこと。

 すなわち、出ようとすれば自分が鉄塔の一部になり、誰かを引き入れなければ自分は出られないこと。

 鉄塔はエネルギーを跳ね返す力があり、打てば打ち返され、切れば切り返されること。

 鉄塔が不思議な力を持つようになったのはおそらく自分のせいだという自覚があるが、制御はまったくできないこと。

 

 私は頷きながら話を聞いた。まさしく独り歩き型のスタンドだ。

 

「それは大変だったね。スタンド能力には稀に、自分ではコントロールできない類のものがある」

「スタンドというのか、この鉄塔は?」

「そうとも。私も持っている。結構珍しいんだよ、生まれつきのタイプはね。私の場合はそれなりにコントロールできているが、まあ、別の能力だったら良かったのにな、と考えることは多々ある」

「アンタの能力はなんなんだ?」

「私は人の体を乗っ取ることができる。今の体も借り物だ、私の本当の体は別の場所にある」

「なに!? だから余裕ぶってたのか!」

「そういうわけでもない。この肉体はしっかり君のスタンドの術中だから、鉄塔からは出ることができない。そして私のスタンド能力にも射程距離というのがあってね。この近くを誰かが通らなければ、乗っ取る体がなくて、この鉄塔から脱出することはできない。ちゃんと困っている」

 

 いつでも脱出できるから呑気にしているわけではない。

 というか別に呑気はしていない。態度に出していないだけで、実はちゃんと困っているのだ。

 この辺りは人通りも少ないし、能力の射程圏内に人間が来るのを待つとしたら今日一度チャンスがあるかどうかだ。

 動物の体ならば借りられるだろうが、自我を失うリスクがあるのでできれば取りたくない方法だ。

 それで脱出したとしても、私が今体を借りている人を、状況もわからないまま鉄塔の中に取り残すことになるわけだし。

 

 そして、私は鉄塔のスタンドについて忘れていたわけではない。

 スタンド名やスタンド使いの名前こそ記憶にないものの、こういう能力であるという大枠は覚えていたが、それでもしれっと中に入った。

 即死はしないし、興味があったので。だがこの後どうするかについては全然考えていない。

 最終的にはなんとかなるだろうという無謀な楽観が、未だに私の身を滅ぼしていないからこうなるのだ。

 まあなんとかならなかったら私が努力と知略で何とかしよう。今までそれで死んでないから今後も死なん。

 

「私の体は乗っ取れないのか?」

「そうだね。君はスタンド使いだから。スタンド使いというのは意志が強い。私が乗っ取れるのは意志薄弱な、どこにでもいるような人間だけだ」

「だが、私の能力よりはずっと役に立ちそうだ」

「まあそりゃ、鉄塔の中に人を閉じ込めるという能力よりはさすがに、私のが便利だろう?」

「おいおい、そりゃ言い過ぎだ! この鉄塔の便利さを知らないな!?」

 

 私は瞬きを繰り返した。

 能力を羨ましがられたので自分の能力の利便性を肯定したのだが、妙な対抗心を向けられて困惑した。

 

「知らないよ。教えてくれるかい?」

「いいとも!」

 

 男は、自分がどれだけこの鉄塔を調べつくしたか教えてくれた。

 どう切りつければどこに切り口が跳ね返るのか。ボルトを投げつければ、どこに跳ね返って飛んでいくのか。

 果てには飛ばしたボルトに乗って平行移動するという軽業も見せてくれた。

 私は拍手して褒めた。すごい。スタンド能力を調査する能力もだし、それを使いこなす身体能力も素晴らしい。

 

「面白い話だった。だが私には、君よりこの鉄塔を使いこなせる気がしないな」

「フフ。そこはさすがに俺のスタンド能力だから、ってわけなのかもしれないな」

「君ほど鉄塔で暮らすのに向いた男もいないだろう。だが外に出たいと思うのも当然だ。私は君を見送るしかないね。良ければ、たまにやってきて話し相手くらいにはなってくれると嬉しいけど」

「そのくらいなら引き受けてやるさ。じゃあな!」

「またね……あ、名前聞き忘れたな」

鋼田一(かねだいち)豊大(とよひろ)だ」

「じゃあね、豊大くん」

 

 私が手を振って見送ると、豊大くんはゆっくり、非常にゆっくり鉄塔から離れていった。

 何度か振り返ったので、私はそのたびに手を振ることになった。

 豊大君が9回目に振り返ると、ついに頭を掻きむしりながら速足で鉄塔に戻ってきた。

 

「なにか忘れ物でも? 私はまだ上に取りに行けそうにないから、自分で取ってくれよ」

「……ダメだ! アンタみたいないいやつをここに閉じ込めていったと考えたら、罪悪感がとんでもなくて!」

「ええっ? 今更かい? 人が良いな君は。そうなると逆に私が申し訳なくなってくるが……情が移るのなら、あまり会話をしない方が良かったか? 今からでも、閉じ込めても当然と思えるようなクズっぽいこと言おうか?」

「そんなこと提案してくる時点でもうダメだ! 代われ!」

 

 ええー……?

 私が困惑したままであることを見ると、豊大くんはあんなに出たがっていた鉄塔の中に自ら入り、私をぐいぐい鉄塔の外に押し出した。

 鉄塔の中に豊大くんがいるため、私が鉄塔の外に出ても体が鉄塔の一部になることはない。

 

「スタンド能力を消滅させるのは難しいから、誰かはここに残らないといけないだろう。それが君である必要がないというのなら尚更、なにかの方法を考えるべきだと思うよ」

「この鉄塔の能力は、私が発動させたものだ……だというのなら、この私が責任を取るのが筋というもんじゃあないか?」

「かっこいいこと言うじゃあないか。そんなことを言える君を信じて、私は君を送り出そう。鉄塔の外を少しは楽しんできたらどうだい? 責任感のある君ならきっと戻ってきてくれると、私は信じて待っていられるよ」

「そのことなんだが……」

 

 豊大くんは少し気まずそうに頬をかいた。

 

「さっき鉄塔を離れようとしたら、とんでもない不安に駆られてな。それもそうで、俺は鉄塔を出ることばかり考えていたが、それは方法についてで、出た後になにをするか、じゃあない。行く場所もなけりゃ、行きたい場所もなかったんだ」

「……なるほど?」

「出られないってのはすごいな。別に出たくないのに、出られないと思ったら出る方法を考えるしかなくなる。これだけ出る方法を考えているのなら、自分は外に出たいのだと錯覚していた……全然そんなことはない! もう一生この鉄塔の中から出られなくとも構わない、いや、この鉄塔から出たくない!」

 

 私は笑ってしまった。そういうものか? そういうものかもしれない。

 やりたくてやっていることも、何かに強制されていると思えば、そこに自由意志がない気がしてしまう。

 外に出る手段があったとしても、実は外に出たくなどなかったのだ、というのは彼にとって盲点だったのだろう。

 

「もともとここで暮らすつもりで鉄塔を買ったんだし、大人しく私はこの鉄塔で一生を過ごすよ。ここからの眺めは気に入っているし、それがきっと一番良い……私はもともと引っ込み思案で、人付き合いも苦手なんだ。アンタとこんなに気軽に話せてたほうがおかしいくらい、ホントはシャイなんだぜ」

「あはは。私もシャイだから気が合うのかもね」

「豊大ってのも、実は偽名なんだ。顔も仮面だし。そのくらい恥ずかしがり屋なんだよ……」

「安心してくれ。私もこの体は自分のじゃないし、今のところ君に本名を名乗るつもりもない。お互い様だね」

「名前と素顔の隠蔽がお互い様な事あるんだな……」

 

 私もそんなことあるんだなと意外に思っている。

 この出会いを大事にしたいと思う程度には、珍しいことだ。

 

「だからこそ気兼ねなく、対等な友人になれるというものだ。それじゃあ豊大くん、今日は時間もないので失礼するが、また遊びに来るよ。話し相手くらいにはなれるだろう……人付き合いが苦手だというのなら、余計なお世話かな?」

「いいや! アンタなら歓迎するよ」

 

 こうして私は、奇妙な友人を一人増やしたのであった。

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