アフターグロウ(推しの子短編集)   作:FOOO嘉

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アクア マリン

 

 

 

女はそう名乗った。

 

随分と可愛らしい、それが感想だ。

モデルのように背が高く、研ぎ澄まされた刀の様な硬さを秘めた美貌からは想像が出来ない名前だった。

素直にそう口にすると、海は笑う。

 

「ひどいよ。私これでもまだ18なんだから」

 

男はらしくもなく、心から驚いた。

化粧をしているとはいえ、20代だと思っていたからだ。最近名を上げている黒川あかねも年齢よりも大人びていたが、カメラが止まれば年相応な少女だ。

それに比べて、目の前の少女はどうだ。

黒川あかねのようなスイッチなど不要とばかりに、その年齢からは想像の出来ない妖艶さを放っている。

しかし、そう言われれば肌の張りや頬の艶は十代の少女のそれだ。

男は一瞬にしてその海と名乗る少女に惹かれた。

 

逢瀬を重ねる内に、男は気付いた。

海と名乗る少女が実に見事に、鮮やかに嘘を吐いていると。

嘘吐きという言葉では品がなく、少女には失礼かと男は思い直す。

少女は華麗に嘘を着こなしていた。

自分を美しく、ミステリアスに魅せる嘘を自然と身に纏うのだ。季節や気温、相手や肌の張りに合わせて服装を選ぶように。

嘗て誰よりも惹かれ、惜しんだ女に少女が重なる。

同時に、自分に似たものを少女の中に見出し、男は自分が嘗てないほど目の前の存在に心を奪われていることを自覚していた。

懐かしくも未知の魅力。

匂い立つような魔性の色香に年甲斐もなく夢中になってしまいそうな自分に驚く。

 

 

「不思議だね、僕はずっと昔から君を知ってるような気がする」

「よく言うわね。そんな言葉誰にでも言ってるんでしょ?」

 

男の腕の下で、少女が嗤う。

自分はそんなに軽薄に女を口説く男と思われているのか少し傷付く。

そして、それ以上に少女の手慣れた雰囲気に困惑し、そして嫉妬した。

 

「そうじゃないよ。そうじゃないことを君はよく知ってるだろう?」

「知らないわ。だって貴方ってとっても嘘吐きだもの。貴方のことで私が知ってることに、どれだけ本当のことがあるのかしら?」

 

嘲るように、煽るように、少女がくすりと嗤う。

揶揄いを多分に含んだハスキーな声が男の耳朶を嬲る。

この少女は、きっと自分を愛してくれなければ死んでやると言われても、笑みさえ浮かべて死ぬ様を眺めるのだろう。

そこに強烈なシンパシーと嫉妬を覚える。

既にこうやって弄ばれた男がいるのか。

この未成熟ながらも完成した少女の味を知っている男がいることに激しく嫉妬した。

出会う前のことかもしれぬ、それ以前に少女と男の関係性など何も名がついていないというのに。

女の過去を探る男達を惨めだと笑ってきた男が、初めて嫉妬に身を焼かれる。

身勝手な暗い炎に焦がされながら、内心の動揺をお首も出さず男は少女の唇を奪う。

ぞろりとした感触。

少女が舌の上で弄んでいた錠剤を男の口に流し込んだとわかる。

蠱惑的な笑みに目の奥がチカチカとした。

 

「何を飲ませたのかな?」

「気持ち良くなれるおクスリ」

「いけない子だ。何処で学んだんだい?」

「誰から、と聞かなくていいの?」

 

男は目眩を覚える。

未だ二十歳にならない筈のこの少女は、明らかに慣れ、そして愉しんですらいる。

男が自分に夢中になることも、嫉妬の炎に身を焦がすことも。

本来の目的を見失いかけた男は、衝動的に海のスリットの入ったスカートへと足を伸ばす。

男の手がスカートの裾から、太腿を撫でていくのを海はくすぐったそうに受け止める。

 

「本当によく似ている」

 

熱い吐息を零しながら男が囁く。

 

「その人を惹きつける眼差し」

 

「嘘を本当に思わせる魔性の光」

 

「豹のようにしなやかな身体」

 

言葉を惜しむように、何度も海の唇を貪りながら、最後のなけなしのプライドを保持するように言葉を紡ぐ。

 

「幼さと妖艶さのコントラスト…まるで」

「まるでアイみたい?」

 

男が微かに目を見開き、愉悦に歪める。

 

「そうだね。アイと同じか、それ以上だよ」

 

男がそっと海の舌を絡め取る。

ぬるりとした蛇のように男の舌が海の口内を這い回る。蛇は毒を持っていた。それも猛毒。女を蕩かせる猛毒を。

しかし、海にそれは効かない。

何かに気付いたように男の手が止まる。

 

「キミは…」

 

口の端を吊り上げて、海が男の耳元に唇を寄せる。

 

「やっぱりやめておく?」

 

男はフッと笑うと首を振る。

 

「関係無いさ。美しいものは美しい。君の美しさと才能の前には些細なことさ」

 

蕩けたような眼差しで男は海を見下ろす。

 

「寧ろ素晴らしい。僕は未知へと踏み込もうとしてる」

「奈落かもしれないわよ?」

「それもまたいいね」

 

重要なのは君の輝きだよと男は耳から粘着質な蜜を注ぎ込むように海に囁きかける。

男が海の脚を開くと、海は抵抗することなく受け入れる。

男の背筋を快感が迸る。

初めて味わう快楽に酔いしれる。

 

「君は素晴らしい…」

 

達した余韻に打ち震え、荒々しい息と共に口にしたのは陳腐な言葉だったが、男にはそれ以上の言葉が見つからなかった。

海はその言葉を目を閉じて聞き入る。男の目にそれは、男の甘い声にうっとりした、恍惚に震える表情に見えた。

 

そっと、海のしなやかな身体を掻き抱いていた手を海の細くしっかりとした首筋に添える。

 

「あぁ…君の命で、僕の命がまた重みを増す…」

 

海が目を見開いた。

 

そして、

 

その名の通り、真冬の夜の海のような底のない瞳が弧を描いた。

それが笑みだと気付き、男は - カミキヒカルは初めて困惑し、同時に見惚れた。

黒曜石のような海の奈落の如き瞳に。

 

 

 

 

「今日はマリンじゃないんだ?」

「悪かったな」

 

落胆を隠そうともしないルビーの物言いに微かに眉を顰める。

 

「服見立ててもらおうと思ったのに〜」

「俺が見立ててやるけど?」

「え〜アクアの趣味っておっさんくさいっていうか、少女趣味の押し付け感がするもん」

「お前遠慮なさ過ぎだろ。マリンの趣味はお前には早い」

 

あと4、5年は年嵩を経ないと、子供が大人ぶったようで滑稽でしかないと言いたいのを堪える。

長年の生活で子供扱いするとこの妹は何処までも臍を曲げることを理解しているからだ。

しかし、露骨にガッカリされるのは面白くなかった。

 

「お買い物楽しみにしてたのにな〜マリンみたいなお姉ちゃん欲しかったもん」

 

口を尖らせるルビーに、微かに心が軋むのをアクアは気付かぬふりをする。

わかっている、まだ心の幼いルビーにとっては、少し皮肉屋で陰キャな兄より、可愛がってくれる姉の方が遠慮無く甘えられるのだと。

そもそも、こうして気軽に兄と姉を分けて接してくれること自体ルビーという少女が優しいのだということもアクアは理解していた。

 

 

 

 

 

「マリンさえいれば良かったのに」

 

ルビーがアクアを睨む。

涙の滲む紅玉が、炎のように揺らめき、アクアを焼き尽くそうと射抜く。

それを当然の罰のようにアクアは受け止める。

 

「ママの墓を暴いてまで何がしたいの?裏切り者、嘘吐き。マリンならしない。優しいマリンだったら絶対に。アンタなんかと違う!」

 

アクアは顔を顰める。

ルビーの言葉が痛いからじゃない、自分すらも傷付ける言葉を吐き出す妹が痛々しく、見るに耐えなかったからだ。

 

「ルビー…」

「触らないで!」

 

汚らわしいもののように、アクアの手が弾かれる。

 

「嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き」

 

 

ルビーが呪詛の言葉を壊れたように吐き捨てる。

 

「マリンに会わせて。お姉ちゃんだけが私の家族。アクアなんて家族じゃない」

 

 

 

 

 

 

『嫌われちゃったわね』

 

「そうだな」

 

『私は止めたのにね。もう目的も手段も手に入れたから、今更星野アイの墓を暴く必要無いって』

 

呆れたような、憐れむような眼差しからアクアは目を逸らす。

自分の行動の馬鹿さ加減はアクア自身が理解していた。

 

『そもそも枕営業なんて珍しくもないし、10代に手を出す監督がパクられて終わりでしょう』

 

「ようやく知られ始めた有馬の役者生命はどうなる」

 

『それこそ自業自得じゃないの。私からすればあの子は少し迂闊なだけ。別にセックス自体は気持ちいいし。抱かせて仕事が取れるのも、美人の特権よ』

 

「好きになれないなその考え方」

 

『黒川あかねの悪い影響ね。やたらと役者を潔癖でストイックだと思ってる。やだやだ、惚れた女に染められる男って。弟ながら情けないわ』

 

大袈裟に首を振る仕草すら様になっているのはやはり天性のもの故か。

自分には無いものを見て、アクアの心がぎしりと軋みを上げる。

 

『まぁ、あのロリコン監督の奥さんに私の身体を弄ってきた動画送っておいたから、これからが見ものよ』

 

「おい、初耳だぞ」

 

『姉の男性遍歴を探るのはよくないわよ?』

 

この姉はいつの間にか島監督を誘惑して、破滅の材料を手に入れていたらしい。

 

いつも通りのやり方で。

 

目眩すら覚えながらアクアは辛うじて踏みとどまる。

″こういうこと″にはこの12年で慣れている。

 

『それよりも、ルビーに言わなくて良かったの?』

 

「必要が無い」

 

『ふぅん、アクアがいいならそれでいいわ』

 

「悪い」

 

『謝らないでよ』

 

「うん」

 

『私はアクアのお姉ちゃんだから』

 

「12歳なのにか?」

 

『設定年齢は違うでしょ』

 

ふわりと蜂蜜色の髪をかきあげる。

アクアはその姿がアイにもミヤコにも似てると感じた。

それは胸が温かくなると同時に寒々しくさせる。

アクアの中でイメージされる母性の有り合わせだったからだ。

 

『私はアクアのお姉ちゃん。アクアが辛い時にいつも側にいるお姉ちゃん』

 

「ルビーの姉とは言わないのか」

 

女が鼻で笑う。

それが答えだった。

少し、心残りというか心配が生じる。

 

『安心なさい。優しく接するわよ』

 

「ならいい」

 

『それより、アクアこそいいの?…辛いわよ』

 

「今更だろ。散々好き勝手やっておいて」

 

『アクアが寝てる時じゃない』

 

「俺が毎回どんな気持ちになると思ってんだ」

 

『ごめんて。でも得たものもあったでしょ?』

 

ケラケラと女が笑う。

 

「確かにな…業腹だが…おかげで目的は短縮出来そうだけどな」

 

『……本当に馬鹿な弟ね』

 

アクアの頭を撫でながら、悲しげにマリンが呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

神木プロダクションの社長、カミキヒカル(本名 神木光)の死亡を告げるニュースは日本中に衝撃を与えた。

通報したのは星野愛久愛海。

星野アクアとして最近名が売れ始めている役者である。

世間の目を引いたのは、その関係性と状況である。

通報を受けた警察が目撃したのは、性的暴行を受けたと思しき痕跡を残す星野アクアの姿。

それも「女物の」衣服を身に纏わされて、更には首を絞められた痕跡すらあった。

神木は側で昏倒しているところを確保され、近隣の病院へと搬送されたが間も無く死亡が確認された。

検死の結果、覚醒剤が発見され、死因はオーバードーズとされた。

後に、神木と星野アクアとの間に血縁関係が発覚したこと、更に匿名で警察に送られた神木の殺人を証明する数々の証拠品が明らかになると、世間は火が付いたように大騒ぎとなった。

行方不明或いは不審死とされてきた著名人の死に神木が深く関与していたこと、そして、好奇心を持って取り沙汰されたのは、実の息子に女装させて性的暴行を加えた上で殺害に及んだ異常性だった。

星野アクアの中世的な美貌と、影のある儚げな雰囲気は星野アクアそして、その妹ルビーに対して世間の同情を抱かせるのに一役買った。

そして、星野アイが星野アクア、ルビーを隠していた行動がファンへの裏切りではなく、シリアルキラーである夫から我が子を守る為の行動と取られるようになった。

一時期はスキャンダルと共に地に落ちたアイの名誉は復活し、前以上に輝きさえしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ、マリンお姉ちゃん」

「なぁに?ルビー」

 

星野アイの墓前で、事件の顛末を語り合えたルビーは後ろでつまらなさそうに立ち尽くす星野アクア ー マリンに振り返る。

 

「アクアに会わせてよ…」

「あら?」

 

マリンが不思議そうに目を丸くする。

女の格好では無い筈なのに、兄とは似ても似つかない表情にルビーは唇を噛み締めた。

アクアが浮かべる筈のない表情をアクアの姿で浮かべている目の前の【姉】がやけに苛立たしい。

 

「もう私怒ってないから。アクアが何を思ってママの秘密をバラしたのかも、全部わかったから。ロリ先輩も謝りたがってた。ちゃんとありがとうもごめんなさいも言えてないって言ってた」

 

カラカラに乾いた口をつぐむと、ルビーは言葉を搾り出す。

 

「アクアに会わせて?ちゃんとお話ししたいよ」

 

血を吐くような悲痛さを伴った言葉に、アクア ー マリンは、つまらなさそうに鼻を鳴らす。

兄であれば、アクアであればすぐにルビーを気遣い、あれこれと話を聞こうとするのに、欠片も気にする様子も無く、マリンはただ乾いた目でルビーを見下ろす。

 

「いらないんでしょ?」

「それは」

「寂しくなったから押し入れにしまったぬいぐるみを引っ張り出したくなった?」

 

マリンが優しい声色で囁く。

季節は夏になろうと言うのに、ルビーの肌に鳥肌が立つ。

 

「馬鹿ねぇ…死んだ人間にどうやって会うのよ」

「え?」

「知ってたんでしょ?【私】がどうして生まれたのか」

「それはママが」

「そう。無知で迂闊で浅はかな貴女達の母親が馬鹿なストーカーに刺し殺されたから。アクアはそのショックから逃避する為に私を生み出した ────

 

 

     ──── って話し、信じてる?」

 

 

ルビーは自分の血が凍り付いたと思った。

 

「あの自罰的な子が、自分の苦しみを肩代わりさせる為に人格とはいえ誰かを用意するはずが無いでしょ」

「だって、アクアが…お兄ちゃんがそう言って…」

「自分で言ったじゃないの。アクアの嘘吐きって。そうよ、正解。アクアは大嘘吐き。アクアが願ったのは自分とは全く違う誰か。男の自分と違って妹が警戒心無く懐くことが出来て、頼りになる【姉】。ウジウジとアイに囚われる自分とは違って少しもアイに拘りがない【姉】。自分と違ってアイの溢れる才能だけを受け継いだ【姉】。ルビーの信頼とアイの才能は私に。呪いと憎しみと苦しみは自分に」

 

ルビーは何度も首を振る。

信じ難いことを必死に頭から追い出すように。

それでも、砂浜に染み込む海水のように、マリンの言葉はルビーの身体に染み込んで行く。

涙を浮かべる自分を他人事のように見つめるマリンに、ルビーは震える声で問い掛ける。

 

「じゃあ、マリン…お姉ちゃんがアイのことを話さなかったのは」

「知らないからね。だって、私生まれたのアイが死んで焼かれてからよ?記録で知ってるけど、情なんてこれっぽちもないわ」

 

親指と人差し指で。微かな隙間を作って見せるマリンに、アイへの思慕も感傷も無かった。

常にアイを想い、悲しくもその思い出を胸に抱き続けた、自分と同じ感情を共有していた筈のアクアの姿はそこには無い。

 

「ほーーんと、酷いこと言うなーって思ったわ。家族じゃないなんてね。他人だって、いらないって。マリンの方が良いなんてね。まぁ、アクアもゴローも満足して逝ったんだから今更私が口出すことじゃないけど」

「せんせ…?」

 

マリンは少しだけ気の毒そうに眉を顰める。

それはルビーではなく、その奥にいる天童寺さりなに向けたもののようだった。

 

「あら?薄情ね。てっきり気付いてたと思ったのに。アクアはとっくに察してたわよ?認めたがらなかったけどね。自分にそんな幸運が巡ってくる筈が無いって」

 

本当に馬鹿な子達、と悲しげにマリンは遠くを見つめる。

 

「今更よね。せっかく健康な身体で生まれたんだから、元気にアイドルやりなさい。どうせ今世であのおばさんは貴女にとって他人なんだし」

「なんでそんなこと言うの…せんせなら、アクアなら」

「ごめんね。私はアクアじゃないの。だから雨宮吾郎でもない。さりなちゃん…だっけ?その子のこともゴローから聞いただけ。可愛くてアイに憧れていた女の子で、ゴローの大切な子。病気で死んじゃったんでしょ?可哀想だなって思ってたわ。ホント良かったわね健康に生まれて」

「うるさい!!黙れ!!アンタなんて…」

 

感情移入のかけらもない言葉に、ルビーの目から涙がボロボロと溢れる。

 

「何?家族じゃない?それならそれでいいけどね。私の家族もアクアとゴローだけだし」

 

私、アイってあんまり刺さらなかったのよね。

歌もそこそこだし、ダンスも飛び抜けてるわけじゃないし。

私、基本インテリが好みなのよね。

似てるって言われても正直微妙だったし。

マリンは何かを思い出したかのようにどうでも良さげに言う。

 

「お互い家族のいないひとりぼっち同士仲良くしましょ?同じ事務所仲間として」

 

にっこりと笑って、差し出された手をルビーは取ることができなかった。

放心したように膝を着くルビーを少しだけ気の毒そうに見やると、マリンはアイの墓を後にする。

 

 

やっぱり他人の墓参りほど退屈なものは無いわね。

 

 

そんなことを呟いた。

 

 

 

 












『はじめましてかしら?』
『君は?』
『さぁ?』
『さぁって』
『知らないわよ、だって貴女が私を生み出したんだから』

蜂蜜色の長い髪を靡かせているその少女は、ルビーというよりもアイに似ていた。
出会った頃から、少女は既に今と変わらぬ大人びた少女の姿をしていた。

『拘りは無いから付けてよ適当に。過去に付き合ってた女の名前から選んでもいいし、好きなアイドルからでも付けてくれてもいいし』

女が、ふっと悪戯っぽく笑う。

『なんならアイって付ける?』
『『やめろ』』
『冗談よ。そんな怖い顔しないで、アクアもゴローも』

普段名乗ることのないアクアマリンからマリンと名付けた。
少女はその名を気に入ったようだ。
確かに女ならマリンはおかしくない、そう言うと少女はケタケタ笑う。

『一番気に入ったのは漢字よ』

愛久愛海

そこから2つの愛を差し引いた。

『愛なんて胸焼けのするものに縛られずに済むんだもの』

そう言って、愛の名を切り捨てた少女、

海 ーマリン ー は笑った。

その笑みは愛 ─── アイそっくりであった。
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