初めて出会った貴女は、泣き腫らした瞳をそれでも伏せる事なく、気丈に前を向いて立っていた。
抱きしめれば折れてしまいそうな身体を重苦しい喪服で包み、小さな肩は儚さすら感じさせるのに、背筋を伸ばして出棺を見送っていた。
凛とした横顔に、隠しきれない不安と恐れ。
本来ならば年長者でもあり、社長でもある夫がなすべきはずだった喪主を務めたのだと知った時は、無性に腹が立った。
僕がその立場であったなら、悲しみに揺れる貴女の細肩を抱き寄せてみせるのに。
そして、その夫が全てを貴女に押し付けて逃げたと聞いた時、僕は生まれて初めて誰かを憎いと思った。
可憐に咲く花が無慈悲に踏み躙られているのを目にしたかのような強い憤り。
僕なら貴女にそんな重荷を背負わせないのに。
僕なら貴女にそんな顔をさせたりしないのに。
そんな苛立ちをぶつけるように体を鍛え、心を鍛えた。
苦しくて膝を屈しそうになる日は貴女の涙を思い出した。
辛くて挫けそうになった夜は貴女の儚げな横顔を思い浮かべた。
身体を鍛え、虐め抜き、更に鍛えて、鍛えて、鍛え抜いて、自分に出来ることに打ち込む日々を重ね、気が付けば僕は一角の、それなりには名の売れた者になっていた。
そして、僕は貴女の下を訪ねた。
一日でも、一分でも、一秒でも早く貴女の下に馳せ参じたくて堪らなかった。
『貴方がいてくれて、本当に助かるわ。もっと大きな事務所にだって行けたのに…』
申し訳なさそうに伏せられた瞳、ふわりとした長い睫毛が白い頰に堕とす影のコントラストに目眩を覚える。
声を掛けてくる事務所ならいくつもある。
この事務所の小ささを笑う者もいた。
けれど、どんな事務所が得意げに語る展望や報酬でも、貴女が僕にくれる心からの信頼と感謝以上に僕の心を満たしてはくれない。
──── これからもこの事務所にいますよ。 ────
そう口にすると、貴女は目を丸くし、そしてその宝石のような瞳に涙を浮かべて笑う。
大切に守り育んでいる双子の子達には決して見せない、貴女が僕にだけ時折見せてくれる弱さが、どれほど僕の心を掻き乱すのか貴女は知らないだろう。
本当はこう言いたい。
これからも貴女を支えますよ、と。
だけど、まだ自分の幸せに向き合う余裕の無い貴女にこの言葉を告げればきっと貴女を困らせてしまう。
だから僕は今日も仮面を被る。
恋に臆病な自分を隠すために。
貴女ばかりを見てしまうこの瞳を隠すために。
僕は哀れな男。
僕は臆病な男。
そう、僕は ────
「ピヨピヨピヨ〜〜〜ぴえヨンチャンネルぅううぅ〜!!!」
そう、僕はぴえヨン。
貴女という女神に心奪われた哀れな雛鳥