人の体を乗っ取るスタンド使い   作:九条空

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【4部】ジョセフ・ジョースターと読書

 私は現在、小型のコンテナ船に乗って読書をしていた。

 

 海の上は比較的安全だ。音石明は能力の特性上、海水に弱い。

 塩を含んだ水はよく電気を通す。チリペッパーが海に落ちれば放電して、すべての力を失う。

 船上に来るのは、チリペッパーにとってリスクがあるのだ。場外に飛ばされればKOが確定する。

 少しでも我々の近くに来ないでくれ、という苦肉の策でもある。

 

「こんなときに雑誌など読んで、のんきじゃのう……」

 

 私がぺらぺらと本をめくるのを見て、ジョースターさんが文句を言った。

 本に目を落としたまま、私はもっと文句を言われそうなことを言うことにした。

 

「ジョースターさん。ここで懺悔しておいていいか?」

「なんじゃあ、急に」

「実は音石明の居場所はまったく知らない」

「なんじゃとォ!?」

 

 私が本を閉じてジョースターさんを見ると、顎が外れそうなほど口を開けて唖然としていた。

 

「じゃ、じゃあアヴドゥルたちは一体どこに行かされたっちゅーんじゃ」

 

 音石明の襲撃の後、我々は3つのチームに別れた。

 それは、私が音石明の現在地に思い当たる場所が2つある、と言ったからだ。

 だから彼らは音石を追う2チームと、拠点防衛の1チームに別れた。

 

 追う側はまず、アヴドゥル、ポルナレフ、形兆のチーム。

 

 続いて、花京院、承太郎、イギーのチーム。

 

 そして我々。

 私とジョースターさんを守る、仗助・億泰・康一くんというチームである。

 

 では、私が音石明の居場所に心当たりがないというのなら、アヴドゥルたちはどこへ行かされたのか?

 その答えをジョースターさんに告げる。

 

「適当なとこ」

「オーノー! あてずっぽうか!?」

「無駄足踏ませたこと、後で一緒に謝ってくれ」

「なんだってそんなことを……わしらはお前さんをブレーンだと思っとるが、できないことをできると言い張るほど追い詰めさせとるとは……」

「おい、私を虚言癖みたいに言うな。彼の拠点がわからないから、誘き出しているんだ」

 

 音石明の居場所がわからないというのなら、彼の居場所を作ってしまえばいい。

 彼が()()()()()来てしまいたくなる場所を。

 

「彼はここに来るよ。私を殺したいから」

 

 我々が海の上を選んだことは、彼にとってむしろ好都合だろう。

 こちらには、そのくらいしかできる対策がない、という表明だからだ。

 

「なんということだ……素子。お前さん、自分を囮に……」

 

 私の自己犠牲の精神に、言葉を詰まらせるジョースターさんの言葉を遮った。

 

「ジョースターさん」

「ん?」

 

 私はにっこり笑った。

 

「あなたも囮だ」

「オーマイガー! 知らん間に餌にされとるゥー!」

「あっはっは……許してくれるか?」

「わしは老い先短いから構わんが……承太郎たちが怒るんじゃないかのう……」

「どうかな……どう思う?」

「誰に聞いとるんじゃ」

 

 風に吹かれ、波が立ち、船が揺れ、コンテナがガタガタと音を立てた。

 船酔いしそうだ。私はため息をついて、続きを言った。

 

「私とジョースターさんが、最も索敵能力に優れる。我々を各個撃破したいというのなら、向こう方に最も必要なのは()()だ。発見されるまでの時間を稼ぐには、多少のリスクを背負ってでも我々を殺した方が良い」

「ふーむ。だが念写のことを知られておる。何度やっても背景は真っ暗じゃ……」

 

 ジョースターさんに音石明のことを伝え、何度か念写を試みてもらった。

 その顔こそ写れど、居場所を特定できるだけの情報は得られなかった。

 ジョースターさんの言う通り、何度やっても背景は真っ黒。

 エジプトのDIOと似たような状況である。

 

 音石明は随分前から、ジョースターさんのスタンド能力への対策を終えている。

 スピードワゴン財団からスタンド能力についてが漏れているのなら、それもまた当然と言えよう。

 

「きれいな対策だ。だがジョースターさんが生きている限り、音石は暗闇から迂闊に出られない」

 

 ジョースターさんの念写が万能であれば、あのエジプトへの旅路もそれほど苦労しなかったのだ。

 苦労したのは主に私だけだが……DIOの居場所を確定させるために、何人もの足を使った。

 

「電気を斬れるポルナレフ、時を止められる承太郎。レッド・ホット・チリ・ペッパーが戦闘力として警戒しているのは主にその2人だ。だからその2人さえここにいなければ、来るはずだ。罠があると思っても……」

「あるのか?」

「ん、んー。どう思う?」

「お前さんならやっとる」

「信頼されていて嬉しいな」

 

 この信頼は得難いものだ。敵に対しても有効である。

 たとえ本当に何にも策が無かろうが、私に限ってなにかあるのではないか、という警戒を呼び起こせるだけで、数秒の猶予を稼ぐことができる。

 

「私も同じように仗助を信頼している。私の甥なら負けないよ」

「わしも……いや……」

 

 言葉を詰まらせるジョースターさんは、自分が仗助の家族面をしていいのかと迷っているのだろう。

 私がうまく立ち回ってしまったせいで、彼らは親子仲を飛び越えるほどの危機に、未だ晒されていない。

 この状況において尚、私はそうさせるつもりがない。

 そのへんのフォローについては、追々考えなければなるまいな。まあ彼ら自身と、運命に任せてもいいのだが。

 

 スタンド使いを増やす矢とか、我々を殺したい青年とか、そういう問題に比べれば、親子仲など随分まともな悩みだ。私も早くそれについて頭を悩ませたい。

 

 ふと物音を聞いて、ジョースターさんが呟いた。

 

「ネズミか?」

 

 それ、本当はネズミじゃなくて敵、という死亡フラグみたいだ。

 というか()()()()()がいる可能性もある。嫌になってしまうな。

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