次からはコボルドさんを狩っていきますよ。
俺とキリトが遅刻による説教をアスナからくらい、スイッチの練習をして、その他もろもろ連携の確認をしたその日の夜。
俺は一人、宿のベッドで意識を投げ出していた。
今日だけで俺のレベルも一つ上がり、既にレベルは12。
キリトはどうやらアスナを宿に誘い、風呂を貸しているようだ。風呂から飛び出たアスナとキリトが遭遇……なんてことがなければいいけどな。まぁ、あるわけない、か。
「……はぁ」
ため息の一つもつこうというものだ。
俺自身、ステータスだけで言うのならきっと攻略組の中でもトップクラスだろう。パーティに入った元βテスターは、「自分はβテスターだった」などと言い出せるわけがない。つまり。いくら効率的な狩場を知っていようと、いくら強い武器を知っていようと、それがパーティの皆に伝わらない以上レベリングの速さは製品版からの連中と同じになる。
だが、俺は違う。
ひたすらにソロで強いmobや、低確率ではあるが良い武器をドロップするmobを狩り続けた。
片手剣のソードスキルも一定のレベルまでは達した。何とか、明日のボス攻略までに二連続のソードスキルまでは身につけておきたかったからな。
そして、今日だけでもキリトやアスナの実力は充分なほど理解した。
俺もそれなりにやれたかなとは思うが、しかしあの二人には届かないと思っている。アスナなんて製品版からのプレイヤーなのに、目を見張るようなある種完成された動きの美しさがあった。
二人とも、俺にはないソードスキルの《重さ》。そして、《一撃の威力》がある。
今日キリトやアスナと共闘してわかったのだが、俺はキリトよりも多く敏捷値に振っているらしい。朝のデュエルではキリトの《ソニックリープ》に対し、俺がジャストのタイミングで当てられたから《バーチカル》でも良い勝負ができただけだろうと踏んでいる。
まぁ、もとより俺のスタイルとキリトのスタイルでは少しながら差がある。
俺は素早く、威力の小さい攻撃を何発も叩き込む手数で、
あいつは、筋力要求値ギリギリの片手剣で叩き込む一撃の重み。
そこにはゲームを攻略するにおいて明らかな差が生じる。
アスナはちょうど俺たちの中間と言ったところか。
「……あー、何かもう、よくわっかんねぇな」
髪の毛をぐちゃぐちゃのわしゃわしゃにして、頭を抱える。
明日のボス攻略。
それを考えるだけで体が震えるし、怖い。
自分で自分の体を抱きしめる。
何となく《メインメニュー・ウィンドウ》を開き、そこから悪い意味での思い出のアイテム――《手鏡》を取り出す。
手鏡に映る自分の顔に、ひどい呆れを覚える。
元々俺はかなり女性的な顔立ちをしている。
認めたくはないが、父親……あのクズもかなり綺麗な顔立ちをしているし、母親、まぁ、ゴミ人間もそれなりには美しいと思えるような容姿だったと思う。容姿だけならあいつらは本当に完成されている。
そんなゴミ二人の遺伝子を受け継いでしまったのは誠に不愉快ではある。
それに、女性的な顔立ちのせいか、野暮ったいコートとか俺に全然似合ってないしな。まぁ敏捷値補正があるし、着続けるけど。
そういや、今日の迷宮区での狩りの最中、バックラーも何かレア物がドロップしたようで、少しだけだが俺の防御力も上がっている。まぁ布地のコートだけでは心元なかったし、良かった。
何だかんだで俺は今、攻略の最前線を走っているんだろう。
……製品版からのプレイヤーを引っ張ってくれているディアベルに、少しだけ申し訳ない気がするけどな。
いや、やめよう。
余計なことを考えて、これ以上何か考えるのはあんまりよろしくない。さっさと寝てしまうのが得策だ。もう夜も遅いしな。
おやすみなさい。
明日は、死ななければいいな。
……
そう――どんな過酷な日だって、朝は、いつも通りにやってくる。
いつも通りに設定したアラームに叩き起され、いつも通りNPCの女の子が出す朝飯を食べて、白いレザーコートに着替え、装備を整え、アイテムを確認し、そして外に出る。
討伐部隊の集合場所に行き、キリト、アスナと軽くを交わしてからボス部屋へと進む。
きっといつか、これも日常になるのだろう。
いよいよボス戦。
ディアベルが右手を左腰に走らせ、銀色の長剣を音高く抜き放ち――
「…………勝とうぜ!!」
湧き起こる、巨大な鬨の声。
それはいつかのチュートリアルの時に怒った悲鳴や怒号、負の感情を結集したそれらに少しだけ似ているように思った。