藤〇工房さんはどうして北上さんの耳かきボイスを作ってくれなかったのかと小一時間(ry
個人的には愛宕さん&高雄さんの耳かきボイスが好きです。
本日の業務は終了して、月が昇る時間。
夜も更けてきたとはいえ、提督である私は残業に勤しんでいる時間である。
毎日残業をする羽目になるのは、はっきり言って私が無能だからなのだが、作業を効率化するために色々と試行錯誤してもこの佐世保鎮守府に就任した同期に比べ、平均以下の作業率である。
まさしく、無能。
本来、私は提督になる前は自衛隊の船の塗装の仕事をしていた。
まぁ、大まかに仕事内容を説明すると、船を分解し、塗装を強力な剥離剤に漬けこんだり、細かいガラス片を吹き付けてで落とす。
その後油をシンナー等で落とし、アルコール等で磨き上げる。
下塗りや本塗りなどの塗装作業終えてから組み立てる。
そういった仕事が以前の仕事だった、が。
慢性的な海軍の人手不足により、【船に関係する仕事をしている】という理由だけで提督に任命された。
もちろんそれなりに金はもらっているし、仕事にすら就けずに貧困に喘いでいた頃の様に路上生活をしなくて良いのだが…
餅は餅屋という言葉があるように、専門的な事はその専門家に任せるべきである。
現に私の同期は基本的に海軍学校とか普通に卒業した奴ばかりだし。
今までこのような業務をしたことがない只のペーペーに満足な仕事など出来るわけがない。
まぁ、人手不足なのはわかってるし、少人数とはいえ私の様に海軍の出身ではない提督もいる。
そしてなにより…提督になった以上、私の落ち度で部下を死なせるわけにもいかないわけで。
慣れるまで頑張るしかない。
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝ぁぁぁぁぁ…やっと終わったぞクソが。時間も時間やし、部屋帰ってサイッコーにおっ勃つような曲ば聞きながらウオッカでも飲むとしようかね」
とても部下には聞かせられない、素の口調で独り言を言いながら私室へと向かう。
そして、私室のドアを開けようとした時、聞きなれた方言が耳に届く。
「まさかいつもこんな時間まで残業しよっとね?」
不機嫌さを隠そうとしない声の主は、私の艦隊の主力である北上さん。
「そんなわけないでしょう、たまたまですよ。たまたま」
「ふぅん、ならよかけど」
「…いつになく不機嫌ですね?」
「まぁ、確かに不機嫌かもね。元からちょっと機嫌悪かったとに、今提督に嘘吐かれたしねぇ」
「…」
ばれてーらー。
「なんば呆けとっとね、部屋入るっちゃろ?」
「え?まぁそうですけど…今から少しお酒でも飲んでから、明日に備えて寝るつもりですが」
少し、というのは嘘だけれども。
提督になってからストレスのせいか不眠症になり、ぶっ倒れるまで酒飲まないと寝れなくなった。
健康には良くないだろうが、そうでもして寝ないと明日に響く。
幸い、私はどんなに飲んでも翌日に響かない体質だ。
誰にも迷惑はかけて居ないし、強い酒をハイペースで飲んでできるだけ早くぶっ倒れて寝る生活スタイルを続けている。
「そんなら、ちょっと話でもせん?飲みながらでいいけんさ」
「でももうこんな時間ですよ?早く寝ないと北上さんも明日きついでしょうし…」
さすがに部下の前であんな飲み方をするわけにもいかない。
なるべく夜に部下を私室に招きたくはなかった。
「それは大丈夫、明日は非番にしておいたけん」
「…は?」
「最近、提督疲れとるみたいやし、今日も顔真っ青やった。そろそろちゃん休みぃ(休みなさいよ)?」
「いや、急に非番って…」
「他の子に資源ば溜めるためってもう言っておいたけん、今更明日は通常勤務って言ったらみんな怒るやろーねー?」
「…わかりました、明日は休みますから。」
こういう時の北上さんは絶対に折れないだろうし、言うとおりにした方が吉だろう。
「話たいこと、あるんでしょう?ノンアルコールですが飲み物ぐらいはありますから、どうぞ」
「…ん」
見慣れた自室の中に入ってとりあえず一曲BGMをかける。
とはいえ、新しくCDをセットするのは面倒なので、プレイヤーに入っているCDをそのまま再生する。
…倉橋ヨエコの「泣き止め剤」か。
ちょっと暗い曲だけど、まぁいいか。
ウオッカを飲む予定だったが、北上さんと雑談するわけだしあんまりキツイ酒はやめておこう、ビールでいいか。
いつもは酔うためにすきっ腹の胃にアルコールを流し込むが、たまにはツマミも食べよう。
たしかスモークタンがあったはず。
「そういえばさぁ、提督」
「なんでしょう?北上さん」
「赤城さんが来たばっかん時は、ウチに対して方言使って会話しよったとに、ここ最近標準語使うやん?あれなん(あれはなんなの)?」
「ああ、それですか…実は演習中の北上さんに大声で指示を出したとき、隣にいた雷ちゃんを泣かしてしまいましてね…」
「雷ば泣かした…?」
雷ちゃんは私の艦隊の中でも幼い娘で、暁型の3番艦。
元気いっぱいでいつも私を気遣ってくれる娘である。
「私たちはあまり自覚がないですが、九州の方言は馴染みがない人からするとすごい威圧的に聞こえるそうなんです」
「…威圧的?」
「はい。特に語尾が【~が】なんかは特にそうらしいです」
「ふむふむ」
「そのとき出した指示は【もうちょっと下がらんば、砲撃食らうやろうが!】だったのですが、大声で言ったのもあって、私が怒って北上さんを怒鳴り散らしている様に見えたみたいで…」
「…なるほどなぁ、それで方言使うのやめたったい」
「ええ、北上さんは私が怒ってないことはわかるでしょうが、他の子から怒っていると勘違いされるのは避けたいので」
「…なんや…そがん理由やったとね、ウチはてっきり提督に嫌われたんかと…」
「え?なんです?声が小さくてよく聞こえなかったのですが」
「よかと!聞こえてなくて!!」
その後、北上さんとの雑談は1時間ほど続いた。
結局話したいことはいったい何だったのだろうか?
いつものようにとりとめのない話しかしなかったような気がするが。
でも、方言の話をしてから、なんだか北上さんの期限が急によくなったような…?
心なしか顔もほんのりと朱を帯びているような気もするし。
「もうこんな時間ですね、もう寝ないと」
「そうやね、明日が非番とはいえこれ以上起きとったら生活リズムが狂うやろうし」
「じゃあお開きにしますか」
「あ、ちょっと待って」
「なんです?」
「ウチが部屋に帰ってから仕事しださんやろうね?」
「しませんよ」
これは本当だ、さすがに今日は疲かれた。
こんどこそウオッカを一気飲みして寝るつもりである。
「…信用できん」
ジト目である、信用無いなぁ私。
「そうや、今から耳かきすっけん、そのまま寝りぃ?」
「…は?」
「やけん、耳かきさ。ほら、ウチの膝枕の上に頭乗せて」
強引に膝枕に私の頭を乗せる北上さん。
あ、すげー柔らかい。
でもこれは流石に不味い気がする。
「んじゃ、始めるよー。…ちょ、こら!動かんと!!危なかよ!?じっとしときぃさ」
確かに変に抵抗して鼓膜破かれるのは困るが…。
ってなんだこれ…すごい気持ちいい。
抵抗する力も気力も奪われていく。
「めっちゃ溜っとるやん、耳垢。ちゃんとこまめに掃除せんば」
…あれ?
なんだか急に眠く…?
おかしいな、素面の状態で普段眠れないのに…。
「…提督?寝ちゃった?」
「んぅ…」
まだ寝てないです、でも返事をする余裕もない。
「こがん時間まで残業しよったらそりゃ疲れもたまるさね…。こっちの耳終わったら起こさんように布団かけて帰ろうかな」
「…」
「おやすみ、提督。ウチにとって大切な人っちゃけん…体に気ぃ付けてもらわんばこっちが困るとよ。あんま無理せんと…ゆっくり休みぃ?」
頭をなでる感触が心地いい。
意識の外の遠いところで北上さんが何か言ってるのが聞こえるけれど、それを聞き取ることは出来なかったまま、私は眠気に身を任せて微睡んでいった。