バッドランド・サガ   作:岸若まみず

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Turn Me Loose, I'm Dr. Feelgood5

『お前が荒れ野のフーか』

 

 

ツトムポリタの中心にある、超巨大な宮殿であるツトムキャスロ。

 

その中の、端が霞んでしまいそうな大広間で……

 

俺は片膝をついて跪き、大首領であるミサゴと対面を果たしていた。

 

 

『ミサゴ様、お招きに与り恐悦至極』

 

『嘘は好かん、魂魄が汚れる』

 

 

俺の挨拶をつまらなそうにそう切って捨て、筋骨隆々の老人であるミサゴは手元にあった湾刀をこちらへ投げて寄越した。

 

 

『回りくどいのも好かん。もし貴様が真に当代のラオカン足らんとするのであれば、剣を持って立て』

 

『私は当代のラオカン足らんとは思っておりませぬ』

 

 

ラオカンなんてものには興味がないし、剣を持ったからといってこの屈強な老人に勝てる気など全くしなかった。

 

 

『では、なぜ黒髪で生まれ、紺碧剣(チヨノヴァグナ)を持った』

 

『我が家は父も兄も黒髪です。紺碧剣(チヨノヴァグナ)を持ったのは、その伝説にあやかってマッキャノを困惑させんとしたまでの事』

 

『では貴様、なぜここまでやって来た』

 

『荒野を埋め尽くすが如きマッキャノの軍を退かせるため』

 

『そのためならば死をも厭わぬか』

 

『それが貴族の責務でありますれば……』

 

 

ミサゴは玉座から立ち上がり、大股でこちらへと歩いてきた。

 

 

『嘘は好かん。三度は言わんぞ』

 

『……自分の失敗の責任を取るためです』

 

『失敗とは?』

 

 

跪く俺の前に、ミサゴはヤンキー座りで腰を下ろした。

 

 

『勝てない戦いに民を巻き込んだ』

 

『そんな事は、人を率いて生きていれば何度でもある事。貴様は毎回その責任を取れるつもりでいるのか?』

 

『先の事はわからない。俺は今、やるべきだと思った事をやっているだけです』

 

 

ミサゴはじっと睨みつけるように俺の顔を覗き込んでいたが……

 

突然、バシン! と音がして、彼の大きな手が俺の顔を叩くように掴んだ。

 

 

『ふーん、なるほど……これでは首長や将軍程度では骨抜きにされるわけだ。儂の心も貴様に蕩かされようとしておるが……頭の方は今すぐ殺せと言うておる』

 

『それはっ……元より、覚悟の上です』

 

 

手で鷲掴みにされた隙間からそう言うと、彼は何かを考えるように数回瞬きをし、手を放した。

 

 

『まあそう急くな。賽を持て!』

 

 

ミサゴが大きな声でそう言うと、女たちが鉢と二つのサイコロが置かれた台を小走りで運んできた。

 

 

『耳長の大古老が言うには、神は賽にて人の運命を占うそうだ』

 

 

そう言いながら、彼は二つあるサイコロのうちの八面体の方を俺に手渡した。

 

 

『振れ。自らの運命を占うのだ』

 

 

是非もなしだ。

 

俺は片膝をついたまま、白乳色の鉢に向けてサイコロを放った。

 

出目は二だ。

 

 

『もう一度』

 

 

出目は四。

 

 

『最後に六画賽を振れ』

 

 

最後の出目は、六だった。

 

 

()()()……そうか貴様、縛られておるか。若い身空でなぁ……縛られた獣ならば、役に立つ間はわざわざ殺すまでもないか』

 

 

ミサゴはそう言って、喉の奥を鳴らして笑ったが……

 

急に真顔になって『ハリアットを呼べ!』と怒鳴った。

 

こんなおっかない親父が、耳がキンと鳴るような大声を出しているのだ。

 

普通の者ならば、それは必死に走ってやって来る事だろう。

 

だというのに……その先の尖った靴を履いた少女は、ゆっくりとゆっくりと、優雅に歩いてやってきた。

 

豪奢にうねる漆黒の髪には枝毛一つなく、長いまつ毛は雛鳥の羽のように繊細で柔らかい孤を描く。

 

筋の通った鼻の上についた青緑色の瞳は、まるで宝石のように煌めいていた。

 

 

『何ですか? お父様』

 

 

鈴の鳴るような声とはこの事だろうか……まさに傾国の美女、いや、美少女と言えた。

 

 

『お前をこの小僧に嫁がせる。お前ほどの器ならば、この毒にも耐えきれるやもしれん。小僧を縛る鎖の一本となれ』

 

『その人だあれ?』

 

『悪魔の地よりやって来た、人を惑わす悪魔だ』

 

 

ミサゴはそんな事を言って立ち上がり、俺に興味を失ったかのように玉座へと戻った。

 

 

『帰ってよいぞ……ああ、そうだ、将軍が欲しがっていたから、帰る前に紺碧剣(チヨノヴァグナ)を一本打ってやれ』

 

『でしたら、我々が持ってきたものを……』

 

『田舎の拵えの紺碧剣(チヨノヴァグナ)などいらん、その剣を手本にもう一本作れ』

 

 

俺の近くに放られた湾刀を指差して、彼はそう言った。

 

ハリアットと呼ばれた少女がそれを拾い上げ、反対の手で俺の服の襟を掴んだ。

 

 

『ねえ、行こ。ここつまんない』

 

『あのっ! ミサゴ様、それでは失礼致します。また……』

 

『またはない。儂ももう年だ、貴様のような者に会うのは身体に悪い。どこへなりとも消えよ』

 

 

こうして謁見は終わり、俺は命を拾い、嫁と宝刀を手に入れたのだった。




風邪引いちゃったから短めで……
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