病院から出れば、近くにポルナレフが車を止めて待っていた。
花京院が車のドアを開け、端的に言う。
「ポルナレフ、運転をかわれ」
「別にいいけどよ」
「移動するのは助手席にじゃない。後部座席だ」
「注文が多いのォ~」
私の護衛をするのなら隣にいてくれた方が良いからだろうが、にしてもポルナレフへの態度がとげとげしい気がする。
私が彼を不機嫌にさせたせいだろうか。だとすればポルナレフには申し訳ない。
車のバッテリーの位置は車種によって異なるが、おおよそボンネットであることが多い。
次点でトランクルームか、運転席か助手席の下だ。
私の今座っている上座がチリ・ペッパー対策としてもそれなりに安全かもしれない。
そういえば、と口を開く。
情報収集から己の体に戻ってみれば、病院のベッドに寝かされていたことに関してだ。
「病院はいいと言ったのに」
「シバリングしていました」
シバリングとは、俗にいう身震いの専門用語だ。
体温低下の際に体の震えが止まらないような状況のことで、主に麻酔から覚めた術後に多い。
そのままにしておくと、眼圧や脳圧の上昇や、酸欠などの悪影響が出る。
深部体温でも下がって震えが止まらなくなったのだろう。稀によくある。
すまない花京院、私のせいで妙に医療用語に詳しくしてしまった。
「さっき起きた時はバイタル正常値だった。じゃあいいか、このままで」
チリ・ペッパーの存在に気づく、ほんの一瞬前に確認していた。
起きた瞬間に病院だった場合、バイタルを確認するのが癖になっている。
だからこそ、視界の中に不自然な光が見えたのにもすぐに気づけたわけだ。
バックミラー越しに花京院に睨まれたが、私の体が勝手に死にかけるのはよくあることなので、適当に笑ってごまかしておいた。
「あー、それでよ~、素子に言っとかなきゃならんことがあるわけなんだが……」
言いづらそうに話し出したポルナレフの顔を見て、それだけで私はおおよそを察した。
「やったのか」
ポルナレフが口をとがらせて「だってよォ……」と言うので、私はため息をついて車の天井を見上げた。
なにをやったのか、なんて聞くまでもない。どうしてやったのか、なんて言い訳も聞きたくない。
「誰が割を食ったんだ?」
「僕です」
「可哀想に花京院……」
ポルナレフへのあたりが強かったのは、私が花京院を不機嫌にさせただけが原因ではなかったわけだ。
「だぁあ、悪かったよッ! あいつがまったく話聞かないでじゃんけんしようじゃんけんしようしか言わねえからさァ!」
だからってやるなと言っておいたことをやっていい理由にはならない。
2人組で行くように勧めておいて心底よかったと思った。この様子じゃ負けてるし。
「お前だって即死はないっつってたしよォ……」
「あ~あ、ポルナレフは私が言ったことを信用してくれなかったんだな。確かに私だって不確定な情報だと言ったし、だからこそやったらどうなるという具体的な情報を与えられなかったが、それにしたって気が緩みすぎじゃあないのか。私が日本は平和と言ったせいか?」
「もう二度としねえ! 誓うぜ!」
逆か? 私が信用されすぎているからか? 私が即死はしないと言ったせいで油断したのか?
あ~あもうやんなっちゃうね。致命傷につながりそうで気が気じゃないぞ。
私も今後は迂闊な発言をしないよう、気を引き締めていかなければならない。
「次からは嘘をついて良いか? 油断したら死ぬぞと」
「いいですよ。油断する方が悪い」
「モウシワケアリマセンデシター!」
ポルナレフがカタコトの日本語で謝ってきたのでつい笑ってしまった。誰の入れ知恵だ。
さて、いつまでもポルナレフで遊んでいる場合じゃない。
一刻も早く矢を回収しなければ、原作よりスタンド使いが増える可能性だってあるのだ。
「あのじゃんけん小僧に関しては、少し懲らしめてきたので、しばらくは他に被害を出さないでしょう」
花京院の言う少しの懲らしめ、本当に
「私があの病院に入院していたということは、噴上裕也については解決済みだね?」
「そちらは承太郎たちが、懲らしめたようですね」
「それは……トラウマになっていないと良いが」
「トラウマになっていないと困りますよ。また性懲りもなく悪さをされては、こちらの手が足りない」
私は「それもそうか」と肩をすくめた。
DIOを倒してからというもの、私の仕事は主にそれだ。
世界中のスタンド使いを探し出しては、悪いことをしていないか確認して、していれば懲らしめる、という流れに協力しているわけだ。この道のプロともいえる。
こんなことをプロにしているのはスピードワゴン財団しかいないだろうが。
ポルナレフが私に尋ねる。
「お前の方は進展あったのか?」
「ああ。犯人は見つけた」
「うぉい!? 最初に言えよ!?」
「じゃあ最初に聞けよ。隠してないだろ」
ポルナレフが珍しくひるんだので、私もとげとげしい言い方になったことを反省した。
だがこう見えて私も余裕がないのだ。今心の奥に燃えるこの感情を、己でも制御しきれない。
「私はなポルナレフ。こう見えて怒っているんだ。私のスタンドに攻撃能力がなくてよかった。人一人くらい殺してしまいそうだからな」
ともすれば殺人予告だが、私はそのくらい腹が立っている。
「よくも私のシマを荒らしてくれたな。目にもの見せてやる」
と、いう気分なわけだ。何年ここで影のフィクサーやってると思ってんだ。
杜王町の平和を守る、家族を守るためならば、私はいつだって全力を出そう。
「俺なら絶対にお前は怒らせたくねえけどな……」
「ふふ。殺しはしない。これ以上悪さをしないのならな」
私は微笑んだ。ポルナレフは身を引いた。
失敬な。そんなに下手な微笑みだったか? ほっぺたをつまんで表情筋をほぐしてみる。
正直、死んだほうがマシだと相手に思わせるのは
だが私が殺しを決意するのは、相手も殺しに手を染めていることが大体は条件なので、この町でそんなことをさせるわけにはいかない。幸いまだのはずだ。私が把握している限りでは。
「結局、犯人に関してどこまで特定しているんです。名前や拠点は?」
「今話すと二度手間になるからな。私はあれがやりたい、名探偵が犯人当てるやつ」
「犯人は我々の中にいるという話ですか?」
「あー、そうか。名探偵をやるなら、犯人もその場にいないといけないのか。さっき言っておけばよかったな」
察しの悪いポルナレフが大変遅れて「……ん?」と言った。
即死はしないという理由で鉄塔に入った人間がなんか言ってる