智将古市   作:蠅の王

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ほんまかい

「魔界に帰る? 誰が?」

「医者だよ医者。あのちっこいのとてきとーなの。ベル坊も回復してもうやることがねえから帰るんだとよ」

「ふーん、ほんまかい」

「………ほんまかい?」

「ダブ?」

 

 古市が何となく呟いたくっそ寒いダジャレに男鹿とベル坊がひいた。

 

「──…さむ」

 

 そしてドアを開けて立っていたラミアが冷たい目で言ってくる。

 

「何、あんた今の、ジョーク? もう一度言ってみなさいよ、私達魔界に帰るんだー」

「うるせーよ! とっとと帰れ!」

 

 不覚、と内心で呻く古市。自分でもくだらないジョークを言ってしまった。

 

「うむ、そのつもりなのだがアランドロンが捕まらんのだ」

 

 と、フォルカス。一緒に住んでる古市ならなにか知らないかとのことだ。しかし古市も古市家では温めますとほざきベッドに侵入しようとしてくるアランドロンを庭に植えるぐらいしか関係がない。

 

 ちなみに上半身か下半身のどちらが飛び出すかは古市の気分。

 

「庭に埋まってないなら知らないっすよ」

 

 昨日は庭に犬神家のような状態でめり込ませた。ただ、朝には居なくなってた。

 

「そうか、困ったな………」

「師匠、やっぱり今日はやめましょーよ! ベルゼ様ともう少しいたいし」

「バカモン、魔界にも患者はいるんだぞ」

「ブー」

 

 フォルカスの本体は魔界に居て今はムームーの体を使っているらしいが………意志を入れてる体がないと戻れないのか、或いはラミアが優秀なのか………。

 ラミアは子供っぽくむくれているが。

 

「呼んでみればいいではないか」

「ヒルダさん?」

「アランドロンを呼び出すには私も通信機を使っているのだが、さっきから繋がらん。しかしやつは次元転送悪魔だ、近し者が呼んでくれば飛んでくると思うぞ古市」

「よーしベル坊、アランドロンを呼んでみてくれ」

「にょ?」

 

 と、ヒルダの傘の先端が古市の眉間に向かって突き出された。

 

「坊ちゃまにくだらん雑事をさせるな」

「ニー」

 

 ベル坊はペチペチと古市の眉間を叩く。

 

「アウ、ウイ! ニョウ……ダ!」

「カブトムシくれたお礼に呼んでくれるって? ありがとなベル坊」

 

 ベル坊がやる気なのでヒルダは何も言わず黙る。

 

「ベルゼ様の手を煩わせるんじゃないわよ、つまんないギャグしか言えないくせに」

「つまらないギャグ?」

「いやいやなんでもないですよ! ほら、ベル坊早く!」

「ダ!」

「ふむ、ところでほんまかいはないと思うぞ」

 

 畜生め! と項垂れる古市。ベル坊はアランドロンを呼ぶためにすぅ、と息を吸う。

 

「ア、ダ! ダウィー!」

「お呼びですかな?」

「……………」

 

 ベッドの下から現れ古市のケツに頭を当てるアランドロン。古市のかかと落としがアランドロンの鼻にめり込む。

 

「床が!! 古市てめぇ!」

「床ぐらいでガタガタ抜かすな! 俺は部屋の壁ふっ飛ばされたんだぞ!」

 

 アランドロンは男鹿の部屋の床にめり込んだ。男鹿と古市は胸ぐらをつかみ合う。

 

「オー! オゥ、ダービー!」

「ふむ……貴様等、坊ちゃまがご所望だ、そのまま殴り合え」

「「……………」」

 

 馬鹿らしくなったのでやめた。

 

 

 

 アランドロンは家族と連絡を取っていたらしい。ヒルダは「キャッチホン」にしておけと叱っていた。留守電みたいなものだろうか?

 

 そのまま移動し、ベル坊と男鹿が出会った時のように川原に移動した。次元をまたぐ関係上、異なる世界の移動には自然のエネルギーが多い場所を選ぶのだとか。

 

 さらに言えば一度に移動できる質量も限られ、2人同時に魔界へと移動させれるアランドロンは優秀な部類らしい。残りでムームーって一人扱いで良いのだろうか?

 

「ベルゼ様!」

 

 と、ラミアがベル坊に駆け寄ってくる。

 

「あぁ? 何だこらチビガキ、まだなにかようか?」

「脅すな馬鹿」

「あんたじゃないわよ。私はベルゼ様にお別れの挨拶をしに来たの」

 

 と、ラミア。男鹿は面倒くさそうにしつつもベル坊を背中から剥がし抱えるとラミアの前に持っていく。

 

「出来ればこのまま持って帰ってもらいてーんだがな」

「馬鹿言わないでよ………」

「アー……」

「ベルゼ様……」

「アーアー……」

 

 ペチペチとラミアに触るベル坊。意外と懐いている。ラミアはそんなベル坊の手を掴む。

 

「絶対、立派な魔王になってくださいね。私は何があろうと、ベルゼ様の味方ですから! ね!!」

「うむ、頼りにしてるぞ。また会おう、ラミア」

「ヒルダ姉様………ヒルダ姉様〜〜〜!」

 

 ヒルダの言葉に涙を流すラミア。やはり人間界に残りたそうだ………。

 

 

 そして、漸く落ち着いたラミアは開いたアランドロンの中に入っていく。

 

「魔界か、どんなところなんだろうな」

「けっ、興味ねーよ。どうせ陰気なところだ。ん?」

 

 と、男鹿がある違和感に気付く。ラミアの足に何かひっついていた。何かというか、ベル坊だ。

 

「アー」

「へ、ベルゼ様? どうしてここに!?」

「何処に行こうとしてんだ!!」

 

 ベル坊が魔界に帰ればリンクを通して即死レベルの電撃が男鹿に流れる。慌ててベル坊を引き剥がそうとする男鹿。

 

「きゃあああ! ちょ、引っ張らないでよ!」

「うるせえ! ぐぬ、は、離れねえ!!」

 

 男鹿に触れていないと満足に力を発揮できないベル坊だが、逆に言えば男鹿に触れている間は赤子以上だ。男鹿の力でも離せずラミアは片足を上げる結果に。慌てて短いスカートを抑える。

 

「くそぉ! 一旦外に出てこいラミア!」

「無理に決まってんでしょ! 転送は始まってるのよ!? ベルゼ様、お願いです! 放してください!!」

「ええい! 手伝え古市!」

「お、おう!!」

 

 古市も直ぐに男鹿の腰を掴む。

 

「ふんぐぬぬぬ! 放せ、ベル坊ううう!」

「きゃあああ! 見える見える! ベルゼ様ぁ!」

「だ、駄目だ引っ張られる! ヒルダさん、見てないで手伝って……!」

 

 そうこう言ってる間にもどんどん吸い込まれていきまずラミアの姿が消え、男鹿がベル坊の足を掴み割れたアランドロンの顔を踏み堪える。

 

「男鹿! もういい、放せ!」

「馬鹿野郎! 放したら俺が死ぬんだよ!」

「だからっていって………!」

「良いからもっと引っ張れ………うお!」

 

 男鹿が足を滑らせ、男鹿の腰を掴んでいた古市もバランスを崩す。そのままアランドロンに飲み込まれた。

 アランドロンはパタンと体を閉じ、人間界から消えた。

 

「………うむ、これは………不味いことになった」

 

 

 

■■■■■■■■

 

「豚骨ラーメンヤサイマシマシニンニクマシアブラマシマシカラメ大麺カタメで」

「はいよ!」

 

 下町のラーメン屋には何処か似つかわしくない黒スーツの優男が山のように盛り上がったラーメンを前に割り箸をパキリと割る。と、不意に携帯が鳴る。

 店主に視線を向けると幸いすいているのもあって許可をくれた。

 

「はいもしもし、どうしました? 麺が伸びちゃうから早めにね……」

『────』

「え〜、魔界に行っちゃったの? 場所は追えます?」

『────』

「よりによってあそこですか。うーん、王の予言にあったかなあ? 有ったとしても、今の器君は自分から戦闘に参加する可能性もあるかー………老人にバレるわけにもいかないから送れる奴等も限られますね」

 

 と、電話で話す青年に近付く影。

 

「よお兄ちゃん、折角のラーメンが伸びちまう前に俺達が食ってやるよ」

「お礼に財布を置いてきな」

「おら、財布置いてさっさと失せな!」

「……………」

 

 

 

「うん、じゃあピンチになりそうだったら助けてあげるよう伝えておいてください。ああ、王族の契約者と子息は殺しちゃ駄目ですからね」

 

 電話を切る優男。さて、と眼の前のラーメンに視線を向ける。

 

「あらら、伸びちゃいましたか。ええと、君欲しがってましたね」

 

 と、周りに転がる男の一人を掴むとラーメンの丼に顔を突っ込む。

 

「好きなだけ食べてくださいね」

 

 

 

 

■■■■■■■■■

 

 

 

 ギャアギャア、キキキ……響く怪鳥や獣の鳴き声。奇妙な生き物がガブリとより大きな獣に喰われ、その獣も怪鳥に攫われる。

 

「…………目が覚めた?」

「ラミア…?」

「ここは………」

 

 男鹿と古市の言葉にラミアは冷や汗を流しながら笑みを浮かべ振り返る。

 

「………魔界よ」

「「………………ほんまかい」」




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