バッドランド・サガ   作:岸若まみず

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なかなか章タイトルが決まらなかったのと、わらしべ長者を完結までやっていたので遅くなりました


Too Late To Die

タヌカンに秋がやって来た。

 

とはいえここは不毛の荒野、美しい紅葉があったり、銀杏並木が黄色くなったりと、そういう風情のある秋はやって来ない。

 

せいぜいが、きつい日差しが少し和らぐぐらい。

 

それでも、収穫の秋と言うべきものはたしかに訪れた。

 

畑に植えたキャベツと蕪は、歪ながらもたわわに実り、領民たちは大忙しで収穫作業に当たっている。

 

春に植えた芋の収穫も夏に無事終わっていて、蔵の中へと貯蔵済み。

 

麦はこれからが作付けの季節で、ハリアットの連れてきた家畜たちも盛んに交尾を行い、なんだか町の若者たちもいい感じでペアになり、色んなものの種まきも進んでいる。

 

少なくとも、今年の冬は飢えずに済みそうだ……とそんな安堵感がタヌカン領に漂う中、作物以外の収穫もこの土地へとやってきた。

 

それは人材。

 

そう、岩人(ドワーフ)のコダラが出した手紙に応え、タヌカンまで来てくれた岩人(ドワーフ)がいたのだ。

 

一人でカラカン山脈を超えてきたというその岩人(ドワーフ)は……

 

コダラが間借りしている城の鍛冶場で、なんだか恐縮したように、首をすくめながら俺を見つめていた。

 

 

「フシャ様よ、紹介するぜ。こいつは従兄弟のナダラ、まだ若いが仕事はできるはずだ」

 

「おらぁビートゥのナダラっつぅんだがよ。どうかよろしく頼みやす」

 

「こんな地の果てまで来てくれてありがたい。頼みたい事が山程あるんだ」

 

「あのぉ、まだまだ勉強する事ばっかりだけんど、頑張りやす」

 

 

まだ髭も生え揃わない彼は、小柄なコダラよりも更に一回り小さい体格をしている。

 

しかし、さすがは岩人(ドワーフ)と言ったところだろうか、握手をした彼の手は豆だらけのがっしりとしたものだった。

 

 

「人も増えたし、いいかげんにコダラのための工房を作らなきゃあいけないんだが……悪いが今は時期が悪いから、農閑期に入るまでは我慢して貰えるか?」

 

「わかってるって、二人で縄張りだけしとく。でっかく作った方がいいと思うしなぁ」

 

「コダラに預けた子どもたちもいるしな、そうしてくれ」

 

「いや、ドワーフももうちっと来るとは思うから……」

 

「それなら嬉しいんだけどな……」

 

 

なーんて事を、コダラと話したわずか三日後。

 

なんと彼は、ナダラとは別の岩人(ドワーフ)を連れて、俺の研究室へとやって来た。

 

彼が連れてきた岩人(ドワーフ)は、興味津々といった様子で錬金術の道具を見つめているようだ。

 

 

「紹介するぜ、こいつはヨリドのトヒキ……おいっ、トヒキ! フーシャンクラン様だ」

 

 

髭を三つ編みにしたその岩人(ドワーフ)は、紹介された事に気づいたのか、慌てて俺の方を見て頭を下げた。

 

 

「俺ぁトヒキだ、椅子作りにかけては俺の右に出る奴はいねぇ」

 

 

なるほど、今度は家具職人の岩人(ドワーフ)か。

 

 

「椅子か、そのうち俺の椅子も一脚頼もうかな」

 

「任しときな。あんたがジジイになるまで座れるのを作ってやるよ」

 

 

なんだか楽しそうにそう言いながら、彼は三つ編みの髭をしごいた。

 

木が貴重な土地柄というのもあって、うちの家具は総じて古くてボロボロだ。

 

なんなら予算を組んで、城の中の物を全部作り直してもらうというのもいいだろう……

 

そんな事を夢想していた日から、これまた三日後の昼。

 

荒野で貝のガソリン焼きを作っていた俺の元に、コダラは追加で二人の岩人(ドワーフ)を連れて来た。

 

 

「フシャ様、こいつらはビートゥから来た夫婦だ。メルとホキ」

 

 

夫婦だという二人は、なんだかこれまでこの世界で見た事がない種類の、洒落た服装をしていた。

 

妻の方はバッチリとプリーツの利いたシャツを着込み、キリッとした目で興味深そうにこちらを見つめている。

 

 

「私はメルです、履物は任せてね」

 

「よろしく、靴は作れる人が少なくて困ってたんだよ」

 

 

握手を交わすと、彼女の手もいかにも仕事ができそうな、固く締まった手だった。

 

その隣に立つ夫の方は柔和な笑顔を浮かべながらも、細かい仕事が入った明るい色のベストを綺麗に着こなしている。

 

 

「俺はホキだ、服はなんでも作る。お近づきの印だ、一着作らせて貰おう」

 

「一緒に妻のハリアットの分も頼む」

 

 

岩人(ドワーフ)製の服なら、きっと丈夫で長く着られるだろう。

 

 

 

 

 

なんだかありがたい事に、コダラの出した手紙に応えて、思っていたよりも色々な分野の岩人(ドワーフ)が来てくれたようだ。

 

まぁ、うちの領地には現状何の店もないに等しい状況だし、これを期に彼らに店を構えてもらう事にしよう。

 

今は農業を手伝ってくれている領民たちに、炊き出しや収穫した作物などを渡している状態だが、これからは金を配って彼らの店やマッキャノの商店で使わせていけばいい。

 

飯が食えるようになるばかりではなく、ちょっとずつでも生活が豊かになっていかないと、先が見えず苦しいという者もいるだろうからな。

 

なんて事を考え、岩人(ドワーフ)たちに仮の店舗を紹介し、メドゥバルと一緒に具体的な案を練り始めていた頃の事だ……

 

秋も半ばのタヌカン領に、タヌカン家の御用商人であるネィアカシ商会の船がやってきた。

 

フォルクに払う税は、この船に乗せて持っていって貰う予定だが、それも既に港を預かる兄のコウタスマに託した後。

 

なので俺は気にも留めずに城下町の開発計画の打ち合わせに参加していたのだが……

 

その場に、なぜか港から兄の部下が大慌てで俺を呼びにやって来たのだった。

 

 

「フーシャンクラン様! 港へとお越し頂きたい!」

 

「え? どうしたの? 税金足りなかった?」

 

「いえ、それが……ネィアカシ商会の船に、フーシャンクラン様のお客人が乗っておられたそうで……」

 

「えぇ? だ、誰だろう……?」

 

 

そんな疑問は、イサラの駆る馬に揺られて港に着いた瞬間に氷解した。

 

港に係留されたネィアカシ商会の船の前には……

 

めいめいの仕事道具を後生大事に抱えた、他の者より一回り背の小さい岩人(ドワーフ)が、ひしめき合うようにして立っていたからだ。

 

老若男女、と言えるほどには岩人(ドワーフ)の見分けはつかないが、そう言ってもいいんじゃないかというぐらいに、これまで見たこともないぐらい多くの岩人(ドワーフ)がいた。

 

 

「……まさか、これ全部うち宛の岩人(ドワーフ)ってわけじゃないよなぁ?」

 

「多分全員フシャ様宛てだと思うよぅ」

 

「いやいや、とりあえず、話を聞いてみよう……」

 

 

話を聞くにしても、さすがにこれだけ見知らぬ岩人(ドワーフ)が沢山いては危険だという事で、俺は失礼を承知で馬に乗ったまま彼らの元へと近づいた。

 

 

「タヌカン辺境伯家三男、フーシャンクランである! この中に、私に用のある者はいるか!?」

 

 

俺がそう尋ねると、好き放題に喋りまくっていた岩人(ドワーフ)たちの目が、一斉に俺の方を向く。

 

その視線の圧に、馬が勝手に一歩後ずさった。

 

 

「あんたがフーシャンクランか! わしゃあんたに一言いいたい……事が……」

 

「仕事を頼みたいって言うとったのぉ! こんな岩人(ドワーフ)を舐めた……ような……」

 

「竜酒ってのはほんとにここにあるのかぁ? 味見してやるからすぐにここに……」

 

 

馬に食って掛かるんじゃないというぐらいの勢いでわっと押し寄せた岩人(ドワーフ)たちは、なぜかだんだんトーンダウンして……ぞろぞろとイサラの馬を囲むだけとなった。

 

たぶん何か言いたい事があったんだろうが、辺境伯家という名前が出てしまったから言えなかったんだろうか?

 

こりゃあいきなり俺が来るんじゃなく、まずはコダラに来させるべきだったかな。

 

なんて事を考えていた間に……馬の周りにいる岩人(ドワーフ)たちに、イサラの抜いたエメラルド・ソードが突きつけられた。

 

 

「馬から離れろっ! この方をどなたと心得る!」

 

「おっ……そりゃあ、誰の剣だぁ!?」

 

「なんで透き通っとる? 誰が打った?」

 

「コダラってのが打ったのか?」

 

「素材は何だ? 結晶石(せきえい)か?」

 

 

全く物怖じせず剣を検分しようとする岩人(ドワーフ)たちに、イサラは当たらないように剣を振るった。

 

鼻先を掠めた剣に、さすがに彼らの勢いも挫かれ、一歩だけ後ろへ下がったようだ。

 

よし、今は考えていても仕方がない、仕切り直しだ。

 

 

「もう一度聞く! このフーシャンクランに用がある者は手を上げろ!」

 

 

そう言うと、岩人(ドワーフ)全員が手を上げた。

 

ぜ、全員か……

 

 

「では全員が当家で働いてくれるという事でいいんだな?」

 

 

そう尋ねると、彼らは手を下ろして顔を見合わせた。

 

あれ? 働くために来てくれたんじゃないのか?

 

俺が困惑していると、集団の中で一番背の高い岩人(ドワーフ)が手を上げた。

 

 

「フーシャンクラン……様よぅ……一個尋ねてもいいですかい?」

 

「何だ?」

 

「その剣打ったのは一体どこの鍛冶師で……?」

 

「うちの鍛冶師で、コダラという岩人(ドワーフ)だ」

 

 

俺がそう言うと、彼らはまた顔を見合わせた。

 

そして、さっきとはまた別の岩人(ドワーフ)が手を上げた。

 

 

「こっちからもいい……ですかい?」

 

「何だ?」

 

「竜酒ってのはほんとに飲めるんかい?」

 

「……当家で働いてくれる者ならば」

 

「おおっ! そうかそうか!」

 

「竜が夢中になった酒っちゅうのはどんなもんかのぉ」

 

 

まぁ、こんな数が来るなんて思っていなかったから、増産は必須だろうがな……

 

俺が頭の中でそろばんを弾いていると、また岩人(ドワーフ)の中から手が上がった。

 

 

「何だ?」

 

「結局、俺等に頼みたい仕事ってのは何だ……ですか? 難しい仕事って聞いてきたんだ……ですが?」

 

「色々だ。旋盤、歯車、蒸留塔、ビルに工場、線路に列車、作りたい物は山程ある」

 

「せ、せんばん……?」

 

「歯車は作った事もあるが……」

 

「蒸留っちゅうのは錬金術師が使うあれじゃないか?」

 

 

どうも、岩人(ドワーフ)たちは俺が言った言葉に戸惑っているようだ。

 

まぁ、旋盤だのビルだの列車だのっていうのは、まだ多分この世界にはないだろうしな。

 

 

「…………」

 

 

概念図すら見せてないから当たり前の事なのだが、岩人(ドワーフ)たちはあんまり興味もなさそうな感じだ。

 

まぁ、この世に概念すら存在しないかもしれないものを、工作機械(マザーマシン)もない状況で開発しろなんて事は、普通に考えれば無理筋も無理筋だ。

 

それでも、コダラと同じ岩人(ドワーフ)になら頼る事ができるかも……と思っていたのだが。

 

 

「まぁ、そうか。無理そうかぁ……」

 

 

当てが外れてしまった俺がぽつりと呟くようにそう言った、その言葉の何が彼らを駆り立てたのかは全くわからないが……

 

とにかく、何かの逆鱗に触れてしまったのは確かなのだろう。

 

気がつけば岩人(ドワーフ)たちは、さっきまでとは全く違う顔つきになっていた。

 

 

「無理とは誰も言っとらんじゃろうが!」

 

「わしらはただ! わしらが作るに相応しいもんかどうかっちゅうのを! 確かめたかっただけじゃ!」

 

「ワシに作れん物なんぞないわっ!」

 

「明日にでも作ってやらぁ!!」

 

 

彼らはまるで火薬が爆発したように口々にそう言いながら、馬の周りを取り囲んだ。

 

どうも俺の不用意な言葉は、彼らのプライドを傷つけてしまったらしい。

 

 

「いやいや、悪かったよ!そういうつもりじゃあないんだ」

 

「フーシャンクラン様、と言ったか? そもそも、あの手紙に書いてあった事は本当なんかい!?」

 

「というと?」

 

「世界のあり方を変えちまうものを作ると、あの手紙には書いてあった! そんなもんが本当にあるんかい?」

 

「ああ、それはもちろん。世界を縮めるし、世界を広げるようなものを作るつもりだ。荒野を馬よりも早く駆け、海を魚よりも早く泳ぐ、そういうものを」

 

「馬よりも早い!? そりゃあどういう?」

 

「縮めて広げるっちゅうのはどうなんだ?」

 

「何でもいいから作ってみようや!」

 

「わしゃ腹が減った、仕事の前に何か食わせてくれんか?」

 

「酒もつくんだろう? 俺は竜酒ってのを楽しみにしてきたんだ」

 

 

岩人(ドワーフ)たちは口々にそんな事を言いながらも、どうやらやる気になってくれたようだった。

 

安心した俺がほうっとついた一息を、イサラのはぁっというため息が後ろから追いかけてくる。

 

 

「フシャ様ぁ、腕を疑うような事を岩人(ドワーフ)に言ったら怒るのは当然ですよぅ。もっと気難しいのが相手だったら、ノミの一本も飛んできてますよぅ……」

 

「悪かったよ、イサラ」

 

「まぁ、飛んできたら打ち落とすまでですけど……」

 

「頼もしいよ」

 

 

彼女の膝をポンと叩いて、俺は岩人(ドワーフ)たちに向き直った。

 

 

「とりあえず、城の方へ移動してくれ! そちらで飯を出し、酒も出そう!」

 

 

おおーっと岩人(ドワーフ)たちから声が上がり……

 

その後ろから、ネィアカシ商会の狐人族の商人が岩人(ドワーフ)たちをかき分けるようにしてやって来た。

 

 

「フーシャンクラン様……」

 

「これはネィアカシ商会の、今日はこの者たちを送り届けてくれてありがとう。礼を言う」

 

「それはありがたく……して、この岩人(ドワーフ)様方の渡航費の件なのですが……」

 

「渡航費?」

 

 

狐人族はなんだかちょっと申し訳そうな顔をしながら、顔を近づけた俺に小さい声でこう話す。

 

 

「実はこの皆様方が……送り届けてくれれば、雇い主が渡航費もその間の食費も全てを払うと。フーシャンクラン様の御用鍛冶の署名(サイン)が入った求人状を持っていたので、お受けしたのですが……」

 

「えっ?」

 

 

俺が身体を起こして岩人(ドワーフ)たちの方を見ると……彼らは当然とでも言うかのように、しれっとした顔でこちらを見ている。

 

それぐらいは腕で返すという自負があるのか、はたまたそれが鍛冶師の流儀なのか。

 

ま、来てしまってから言っても仕方がない、その分しっかり働いてもらう事にしようか……

 

結局俺は冬が来る前に、マッキャノ側から送られてきた岩人(ドワーフ)たちに対して、ほとんど同じ事をする羽目になるのだが……

 

兎にも角にも、この秋タヌカンに凄腕の技術者集団がやって来た事には変わりがなく。

 

これはこの後の当地の発展の、大きな要因となっていくのだった。

 

 

 

 

 

—-------

 

 

 

 

 

『岩人職人募集』

 

・勤務地 - タヌカン領。(地図を添付の事)

・雇い主 - フーシャンクラン・タヌカン。

・募集職 - 何でも。

・給与 - 出来高払。

・住居 - 応相談。

・食事 - 飢えぬほど。

・酒 - 竜酒適量。

・仕事内容 - 誰も知らぬ物、全く新しき物、世界の有り方を変える物、等の制作。非常に難しく、生半な力では不適切。一芸なき者は来るに及ばず。

 

『神剣鍛冶』のコダラ

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