人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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おひさしぶりです。また、ちまちまとやっていきます。
でろんでろん様よりファンアートをいただきました!
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差分もある! ヤター!
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【3部】虹村形兆の過去

 形兆が帰ってくると、家には知らない男がいた。

 男の隣で「おかえりアニキ!」と呑気に返事をした億泰は、手にせんべいを持っている。

 見知らぬ菓子だ。少なくとも今朝形兆が家を出るまで、そんな菓子は家になかった。

 億泰の手からせんべいを叩き落した形兆が、自らの背後に億泰を押し込んだのを見届けてから、「手土産は余計だったかな」と男は口を開いた。

 

「改めてこんにちは。2人に、君たちの父親についてお話があってね」

 

 ロクでもない親父の関係者だというのなら、ロクでもない人間で決まりだ。

 挨拶をする割に名乗りもしない。形兆は警戒を強め、慎重に答えた。

 

「あいつのことは知らない。いまどこにいるのかも」

「それについては私が知っている。君たちにしたいのは別の話だ……はあ、憂鬱だ。こどもにこんな話をしなくてはならないとは」

 

 憂鬱と言った割に、男の顔は無表情のままだった。

 

「君たちの父親は率直に言って悪人だ。人を殺すことを厭わない吸血鬼に手を貸して、様々な悪行に手を染めている。その責任を君たちに問うているわけではない。世間ではどうか知らないが、私は君たちに罪はないと考えている。問題なのは、これから君たちが背負ってしまうかもしれない罪について」

 

 男はやれやれといった風に首を横に振ったが、それさえも機械的である。

 形兆には、男が気味の悪いものに思えた。これほどまでに感情が見えない顔を初めて見たからだ。

 

「君らの父親の頭の中には、肉の芽という吸血鬼による遠隔コントローラーが仕込まれている。彼がそれによって吸血鬼に操られて悪いことをしているのか、それとも彼自身の意思で悪いことをしているのか、もはや私には確かめることができない。自由意志で吸血鬼の味方をする人間に対しても、安全策で時限爆弾を埋め込むようなヤツだからね、DIOは」

 

 男がその場で話した内容を完全に理解できたのは、形兆が随分成長した後だった。

 この時の形兆にわかったのは、この男はまるで人形や能面のようであるということだ。言葉を話す口以外に、眉一つどころか、瞳孔一つ動かしやしない。

 

「私はDIOという吸血鬼を倒すことを目的としている。君らの父親にとっての上司にあたるから、お互い敵同士というわけだ。君らの父親に対して、君らを人質にしようなんて考えていないから安心してくれ。そんなことをしなくとも、彼を殺すことくらいできる」

 

 人を殺すという話をするときでさえ、男には殺意の一つも見えなかった。

 今日の夕飯の話をするかのように淡々と、世間話のように続けた。

 

「そう。君たちの父親を、殺すことならできる。私はそうするべきか、君たちに尋ねに来たんだ」

「ころしちゃいやだ!」

「そうか。ならそうしよう」

 

 億泰が叫んだのを聞いて、男はすぐに頷いた。

 あまりの即答に億泰も驚いたのか、きょとんとして男に尋ねる。

 

「ころさないの?」

「君がそう望むなら」

「よかった!」

 

 安心する億泰とは逆に、形兆は疑念を強めた。

 ならばなぜそんなことを聞いてきたのか。

 

「だが、念のために確認しておこう。私は悪徳業者ではないので、事前にわかるリスクの説明くらいはさせてくれ」

「リスク?」

「君らの父親に埋め込まれた肉の芽は、DIOが死んだ後どうなるか不明だ。DIOが死ぬと同時に肉の芽も消滅すればいいが、そうでないなら――死んだほうがマシだ、と思えるようなことになるかもしれない。だから聞こう。私は彼を、殺しておいた方がいいか?」

「にくのめ……ってやつ、とれないの?」

「摘出は難しい。できる男を一人知っているが、彼も忙しいのでね。そして、私は君らの父親を()()()()()()()ならできると言ったが、()()()()は難しい。つまり、大人しくさせて、肉の芽を摘出できるような状態に持っていったうえで、摘出できる男の前に連れていく、というのは、私には困難だ。なにしろ君たちの父親は、スタンド使いだからな」

 

 形兆は、こいつを正義の味方だとは思わなかったが、己の父親に対してはもっと思わない。

 実際に何を行っているかは知らないが、ロクに働いた様子もないのに札束が転がり込んでくるのだ。

 金銭ではなく宝石や貴金属のときもあり、子供にもそれがおかしなことだということがわかる。

 悪魔――吸血鬼に魂を売ったのだと言われれば、それは形兆を妙に納得させた。

 

「おれは……あいつは、死んでもいいやつだとおもってる」

「アニキィ……」

 

 形兆の発言に情けない声をあげた億泰とは異なり、男はまるで動じなかった。

 当然のように、ひとつ頷いただけだ。

 

「その意見は受け止めよう。さて、話ができてよかった。DIOを打倒した後、私が生きていたら、もう一度会いに来る」

 

 男はリビングの椅子から立ち上がり、退出の意思を見せた。

 追い出さなくとも出ていくというのなら、形兆にとっても都合が良い。

 だが、男は玄関に向かって歩く途中、形兆の近くで立ち止まり、再び口を開いた。

 

「私は悪徳業者ではないので、アフターケアもしよう。もし君らの父親が死んだほうがマシな状況になったら、それを打破する方法を一緒に探そう。私はスタンド使いを見つけるのが得意だから、きっとなんとかできる能力を持っている人を見つけられるさ」

「なんで、そこまでする?」

「こどもは守られるべきだからだ。父親が悪いやつだという()()のことで、こどもが不幸になるのは許せない。私の手の届く範囲にあるのなら、少しくらい手を貸してやりたくなるものだ。杜王町(ここ)に別荘を買った君たちの父親の判断は、唯一間違っていない。そしてたった今この時に、君たちがここにいるということも、私にとっては無視できないほどの意味がある」

 

 そうしてようやく形兆の隣を通り抜け、男は玄関のノブに手をかけながら言った。

 

「それでは形兆くん、億泰くん。少し早い冬休みを楽しむと良い。また会えると良いね」

 

 形兆に処理しきれないほどの情報を与えた男は、変わらない無表情のまま、手を振って去って行った。

 この時強く思った、こいつに二度と会いたくない、という形兆の願いは、叶うことがなかった。

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