バッドランド・サガ   作:岸若まみず

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Funky Dealer2

連日の開墾作業と、ふんだんに使いまくった土壌改善剤の威力のおかげか、荒野を切り開いて作られた畑は凄い勢いでその広さを増していた。

 

乾いてひび割れていた大地は湿り気を帯びるようになり、何も植えていない場所にも気の早い雑草が頭をのぞかせている。

 

そんなマッキャノ人とフォルク人が横並びになって耕す畑には、準備ができ次第作付けが行われており、その水やりや雑草取りのために更に凄い数の人間が行き交う。

 

当然、人が増えればそれらを食わせていく物資が必要だ。

 

先日の三商人との会談は、そんな人々をとりあえず食わせていくための支援を取り付けるためのものだったわけなのだが……

 

 

「フシャ様……これは一体どういう事で……」

 

「いや実は……俺にもよくわからなくて……」

 

 

そんな三商人がすごい早さで港に建てた、タヌカン城に次いで荒野で二番目に大きな建物となった倉庫の前で、俺とメドゥバルは立ちすくんでいた。

 

商人たちが倉庫へ物資を運び込んだというので、投資という名目とはいえその額の概算ぐらいは把握しておこうと、荒野へ戻ってきたばかりのメドゥバルと目録を作りに来たのだ。

 

 

「急場を凌ぐために投資を受けたと仰っておられませんでしたかな?」

 

「いやいや……商人たちもこの程度しか用意できず汗顔の至りで、なんて言っていたんだけどな」

 

 

しかし、倉庫の扉を開けると、そこに姿を現したのはとてつもない量と価値の物品たちだった。

 

天井が見えないぐらいに積み上げられた麦や根菜類入りの木箱に、大量に吊るされた乾物類、そして無造作に並べられた酒や布の数々。

 

何が「この程度」なのかはわからないが、これが名目通りの「投資」だというのならば、完全に過剰な質と量だった。

 

 

「この領ぐらいならば五年は食っていけそうな量の麦ですなぁ……」

 

「麦だけじゃなく、芋も布も酒もある。こんな誰でも入れそうな倉庫に置いてたら無用心だぞ」

 

「全くです、倉庫の番も大した人数はいませんでしたし……一体どこの商家が……」

 

 

メドゥバルはそうぶつぶつ言いながら、手に持った羊皮紙に品目を書き加えながら奥へと進んでいたが、突然ある木箱の前で足を止めた。

 

木箱に入れられた焼印を手でなぞりながら、まさか、いやまさかな……と呟いていたが、なんとも言えない顔つきで俺の方を向いた。

 

 

「フシャ様、この物資を融通してくださった商人……どなたと言っておられましたかな?」

 

「ああ、マッキャノの商人で、ツトムポリタのダラシギ、タイチのアネーカ、アビのシグロだ。ハリアットやロクの親戚らしいが……」

 

 

それを聞いたメドゥバルは、額に手を当てて天を仰いだ。

 

……一体どうしたんだろうか。

 

 

「……その三人、いずれも北海航路のとんでもない大商人です。しかしながら、マッキャノの商人は排他的で融通が利きません。このような投資などを受けてしまったからには、後々どのような条件をつけられるか……」

 

「別に返さなくていいとは言っていたがな……」

 

「なんですと!? いや、失礼ながら……お聞き間違えになられたのでは?」

 

 

俺もマッキャノ語は完璧というわけではないから、そういう可能性もあるかもな……

 

まぁ一応最初から返すつもりだから、こうして目録を作っているわけだが。

 

 

「しかしなぁ、こんな量を持って来られても、食い切れなくて腐らせるかもしれんな。半分ぐらい持って帰ってもらおうか」

 

「いけませんいけません! マッキャノの商人に一度出させた物を引き取らせるのはいけません!」

 

 

メドゥバルは焦った様子でそう言うが、一体マッキャノの商人というのはどういうイメージで見られているんだろうか?

 

 

「次からはこの量はいらないと、そう言っておくだけでよいでしょう。彼らは体面というものを非常に大切にしています、迂闊な事を言えばどうなるか……」

 

 

そんなに気難しい連中には見えなかったが……

 

まぁ今回の事はハリアットの紹介だからかな?

 

 

「しかし、そうするとどうしようか。フォルクへの納税は秋だし、余った分はどこかへ流すか?」

 

「それならばフォルクへ売り込んで、税に必要なフォルクの銭へ変えてしまうのがよいかと」

 

 

たしかに、それは道理だな。

 

頷く俺に対し、メドゥバルは顔の前に指を一本立てて、なおも続けた。

 

 

「しかしながら、フォルクは穀物生産量の多い国ですので、買い叩かれる恐れもあります。酒にでもしてしまえれば保存が利くのですが、この地には酒造の技術がありませぬからな……」

 

 

まあこれまでこの地で飯が余る事なんてなかったからな、酒なんて誰も作った事がないだろう。

 

酒造りというものは、その土地や水に合わせた知識と経験の蓄積が非常に大切で、素人が手を出しても失敗するだけ。

 

……と、本当はそう言いたいところなのだが。

 

この世界には、ともすればそういう地道な努力を、頭から否定してしまうようにも見える、とんでもない技術がいくつか存在しているのだ。

 

 

「酒にすれば捌けるのか?」

 

「質にもよりますが、酒が売れぬ土地はありません」

 

「じゃあ、作るか」

 

「どのように……ああ、錬金術でございますか!」

 

 

そう、俺には錬金術があった。

 

成分の単体抽出などに比べれば、酒造りに伴う発酵や蒸留程度は簡単なものだ。

 

魔法術や錬金術といったものは、過程を無視して結果だけを引き寄せる……ように見えてしまうぐらい、使い勝手がいい技術だ。

 

つまり、どんな場所であろうが技術者がいなかろうが、材料と方程式さえ揃っていれば問題なく酒を作る事ができる。

 

問題は味などに細かい調整が利かない事だが、まぁ別に自分で飲むわけじゃないし、よそへ売れればそれでいいから問題はないだろう。

 

 

「酒にさえできれば、余った食物類は万事解決でございます」

 

「他に差配に困るようなものはあるか? 酒の類は、働いてくれている皆に飲ませてしまってもいいと思うが……」

 

「あとは布類ですかな。これも買えば高いのですが、捌くのにはそれ相応の顧客が……」

 

 

倉庫に据え付けられた棚に置かれた、筒型に巻かれたねずみ色の布は、しっかりとした厚みのある手触りだった。

 

そういえば、草原で泊まらせてもらった移動式住居がこんな感じだったな。

 

 

「神秘軍の中に、寝泊まりする場所が足りないとかって言って野宿してる奴らがいたな。ここにある布で移動式住居を作らせたらどうだ?」

 

「麻布はそれでもようございますが、絹や羊毛の布は少々……」

 

「もったいないか? まぁハリアットに使うかどうか聞いてみようか」

 

「御内儀様のお召し物にされるには、申し分ない布かと……」

 

 

まぁ、ここにある物資は半ばハリアットやウロク、そしてロゴス宛に送られてきたようなものだろうしな。

 

贅沢品に関しては、彼女達に聞いてからにしようか。

 

そうして使い道を決めたら、後はどれだけあるか確認するだけだ。

 

俺とメドゥバルはほとんど夜までかけて、大量の物資の目録を作ったのだった。

 

 

 

 

 

『いい布ね』

 

 

嫁入り道具を収納していき、ハリアットの一室で侍女のための部屋や、浴室を作った結果……

 

結局ほぼ丸ごと、俺たち夫婦の物になってしまった城の塔。

 

その中にある俺の寝室で、身体から湯気を立たせた風呂上がりのハリアットはそう言った。

 

 

『これであなたの服を仕立てましょう』

 

『え? 俺? ハリアットの服を作ればいいのに』

 

『私の服はツトムポリタにいる親戚が送ってくれるもの。それに正直あなたの服って、かなりみすぼらしいし』

 

『そうかなぁ?』

 

『そうよ』

 

 

まぁ、これまで服なんか気にもしてこなかったしな。

 

言われてみれば、兄二人のお古だから裾は擦り切れているし、吹き付ける土煙のせいで色も薄茶色だ。

 

 

『着飾らない人生なんてつまらないわ。夫を着飾らせない人生もね』

 

 

そう語る彼女の言葉は、こちらに有無を言わせないような、全く真剣なトーンだった。

 

そういう言い方をされれば、まだ着れるから大丈夫とも言えなくなる。

 

 

『じゃあ……お願いしようかな……』

 

『任せておいて。明日明るいうちに採寸をして、それから作業に取り掛かるわね』

 

 

彼女は少し上を向いて、右手の人差し指であごのラインをなぞりながら、何でもない事のようにそう言った。

 

 

『え? 服ってハリアットが作るのか?』

 

『そりゃあそうでしょう。南蛮(フォルク)の女はどうだか知らないけれど、マッキャノの女は夫の事は自分でやるものよ』

 

 

草原から連れてきた侍女に髪を梳かせ、爪を磨かせながら、彼女は大威張りでそう話す。

 

自分の事は、じゃないんだな……

 

 

『だから、夫がみすぼらしい格好をしていたり、暗い顔をしていたら……それは妻の責任になるというわけ』

 

 

不敵な笑みでそう話す彼女の青緑色の瞳には、まるで「自分と結婚したからには不幸になるわけがない」とでも言うような自負が滲んでいるように思えた。

 

なるほど、マッキャノの婦人は、夫の幸せに責任を持っているというわけだ。

 

だがその関係は同時に、彼女の幸不幸の責任も、俺の肩にかかっているという事でもある。

 

そう考えると、果たして俺は彼女にしてもらっている事以上に、何かを返せているのだろうか……

 

 

『あの……お茶飲む?』

 

『あら、入れてくれるの?』

 

『もちろん、いつでも』

 

 

俺はとりあえず背筋を伸ばし、風呂上がりで喉が乾いているであろうハリアットのために、手ずからお茶を入れたのだった。

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