とあるヴァーチャル配信者たちのお葬式のお話。

卒業ライブというお葬式の後、残った人間のお葬式はどうするの?

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貴方が死んだ後に

「あ、先輩」

 

 事務所での収録の為に引きこもり生活で鈍った体を引きずって事務所の廊下を歩いていたら、ふと後ろから懐かしい声が聞こえてきた。振り返って声の主を確認すると半年ほど前に”箱”を卒業した後輩のライバーだった。

 

「お久しぶりです、久遠先輩」

 

「緋墨じゃん、久しぶりに会うけど元気そうで何より」

 

「まぁ、ライバー生活辞めてから。生活習慣はまともになりましたからね」

 

 彼女は緋墨(ひすみ)という名前で昔、アバターを使った配信業をしていた。ダウナー系で落ち着いた声で淡々と語りながら魅せプレイをしたり。時折、頭の回転の速さを生かしたボケをかましてくるギャップ感と何よりも、ライバーとしては珍しくストーリー性を重視した配信者だった。

 

 普通アバターにセットでついてくる設定といううのは形骸化し、時折ロールプレイするがごとく挟まれる程度なのが多い。

 他にも新鮮味や意外性が好まれる配信界ではストーリー性やキャラクター性を保つのは非常に難しい。なぜならば、活動すればするほど己が知られるからだ。

 

 例えばゲームのプレイ一つとっても、じっくり進めるのか。それとも手早く終わらせてしまうのか。それだけで人間性の一端が分かってしまうし。他配信者とコラボしようものなら、多分に会話をすることになる。そう言った中で一本の芯を持ったキャラクターに成りきって、一切のボロを出さずに配信しきるのはほとんど不可能と言っていい。

 実際俺も配信者久遠としての設定はそこまで生かせていないし、本当に生かし切れる配信者が居たら俳優か何かになった方がいいと思う。

 

 しかし、緋墨は初期設定を一人で煮詰め。孤児であった自分が同じ箱のライバーやリスナーの助けを借りて成長し、羽ばたくまでを己の配信者人生を使って表現しきった稀有な配信者になった。その在り方や物語は多くの人間を惹きつけ、最後には悲しませた。

 そんな彼女を良い友人程度の距離感で居た俺から見ると、凝り性の作家か演出家の様に感じた。

 

 そうであるからして、彼女のような人間が完結した物語の舞台の事務所に現れたのは意外で興味深かった。

 

「配信活動をやめて健康に、か。深夜配信が多い配信者とそのリスナーに聞かせてやりたい言葉だな」

 

「まごうこと無きブーメラン…」

 

「くっ、後頭部に鋭い痛みが!ってな。それで緋墨はどうして事務所に?もう半年も経ってるんだし、忘れ物したなんて話じゃないだろ?」

 

「ん~それがですね。久遠先輩に少し頼みごとが有ったので寄った次第です。」

 

「連絡ならディスコードとかでも構わんだろうに、直接とはそこそこ難題か?俺が力を貸せる範囲だといいんだが」

 

「そこはアレです、卒業するときディスコード類も全部消しちゃったじゃないですか私。なのでこうしてお伺いするほかなかったという訳です」

 

 あぁ、言われてみればそうだったなと思い返す。さっき緋墨の事を凝り性と称したが、そう考える要因の一つがこれだ。完璧を求めて卒業と同時に事務所の仲間との連絡手段も一切吹き飛ばしたんだ。

 緋墨と特に親しかった連中が電話でシバキあげて反省させたので、許してやってくださいと話してたわ。事務所内では中々の大事件として扱われていたが、そん位しても可笑しくないとどこかで考えてたから、すぐに受け入れて記憶の海に沈みこんでいた。

 

「お願いの内容なんですが、迷惑になるかもしれないので、気軽に断ってもらっても全然大丈夫です」

 

「OK~把握した。内容は?」

 

「私が死んだら久遠先輩に葬儀を任せたいんです」

 

「?????」

 

「あはは、やっぱりそういう反応になりますよね。理由なんですが、何て言うか…私はリアルでも孤児なんです。事故や病気なんかはいつ起こるか、いつ死んでしまうかなんて分からないモノじゃないですか。で、万が一そういう事が有ったら。家族も居ないのでどこかの共同墓地に埋葬されちゃうのかな~って」

 

「確かにヴァーチャルな方の俺は不老不死では有るが、リアルの俺はそうでもないしな。」

 

「そう、ヴァーチャル。緋墨を通して私がこの人生で仲良くなった人達であるこの箱の人たちには、私が死んだあと悲しむ時間を十分にあげたいんです」

 

「悲しむ時間をか…確かに気持ちは理解できる。でもなんで俺に?孤児院の人とかも居るだろ?」

 

「それも考えてはみたんですが、幼少期にいろいろと迷惑を掛けましたし。あそこを巣立った以上は一人前。一人で生きていくのが決まりなんです。そんなこと言ったら先輩にも大分迷惑を掛けましたけど、困ったときはこの久遠先輩に頼れ~!と仰ってたので」

 

「そうか、そうか。先輩を頼りにしてくれて俺は嬉しいぞ。だが問題があってな、俺自身親も生きてるし葬儀についてそんなに詳しくないんだ。ので、調べたら連絡するから連絡先をくれ」

 

「頼まれてくれますか、さすが頼りになる先輩です。では、新しい連絡先はこちらに――」

 

 こうして緋墨と連絡先を交換して、話を終えると収録が始まるまでの控室で座って考え事をしていた。緋墨からの頼まれごとをこうして落ち着いて考えてみると、いろいろと突っ込みどころは有るが。まず思い浮かんだのは、俺なんかよりも緋墨と仲がいい連中はいる筈なのに。

 

なぜ、俺に?

 

「ちーっす、っと久遠先輩早いですね?」

 

 うーむむと、脳みそにしわを増やしていると扉が開いて同じ番組に出演予定の後輩が入ってきた。ソイツは俺の前の席に座ると、顔を覗き込んでくる。

 

「どうしたんです?なんだか心ここに在らずといった感じですけど。何か悩みとかあるなら聞きますよ?」

 

「森羅が…死んだ」

 

「え!?お悩み相談室開いたら、僕いきなり死んだんですが!?」

 

「もし、そうだとしたら。森羅はユニットのメンバーに葬儀を頼みたいか?」

 

「そりゃまぁ…」

 

 そう言葉を発した後、後輩2号の森羅は口を閉じてさっきまでの俺の顔を写し取ったかの様に悩み始めた。

 森羅達の同期ユニットはウチの箱内でもかなり仲がいいし、緋墨がどうして他の仲いい連中に頼まないのか。その参考には良い人材だと思う。

 

「――あ~、嫌かもしれないです。なんか、ちょっと…あの二人にはなんか、葬儀とかやらせるよりも。兎に角思う存分悲しめるようにしておきたいというか。僕にとっての第二の家族ですし」

 

「そうかぁ、大切だからか。うん、じゃあ森羅を殺すのは後日にしておくか!」

 

「結局死ぬんですか僕…」

 

 

 

 数日して、葬儀関連の事を調べた俺は先日緋墨と交換した電話番号にコールをかける。

 

「もしもし?夜遅くに済まないな、緋墨今大丈夫か?」

 

『大丈夫ですよ、まだ起きてる時間ですので~』

 

「それなら、葬儀関連についてある程度調べたから相談だ。とりあえず、当然だが俺と緋墨には血縁関係が無いから。緋墨は無縁故死亡者に分類されるらしい。そこで葬儀に必要な物が有るんだが―」

 

『遺書?』

 

「そそ、遺書。民法上希望する人間を喪主に指定しておけば、その人に葬儀から納骨までの権利が与えられるらしい。緋墨の話だと突然死に焦点を置いてるみたいだったから、予め遺書に俺を指定しておけば問題なく葬儀出来るようになるはず」

 

『なるほど、様式なんかは後で調べて書いておきます。それと…葬儀はお金がかかると思うので、それらの費用は私のお金で払いますね。それに合わせて葬儀方法なんかも決めておきたいんですが』

 

「そいつは緋墨の自由だからな、好きなようにするといい。そうそう後、墓をどうするかだ。」

 

『それは、また後日墓石屋で話しましょう』

 

 

 

「こうして墓石屋に来たわけだけど、いろいろと種類とかあるもんなんだな。お盆に墓場とか行ってもこんなに種類あるとか覚えが無いんですが」

 

「赤の他人のお墓なんて覚えるものでもないですしね、そんなものですよ。でも、こうして来てまで言う事じゃないですがお墓って意味あるんですかね?」

 

「そいつはどんな意味でだ?」

 

「私が心配したのは悲しむ場所の不在であって、持続を求めた訳ではないんですよ。死んだあと帰ってくることも無いのに、こんな形で痕跡を残しても…むしろ、覚えている人たちを苦しめることにならないですか?」

 

「緋墨は優しいなぁ。でもそう考えるなら、久遠先輩の墓についての考えを話そうか。例えば何だが――」

 

 そう俺が切り出すと、店に並べられた墓石達を見ていた頭がこちらを向いて、興味深そうに。少し不安そうな顔をした。

 

「――例えば、墓は俺たち配信者にとってのアーカイブに似てると思うんだ。なにせお墓は会いたくなった時に誰でも来て、故人を思い出す場所だからな。俺は死んだことが無いし良くは分かってないけど…アーカイブの一つくらいは、この世に残して逝ってもいいんじゃか?」

 

「そう…ですね。卒業するときにも、アーカイブは残しましたし。家族や友人に向けた個人的なアーカイブの一つくらい有ってもいいかもです」

 

 さっきまでの不安そうな相は消え、どこかおかしそうに緋墨は笑った。先輩として力になれたようで何よりだ。

 ほんと、卒業するときにも連絡ができなくなった事件では納得はしたけど。寂しくなかったわけじゃないし。死に目くらいには、もしかしたら連絡ができる場所くらいは欲しいしな。

 

「ところで先輩お腹すきません?そろそろいい時間ですし、いったんお昼にでもどうでしょう」

 

「そうだな、なんか近くで食べるか」

 

 


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