バッドランド・サガ   作:岸若まみず

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The Wanderer2

錬金術は魔法ではない、かと言って科学なのかと言えば、そういうわけでもない。

 

魔法のように無から有を作り出す事はできないが、成分の抽出や組み換えは、科学技術とは比べようもないほど小規模な設備で可能になる。

 

利便性においては俺の前世の科学をちょっと超え、生産性においては遥かに劣る、そういう学問だ。

 

だが重要なのは、俺が本で読んで覚えた程度(・・・・・・・・・・)の錬金術でも、簡素な施設や粗雑な触媒、そして整わない条件などをほとんど無視して化学反応を行えるという事。

 

つまり、ほとんど何もないような荒野の中にあっても、空気や海水から真水や肥料や土壌改善剤の材料を取り出す程度は簡単にできるという事だ。

 

だが、土地を開墾して土を耕すという事に対しては、錬金術は何も役に立たない。

 

だから俺は最初、夏までに十メートル四方、つまり一アール程度の畑ができれば上出来かなと思っていたのだ。

 

なんてったって、働くのは俺を含めて全員が子供なのだ、それはそれはキツい仕事になるはずだった。

 

だが、俺の目の前にはすでに開墾されて畝まで作られた、百メートル四方、一ヘクタールの畑があった。

 

 

「俺が肥料作ってる間に、畑もうできてんじゃん……」

 

「五日前ぐらいに騎士団の養父会がちょっと手伝うって言ってたじゃないですか」

 

 

俺の護衛兼唯一の直臣であるイサラはそう言うが、正直子供に鍬の振り方を教えるぐらいのものだと思っていたのだ。

 

掘り起こされた地面はかなり乾いていて、サラサラと風に流されていたが……それでも保水性を補ってやれば十分に畑として使えそうだった。

 

こんなにも手伝わせてしまったのでは、結構な負担をかけてしまったかもしれないな。

 

 

「結局養父会だけじゃなく、騎士団みんなが代わる代わる来てワイワイやってたらしいですよ」

 

「ああ、みんなで手伝ってくれたのか……今度何かお礼しないとな」

 

 

まあ、想定とはだいぶ違ってきたが、計画が前倒しになって悪い事なんか何もないのだ。

 

俺は気を取り直して、さっそく翌日から子供たちとの作業を開始したのだった。

 

 

 

「じゃあ俺が土を良くする薬を撒いていくから、皆はそれを混ぜていって」

 

「「「はーい!!」」」

 

 

初めて見た時よりもだいぶ血色も良くなり、元は養父たちの物なのだろうダボダボの服を着た子供たちは、俺が支給したスコップ代わりの板っきれを掲げて元気に返事をした。

 

 

「怪我しないように気をつけろよー、石が出てきたら畑の外に捨てる事ー」

 

「はーい」

 

「石みーっけ」

 

 

これまで土遊びなんかした事もなかったんだろうか、バケツと柄杓を持って歩く俺が土壌改善剤を撒くと、子供たちはみんななんだか楽しそうにそれを土に混ぜている。

 

本来は衣食住の面倒を見る代わりに農作業をやってもらおうと思っていたが、今の彼らは騎士の養い子だ。

 

彼らからしたら俺なんか親の会社の社長の息子みたいなもんで、特段恩もないはずなのに前向きに働いてくれる子ばかりで正直助かるばかりだ。

 

そしてそんな気のいい子供たちの中から、一人が立ち上がって俺の方にやってきた。

 

 

「フシャ様、私がバケツを持ちますよ」

 

 

そう言ってバケツを持ってくれたのは、孤児たちの中で一番年上のマーサという女の子だ。

 

赤毛でのっぽな彼女は、子供たちを世話するまとめ役のような役割をしていた。

 

比較的最近まで親と暮らしていたようで、言葉遣いも割りとしっかりしている上に、なんと簡単な読み書きもできるという逸材だった。

 

 

「助かるよ」

 

「こういうお手伝いが必要な時はいつでも言ってください」

 

「うん」

 

 

ちなみにイサラは畑の外にいて、何が楽しいのか作業を見物に来ている町の人達に睨みをきかせている。

 

町にはよっぽど仕事がないんだろうか、それともたまたま休みなんだろうか。

 

結局彼らは朝からやって来て、行儀よく座ったまま日がな一日こちらを見ていただけだった。

 

 

そんな作業を何日か続け、荒れ地でも割りと育つけどあんまり美味くない芋を植えてからは、子供たちの仕事は草取りと水やりぐらいになった。

 

子供とはいえ何十人もいれば割と仕事はさっさと終わるもので、空いた時間はマーサや養父たちに読み書きを教わったり、それこそ畑の周りで遊んだりしていたようだ。

 

俺は畑作りを手伝ってくれた騎士団のために常備薬の目薬や軟膏を作ったり、たまに来る商船との交易のためのポーションや保存食なんかをせっせと作った。

 

異民族の襲撃もなく、魔物の飛来もなく、一気に子供が何十人も増えてずいぶんと賑やかになった城の春は過ぎ去り……

 

収穫と激動の夏がやって来たのだった。

 

 

 

 

 

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ようメドゥバル、生きてるか。

まだ北海航路で商売をしているなら、タヌカン領に行ってみろ。

ルゴール(うちの町)で一番腕のいい耳長(エルフ)の薬師が大騒ぎをするぐらいの水薬(ポーション)がタヌカンから来たそうだ。

今あそこにどうやらとんでもない錬金術師が流れてきてるらしい。

これは別件だが、カラカン山脈の頂上に虹の梯子が立って、天使が降りて来たのを見たって奴もいる。

まぁそれは眉唾もんだが、あの荒野に何かが起こっているのには間違いがないようだ。

もしタヌカンに寄れたら、次ルゴールに来る時は水虫の薬と土産話をよろしく頼む。

 

「追伸」 娘が最近夜によく隣の家のせがれと会ってるんだが、こういう時父親はどういう態度を取るべきなんだ?

 

フェドからメドゥバルへの手紙

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