歩幅70cm   作:梦猫

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1話

久しぶりにシェルターから出ると、そこは違う世界だった。

 

 直感、閃き、第六感。この世界はあなたが産まれ落ちた世界とは明確にルールが異なると脳に叩き込まれる感覚。あなたはこの感覚に覚えがあった。

 ムーンゲートと呼ばれるものがある。どこからともなく現れ、そして消えていくその門は異世界へと繋がっており、あなたの世界であるティリスとは違うルールによって支配されている。

 あなたは何度かムーンゲートを潜ったことがあった。そしてその時よりも強くティリスと乖離しているという感覚が今も尚あなたの研ぎ澄まされた肉体を襲っている。

 そもそもあなたは今までシェルターに篭っており、ムーンゲートに触ってすらいない。これはどういうことなのだろうか。シェルターはある種の異世界空間だという説は聞いたことがある。その行き来の途中で別の世界に巻き込まれたのだろうか。

 

 結論が出ない思考に陥っていたあなたに、何者かが近づいて来たのに気がついた。

 スライムだ。全身が青色の粘液で出来ており、どこが顔かも分からない不定形生物。

 その最大の特徴はその粘液が強い酸性であり、攻撃を受けると酸の水溜まりを撒き散らす。これによってダメージは勿論、武器や防具がダメになり、気がつけばボコボコにされる初心者キラーの一角だ。

 あなたはスライム如き素手で殴り勝てるが、この状況では油断や慢心はしてはならないと、長い冒険者人生の経験則によって判断した。

 攻撃を受けると酸を撒き散らす厄介なスライムだが、初心者でも対処法さえ知ってれば勝つことはできる。

 

 ズルズル、ジュージューと、足元の植物を溶かしながらゆっくり近づいて来るスライム。あなたはソレを真っ直ぐと見据え、狙いを定める。

 手に持ったギャルのパンティーをスライムに投擲する。

 ピンクのソレは回転しながら鋭い角度でスライムに当たり、貫通してあなたの元へと戻る。

 

 スライムは酸を撒き散らしながら発狂して死んだ。

 

 コレがスライムの対処法である遠隔攻撃である。

 あなたにとっては何度も繰り返してもはや息をするのと変わらない戦闘だったが、ここは異世界であり常識を疑う事が最も必要である。故に何が起きても良いように身構えながらスライムごときにも対処しなければならない。

 あなたは新たな冒険のはじまりを感じ取り、少しワクワクしながらシェルターを懐にしまった。

 

 

 

 改めてスライムが死んだ場所を検分する。死体や皮などは落とさなかったようだが、あなたの違和感の正体が1つ確認できた。あなたの知っているスライムは確かに武器や防具の素材によってはダメにしてしまう強力な酸だったが、植物を溶かすことは無かったはずだ。

 しかしこのスライムの通り道や殺した場所の植物は黒く炭となってしまっている。

 これはどういうことだろうか。単純に酸の威力が上がったのか、それとも効果適用の範囲が広がったのか。

 試しに触ってみたが、あなたには何ら作用しなかった。装備の効果もあるだろうが、この分では素っ裸でもあなたに影響はなさそうである。故にこの場では何も分からない。分からないことがあなたには面白かった。

 あなたの四次元ポケットに眠っている常闇の眼を思い出しながら、あなたはその場から離れた。

 

 歩き初めて10分たっただろうか。あの場所は森の中に空いた草原だったらしく、今はただ森の中を直進している。

 足場も悪く目印も無いので迷いそうな森の中をあなたは魔法の地図の魔法によって迷いなく南へと進んでいる。

 魔法の地図は本来ネフィア内でしか使えないはずだが、この森がネフィア判定なのだろうか。その割には階段も見当たらず、モンスターにもあのスライム以降1匹も出会えていない。普通の小動物や虫なんかはいるのだが。

 

 邪魔なツタなどを血の滴るようなおどろおどろしいロングソードをブンブンして切り払いながら、とにかく進んでいく。やがてマップの端、森の終わりにたどり着く。その奥にも平原が繋がっていた。

 

 あなたは喜んだ。やはりここは普通の異世界では無いようだ、と。あなたの知っている異世界は大きくてもあなたの家である小城くらいの大きさしかなく、その範囲外は空間が捻れ存在しない。しかしこの森はそれらよりも広く、また森の奥に平原も存在する。

 そしてその平原の向こう、あなたの鍛えられた視力に街壁が映った。

 新しい街だ。

 あなたは冒険者成り立ての頃を想起し、口角が上がるのを抑えきれなかった。




続くかな
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