ジョースターさんとくだらない話を続けながら進展を待っていると、遠方からエコーズが飛んでくるのが見えた。
私の記憶にある限り、この姿はAct.2である――康一くんがここまでの成長をとげることになった要因を知らないのだが、私の管轄外で彼が危険な目に遭っているということだろうか。
この件に関しては後で調べるしかない。今は他のことで手一杯だ。
「音石明を倒しました、素子さん、ジョースターさん!」
「報告ありがとう、康一くん。彼は本体でやってきたのかな?」
「はい」
「では本体から目を離さないでいてくれるか。死んだふりをされていたら困る」
「わ、わかりました!」
私の発言にハッとした康一くんは、即座にスタンドで元の場所に帰って行った。
死んだふりという発言に対して何の疑問もなかったところから、殺した手ごたえがあったということだろうか。
自分で立てた作戦なのにげんなりしてしまう。
やはり学生組に危険な戦闘を任せるのはよくなかった。
これほど情操教育によくないことがあるだろうか。
「うわ」
陰鬱としながら待っていると、私はもっと気分の落ち込むものを見る羽目になった。
この光景を想像してはいたものの、いざ目の前にするとやっぱり、別の道を選んでいた方がよかったのではないかと考えてしまうものである。
こちらに向かって歩いてくる人々はかなりの大所帯だ。
ついさっきチームで別れた全員が勢ぞろいし、さらに2名ほど増えている。
まずはアヴドゥル、ポルナレフ、形兆。それから花京院、承太郎、イギー。そして仗助・億泰・康一くんだ。
増えている2名は、億泰がずるずると引きずっているボロボロの音石明。
アヴドゥルが引きずっている焼け焦げた誰かである。
「なんじゃあ? ぞろぞろ来おって……」
「だよなあ、みんな揃って来なくてもいいよなあ」
ジョースターさんの疑問に、私もぼやく。
口火を切ったのはアヴドゥルだった。
「さて、素子。説明してもらおうか」
「あー……まあ、一応聞いておこうか。何を聞きたい?」
「すべてだ」
有無を言わさぬ言い方に、彼の激情を知る。
私は努めて真顔を保った――ともすれば笑ってしまいそうだったからである。
人間は意外と困ったときに笑う生き物だからだ。
ポルナレフはアヴドゥルが引きずってきた男を指さし、のんきに尋ねた。
「おい、何もわかってねえのは俺だけじゃねえみてえだけどよ。こいつが音石明ってことでいいのか?」
「いや、こっちだ」
訂正したのは花京院であった。花京院が指をさしたのは、億泰が引きずってきた方である。
凄まじくボコボコにされた痕跡を見るに、私の予想通りに彼は死んだふりをしたらしい。
つまり、クレイジー・ダイヤモンドやザ・ハンドだけでは説明のつかない傷が、音石明にはついていた。
具体的に言うとエメラルドスプラッシュの痕跡なわけだけれども。
死体に見えるが生きていることはわかる。
私のスタンド能力を使わなければ生死を判別できないくらいではあった、と言っておこう。
「相変わらずあなたは子供に甘い」
「そうかな。そうかもね」
花京院の言葉を否定することはできなかった。
音石明が成人していれば、私がもっと容赦がなかったことは想像に難くなかったからだ。
かつてあれほどの殺意を抱くほどの相手に、これほどの手心を加えたのは、やはり彼も子供の範囲内だったからなのだろう。
「……じゃあこいつ誰だよ?」
「音石明を唆して矢を盗ませたDIOの信奉者」
今回のフィクサーとも言えるだろう。
ジョースターさんにはアヴドゥルたちを適当なところに行かせたと言ったが、実はちゃんと目的地があった。
音石明のところではなく、その裏にいる男の元へ行ってもらったのだ。
期待通り、彼らはきちんと仕事をこなしてくれたようだ。
負け惜しみくらい聞けるかと思っていたのに、一瞬焼死体かと思うほどやられているが故、まともに顔すら拝めないとは。
口が利けるようになるくらい彼が回復するのはいつになることやら――まあ、聞きたいことなど特にないが。
これが誰かという質問に答えるのは簡単だが、私は聞かなきゃわからないポルナレフにやや呆れていた。
「ポルナレフ、君はもう少し見る目のある男だと思っていた……」
「脈絡なく罵倒するのはやめなさいっちゅーに」
「彼に見覚えくらいあるだろう、同僚だぞ」
「……あ!?」
私に言われ、焼かれる前の顔を思い出したのだろう。
「するってーと何か? 俺達はずっとスパイに入り込まれてたってことか?」
「うん」
ポルナレフが絶句している間、花京院が冷静に「特定方法は」と尋ねる。
私は縦線の入った己の爪をぼんやり眺め、もう少し亜鉛を取らないとまたぱっかり爪が割れるだろうなと考えながら、音石明のスタンド能力について話した。
「レッド・ホット・チリ・ペッパーのスタンドは強力だが、易々と使える力ではない。電力をパワーに変換するため、付近の電力会社が生産している以上の出力を出すことは不可能だ。私が皆を集めたあの場で、電気ケーブルの絶縁破壊を起こすなら、もっと市内のメーターが狂っていただろうな」
メーターがそれほど狂っていなかったから、私は裏切者を確定することができた。
「地下に通った電線から音石が飛び出せるよう、事前に穴を掘って電気ケーブルに亀裂をいれたのはよくなかったね。あの場所でスタンド使いの作戦会議をすることを伝えた財団職員は、彼だけなんだよ」
音石明が私の目の前に現れた時には、既にすべての布石が揃っていた。
チェックメイト――だから私も少々油断していたのである。
まさか音石明が私の病室へ、痺れさせられるくらいの距離まで近づいているとは。
あの場で音石明が私を殺していれば、こうしてチェックまではいかなかっただろう。
私はかなり多くの部分を独断専行でこなしたため、死後に引き継ぐ相手がいないからだ。
まあそれでも、承太郎や花京院が尻を拭ってくれていただろう。ちょっとした遺書くらいは残していた。
「それに彼、豊大くんに話しかけた時の変装が雑すぎて見破られてるし……」
鉄塔に赴いて私が危篤であるという嘘をついたのは、音石明ではなく財団職員の方だった。
金髪のウィッグにサングラス、つけ鼻をしてたという報告を受けている。
肌の色や造形からいって日本人、あるいはアジア系だろうとも。その変装姿を想像してちょっと面白かった。
「いつから彼を疑っていた?」
「そうだな……10年前」
「じ、10年ンンー!?」
ポルナレフの驚きに対して、私は軽く肩をすくめるに留めた。
この場にポルナレフしかいなかったのなら、どうだい私は未来が見えていてすごかろう、と自慢して、ポルナレフの素直な賞賛を受け取っていただろうが、そうはいかない。
この場には、それほど未来が見えているのならもっとどうにかなっただろう、と私の責任を追及してくる手厳しい仲間ばかりだからだ。
私はどうにか命乞いをしなければならない。
ここには私が体面を保ちたいと思う、学生たちが大勢いるのだ。
故に、泣き言も言えないし、ポーカーフェイスも崩せない。なんと堅苦しいことか。
「財団の中にDIOの配下がいるだろうなとは思っていた。私の探知に引っかからないから、非スタンド使いの部下だ」
男は日本人の財団職員だった。
私のスタンドで見てわかる通り、彼はスタンド使いではない。
そうではないからこそ、ここまで警戒されずにスピードワゴン財団の内部に入り込めたのだ。
「私は狩りをすることにした」
DIOに対して完全な対処を行うには、私はDIOと戦う覚悟を決めるのが遅すぎたし、生まれるのも遅すぎた。
彼の信奉者は世界の各地に存在し、その影響力と言えば、彼の死後でも世界を滅ぼせるほどであった。
少しずつ少しずつその勢力を削いで、今となっては世界征服くらいだろう――滅亡よりはよほど逆転の目がある。
「そして今しがた終わったところだ。猟犬役ご苦労様。皆のおかげで最後まで追い込めたよ」
大がかりな狩りはひとまず終わりだ。
内部の浄化作業は終了、これから新しく入ってくるスパイがいないとも限らないが、そういうのは考えていてもキリがない。都度対策を取るしかあるまい。
これで済めばいいのだが、私は作戦を実行してくれた彼らにもっと詳細を説明してやらなければならないだろう。
秘密主義の自覚はあるが、勝手に猟犬にした償いくらいはするべきだ。
好きなサブタイ発表ドラゴン「