ことしもよろしくおねがいします。
ひやひやした。とんでもなくひやひやした!
私がタイムリミットにしていた、死人の出る戦いまでにスターダストクルセイダースの信頼を勝ち取る、というのはいささか遅すぎたかもしれない。
よく考えれば、アヴドゥルはここで一度離脱するからだ。
離脱する――つまり死んだふりなのだから、私が心配することもないだろう。そう思っていたのは間違いだった。
マジで生きていたのが奇跡だ! 本当に死んだようにしか見えなかった!
アヴドゥルはハングドマンに背中を刺されのけ反ったことで、ホル・ホースの弾丸が額をかすめるだけで済んだ。
おそらく原作通りの展開だが、実際目の前にしてみれば、死んだふりなどとんでもない。
無辜の民の体を借りて、肉盾として割り込ませればよかったと後悔してしまった。外道戦法だけど。絶対アヴドゥルに嫌われるけど。
ポルナレフをかばってアヴドゥルが撃たれた後、花京院が運転する車でポルナレフは逃げた。
そこでも一瞬ひやっとする出来事があったのだが、大枠では原作通りではあったと思う。
私は目の前に転がっているアヴドゥルの治療で手一杯だった。
他人の体を借りて止血をするのでは間に合わず、私はアヴドゥルの
人の体に入った私は、その体の持ち主より自在に体を動かすことができる。
普段人間は無意識に多くのことを行っている。自律神経が担当するようなことは、わざわざ意識してやっていない。
自動車で例えればオートマの状態だ。
だが私が他人の体に入る場合、神経系統も操作することができる。いわゆるマニュアル操作で、細かいことまでできるということだ。
この場合心拍数だ。
アヴドゥルは出血性ショックを起こして血圧が低下していたので、無理矢理心臓を動かして血液、酸素を体に回した。というか呼吸もちょっと止まっていたので、勝手に息もした。
体の中に入っているからこそ如実にわかる、命の灯が薄れていく感覚に、私がどれほど肝を冷やしたことか。
承太郎とジョースターさん、そして医師が間に合ってよかった。
マジで生きててよかった。マジで!
他人の体でこうした応急手当てをするのは初めてではない。
私が入った体は何人も殺されてきたが、死ぬ前に猶予があれば、必ず蘇生を試みているのである。
成功率は2割を切っている。マジでアヴドゥル生きててよかった……。
「すみません。近くにいますか」
花京院が周囲を見渡しながらそう言った。
ジョースター一行は、隔離されて治療を受けているアヴドゥル以外近くにいたので、まさかとは思うが私のことかもしれない。
だがこれで勘違いだったら恥ずかしいしな。
ためらっていると、花京院は通行人の腕を掴んで引き止め「すみません、あなたですか?」と声をかけ始めた。
当然心当たりのないただの通行人は「はあ?」という顔をしている。
こうなってはさすがに私のことだろう。これ以上放置して花京院を不審者にするのも忍びない。
「……悪いが、今はペラペラ話している余裕もなくてね」
花京院が3番目に声をかけた男の体を借りて喋る。
これは真実だ。雑談をしている余裕がない。花京院が不審者になっていくのを楽しんで放置していたわけでは誓ってない。
いくらか声をかけて私に会えないと察するようであれば無視しようと思ったのだが、まるであきらめる気配がなかったので仕方なく登場した。
花京院は私が中に入ったのを確認すると、質問してきた。
「我々が車で逃げるとき、ホル・ホースの様子が変だった。あれはあなたの仕業ですか?」
「うーん、なんの根拠があって言ってる?」
「あなたが言ったんでしょう、ホル・ホースは銃弾を外さないと。彼はあの時、確かに
アヴドゥルが
それをホル・ホースがスタンドで撃って止めようとしたが、その銃弾は届かなかった。
見当違いの方向に飛んで行ったのである。私がひやっとしたのは、このタイミングだった。
ハングドマンの方は彼らを追いかけて行ってしまい、私はアヴドゥルとその場に残ったので、彼らの戦闘シーンは拝んでいない。きっと原作通りに進んだのだろう。
原作通りでなかったのはホル・ホースだ。
たぶん彼は花京院の車を撃たなかったはずだ。
だが
「……わざわざ嘘つくこともないか。正解だ。私が彼の動きを一瞬止めて、見当違いな方向に撃たせた」
「どうやって!? スタンド使いの体は奪えないと言っとったじゃないか!」
私はジョースターさんの発言を訂正する。
「奪えないとは言っていない。スタンド使いの精神は普通より強いから、
「詭弁ですね……」
できればこの能力は使いたくなかったので、詭弁であることもバレないつもりだったのだ。
だが使ってしまったので、言い訳くらいはしておこう。
「戦闘中で気を張っているスタンド使いであれば、奪えて体の一部の制御だ。奪えたとしても私にかなりリスクがある」
「リスクとは?」
私は肩をすくめた。
「スタンド使いっていうのは、自分の能力を他人にぺらぺらとしゃべらないものなんだぜ」
「他人の能力についてぺらぺらしゃべってきたやつが言ってものう……」
「そりゃバレるような迂闊な真似する方が悪いだろ」
「でしたらあなたが悪い」
花京院の鋭い一言に、私は言葉を詰まらせた。
なんだか、この後の彼の言葉を聞きたくないような気がする。
「先ほどから右肩をかばうような動きをしていますね。今使っている体の男性の肩が悪いわけではない。なぜなら、その一つ前に使っていた女性の体の時点で、すでに肩をかばっていたからです」
今私が借りているのは男性の体だ。
その前に使っていた女性の体というのは、ポルナレフたちがホル・ホースをうっかり逃がしたときの話だ。
しれっと馬に乗って
私は謝るとき女性の体を借りがちだ。美人であればあるほど良い。
なんとなく許されそうだからである。Chu! ドクズ野郎でごめん。
「それがどうしたってんだよ?」
「わかりませんか。ホル・ホースが拳銃を撃ったのは
「するってーと……なんだというんだ!?」
察しの悪いポルナレフに反して、花京院の察しが良すぎる。
「……確かに迂闊な私が悪かったな。降参だ」
降参の意味を込めて、私は
こんな些細なことでここまでスタンド能力についてバレるとは思わなんだ。
怖~。スターダストクルセイダース、怖~。やっぱり私に戦闘能力がなくてよかった。
この基準で敵を分析したり戦術を立てたりしなければ通用しないのだったら、私は相当なポンコツになる。
「無理に制御権を奪うと、私にもダメージのフィードバックがある。いわゆる筋肉痛みたいなものかな」
「筋肉痛ぅ?」
「スタンド使いの意思に反する行動をとらせるには、私も力いっぱいやらなきゃならないんだよ。彼の右腕を勝手に動かすためにグ~ッと力を入れたから、今ものすごーく右腕が痛い」
無理して運動した翌日のような感じだ。それのもっとひどいやつが、今の私の右腕である。
「なんじゃそりゃ! へなちょこだの~お前さん! もうちっと鍛えたほうが良いんでないの」
ポルナレフに馬鹿にされたので、私はさすがにむっとした。
なんだよ、人の体を無断で借りるだけで十分スタンド能力としては成立しているだろうが。
プラスアルファでこんなことできるだけでもすごいはずだ。
「うるさいなあ、スタンド能力は精神の話だぜ。体を鍛えたって意味ないよ」
「さてはお前もやしみてーに細いんだな?」
「あー? 悪いかよ! 今回頑張ったんだぜ、私は! ちょっとは褒めなさい!」
「それはマジに助かったぜ、ありがとな!」
素直に褒められたので、素直に照れてしまった。
もにゃ、と歪んだ口元を隠そうと右腕を上げかけ、痛みに顔をしかめる。しばらく不便だ。
「ともかく、今まで通り私には戦力を期待しないでくれ。足止めでさえ出来て1秒だ。スタンド使いを丸々操ろうものなら全身の骨が粉砕骨折するよ」
「腕はどうなったんですか。骨折を?」
「どうかな。うーん、まあ動かせるし、折れてはなさそうだ。ちょっと筋をやったかもしれないが、そのくらいかな」
私が他人の体を操っている間、その人間が感じた痛覚は私に伝わってこない。
わざわざ感じる必要がないからだ。視覚や聴覚、触覚は必要だが、痛覚はあっても困るだけだ。
入っていた体を死なせるたびに、死ぬほどの痛みを味わっていては発狂してしまう。
だが、今回の右腕の痛みは他人の体に入っている間にも発生する。
なぜなら、スタンド使いを操る際に生じたフィードバックは、私の本体に直接行くからだ。
今は自分の体に戻れないため、自分の体の右腕が実際どうなっているかを確かめる方法がない。
生じる痛みで程度を察することしかできないのだ。もしかしたら本当は右腕がねじ切れてる可能性もある。
本体と相当離れている今、本当にリスクのある能力なのだ、これは。
「ホル・ホースの指一本動かすだけでそんなになってちゃあ、確かに役には立たねえな」
「ひどいな承太郎。その通りだけども」
「今まで通り、大人しくすっこんでな」
それが承太郎のやさしさだと信じることにする。
本当に邪魔者扱いされていたら、とってもへこんでしまうので。
そういえば日間ランキング1位ありがとうございます。
旬ジャンルでもないのにいいのか……? みんなジョジョ読みたかったってこと……? 需要があるなら供給ももっとたくさん増えますか……? ジョジョの二次創作を無限に読みたいんです……。