花京院が私に尋ねる。
「矢を盗んだ目的は?」
「さてね」
私は首を横に振った。それは私も知らないことだ。
想像ならできる。思い付きを口にした。
「興味本位じゃないか。万能感に酔って世界のすべてを思うがままできると信じるのは、若者にありがちなことさ。スタンドの発現でその規模が桁違いに大きくなったと思えば納得できる。俺の街と嘯いていたからね。生きたまま捕まえられれば詳しい理由は明らかにできるだろう。別にそこまで気にもならないが」
おっと、最後の発言は余計だったな。ゆるやかに殺意がにじんでしまった。
「音石明の居場所ならある程度絞り込めている。まず……」
「誰の居場所が見当ついてるってェ!?」
雷鳴のような轟音と共に、地面が割れる。
「なんだ!?」
困惑するポルナレフを尻目に、私は2歩下がった。
下がった先で肩に手を置かれ、さらに数歩引かされる。
私の肩を引いたのは仗助だ。私を守る構えなのだろう。
個人的には私よりジョースターさんを守ってほしいが、仕方あるまい。距離的な問題もある。
割れた地面の先、裂けた電気ケーブルの中から、スタンドが飛び出してくる――噂のレッド・ホット・チリ・ペッパーだ。
キン、と金属音が聞こえた。
私の目に映ったのは、既に振り抜いた体勢のシルバーチャリオッツと、首筋を押さえて後退するチリペッパーである。
あまりにも早い剣速で、私には見えなかったのだろう。
「危ねェところだァ……! うっかりちぃっとばかし斬られちまった……!」
チリペッパーはそう言ったが、口調にそれほどの焦りは見られない。
一方、ポルナレフも渋い顔だ。右手で左手を押さえているあたり、痺れでもしているのだろう。
やれやれ、私には及ばない領域だ。戦闘能力に関して、私は最底辺だからな。
「挨拶代わりに、一人くらい電気ケーブルの中に引きずり込んで殺してやろうと思ってたが……これだけの人数がいるからには、用心しねえとなあ」
これほどスタンド使いの集まった場所に現れるとは、おみそれする。
私が同じ能力を持っていたとしても、絶対にやらないけれどな。
しかし、絶縁体に包まれた電気ケーブルを破ることができるほどのパワーだ。
決してあなどることはできない。
警戒する皆をおいて、私が一番に口を開いた。
私には戦う術がないため、警戒しても意味がないのだから、会話くらいしかすることがない。
「わざわざ複数人揃っているところを襲ってくるとは、自信過剰すぎやしないか」
「だったら俺を倒せるってのか? やってみな! 俺のレッド・ホット・チリ・ペッパーで全員返り討ちにしてやるよ!」
「なにぃ? ポッポ・ポッポ・ハトポッポォ?」
「ふふ」
ジョースターさんの聞き返しに思わず笑ったのは私だけだったので、口を手で覆った。
天然の老人ボケでやっているのか、煽りでやっているのか、絶妙にわからないところが面白かった。
どちらにせよ、笑うような余裕のある場面ではない。
私がにやつく口を何とかまっすぐに伸ばしていると、チリペッパーが言った。
「俺の本体にたどり着く前に、全員殺していってやるぜ」
「そうか。こちらは君を執行猶予なしでムショにぶち込んでやる程度で許してやろう」
――順当に考えれば、協力者の存在を疑うべきだ。
音石明が原作で余裕ぶっている時間が長かったのは、その正体がずっとわからなかったからである。
本体の姿を晒したのも、相手を確実に仕留めることができると思ったときだ。
今回、彼は私にすでに正体を看破されている。
私の嘘かもしれないが、居場所すらわかっていると言われている。
それにもかかわらず、これだけの余裕を見せているのだ。優位を取られている可能性は高い。
億泰だけが空気を読まず、のんびり質問した。
「シッコーユーヨってなんだ?」
「君の父親についたやつだ」
「あァ~!」
私が説明してやると、億泰は手をポンと打って納得した。
場の全員が、その納得の仕方でいいのかという顔をした。
でもこれは私の説明も悪いな。わかりやすさを優先して倫理や配慮を捨ててしまった。
「おいおい、これで全員か? こんなマヌケどもで俺が倒せると、本気で思ってんのか!?」
「ま、そうだね。正義のスタンド使いというのは世界的に見ても少ないんだ。あとはちょっと小突いたら悪に傾きそうな微妙なラインの人間しか残っていないから、ここにいる全員を始末できたのならば君の勝ちだぜ、音石明くん」
これに関しては正直な感想だ。
ここにいる全員が倒されれば、世界はだいぶ悪に傾くだろう。
「俺は慎重だからな……今回は視察に留めておいてやる……」
私は彼を煽ったが、しかし追撃はなかった。
電気ケーブルから顔をのぞかせたままで話していた彼が、そのまま撤退を決めたというのなら、我々にそれを追う手段もなかった。
ポルナレフはさらに斬りかかる様子を見せたが、花京院に止められた。
それは正しい。ケーブルにつながったままのチリペッパーに手を出すのは、賢明とは言えない。
音石明を逃してしまった。
あわよくば程度に思っていたが、やはり失敗すると悔しいものだ。
「チッ、やはり財団所属のスタンド使いについては、ほとんど情報が洩れているようだ。シルバー・チャリオッツが電気を切れることは承知の上だったか」
最悪の場合、こちらには仗助がいるから、体の一部さえ残っていれば再生可能だ。
そういう意味でいっても、切断力のあるスタンドは非常に有効である。
襲ってきてくれれば倒せると思ったのだが、こちらから仕掛けるには、
億泰と連携できれば、空間ごと削り取って彼をケーブルから引きはがせたかもしれないが、そこまでの機転を彼に求めるのは過剰というものだろう。
私は花京院との長い付き合いですっかり感覚を狂わされているが、普通、人というのは話さなければ何も伝わらない。
「……ねーちゃんの舌打ち、初めて聞いた」
「俺もォ……」
仗助とポルナレフの声を聞き、私は気まずくなった。
甥と友人の前で見せるには少々態度が悪すぎた。教育に良くない……それはもう色々手遅れか?
億泰が自信ありげに言う。
「俺は聞いたことあるぜェ。俺の親父にキレてるときにな」
「私をキレさせることのできるヤツは数少ないが、だからって自慢気に言うんじゃあないよ」
私は聖人でないのだ。クズに煩わされるのはイラつく。
友人や甥の前で、ここ10何年も舌打ち一つせずに頑張ってきたことを褒めてほしい。
ともかく、もう少しの間音石明に煩わされるのは続くようだ。憂鬱になる。
「はあ。ポルナレフならあっさりなます切りにして終わりにしてくれると思っていたんだが」
私の発言で、ポルナレフがハッと気づいた。
「て……てめえ! ヤツが襲ってくるとわかってたのか!?」
「私がなぜ、わざわざ君をそこに立たせたと思う?」
私は話をする前に、ポルナレフをわざわざ呼び寄せたのだ。
彼が今立っている場所にいて、だからこそ真っ先に音石に狙われたのは、
「後ろに車両と電気ケーブルがあるからだ。今この場で通電及び帯電できるものはそれくらいだろう」
音石明がバッテリーに潜んでいたのなら、車両からくるだろう。
あるいは電気ケーブルを突き破ってくる可能性もあると踏んでいたので、事前に地下のケーブルのおおよその位置は把握済みだ。
音石明がほんのもう少しだけこちらを侮っていてくれればここで決着が付いたのだが、うまく舐めプされたな。
電気ケーブルでなくバッテリーからやってきたうえで、電気ケーブルへの逃走経路を作らなければ、この場で捕らえられると思ったのだが。
私たちを正確に追跡するために、車のバッテリーに潜み続けている方が確率が高いと思ったのだがな。
彼はケーブルからやってきた。当てが外れた、とまでは言うまい。
あまり望ましくない結果だった、というだけだ。この先に打つ手もまだある。
ポルナレフはようやく理解したようで、私を非難した。
「お前、……お前なあ!? やっていいことと悪いことがあるんじゃあねえのか!?」
「直前に私が言ったことを忘れたのか、ポルナレフ」
どうやら忘れているようなので、親切心でもって、私はもう一度口にした。
「
かつてそういう嘘をついて良いか尋ねたが、そういう嘘をつくとは言っていない。
死にかけたら体の一部を切断しろ、と言ったのも、主に剣を持つシルバーチャリオッツ向けの話だ。
嘘ではなく、
そうだろう? と眉を上げてポルナレフを見れば、彼は唖然としていた。
「もうお前、怖いよ……」
「ああ? もう一回言ってみろ。自分の今までの行動を振り返った上でだぞ」
「モウシワケアリマセンデシタァ!」
原作の時系列でいったら次に死ぬのは彼なので、私はしっかり教育しているだけだ。
私が彼に望んでいることは、たった一つ。
死ぬな、というたった一つのことである。
友人が亀になるところなど、私は見たくない。
真空放電とかのことを考えたけど結局よくわからなかったので、この世界のポルナレフは電気を斬れます。
仙台市無電柱化推進計画書とか読んだけどよくわからなかったし、引き続きこれは雰囲気小説なのだった。最初からプロットもねえしな。