人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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しんぷるシンプル様より素子のファンアートをいただきました、わーい。
身体的特徴についてほとんど描写をしていないため、読者それぞれのイメージがあると思いますが、そのひとつを見ることができてとても嬉しいです。
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【4部】スターダストクルセイダースの招集

「矢が盗まれた」

 

 場所を変え、承太郎が現在泊まっている杜王グランドホテルの一室である。

 承太郎が切り出したその一言に、私は頭を抱えた。先ほどから止まらない頭痛がどんどん重くなる。

 このままイタリア料理を食べに行きたい気分だ。

 

「あの矢は財団でも常に注目の的だ。あらゆるデータ計測をするために、厳重な警備の元それなりに各地を転々としている。数日前までこの杜王町にあった」

「勘弁してくれよ」

 

 私はテーブルに突っ伏した。

 こんなヘヴィな話をするには、今の体調では心許ない。

 私は廊下を歩いていたホテルマンの体を借り、ドアを開け、承太郎の借りている部屋に入室しながら言った。

 

「現在も矢の所在は不明。先の少年のようにスタンド使いを各地で増やしている、と考えていいということかな」

「嗚呼」

 

 頭痛の止まらない自分の体からは抜け出したはずなのに、おかしいな、やっぱり頭が痛い気がするぞ。

 

「近場のスタンド使いには、捜索に協力を仰いでいる最中だ」

「仗助には言わないでくれよ、危ないことに首を突っ込んでほしくない」

「知らなければ守れない」

 

 自衛という意味でもそれはそうだなあ……仕方ない。

 可愛い甥っ子を守るためにも、出来るだけ早くこの騒動を解決しなければならないだろう。

 

「現在この街に住んでいるスタンド使いは全員把握しているから、最近新しくスタンド使いになった人を探そう。彼らに話を聞けば、矢の所在や盗んだ犯人について、手がかりが得られるだろう。そうでなくとも話をしなきゃな……スタンドなんて力を急に得たら、悪用を考えてしまうかもしれない。未然に防げるならその方が良い」

 

 相手がスタンド使いかどうかは意識して確認しないとわからないから、実はもうすれ違っていたりするかもしれない*1

 

「この場に花京院たちを呼んだ。情報を共有しなければならない」

「ならば彼らがここに来るまでの間、追加の情報を集めてくる。私の体はしばし頼む。町中探さなければ……これ以上町がスタンド使いまみれになったら困る……」

 

 こうなった以上、もう手遅れかもしれないが。

 改心が見込めないスタンド使いは早々に対処してしまわなければ。

 あらゆる労力を惜しまず、早期にスタンド使いを増やす矢を回収したというのに。運命力か? 

 

 町の探索を終えて帰ってきた私は、自分の体に入った。

 しかし頭痛は終わっていなかったし、視界がぐんにゃり歪んでいる気がしたので、自分の体で行動するのをすぐ諦めた。

 再び適当なホテル従業員の体を借りて戻ってくる。

 部屋にはすでに、承太郎と花京院、アヴドゥルとポルナレフ、ジョースターさんにイギーまで揃っていた。

 私がわざわざ他人の体を借りたのを見とがめて、花京院が提案する。

 

「体調が良くないのなら、病院に連れて行きますが?」

「入院するほどではないからそのままで構わない」

「そんなことを言っているとまた死にかけますよ」

「それへの反論と本題だが、病院に新手のスタンド使いがいる」

 

 私への説得の体勢に入っていた花京院は、ため息をつきながら天を仰いだ。

 

「医者ですか?」

「患者」

「ならよかった。医者は少なくなると困りますが、患者は少なくなった方がいいものだ」

 

 その理論は恐ろしいぞ。患者が患者でなくなるときは、是非とも理由は完治であってほしい。

 とんちにしては残虐だ。数を減らすために患者を死者に変換するのは極悪一休さんだろ。

 私は花京院と同じくため息をつき、右手で目元を押さえながら、左手で4本、指を立てた。

 

「私がほんのちょっと街を探してきただけで、だ。4だ……4人増えてる……」

「スタンド使いがかァ!? 増えすぎだろ!」

「その通り、増えすぎだよ。どうしてくれるんだ、私の故郷だぞ」

「僕の故郷でもあるんですが……これはひどい」

 

 引っ越そうかな、と一瞬よぎるが、それも難しいのはわかりきっていることだ。

 姉は教師としての仕事があるし、父もこの杜王町を長いこと守ってきている。

 仗助は高校に入学して交友関係を広げ始めたばかりだ。

 まともに理由も説明できないのだし、軽々に引っ越しなどできない。

 

「矢は」

「未だ。私が待ち時間に見つけ出せるほどなら、財団にだって見つけられるだろうさ」

 

 承太郎にそう答えると、アヴドゥルが悩まし気に唸った。

 

「軽く探して4人ならもっといるだろうな。矢の力がこれほどとは……」

「無論、そうだろうな。矢の使()()()ごと盗まれたようだ」

 

 すなわち私が提示した、矢がスタンド使いの才能のある者を指し示す可能性について、盗んだ者は既に知っている。

 闇雲にその辺の人間を射っても、ほとんどの場合ただ殺してしまうことになる。

 そうすることなく、より効率的にスタンド使いを増やしているわけだ。

 スタンド使いの才能を見つけるダウジングマシンとしての矢の運用方法は、私がそうなんじゃあないのか、と言っただけで、実際には行われていなかったはずだが──そうであってくれよ、頼むから。

 

「こちらに戦えるスタンド使いが4人しかいないから、4人見つけた時点で帰って来てしまった。というわけで、彼らを頼んだ。手遅れになる悪さをする前に釘刺して来てくれ。解散」

「お前な、先に相手がどーいうスタンド能力なんだっつー話を……」

「私はスタンド使いかどうかしか確認してきていないよ。見るだけでわかるのはその程度だ。私の情報収集能力は万能じゃないんだから、こんなに短い時間でそこまでを求めるな」

 

 そこまで言って、しばらく沈黙した後、私は気まずげに視線を逸らした。

 ここで言わないのは誠実ではないよな……。私は彼らの前では誠実でありたいので、渋々口を開く。

 

「……確定事項でなくて構わないのなら話すが」

「知ってんじゃねえか」

 

 くそう、ここまできて原作知識を活かさなきゃいけなくなると思ってなかったから覚悟が決まっていない。

 原作知識がこの世界では適応されておらず、誤った情報を与えたことで取り返しのつかないことになってしまうのではないか、ということが恐ろしいのだ。

 あるいは、この知識を持っていることが露呈して、異物だとみなされることが恐ろしいのかもしれない。

 あらためて情報の入手先を怪しまれたら打つ手がほとんどないしな。私は憂鬱でため息をついた。

 

「じゃんけんはするな」

「じゃんけんだァ~? 言われなくてもしねえよ、ガキじゃねえんだから」

 

 そういうこと言うやつが一番やりそうなんだよな。自らフラグを立てるな。

 

「やるなよ、ポルナレフ」

「お前のケツを持つのはごめんだぜ」

「お前ならやりかねん」

「なんでそんなに信用がねーんだよ俺は!」

 

 皆もおおむね同じ考えのようだった。ダービーの時の前科もあるしな。

 私は少し考えた。ひとまず4人探してきてしまったが、同時に話しかけに行かなければならないわけではない。

 出来るだけ早くコンタクトをとりたいのはやまやまだが、焦りすぎてこちらに被害が出るほうが問題だ。

 

「2人組で行ったほうが良いかもな。1人やられてもリカバリが効く。君らなら即死はないだろうが、打つ手がなくなる可能性ならある」

 

 4部以降のスタンド使いはテクニカルなタイプが多い。

 死ななくとも()()可能性なら十分にある。用心に越したことはない。

 

「私が同行してもいいが、それより矢を追跡したくてね。あるいはもっと増えていそうなスタンド使いを捜索したい」

「それが良いだろう」

 

 アヴドゥルのお墨付きももらえたし、そうすることにしよう。

 矢を盗んだ犯人として、怪しいのは音石明あたりだろうな。

 それ以外に原作で矢を持っていた人物に関しては、どちらも私がその可能性を潰している……はずだ。

 だよな? ちょっと不安になってきた……確認に行くべきか。

 

「敵は己が捕捉されることを恐れて、私とジョースターさんを一番に狙ってくるだろう。イギー、君に守ってもらいたい」

「アゥ」

「はっはっは。ああ、もちろんだ。倒してもらって構わないよ」

「わしにも頼みなさいよォ」

 

 イギーと話しているとジョースターさんが自分を指さしながらアピールしてきたので、私は驚いてしまった。

 

「ええ? いやいやジョースターさん、あなたにはあんまり無理をしてほしくないぜ。自分をいくつだと思ってるんだ」

「お前さんに直接会うまで耄碌はできんと、そこそこ鍛えとったんじゃぞ。直前に腰をやっちまってここには車椅子で来たが、わしゃまだまだ現役じゃわい」

「直前に腰をやっちまった79歳の老人に戦闘を強要できるわけないだろ」

 

 原作で読んでいた時よりもジョースターさんは確実に元気だ。

 鍛えていた、という発言は真実で、彼は未だ波紋の呼吸をやめていない。少なくともそうだな──老師トンペティくらいは元気そうだ。*2

 一番嫌いな言葉が「努力」で、二番目が「頑張る」な男としてはよくやっているだろう。

 私ももちろん、彼が健康であるほうが嬉しいが、スタンドバトルに参戦してほしいかといわれればノーだ。

 

「いいか、本当に大人しくしていてくれ。念写もしなくていいからな、ヘイトを買いすぎる。イギー、ジョースターさんが無茶しないかしっかり見張っておいてくれ」

「イギーッ」

「なんじゃ信用ないのう……」

 

 もし敵をおびき寄せるために誰かが囮にならなければならないのだったら、是非に私がその役目を果たしたいのだが……ぎっくり腰おじいちゃんと万年死にかけ女は、弱者を狙おうとした場合どっちからと聞かれると、どっこいどっこいだな。

 ジョースターさんは体格が良いから、たぶん私が弱者ダービーで勝っていると思う。

 スタンド能力に大した攻撃力がないのはお互い様だが、私には自分の体を定期的に不在にするというカードもある。

 ジョースターさんが歴戦の猛者である情報も敵が抜いていれば、私が一番に狙われるはずだ。

 

 ここまで考えて、敵から大層狙われたがっているみたいで嫌になってきたな。

 まだ敵が誰なのかもわからないのだから、戦略について考えるのは後回しだ。

*1
すでにサーフィスを発動されている

*2
ビンタ一発で屍生人を撃退できそうという意味


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