私は現在、小型のコンテナ船に乗って読書をしていた。
海の上は比較的安全だ。音石明は能力の特性上、海水に弱い。
塩を含んだ水はよく電気を通す。チリペッパーが海に落ちれば放電して、すべての力を失う。
船上に来るのは、チリペッパーにとってリスクがあるのだ。場外に飛ばされればKOが確定する。
少しでも我々の近くに来ないでくれ、という苦肉の策でもある。
「こんなときに雑誌など読んで、のんきじゃのう……」
私がぺらぺらと本をめくるのを見て、ジョースターさんが文句を言った。
本に目を落としたまま、私はもっと文句を言われそうなことを言うことにした。
「ジョースターさん。ここで懺悔しておいていいか?」
「なんじゃあ、急に」
「実は音石明の居場所はまったく知らない」
「なんじゃとォ!?」
私が本を閉じてジョースターさんを見ると、顎が外れそうなほど口を開けて唖然としていた。
「じゃ、じゃあアヴドゥルたちは一体どこに行かされたっちゅーんじゃ」
音石明の襲撃の後、我々は3つのチームに別れた。
それは、私が音石明の現在地に思い当たる場所が2つある、と言ったからだ。
だから彼らは音石を追う2チームと、拠点防衛の1チームに別れた。
追う側はまず、アヴドゥル、ポルナレフ、形兆のチーム。
続いて、花京院、承太郎、イギーのチーム。
そして我々。
私とジョースターさんを守る、仗助・億泰・康一くんというチームである。
では、私が音石明の居場所に心当たりがないというのなら、アヴドゥルたちはどこへ行かされたのか?
その答えをジョースターさんに告げる。
「適当なとこ」
「オーノー! あてずっぽうか!?」
「無駄足踏ませたこと、後で一緒に謝ってくれ」
「なんだってそんなことを……わしらはお前さんをブレーンだと思っとるが、できないことをできると言い張るほど追い詰めさせとるとは……」
「おい、私を虚言癖みたいに言うな。彼の拠点がわからないから、誘き出しているんだ」
音石明の居場所がわからないというのなら、彼の居場所を作ってしまえばいい。
彼が
「彼はここに来るよ。私を殺したいから」
我々が海の上を選んだことは、彼にとってむしろ好都合だろう。
こちらには、そのくらいしかできる対策がない、という表明だからだ。
「なんということだ……素子。お前さん、自分を囮に……」
私の自己犠牲の精神に、言葉を詰まらせるジョースターさんの言葉を遮った。
「ジョースターさん」
「ん?」
私はにっこり笑った。
「あなたも囮だ」
「オーマイガー! 知らん間に餌にされとるゥー!」
「あっはっは……許してくれるか?」
「わしは老い先短いから構わんが……承太郎たちが怒るんじゃないかのう……」
「どうかな……どう思う?」
「誰に聞いとるんじゃ」
風に吹かれ、波が立ち、船が揺れ、コンテナがガタガタと音を立てた。
船酔いしそうだ。私はため息をついて、続きを言った。
「私とジョースターさんが、最も索敵能力に優れる。我々を各個撃破したいというのなら、向こう方に最も必要なのは
「ふーむ。だが念写のことを知られておる。何度やっても背景は真っ暗じゃ……」
ジョースターさんに音石明のことを伝え、何度か念写を試みてもらった。
その顔こそ写れど、居場所を特定できるだけの情報は得られなかった。
ジョースターさんの言う通り、何度やっても背景は真っ黒。
エジプトのDIOと似たような状況である。
音石明は随分前から、ジョースターさんのスタンド能力への対策を終えている。
スピードワゴン財団からスタンド能力についてが漏れているのなら、それもまた当然と言えよう。
「きれいな対策だ。だがジョースターさんが生きている限り、音石は暗闇から迂闊に出られない」
ジョースターさんの念写が万能であれば、あのエジプトへの旅路もそれほど苦労しなかったのだ。
苦労したのは主に私だけだが……DIOの居場所を確定させるために、何人もの足を使った。
「電気を斬れるポルナレフ、時を止められる承太郎。レッド・ホット・チリ・ペッパーが戦闘力として警戒しているのは主にその2人だ。だからその2人さえここにいなければ、来るはずだ。罠があると思っても……」
「あるのか?」
「ん、んー。どう思う?」
「お前さんならやっとる」
「信頼されていて嬉しいな」
この信頼は得難いものだ。敵に対しても有効である。
たとえ本当に何にも策が無かろうが、私に限ってなにかあるのではないか、という警戒を呼び起こせるだけで、数秒の猶予を稼ぐことができる。
「私も同じように仗助を信頼している。私の甥なら負けないよ」
「わしも……いや……」
言葉を詰まらせるジョースターさんは、自分が仗助の家族面をしていいのかと迷っているのだろう。
私がうまく立ち回ってしまったせいで、彼らは親子仲を飛び越えるほどの危機に、未だ晒されていない。
この状況において尚、私はそうさせるつもりがない。
そのへんのフォローについては、追々考えなければなるまいな。まあ彼ら自身と、運命に任せてもいいのだが。
スタンド使いを増やす矢とか、我々を殺したい青年とか、そういう問題に比べれば、親子仲など随分まともな悩みだ。私も早くそれについて頭を悩ませたい。
ふと物音を聞いて、ジョースターさんが呟いた。
「ネズミか?」
それ、本当はネズミじゃなくて敵、という死亡フラグみたいだ。
というか