原作の雰囲気も忘れずに描写していきたいなと思っていますので、SAOプログレッシブ「星なき夜のアリア」の話の中、レイトくんが何を思い、どう行動するのかを主体としてお送りします。
レイトくんTUEEE(白目)
レイトくんKOEEE(ガタガタ)
レイトくんKAKKEEE(呆れ)
午前十一時に迷宮区到着、そして午後十二時半最上階踏破。
ひとまず、ボス部屋の手前までで死者が出なかったことは幸いと言える。
その事実に、俺は少しだけではあるが胸を撫で下ろしていた。
とはいえ、途中なかなかにヒヤッとさせられる場面もあったりはしたのだが――まぁそれはディアベルの株を上げるだけになってしまうので端折るとして。
とにかく、俺とキリト、アスナのパーティは誰一人欠けることなく、相変わらずのアブれパーティとして総勢四十五名のレイドとして地道に道中のコボルドさんたちを狩ってきていた。もう素材
βテスト時と変わっていないのなら、ボスこと《イルファング・ザ・コボルドロード》の周りには取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》が何体かポップするはず。
それを逃さず、確実に始末するのが俺たちの部隊の仕事なわけだが、結局仕事なんて仮のものでしかない。いくら俺たちはレイドパーティに所属しているとは言え、最後の最後まで役目をやり通すほどできた人間でもないんだ。
βテスト時代には戦いの中で律儀に役目を守ろうとして死んだ奴も少なくない。
しかしこれはβテストじゃない。
SAO内で死んだら現実でも死ぬかもしれない、という恐怖がある以上、勝つこと以上に負けない戦いをするべきなのだろう。
しかし、アブれてこそいるもののレイドに所属している以上、リーダーを信じるのも、ある意味ではレイドメンバーの大事な役目だ。
――などと、俺は認識を改めておく。これから先、何が起きても慌てることのないように。
いや、改めることなどこの世界ではもはや何の意味も持たないんじゃないかと俺は思う。既に俺の常識からかけ離れすぎているこの世界を、自分の認識なんて浅はかなもので計ってはいけないはず。
きっと、いつか甘い認識では死ぬ時が来る。
そして、俺の視界の先に……そんなとめどなく流れる思考を断ち切るほどの仰々しい見た目をした巨大な二枚扉が現れる。
まるで俺の恐怖を内包した心そのものを嘲笑うかのような。
扉にはデミヒューマンのレリーフが施されている。
他のRPGでは、最初の街辺りに出てくるmob……まぁ、チュートリアルのようなものなんだろうが、このSAOでは侮ることは決して得策ではないと言えよう。
人型である以上、奴らは武器を使いこなし、同時に武器を使えるということはつまりソードスキルも使えるのだから。ソードスキルを使える、それすなわち、凄まじい速度で、攻撃があたる部位も補正がされた強力な攻撃が俺たちを襲うということだ。
βテスト時代散々上の階層で刀スキルを使うmobに苦しめられたからこそ言えることだな。
まぁ、リアルもやしな俺でもそこら辺の階層で戦えるのだから、キリトはもっとハイレベルな戦闘をしていたのだろうが……。
そんなことを思いながらキリトのほうを向くと、何やらアスナと話しているようだった。
まぁアスナはボス攻略自体が初めてだから、どれだけ心配してもしきれないところはあるのだろう。キリトも過保護だなぁ。リアルジョブお兄ちゃんか何かか? いや、さすがにそれはないか。
さて、俺も頭の中で思い出すだけではあるが今一度対処法を確認しておくことにする。
ボスの《イルファング・ザ・コボルドロード》さん(以下コボルド王と略す)は、序盤中盤までは右手に握る斧と左手に握る盾で戦う。四段あるうちのHPゲージが最後の一つになった時、タルワールに武器を持ち替える、というのがβテスト時代のスタイルだ。ちなみに対処そのものだけで言うのならばタルワールに持ち替えてからのほうがやりやすい。上手く立ち回りさえすればダメージを受けることはそこまで多くないし、攻撃も直線的になるから回避しやすくなるからだ。
そして、それの取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》は、常にコボルド王の取り巻きとして左右の壁からポップし続ける。武器はポールアックス。弾きやすい部類だと思う。
通常、コボルド王の攻撃を、高い防御力を持つタンク部隊が攻撃を受け続け、その隙を狙ってアタッカー部隊が攻撃する、というのが基本的な戦術になるだろうと思うが……まぁ、どんな仕様変更がされているのかわからない以上うかつに攻め入ることもできないだろうか。
前を向くと、今回のレイドリーダーディアベルはんが七つのパーティを綺麗に並ばせ終わったところだったらしい。
さしものディアベルでも、ここで「いこうぜ!」「やろうぜ!」などと鬨の声をかき鳴らすわけにはいかない。そんなことをすれば俺たちは一斉に人型モンスターの襲撃を受けることになる。基本的に、人型モンスターはプレイヤーのシャウトにも反応するという厄介な性質持ちだ。
そのことをわかっているのだろうディアベルは、銀の長剣を高々と掲げて一度大きく頷く。
次いで、俺たち他のレイドメンバーもそれぞれの武器をかざし、頷き返す。
俺はしてないが。
青いロングヘアをなびかせ振り向き、そして、
「――――行くぞ!」
短い一言に己の気持ちを乗せ、吐き出した。
こんなにも広かったのか――
それが、第一層迷宮区ボス部屋に入った俺の感想だった。
左右の幅二十メートル、扉から奥の壁までが百メートルといった広めの構成になっているのだから当然と言えば当然なのかもしれないが、しかしそれにしても広い。
実際にはこの距離が意外と面倒なものなのだが。
ボス戦の場合、ボスは絶対に部屋から出てこないので、入ってきた扉から部屋を出れば退却することが可能ではある。しかし、ボスに背中を見せて走ると長距離攻撃をくらうし、かといって体をボスに向けたままの後退となると、これがまた神経を使うものだし、それに扉までの道のりが途方もなく感じる。
ある程度攻略組が奥に進んだところで、暗闇に包まれていたボス部屋の左右の壁で粗雑な松明に火が灯った。それはどんどんと奥へ続いていき数を増やしていく。
部屋に光源が増えるたびに、内部の明度も上がっていく。
ひび割れた石床や壁、その各所に飾られている大小無数の髑髏。
部屋の最奥部には、粗雑かつ巨大な玉座が設けられている。
黒いシルエットとしてそこに座するは、この層のボス――《イルファング・ザ・コボルドロード》。
ディアベルが、掲げたままの長剣をさっと前に振り下ろす。
それを合図に――総勢四十五名のレイドパーティは、巨大で盛大な鬨の声を上げながらボスへと突進していった。
俺たちがいるのは一番後ろ……まぁつまり殿なわけだが、ひとまず一番前の戦闘部隊がボスまで残り二十メートルほどの距離まで近づき、そしてそこで一度静止する。
それまで微動だにしていなかっ黒いシルエットが凄まじい跳躍能力を見せ、そして空中でぐるりと一回転。10.00とでも言えばいいのだろうか。
地響きをさせながら着地した獣人、コボルド王。
βテスト時代と変わらない、恐怖すら感じさせるその風貌。
無骨なタルワールを高々と振り上げ、そして振り下ろす。
それをヒーターシールド持ちのA隊ががっちりと受け止め、とてつもないライトエフェクトと衝撃音を走らせる。
その音が合図だったのだろうか――左右の壁高くにいくつも空いた穴から、無数の取り巻きこと《ルインコボルド・センチネル》が飛び出してくる。
キバオウたちと、それを支援する部隊が手近な《センチネル》に飛びかかっていく。
俺たちもボヤボヤしていられないな。
まずはアスナが自分の体でブーストをかけた、流星の如き《リニアー》を首筋にピンポイントで炸裂させる。
それだけでもHPゲージの二割弱を持っていくのだから、全く天才とでも言うべきプレイヤースキルを持っている。
攻撃を危なげなく無駄がない動きで躱し、衛兵のポールアックスを跳ね上げる。
「《スイッチ》!」
キリトが片手剣用ソードスキル、《ソニックリープ》による突進切りをあて、衛兵のHPが六割ほどになる。
振り下ろされるポールアックスを《バーチカル》で弾いたキリトが、衛兵との間に空間を作るタイミングに合わせて。
キリトが叫ぶそのタイミングで、俺は前に駆け出す。
「――《スイッチ》!」
「了解っ!」
キリトの声に、それだけで返事して、思いっ切り体を入れ込んで《ホリゾンタル》で衛兵の首を真一文字にたたっ切る。クリティカルヒットの感触とともに、僅かに一ドットほどHPが残る、が、すかさずアスナが首をちょこんと突いてHPをゼロにする。
一応こんな雑魚の取り巻きでも、この部屋だけの限定mobなのでそれなりの経験値とアイテムを落とす。ありがたい。一度もボスに攻撃できずに終わってしまうのは、まぁ少々残念だが。
早くも一匹目を片付け終えた俺たち――いや、キリトとアスナは別の方向を向いているから気づいていないのか――の目に飛び込んできたのは、
五メートルほど前方で、短剣を装備している女性プレイヤーに向かってポールアックスを振り下ろす衛兵、
ソードスキルのライトエフェクトをまとったソレが煌き、
一方女性プレイヤーのHPゲージは真っ赤に染まっていて、
「――――――――届けェェッッッッッッ!」
全力で、《レイジスパイク》を発動させ飛び出した。
間一髪とでも言うべきか、ギリギリ横からポールアックスを弾き飛ばし、ソードスキルを不発にさせる。
衛兵のAIが次に僕と女性のどちらを狙うか決める前に、僕は湧き上がる負の感情に己を任せ、全力で二連擊ソードスキル《バーチカル・アーク》を振り抜く。
元々HPがあまり残っていなかったのだろう衛兵は、空中で倒れた状態のまま静止し、そしてポリゴン片になる。
きっと、リアルの僕の心拍数は尋常ではないことになっているだろう。際限なく高まっていく心拍数を、僕は今間違いなくこのデータで構成された体で感じていた。
声を出すのも辛いほどに心臓がうるさいのだけれど、喉から絞り出すかのようにしてようやっと声を出す。
「……あんた」
「はっ、はい」
「死なない、ように、しろ。死んだら、終わり、かも、しれないんだよ」
完全には自分を制しきれていないのだろう、かろうじて放った言葉は途切れ途切れの情けないものだった。
「……わかりました。ありがとう、ございます」
「わかってるなら、いい。僕は戻る」
「あっ、あの!」
「あ゛?」
「私は《Youra》っていいます! 助けてくれてありがとうございました!」
「ユウラ、ね……僕はレイト。んじゃ」
手をヒラヒラと振って、これ以上話すことは何もないというボディランゲージを示す。
ユウラのほうを見ないまま、キリトやアスナの元に、ゆっくりな足並みで戻る。
意識もはっきりとしないままに、
「キリト、アスナ……俺たちは死なない……誰も、死なせない……!」
「あぁ、わかってる」
「……そういうあなたが、一番死に近い」
「あぁ、そうだな。悪かったよ」
「ったく、無茶するよなぁ。肝が冷えたよ」
こいつらとの会話の中でいつもの調子が戻ってきたのか、言葉もリズミカルなものになっていく。
「わりーわりー。まぁ心配させた分は働きで返すからよ。……次の《センチネル》、いくぜ!」
「おう!」
この時、この瞬間、確かに俺は仮想世界を生きていると実感していた。
あんなことになるなんて、知りもせずに。