人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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【4部】イギーの護衛

 気づけば私の本体は病室にあったが、そんなことよりずっとまずいことが起きている。

 つまり、私の本体が襲撃を受けている。ワオ。

 いつだって覚悟はしていたつもりだが、やはり現実になると驚くものだ。

 

「イギー」

「アォン!」

 

 叫びこそしなかったが、私の焦りはイギーに伝わった。

 ザ・フールの砂像が、私の体に張り付けられた心電図の電極やプローブを弾き飛ばしてくれた。

 

 部屋には私の他にイギー、そして電気をまとったスタンドが一体。

 

 この杜王町におかなくとも、電気を扱うスタンドといえば、やはり音石明なわけだ。

 同じ鳥型のスタンドであるアヴドゥルのマジシャンズレッドと比較すると、レッド・ホット・チリ・ペッパーは随分底意地の悪い顔をしている。

 ……いや、チリ・ペッパーの元ネタは恐竜だったかな? それでいったらマジシャンズレッドもホルス神が元ネタか。

 どちらもくちばしのようなパーツがあるということでここはひとつ。

 

「俺のスタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーの能力は把握済みってワケか! やるじゃねえか、東方素子」

 

 褒めてくれたところ悪いが、この場面で褒めるなら私ではなく、瞬時に対応したイギーだ。

 体が少しばかり痺れているが、これは威嚇程度のことだろう。

 私を殺そうと思っていたのなら、この程度では済まなかったはずだ。

 ザ・フールを構え、唸り声をあげるイギーを挟んで、病室のコンセントから生えているチリ・ペッパーに質問する。

 

「不思議だな。どうして私の体を殺しておかなかったんだい」

「からっぽの体を殺してもよォ~、スタンドだけ残っちまうっつー可能性があるわけだよなァ。だからアンタを殺すときは、本体に入ってるときじゃあねえとよ~~」

 

 死後のスタンド、という概念に関して多少の誤解があるようだが、彼はその存在自体を知っている。

 別に本体に入っている間に私が死んでも、死後のスタンドになる可能性は十分にあると思うし、個人的にはそっちの方がうっかりスタンドとして残ってしまいそうだな……と考えているわけだが、彼はその逆のようだ。

 私を()()()()には、私が本体に入っている必要があると考えている。都合の良い勘違いだったのでそのままにしておく。

 

「まったく、誰だ。君にアヌビスの話をしたのは」

「おいおい、俺を舐めてもらっちゃ困るぜ! どこで何してようが、この街のことは全部筒抜けなんだよ」

 

 ということはやはり、この情報は財団経由なわけだ。

 この世界でスタンドを体系的に研究している団体はスピードワゴン財団の他に存在せず、そしてこの杜王町には財団の大きな支社が存在する。十分以上の情報ソースに成り得るだろう。

 

「では、たった今、私を始末しなかった理由は?」

「美人への手心だぜ。1回だけ忠告してやる。矢と俺のことはあきらめて、俺の街から出ていきなよ。そうしたら命は取らないでいてやるからさ!」

 

 私は笑いを抑えられなかった。

 

「ふ、ふふ。君は本当に面白いね、()()()くん。その愉快さに免じて、1回だけ見逃してあげよう。矢を置いて杜王町から逃げ出すのなら、痛い目を見ずに済むよ」

 

 実際、私はこんなことを言えるほどの戦闘能力もなければ、この場における手札も大して持ち合わせていなかった。

 だが、明確に彼の本名を言ってみせたことで、私への警戒度を引き上げてやった。

 なぜなら彼が財団を経由して把握している限りの情報では、私に彼の特定は不可能だからだ。

 この短時間で矢を盗んだ犯人を当てられるほどのスタンド能力では()()()()。それが可能なのはひとえに正確なヤマを張れる原作知識によるものだが、音石明はそれを知らない。

 つまり私にまだ隠された力があるのではないか、と慎重な彼なら考えるわけだ。

 

 だって彼にとってみれば、東方素子には戦闘能力もないはずなのに、今こんなに余裕綽々なのはおかしいもんね。

 イギーがいるぶん、いつもよりは心に余裕があるが、殺されかけた時用のリアクションは特別用意していないため、普段通りの対応をするしかない。

 安心してほしい。ただ本当に殺されかけていてもこんな感じなだけだ。

 だが、音石明はそうは思わなかったらしい。

 

「チッ、俺に喧嘩を売ったこと、後悔するんだな、東方素子! お前は苦しんで死ぬ!」

「君こそ……いいや、やめておこう。口喧嘩は苦手だしね」

 

 私が言い終わるか言い終わらないかのうちに、バチンッ、という音とともにチリ・ペッパーはコンセントを通って姿を消した。

 まったく、なんて便利なスタンドなんだ。うらやましい。現代社会においてこれほど強い能力はなかなかない。射程距離が長すぎる……それに関してだけは私が言うのもなんだが。

 チリ・ペッパーが退場し、イギーが不機嫌そうに腰を下ろすのとほぼ同時に私の病室の扉が開く。やってきたのは花京院だ。

 

「誰の口喧嘩が苦手なんですか? まさか、あなたって言いませんよね」

「そんな言い方ないだろう、花京院。私のことなんだと思ってるんだい」

 

 花京院は肩をすくめた。言うにはばかられるということか。

 心外だな。性根が悪いと思われないような行動を、仲間の前では心がけていたはずなのだが。

 その一環として、音石明に()()()言葉を投げかけるのをやめたのだ。

 病室の扉が開くのがわかったので、このタイミングで入ってくるのは仲間の誰かだと判断した。

 医者か看護師の可能性もあったが、そうだったら尚更暴言を吐いているところを見られたくない。

 壁に向かって暴言を吐く狂人と思われては、入院する場所が精神病棟に変更されてしまう。

 

「それで、誰と会話していたんです?」

「イギーだよ」

「あなたがイギーと口喧嘩するわけがないでしょう」

 

 それは当然、そうだ。これは場を和ますジョークだ。全然和まなかったけど。

 花京院の様子からいってチリ・ペッパーの存在に気づいていないのはわかっていた。

 彼はスタンドバトルをやってる部屋にスタンドを出さずに入ってくるほど間抜けではない。

 私が今から和みを取り去ってしまうので、最後のあがきだったわけなのだが、失敗に終わったため大人しく真実を告げる。

 

「矢を盗んだ犯人」

「……」

 

 私がそう言うと、花京院は頭が痛そうな顔をしてハイエロファントを出した。

 触手で部屋の隅々まで確かめると、ようやく私に尋ねる。

 

「どこからです」

 

 敵の侵入経路を指さす。コンセントだ。

 

「これほど小さな隙間を通れるサイズ……いや、配線、電気……か?」

 

 3秒で真実にたどり着いたので、私は花京院への説明義務をどんどん放棄しそうになる。

 察しのいい仲間は頼りになるが、同時に自分の様々なミスも明らかにされるから困るんだよなあ。

 呑気にしている私が、たった今死体として転がっていてもおかしくなかったことを悟った花京院は、静かな怒気を放ちながら私を抱えた。

 

「場所を変えますよ。話はそれからだ」

「ああ。少し遠いが場所ならもう決まっている。君とポルナレフ以外はもう集まっているはずさ」

「敵の能力がすでにわかっていてこれですか!? あなたは自分の命を軽んじすぎだ!」

 

 ほらァ、やっぱり察しが良すぎる。ちょっと言っただけでこれだ。

 私が皆を通電していない(少し遠い)場所に集めたこと、それができるということは敵のスタンド能力を把握していること、そのうえで()()()()を後回しにしたこと、をこの会話の一瞬で理解されてしまった。

 さすがに自分の本体を一人にしたらまずいと思ってイギーについていてもらったし、私の回収のために花京院たちに来てもらったのだが……やはりジョースターさんを先に移動させたのが良くなかったか。

 弱者ダービーに少しばかり自信がなくなったので、先に避難させてしまったのだ。

 実際危なかったかもしれない。

 私が美人だから一度見逃してくれたという言が真実だった場合、音石明がジョースターさんのところに行っていたら殺されていたかもしれないわけだ。

 

「言い訳も後にするから説教も後にしてくれ。ここじゃ敵に聞かれ放題だからね」

「いいでしょう。そのほうが僕も遠慮なくあなたを罵倒できる」

 

 ちょっとだけ、この事件を解決したくない気持ちになってきたな……。

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