退治したドブネズミに向かい、仗助が啖呵を切る。
「お……お前なんか全然怖くなかったぜバ~~カッ!」
――結局大体原作と同じになってしまったな。
どれだけ巧妙な奇襲を仕掛けても、敵が2匹いる時点で、あっさり仕留められるのは1匹だけだ。
私にできることと言えば相変わらず助言だけ。
主人公が2人もいるとなれば頼もしすぎて、私がいる意味などほとんどなかっただろう。
原作の承太郎は多少溶かされていた気がするので、その傷がない分多少はマシだっただろうか。
「ねーちゃん、これを一人でどうするつもりだったんだよ」
「そりゃ当然、一人じゃないさ。私に戦闘能力はないから、できることといえば先の承太郎のように囮だけだ。代わってくれてどうもね」
囮という発言に眉を寄せたのは仗助だけではなかった。
並んで似たような表情をしていると、本当に似ているな。
これを見れば、2人の間には誰でも血縁関係を感じるだろう。
私は2人が同時に呆れるのを見たくはなかったが。特に呆れられているのが自分の場合。
「一人じゃねえってのは……」
「君らと違って彼は
親指と人差し指だけを伸ばし、バン、と銃を撃つジェスチャーをする。
それで2人は納得した。
「仗助にはもうひとつ頼みたいことがある」
「これ以上の厄介ごとじゃねえだろうな?」
「ああ。帰りにスピードワゴン財団管轄の病院に寄って、3人ほど治して来てくれ。それでこの事件は死者ゼロで済むから」
「オエエ……」
やっぱりこの「オエエ……」は私に対して言っているのかな。
既に犠牲者が出ていることを彼らに伏せ、初期想定では仗助を連れて来るつもりがなかったというのは、人命を軽く見ているととられてもおかしくはない。
仗助は「言いたいことは山ほどあるが」という表情のまま、何も言わずにその場を去った。
これに関しては、承太郎がいてくれてよかったのかもしれない。
たぶん仗助が言葉を一旦飲み込んだのは、承太郎の前でいろいろと言うには
まさか承太郎が我が家に持ち込んだ気まずさが役に立つときがくるとはな。
仗助が一度冷静になってくれれば、私に言われる文句も少しはマシになっているだろう。
冷静に考えた分、私の精神にクリティカルを与え得る精度にまで磨き上げられる可能性の方が大きそうなことについては、一旦目を瞑ることにする。
「安心して帰ってくれていいよ、承太郎。これから2体目のスタンド使いを倒しに行く、なんてことはないからね」
「確かに聞いたぜ」
嘘だったら承知しねえからな、という副音声まで聞こえた。
私は肩をすくめて、足を組みなおした。
スタンド使いを倒しに行くわけではないが、スタンド使いと会う予定はある。
敵じゃないから承太郎も許してくれるだろう。
承太郎が去った後、その場でしばらく待っていると、ホル・ホースがやってくる。
「本業って言い方にゃ文句がある、素子」
いきなり文句だった。お疲れと言う隙もない。
「そうかい? しかし射程も君のが長いだろ、ホル・ホース」
仗助はベアリング弾を使って虫食いを倒した。
近距離パワー型ならばスタンドの応用により、指先で弾丸を弾くことで拳銃なしに発砲できるという例だが、ホル・ホースはスタンドが拳銃なのだ。間違いなく本職だろう。
「俺はガンマンであってスナイパーじゃあねえんだぜ」
頷く。
それに関しては理解しているつもりだ。スナイパーのスタンド使いなら別にいるし。
「でも1kmくらいなら余裕だろ?」
「おーっと! スタンド能力について、詳細は秘匿させてもらうぜ。限界伝えるとお前、本当に限界ぴったりで作戦を考えるからな!」
まったくもってその通りなので、ホル・ホースは正しい。
私が把握しているホル・ホースの射程は約2kmだ。ホントはもっと撃てるのかな?
今後の作戦はもうちょっと彼を遠くに配置してもいいのだろうか。
私がにやり笑うと、ホル・ホースがため息をついた。
「俺の歳を考えろよ、嬢ちゃん。スタンドは精神力だ、衰えもする。いつまでも最盛期の俺のつもりで計画を立てると、どっかで狂うぞ」
なかなかの至言だ。
承太郎だって衰えている。ホル・ホースだってそうだろう。
「だが、見栄のために己の衰えを秘匿して、私の作戦を失敗に導くような愚策を君が取るわけがない。これは未だ
「用事を思い出しちまった! 俺は帰るぜ、じゃあなッ!」
逃げるように退散するホルホースの背中を眺め、私はくつくつ笑う。
今日も私を諫めるのを失敗した騎士様の勇敢さを称え、ホル・ホースの射撃限界の距離を上方修正するのはやめておこう。