智将古市 作:蠅の王
魔界に来た古市達の前に、妙な生き物が現れた。毛に覆われた手足。ただし足先は毛がなく、靴らしいものを履いている。
手の指は3本で、緑の肌を持ちめだまは顔から飛び出し細い触手で繋がりうねうね動いている。
「ヨップル。ヨパレリメーヌ!」
「なんか来たぞ古市……殴っていいか?」
「なんでも殴って解決しようとすんな。挨拶してるだけだぞあれ」
「マジで? 挨拶!? ヨップルって挨拶なの?」
と、古市と男鹿がヨップルと返そうとすると、謎の生き物は大きく口を開ける。
「ヨップル〜」
ギラリと鋭い牙が見えた。
「ヨポロメリパピー!!」
「ヨッ──!!」
「だから待てつってんだろ!」
駆け寄ってくる謎の生き物に男鹿が殴りかかろうとするが古市が止める。謎の生き物はそのまま古市と男鹿に飛び付いた。
「ヨップル! ヨポロレペレパー!!」
「男鹿、どうやら歓迎しているらしいぞ」
「は、はあ?」
「ヨポロレパリ? ヨポポ」
「ヨピリパリヨポロポ………」
謎の生物改めヨップル星人という悪魔なのか宇宙人なのか不明の友好的な悪魔部族と語り合う古市。ラミアはふーん、とその様子を眺める。
「あいつって意外と凄いのね」
「適当にヨポヨポ相槌打ってるだけだろ? 俺でも出来るぜ、ヨップル!」
と、男鹿が元気よく叫ぶとヨップル星人と古市が固まる。そして、ヨップル星人が突如笑い出した。
「男鹿、初対面の相手に下ネタはどうかと思うぞ」
「何言ったの俺!?」
「何ってお前………」
「ヨポロロ……」
まじで何を言ったのだろう?
「あんたヨップル星人の言葉解かるのね」
「昔師匠に習った」
「どんな師匠よ………はあ、でもこれで少しは安全に行動できるわね」
「ここ、そんなに危険なのか?」
「危険なんてもんじゃないわ! ここはヴラドの魔境なの!」
ヴラドの魔境。かつて時の権力者ヴラド・ドラクルがガクブル(ガクガクブルブル)で帰ってきたことからそう呼ばれる谷。ヴラドは言った、「あそこ、めっちゃ怖い」。そう、本当に恐ろしい超危険地帯なのです!
太古の魔獣や未開の原住部族がいっぱい居るのです!!
「まあ良いんじゃね?」
「アランドロンいるしな」
「何を言って………そうか、アランドロン!!」
と、ラミアがアランドロンを探す。
「…はい」
血だらけで蔓に絡まり木の上に居た。
「いや、かたじけない。定員をオーバーしてしまった為か、この有り様で……ガフ!」
ズタボロだった。古市達はアランドロンを木から下ろし地面に横たわらせた。
「どうやら、転送の軌道がずれてしまったようですね。なあに心配なされるな、こんな傷……寝たらすぐ治りますよ。あ、ほら…気持ちよくなってきた」
「アランドローン! お前が死んだら俺達はどうするんだ!」
「そうだぞマジで! 死ぬな、死んだらぶっ殺す!!」
騒ぎ立てる古市達に、アランドロンはフッと微笑んでみせる。
「なあに、こんな、所で…死ねませんよ。もうすぐ娘の誕生日でね、ドレス買ってあげる約束しちまった」
「ちょおおおお! 死亡フラグ立てんじゃねえ! ラミア、てめぇ医者だろ! なんとかしろ!」
「さっきからやってるわよ! でも師匠が居ないとこんな傷………!」
「そうだ! フォルカスは!?」
「彼だけは無事転送できました」
よりにもよってフォルカスだけを。死ぬ気かこのバカは。
「ラミア…殿………後のことは、頼み……まし、た………ぞ」
そしてアランドロンは目を閉じた。
「アランドローン! お前ふざけんな! 目ぇ開けろこら! 死んでんじゃねえ!」
「ヨリポロポ」
と、ヨップル星人が男鹿の肩に手を置き首を振る。そっとアランドロンの上に花を置いた。
「クソ、どうすれば………! ん?」
と、アランドロンのズボンのポケットから何やらピピピピと電子音が響く。
「通信機! どうやって出るんだ古市!」
「俺に聞くなよ! 取り敢えずラミア!」
「ええ!」
アランドロンの通信機をラミアが受け取り通話状態にする。
「もしもし!!」
『その声は、ラミア? 無事か?』
ヒルダだ。人間界からかけているらしい。フォルカスから自分以外が周りに居なかったと聞いたらしい。
早速ラミアはアランドロンが重症であることを伝え、自分達の置かれた状況を説明する。
『なるほど、ヴラドの魔境か。厄介な事になったな………そこは王国も手を出せぬ非干渉区域だ。よりにもよってそんな場所に』
「ええ、それでどうしたものかと…………」
『まさか原住民に手を出していないだろうな?』
「あ、はい。男鹿の馬鹿がヨップル星人を殴ろうとしたけど、古市が止めてくれました」
『ヨップル星人………ヴラドの番人か………そいつといれば、ヴラドの魔獣でも手を出してくるものは少ないな』
少ないということは少しはいるのか。と、男鹿と古市はパキリと音が聞こえたので振り返る。
「ヒルダさん、その少ない生き物の中に、トカゲっています?」
『ああ、いるな』
「そいつはひょっとして目が6つあんのか?」
『ああ』
「ちょっとあんた達! ヒルダ姉様にくだらないしつもんして、るん…………じゃ………」
振り返ったラミアも、怒りで赤くした顔をすぐに真っ青に変える。
「グギャアアアアアアア!!」
「逃げろ!」
「うおおおお!!」
「いやああああ!!」
「ヨポロポポピ!!」
「え、お前もついてくんの!?」
巨大なトカゲから逃げ出す男鹿達と同じ方向に何故かついてくるヨップル星人。古市は思わず突っ込む。
『おい、今の悲鳴はまさか!!』
「目が6つあるデカいトカゲです!」
『そいつはジンニクスキトカゲ! 人型生物を好んで食する怪物だ!』
「いやあああ! 人肉好きそう!!」
と、ヨップル星人が振り返り指を咥える。ピイイィィィと笛の音がなった。
『今のは、ヨップル星人の笛か?』
「笛?」
『仲間を呼んだのだ。アクババが来るぞ……』
「アクババって男鹿が蹴り倒した!?」
「あんな奴が来たって飯が増えるだけだろ!」
『問題ない、野生のアクババは…………』
と、不意に影がさす。曇ったのだろうか? と思ったが、違う。途轍もなく巨大な生物の影に入ったのだ。
『デカいぞ』
「グゲゲゲゲゲゲ!!」
そのまま鋭い爪の生えた足で押さえつける巨大怪鳥。え、あれアクババ?
「最早別の生き物じゃねえか!!」
「てか、これ男鹿がヨップル星人殴ってたら俺達が襲われてたのか?」
最悪の想像をする古市。止めてよかった。
「グケゲゲゲ!!」
「ゴアアアアア!!」
「オー! ウィー、ダダウ!」
怪獣大決戦の如きその光景にテンション爆上がりのベル坊。2匹が暴れ、木々がへし折れ岩が砕ける。
と、漁夫の利を狙ってか虎のような怪物も現れた。ただし狙いは男鹿達。
「やべ………!」
「ダ!!」
即座に逃げようとした男鹿達だったが、虎は突然の雷撃にやられる。放ったのは、ベル坊。今までの癇癪とはまるで比べ物にならない。
「すげえ! 魔界に来てパワーアップしてるのか!?」
「これがベル坊の本来のスペック!!」
「グゥ…………」
と、その雷撃を見てジンニクスキトカゲも不用意に襲える相手ではないと判断したのか後退り、背を向けると森の奥へと消えていった。
『フン、坊ちゃまの本来の力に救われたな。だが油断するな、私の言うことに従ってもらう。お前達はこれから、アランドロンの娘を探してもらう』
「ヨポロロプレ、ピレロポポ」
ヨップル星人の案内の下谷の外を目指す男鹿達。ちなみにアランドロンを埋めてやろうとした古市だがアランドロンは何時の間にか消えていた。
次元転送悪魔は死期を悟ると誰にも知られない場所にひっそりと消えるらしい。猫か。
「しかしおっさんの娘か、どーにもテンションが上がらん」
「何いってんだ古市。それしか帰る方法ねーんだぞ」
「そーなんだけど。だってお前、娘って言ったらこうだぞきっと」
と、古市がイメージしたのはカイゼル髭のみをなくしたアランドロンにドレスを着せ口紅をつけ髪を伸ばした姿。気持ち悪い。
「いや、こうだろ」
男鹿はカイゼル髭すらそのままなアランドロン。胸の膨らみは筋肉だ。
「それまんまじゃねえか」
「ダーッ」
ベル防が想像したのは胴体にサングラスをして鼻がありヒゲを生やしたイカ。
「ヨポロリ」
ヨップル星人の想像はアクババより巨大なカイゼル髭。本体は見えない。
「バッカじゃないの。ていうかそれ全員髭生えてるんですけど、坊ちゃまのはイカ……つまんないこと言ってないで行くわよ」
と、ラミアが呆れたように言う。
そうこう話している間に谷の出口が見え、ヨップル星人と別れ暫く歩く。やがて家が見えた。
石作りで屋根は藁。
「えらく牧歌的だな。あれがアランドロンの家?」
「違う違う。娘さんの家、何でも古代の魔獣の研究をしてるとか………」
だからヴラドの魔境なんて危険区域の近くに住んでるのか。しかし、やけにあっさりと終わってしまった。
「良いのかこれで?」
「よいよい。さっさと帰れば問題なし」
「そーよ! 私とヒルダ姉様のナビが優秀な証拠じゃない」
3人はそのまま家に向かう。扉が空いていた。不用心な………。
「これは!?」
そして、家の中は荒れていた。廃墟のような惨状だが、荒れ方はまだ新しい。古市はゾワッと部屋の奥を睨む。
「………誰かいるぞ」
ヒルダが人間界でどの程度弱体化しているのかはわからないが、少なくとも人間界のヒルダ以上の魔力。
警戒しながら視線を向けると黒の長髪の男が本を読んでいた。
「やれやれ、杜撰なものだな。お前達、なんのための見張りだ?」
「フン、てめぇには関係ねえ」
と、後ろから聞こえる声。頭に入墨をしたハゲと頬に入れ墨をした男が居た。
「ちょっとあなた! 何で気付かないのよ!」
「仕方ねえだろ! あっちの魔力が強すぎるんだよ! 象の足元にいる蟻に気付けってか!?」
ラミアの言葉に部屋の奥の男を指さしながら叫ぶ古市。言外にアリンコ扱いされた男達の顔が歪む。
「この人間は俺達のもんだ、手を出すなよ」
「フッ。まあ良い、こちらの仕事はすんだ……先に帰らせてもらうぞ」
と、長髪の男が小さなガラス玉のようなものを取り出し燃やす。足元に魔法陣が現れ、男の姿が消えた。
「彼奴も次元転送悪魔!?」
「………違う。今のは次元転送悪魔を媒介に生み出す外法の魔具……」
聞くだけでヤバそうなのがわかる。次元転送悪魔を殺して作るということか。
「エッダ、お前は右だ。俺は左の男をやる」
「オッケー」
「来るわよ!」
「………………」
ラミアが警戒する中、古市は目を細める。
「…………なあ、相変わらずお前達からあまり魔力を感じないんだが」
「ああ?」
「まだ、でけえのに隠されてる」
「何を──」
エッダと呼ばれた男が突然吹き飛ばされた。
「な!?」
もう一人の男が慌てて振り返るも、踵落としで顔面が地面にめり込む。
「うむ、素晴らしいめり込み」
「…………素晴らしい太もも」
現れたのはチャイナ服姿の女。大胆に露出された胸元や太もも、肩の肌は陶器のように白く生命を感じさせない。ヒルダにも劣らぬプロポーションに古市の目つきが変わる。
「っ!! キョンシー」
「キョンシー? って、あの………」
「嘘、そんな………ありえない!」
と、ラミアは明らかに狼狽えている。
「ラミア?」
「キョンシーは、人間の死体に悪魔を詰めた外法よ! 魔界にいるはずがない!」
「………………」
「悪魔を宿し操り、他の悪魔を狩らせ増やす。人間界でその使い手を徹底的に始末された技術………」
奇妙な文様が描かれた布で隠れた顔を向けてくるキョンシー。古市は咄嗟にラミアを庇い、男鹿も拳を構える。
「ラミア、奥に隠れてろ」
「古市……」
トン、と軽い足取りで、しかしとんでもない加速で古市の眼前に移動したキョンシー。
「古市!」
「!!」
反応に遅れ、キョンシーの腕が古市へと伸び………
「
中国語……人間界の言語。
「カワイガッテ、クダサイ?」
コテンと首を傾げる屍猫。死体に悪魔を詰めた、人の手が関与している存在。スルリと腕を絡め胸を押し付ける。
「おお!」
「おおじゃない!」
鼻の下を伸ばす古市の股間をラミアが後ろから蹴る。
「か、ふ!」
「何デレデレしてんのよ! さっきあんなにカッコつけておいて!」
もう一発食らわせようとするラミア。と、男鹿が蹴りを放ちラミアに迫っていた剣を弾く。
「な!?」
「てめぇ………」
「
「待て屍猫!」
袖から大量の刃物を出した屍猫だが、古市の言葉にピタリと止まる。理由は不明だが、古市を王と呼び危害を加えたラミアを害そうとする辺り古市のいうことを聞くようだ。
キョンシー。
悪魔の力を扱うソロモン商会ではありふれた商品。戦闘に使ってよし、淫蕩にふけるもよし。好みの相手の死体を作るところからコースを選べます。
屍猫。
戦闘兼慰安役のキョンシー。とっても強くてとってもカワイイ。実は複数体の下級悪魔を無理矢理ねじ込んている。生前の人間の記憶が多少残り、王の復活後にはご褒美に薬をたくさん貰うという願いがある。
美人だがヨハンは手を出さない。「だって死体ですしwww」
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