ソードアート・オンライン 白と黒の剣士   作:紅薔薇

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《Reito》 レイト/男 Lv.11

盾持ち剣士
装備
右手:アニールブレード
左手:バックラー


第二話 「キリト、アスナとの出会い」

「二千人……か……」

 一ヶ月で二千人が死んだ。

 百人が二十個分。馬鹿っぽい表現かもしれないが、リアル中二の俺にはこれが精一杯だ。一次関数もよくわかっていない俺が人の死を理解できるはずがなかろう。

 そして、一ヶ月で二千人が死んだ――唐突だがこれが事実だ。

 そんな事実を聞かされても、にわかには信じがたいことだろう。

 いやそりゃそうでしょ?

 いきなり目の前に顔見知り程度の人間が現れて「二千人死んだぜ」って言われてどうする? まともな反応できるわけないじゃん。

 まぁ、冗談は置いておこう。

 もう一度繰り返す。

 一ヶ月で二千人が死んだ。

 これはれっきとした事実だ。

 このペースでいけばあと四ヶ月でSAOにログインしている全ての人間が死ぬことになる。

 そんなことにはならないようにしたいが……。

 しかし、現状をどうにか変えないことにはそんな綺麗ごとも言ってはいられない。ゲームが始まって一ヶ月経っても、俺たちは未だに第一層すらクリアできていないのだから。

 現実世界でベッドに寝ている俺たちの体だってそう長く持つわけじゃない。

 排泄物、栄養、筋肉などのことをろくすっぽ知らない馬鹿者の俺補正が入り、なおかつ長く生きれると見積もって三、四年。その時に生き残っているプレイヤーは千人もいるのだろうか。

 引きこもっている連中がいるから、千人くらいはいるのか。

 いや、話を戻す。

 俺たちは進まなければならない。

 そんな俺に、一つの朗報が届いている。

 今日の夕方、第一層迷宮区最寄りの街《トールバーナ》で一回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれるそうだ。詳細についてはよくわからないが、とにかくフロアボスを一刻も早く倒さなければいけないことは自明の理。

 せめて五十人程度は欲しいところだが……今のSAOを精力的に攻略しようとしている人間はそう多くない。

 まぁ、俺がこの間迷宮区に潜っていた時に見た、ケープをかぶったレイピア使いのソードスキル《リニアー》。あれほどに美しく研ぎ澄まされたソードスキルが使える奴らが多く揃っていれば少しは攻略も楽になるし、良いこと尽くしなんだが……まぁいい。

 今の俺にできることをやるだけだ。

 

 結果として、最初の攻略会議に集まった人間は四十四人。

 これからもっと増えていくと信じてみたいが……。

 とりあえず、手近な椅子に腰掛けて会議の開始を待つ。

 俺の予想していた人数よりは少ないが、しかしこれだけでもSAOを攻略しようと思ってくれている人間がいることは素直に嬉しい。

 ぐるっと見渡してみる。

 名前を知っているプレイヤーは三人、最前線で戦っているところを見たのが六人ほど。ケープをかぶった《リニアー》が凄まじいレイピア使いさんと、それと一緒に戦っていた黒髪のコート剣士も含んで、だ。そして、あとは知らない奴らばっかり。ってか男でレイピアなんてもの好きな人もいるもんなんだね。俺なんて最初に握ったのが片手剣だからただただ惰性で使い続けて他の武器が使えないからずっと使ってるだけだぞ。「両手剣格好良いな……でも使えないぜ☆」みたいなことが何回あったか! 

 いや、片手剣には盾持てるっていうすごくいいところがあるから!

 ま、まぁそれはともかく、パーティ組んでとか言われても無理だぞ、俺……そんなに話せる人いないし……というかずっとソロでやってきたから《スイッチ》したことあるのなんて両手の指あれば足りるくらいなもんだし。

 まぁマイナスに考えたってどうにかなるもんでもあるまい。

 とりあえず何とかなる。

「はーい! それじゃ、五分遅れだけど始めさせてもらいまーす!」

「おう?」

 中央広場にある噴水の縁に助走なしで跳び乗る声の主。

 蒼髪のイケメン……というのが、第一印象。

 あの高さをワンジャンプ、ってことは俺と同じで筋力と敏捷性に振ってあるんだな、というのが第二印象。

 イケメンだな、爆発してくださいというのが第三印象。

 と、俺が馬鹿のような思考を巡らせていく間にも会議はあれよあれよと進んでいく。

 終わらない思考の渦を断ち切ったのは、《ディアベル》と名乗った蒼髪男剣士の放った一言。

「それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う! 何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担もできないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティを組んでくれ!」

「……は? パンティー?」

 下ネタをかましている場合ではない。

 俺の最も恐れていたことが起こってしまった。どうしよう数少ないフレンドは皆もう仲間内でパーティ組んじゃってるし最前線で戦ってる攻略組の皆さんも既に決まってるだろうしあああああああああああああどうしようどうしよう仲間がいないよ一人ぼっちだよーっていうか何でお前らそんな一分くらいでパーティ決まるの俺はわけがわからないよ体育かよ二人一組のストレッチかよマジでやめてくれよあんなん二列に並んでるんだから隣の奴同士でやらせりゃいいじゃんうううううそんなこと言ってる間にもう俺一人だしー!

 マジで俺だけがぼっち……では、なかった。

 荒ぶっている俺の視界に留まったのは、二人の剣士。

 ケープ剣士とコート剣士の二人だった。おそらくあいつらはパーティを組んでいるだろう。なら俺もそこに混ぜてもらおう。人数が少ない分には来るもの拒まずだろうし。

 俺は席を立って、二人の剣士に近い席へ腰を下ろしてから二人に話しかける。

「なぁ、俺もアブれてさ。俺をパーティに入れてくれないか?」

 黒髪の剣士が苦笑しながら答える。

「おう、アブれた奴どうし仲良くやろうぜ」

 パーティへの参加申請がくる。承認のボタンを押し、これで俺もパーティに加入したということになる。

 途端、視界に表示される二本のHPゲージ。

 【Kirito】。

 それが黒髪剣士の名前だった。

「キリト、か。よろしく。あ、そっちのケープさんも」

「……よろしく」

 端的に述べられた挨拶を受け取り、視界の端に追加された二つのHPゲージのうち、下のほうを見る。

 【Asuna】。

 それが凄まじい《リニアー》使いさんの名前だった。……ていうか、顔立ちと名前からして女性プレイヤー? 

 一瞬頭に浮かんだ雑念を振り払う。

 実力さえあれば、ひとまずは誰でもいい。 

 この城の頂を極められるほどの精神力、実力を持っている奴なら、誰だって拒む理由なんてない。

 

 そして、ディアベルは指揮面でも優秀だった。

 出来上がった七人の六つパーティを検分し、少しの人員入れ替えで(タンク)攻撃(アタッカー)部隊に仕立て上げたのだ。

 まぁ、確かに定石をついているし、そこに目をつけたのはむしろ聡明な判断だと言えるだろう。

 これは初のボス戦。

 βテスト盤と仕様が変わっている部分もあるかもしれないし、勝敗云々よりも負けない、死者を出さない戦いをしなければならないからだ。

 シンプルゆえに破綻することも少ない良い作戦だ、と俺が「ほー、へー」と間抜けな声を出しながら尊敬の念を向けている横で、どうやらキリトもディアベルの采配に感心していたらしい。

 最後にディアベルちゃんは俺たちの前にやってきて、フロアボスの取り巻きの取り零しを処理してくれよ、と爽やかな笑顔で告げた。

 つまり大人しくしてろと。

 うるせえ爆発しろ。

 とまぁ、俺のそんなどうでもいい苦悩を知ってか知らずなのか、攻略会議はトントン拍子で進んでいった。

 途中《キバオウ》はん? とかいう人の乱入もあったけど、《エギル》って人が論破してくれた。ありがたやーありがたや。

 まぁ確かに、βテスターがズルしてるって言われて反論できるほど俺は肝っ玉が座っちゃいない。実際俺は皆よりも早くレベリングしているし、コルの効率良い稼ぎ方なども秘密にしている。こんな精神が攻略組全体の怠慢を招いている、と言われればそれはそれまでのことだ。

 

「……キリト、あ、キリトって呼んでいいか?」

「ん? あぁ、構わない。俺もレイトでいいか?」

「おう。俺たち、ただの邪魔者だなー」

「そうだな、ボスに攻撃できないまま終わっちまうな……ちくしょうLAボーナスが」

 俺はキリトの言葉に、無視できない単語を見出す。

 LAボーナス、なぜその言葉をキリトお前が知っている?

 それはβテスターしか知らないはず。LAボーナス、ってのはフロアボスに対してL(ラスト)A(アタック)――つまりはそいつが頭を獲った時にもらえるボーナスのことだが、まだ一層も攻略されていない以上一般プレイヤーが知っているはずがない。

「LAボーナスをなぜ知ってる?」

「……大きな声では言えない。だけど、俺もβテスターだったんだ。レイトもだな?」

「そうだ。俺もそうだった。

 ……そういえば、キリト、お前、片手剣、しかもアニールブレードなんだな」

 背中にある片手剣の鞘を見て、思ったことをそのまま口にする。

「そうだけど……お前もなんだな」

 二人でしばらく見つめ合う。

 そして五秒後に同タイミングでがっちりと堅い握手。

 それをケープ剣士ことアスナさんは冷たい視線で見ていた。

「……気持ち悪い」

 バッサリと切り捨てられる俺たちの友情であった。

「ぐっ」

「がっ」

 せっかく、同じ片手剣愛好家を見つけたと思ったのに……だって攻略組で片手剣使ってる人少ないんだよ……まぁあのディアベルちゃんも見た感じ片手剣だったけど。

「ん、んんっ」

 わざとらしく咳払いをして、話を戻す。

「さて、俺たちの出会いを祝して、この会議が終わったあとどこか場所を変えて話でもしないか?」

「俺はいいけど」

 キリトはどことなく楽しそうだ。

「アスナさん……あぁもう面倒くさいからアスナで。アスナはどうだ?」

 アスナはどことなく俺を警戒しているような雰囲気だ。

「わたしも、構わない」

「決まりだな。んじゃ、場所はキリトの宿にしよう」

「何で俺なんだよ……まぁ、いいけど……」

 それから俺たちは攻略についていろいろなことを話した。

 アスナには俺とキリトがβテスターだということは明かさなかったが、どうもアスナはこの手のゲームが初めてらしく、俺たちが話す内容について全く理解していないようだった。学年十位キープしていたいとか言ってたということで、リアルでの偏差値ならボロ負けのようだが。

 そんなアスナにいろんなことをレクチャーしつつ、話に花を咲かせていった。

 人と話すのがこんなに楽しいと感じたのは、いつぶりのことだろうか。

 




次回予告

「いや、俺リアルでは竹刀も握ったことないんだぞ」

「スイッチの練習とか俺涙目なんだけど」

「キリト、《デュエル》……しようぜ?」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「――《バーチカル》!」
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