「ウチの子がいつもお世話になってます」
「そんな、こちらこそ。人手不足を理由に娘さんには甘えっぱなしで」
なんて事のないやり取り。
一度は諦めていたアイドル活動を生き生きとしている娘の姿を見て、娘の夢を拾い上げてくれた事務所に一度はお礼に赴かねばと足を運んだ母と、人気YouTuberとしてのノウハウを遺憾無く発揮して単なる所属アイドルの枠を超えて事務所を支えてくれるアイドルの母親に対して誠心誠意をもって出迎えた事務所社長。
互いに女手一つで家庭という大きな屋台骨を支えた女同士通じ合うものがあるのか、互いに終始和やかなやり取りが繰り広げられていた。
両者に挟まれる形となっているMEMは予告無しの家庭訪問を受けた子供のように顔を赤くしてもじもじと所在無さげにソファに身を沈める。
できる事なら立ち去りたいのであろうが、それをしないのは彼女が常識人であり、責任ある大人の女だからだ。
立派な18歳JKアイドル御歳27歳の大人であるからだ。誤植ではない。
母性に弱いルビーは「あれがMEMちょのママ?似てる〜可愛いね!」と朗らかな人柄に既に好印象を抱き、「そうね。それに凄く優しそうな人ね。MEMがああいう風に育ったのはお母さんあってのものなのかもね…」と複雑そうにコメントをするのは子を育てる母親としての資質に欠ける母親と半ば絶縁状態となっている有馬かなである。そろそろ男作って子供までいそうな毒親であるが、ここでは大した話ではないので割愛する。
そして、ルビーの兄にして、苺プロダクション社長を里親に持つアクアは瞠目していた。
青天の霹靂とはこういうことをいうのか。
アクアの様子に最初に気付いたのは有馬であった。恋する乙女は好きな男の子の変化に実に敏感だ。腰抜けな癖に虚勢を張っていかに汚れようとも最後は私の隣にあれば良いとイキがっている内に自分の厄介オタクでもあるビジネス彼女がモノホン彼女になってキスも童貞も奪われてるんだからとんだ腰抜け恋する乙女である。
「ちょっと、見過ぎよ、あーくん」
「…」
「あーくん!」
呼び掛けに反応を示さないアクアに痺れを切らしたのか、彼の袖を掴んで引き寄せる。
「あ、ああ…」
心ここにあらずといったアクアの様子に、勘は鋭いのに察しの悪さにおいて他の追随を許さない有馬の頭脳が回転する。
MEMの母親は、MEMの年齢を考慮すれば40を超え50の足音すら聞こえているはずだ。
しかし、その年齢が何かの冗談のように、MEMの母親は若々しい。しかし、若々しいと言っても20代に見えるというわけではない。
40前に見えないこともない、そのレベルの常識の範疇を超えないラインの若々しさである。
しかし、だからこそ有馬かなは危機感を抱いた。
彼女がどこにでもいる普通の女子高生(半年前に卒業済)であれば抱かなかっただろう。
しかし、彼女は骨の髄まで芸能界に身を置いてきた。故に知っているのだ。アクアのような20歳にもならない少年が、4、50の美魔女と呼ばれる女優の色香にあてられてパックリいかれるケースをいくつも。
しかも、アクアは年上好きを公言している。以前は一つ上の自分と黒川あかねを思い浮かべて一喜一憂していたが、よくよく考えれば一歳差など誤差の範囲である。そのことに2年越しに有馬かなの恋する乙女は気付く。
やはりそのポンコツ恋する乙女はポイして一度サポートセンターに連絡した後に新しい恋する乙女を実装することを勧めたいが、ここでは大した問題ではないので割愛する。
つまり、あの美熟女がアクアの好みではないかと、有馬かなは危惧したのである。
元天才子役にして、現在も太陽の演技を取り戻しつつある有馬かなであっても意中の男子が40〜50代がストライクゾーンとなると分が悪い。
乳のデカさであれば、黒川あかねに劣っているものの、ケツの張りでもって対抗してみせる。
ルビーの明るく子供っぽい妹力にはツンデレ妹演技で対抗してみせる。
しかし、老いだけはどうにもならぬ。
如何に有馬かなの五体隅々にまで演技の才能があってもアクアが勃起するレベルまで強制的に成長することは出来ないのだ。
有馬かなは歯噛みする。
この若さが憎い。
この幼い顔立ちが恨めしい。
この瑞々しいフレッシュさが疎ましい。
エグい金と引き換えについ最近挨拶したメルトくんと姫川さんの性癖を歪めたレベルの美貌を維持しているミヤコさんが聞いたら確実にブチ殺しにかかっていることを心の中で呟く。
「あんた、MEMのお母さんが好みなの?スケコマシ三太夫にも程があるでしょ」
「は?何言ってるのロリ先輩は?お兄ちゃんは生粋のロリコンだよ?おっぱいの大きさに貴賎無いとか言うくせに、下は生えてないとテンション上がる系男子だよ?ママ以外の経産婦に惚れるわけないよね?ね?」
すげぇこと言う妹である。この要らんこと言いな妹のせいで、黒川あかねは全剃りすることとなったというのに、全く本人に口の軽さと余計なこと言いに自覚がないのだ。アクアは声に出さず激怒する。心の中でのみ怒るのは悲しいほどシスコンであり、推し(さりなちゃん)の奴隷だからだ。どうせ剃るなら自分がやりたかったとあかねに言い、あかねにしばかれたのは記憶に新しい。
「別にそういうのじゃない。少し知り合いに似てただけだ」
内心の動揺を抑えながら、視線はミヤコと話すMEMの母に注がれている。
「知り合いって、いつのタイミングの女?せんせ?」
「「ヒュッ…」」
突然のさりなモードにアクアとアクアの中のゴローが短く悲鳴を上げる。
「いや、知り合いって言っても。かなり前だから。20年以上前にな…」
「MEMちょが生まれる前だよね?」
「不倫するほど堕ちちゃいないよ」
ちなみに、この会話は有馬かなの頭上で行われている。有馬かなはサッパリ状況が飲み込めていないが、アクアの過去の女に似ているということはぼんやりと飲み込めているようだ。何も知らない重曹ちゃん可愛い。
「じゃあいつ付き合ってたのよ。MEMちょのお父さんとせんせが付き合ってた時期近いんじゃない?二股しそうな人に見えないけど」
「彼女はそんな人じゃない」
「じゃあ、せんせの子だとでも言うの?」
「ぁ…」
「ぁって何?心当たりあるの?せんせ?お兄ちゃん?アクア?」
「シームレスにさりなちゃんからルビーになるのホントやめて怖い」
「で、どうなの?心当たりあるの?」
「……?……………ッ!?…………ねぇよ?」
「あったよね?今逆算したら計算あったって顔だよね?」
「ねぇよ?」
当然あった。若い身体を持て余した2人が、どうしても我慢ができず、避妊具も切らしていたがコンビニにひとっ走りももどかしく、外に出せば良いよね理論で求め合った夜が。
アクアの中のゴローが指折り数えて記憶と照合をしている。その指を俺がへし折ってやろうかとアクアは殺意を漲らせる。
『……となると、27歳か?いやー焦った。18歳の子は生まれないよな。別れたの27年前だし』
あってんじゃねぇか!!!!!!!
アクアが心の中で絶叫する。
「あったんだね?」
ルビーが血が噴き出る寸前の肉の裂け目のような赤い瞳に昏い光を灯しながらアクアを見つめる。
「あったの?」
何が何だかわからないがアクアが女性問題でやらかしたことは察したかなが冷ややかに見つめる。
ブルルルッ…
スマホが震える。
まるで何かに怯えるようにアクアのスマホが震える。
あかねからのLINEが一件。
デートのお誘いかと半ば現実逃避をしつつメッセージを開く。
『死ぬ時は一緒だからね』
もはや問答はらちもなしの殺害予告である。
思わずアクアは周囲を見回し、身に付けているものを確認する。確実に仕込まれてるし聴かれている。何百個もGPSを付けられる覚悟のある女は当然付ける覚悟も決まっている。アクアの復讐への覚悟が藁の家ならあかねの覚悟は煉瓦の家だ。強固でびくともしないし、釜茹でも出来る。
黒川あかね、たまらぬ女である。
「MEMちょが
そんな雑なタイトル回収があってたまるか。
雨宮吾郎、MEMちょのパパ概念好き。