智将古市   作:蠅の王

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何だこれ

『キョンシーだと? 大戦時代の生き残りか?』

「さあ………簡単な意思疎通は可能なんですけど、そういった細かいことは聞けなくて………アランドロンの娘さんを攫った一味ではないようですが」

 

 嘗て人間も巻き込み起きた大戦。その際に本来人間界でのみ作られるはずのキョンシーが多く魔界に訪れた。

 屍猫もその生き残りの可能性があるとのことだ。

 

「キョンシーって会話が成立するんですか?」

『する個体もいる。元々は紋章使い(スペルマスター)を手軽に量産する為に作られた外法だから、ある程度の知恵が必要だ』

 

 悪魔はただの燃料。体を動かすのは人間の肉体だが、時代だ。魂がない。基本的には魂を求め他の人間を襲うので導師と呼ばれる術者が操るが、稀に生前の記憶で会話が可能な個体もいる。

 

『キョンシーは導師を襲わぬよう調整されている。古市は基礎的な部分しか使えんとはいえ術者だからな、勘違いしたのかもしれん』

「…………………」

 

 猫のようにスリスリと体を擦り付ける屍猫。ラミアにはない女の魅力に古市はデレデレ。ラミアの視線に気づいた屍猫は顔を隠す布を少しだけ持ち上げベッと舌を出してきた。

 

「どうにかして追い払えないんですか!?」

『無理だな。徹底的に破壊しない限りキョンシーは止まらん。人間界での私より強いのだろう? 敵対は坊ちゃまをいたずらに危険にさらすだけだ』

 

 仮にも大戦を生き抜いた個体なら、向こうが敵対の意志が無い間は警戒しつつも敵対は避けるべきだ。

 

『古市にしっかり手綱を握らせておけ。主と認識している間は奴の言葉を聞くはずだ』

「………………」

 

 手綱を握ると言われても、その古市はデレデレして寧ろ良いように使われそう。私がしっかりしなくっちゃ!

 

「古市! ちょっと来なさい!」

 

 ラミアは古市を呼ぶ。

 

「いい? あの女はあんたの言うことを聞くんだから、しっかり見てなさいよ!」

「でもシーマオちゃん、そんなに怖く見えないけど………」

「危険だから言ってんのよ。良い? キョンシーはね、その昔暴走して人も悪魔も殺し回った凶悪な兵器なんだから」

 

 ふぁ、と欠伸をしている姿からは想像もできないが………。

 

「そうだそうだ! ギャグパートじゃなかったら俺の頭吹っ飛んでたからな!」

「俺なんて潰れてるわ!」

「別にあんたらは死んでもいいけど」

 

 と、冷たい目で睨むラミア。その絶対零度の視線に男達はブルリと震える。

 

「とにかく、あんたらが攫ったアランドロンの娘を返しなさい! アジトは何処よ!?」

「ふん、誰が教えるものか。 俺達が仲間を売るとでも?」

「そうだぜ。俺達はアウトロー、王族の権力なんて関係ねえ」

「どんな拷問を受けようと絶対に口をわらねえ」

「そういうこった、魔獣に喰われて死ねカス」

 

 

 

 

 

 

「彼処か」

 

 盗賊団のアジト。古代の遺跡を利用した盗賊団の街らしい。

 

「間違いねーんだな?」

「は、はい……そりゃあもう」

「あの一番大きな建物に幽閉されてるはずですから………」

 

 男鹿に何をされたのか従順な悪魔達。古市はアランドロンの娘の家から持ってきた写真を見る。アランドロンの娘、すごい美人だ。これは助けねば!

 

「マスター、ドする? ミナゴロシ?」

 

 辿々しい日本語で話してくれる屍猫はコテンと首を可愛らしくかしげる。

 

「しないしない。ボコボコにする程度」

知道了(わかったー)

「おほ」

 

 屍猫に抱きつかれデレデレと顔を崩す古市。ラミアはムッと眉根を寄せる。男ってやつはこれだから。

 

「そういえばヒルダさん、アランドロンの娘さんの名前って…」

『名前? ああそうだな、アランドロンの娘の名は、アンジ──』

 

 プツッと通信が切れた。まだ名前聞いてないのに。

 

「フフフ、ジャミングだよ。なんせ盗賊街だからな、外界とは連絡が取れないようジャミングがかけられてんのさ」

「この先通信機は使えねーぜ、ヒヒヒ」

 

 と、勝ち誇る悪魔達。男鹿とベル坊がジロリと睨む。

 

「あ、いや……だから気をつけてくださいねってことですよ、はい!」

「そーなんです! そーゆうことです、ほんと!」

 

 

 

 

 盗賊団アジトにて、盗賊頭目はクックックと笑う。

 

「くく81」

 

 そしてくっそ寒いギャグ。シーンと静まり返る部屋。無言でパンと手を叩くと側近が叫ぶ。

 

「笑え!」

 

 広間が笑いに包まれた。

 

「フフン、どうだ? 少しは協力する気になったかね、アンジェリカ君」

 

 頭目は牢に入れられた美女、アランドロンの娘のアンジェリカに声を掛ける。アンジェリカは気丈な表情で頭目を睨み返した。

 

「何度言われても同じです。泥棒の片棒をかつぐ気はありません。捕えた魔獣達を開放しなさい」

「ふん、あんなもの「ぎゃははは!!」二束三「ひーっひーっ!」文のか「わはは!」「ひーひっひひ」ねにもならん。「ぐははは!」お前が一言協力すると言「だはははは」えば………うるせー!」

「やめろーっ!」

 

 ピタッと笑い声が止まる。誰も本気で面白いとは微塵も思っていなかったからだ。

 盗賊の目的はアンジェリカの転移能力。どこへでも忍び込み人知れず去る。どんな難攻不落な宝物庫も空き家同然。

 

「まさに神出鬼没」

 

 その力を狙いアンジェリカを攫ったのだ。

 

「そうですね、この手錠がなければすぐにでも消えてあげます」

「フン……」

 

 と、その時………

 

「お頭! ガレとエッダからの通達です! 何でも王族の契約者がこの近くに現れたと………」

「王族の者だと!?」

 

 ここはヴラドの魔境の近くに存在する非干渉領域。だからこそここに潜めていたというのに、まさかここに住んでいる事がバレたのか?

 

「ふん、まあ良い。その為の用心棒だ……フフ、そろそろ出番ですかな、先生」

 

 と、盗賊が声をかけたのはアンジェリカの家に居た、男鹿達と対面した悪魔だった。

 

「何をしている! 警備を固めろ!」

「「「はっ!!」」」

 

 慌ただしく動く盗賊達。おかげで、漸く静かになった。アンジェリカはふぅ、とため息を吐く。

 

「父さん、今日帰るって言ってたけど…心配してるかな。最悪の誕生日、どうせ忘れてるんだろうけど」

 

 なにせ王宮勤めだ。忙しく、滅多に会いに来ない。自分の事など忘れているだろう、と吐き捨てるアンジェリカだったが…………。

 

「覚えてたわよ。ドレス買うって約束したんでしょ?」

「え?」

 

 振り返ると牢屋の窓から除く桃色の髪をした少女がいた。何処か不機嫌そうに見える。

 

「あなたは、父のお知り合いですか?」

「まあ、そうね………」

 

 ちなみに窓の外では屍猫が肩車した古市の肩に足を置くラミアの姿が見れる。四人でじゃんけんした結果、ラミアが一番上になったのだ。

 

「逃げてください!」

「え?」

「魔獣です! 魔獣が来るんです! 物凄く大きな!!」

「魔獣?」

 

 と、その時。ズウウウンと腹の底に響く音が響き、大地が揺れる。

 男鹿達を探し外に出ていた盗賊も、男鹿や古市達も音の発生源を直ぐに見つけた。

 

「………で、でけえ」

 

 野生のアクババや先程のトカゲよりも更に巨大。背中に森や山を乗せた、遠近感覚が狂いそうな巨獣の肌は土のよう………いや、あれは体が土に覆われているのだろう。

 

「きゃああああ!? 落ち、落ちる!」

「ラミア!? 大丈夫か!」

 

 振動により屍猫の肩から落ちた古市。突然足場がなくなり窓の鉄格子を掴みぶら下がるラミア。

 

「こ、こっちみんな!!」

 

 短いスカートなので、パンツが見られてしまうと赤くなり叫ぶラミア。何とかよじ登り窓の淵に腰を掛ける。

 

「あ、あんたあれが何か知ってるの!?」

「あれはヴラドの主です。ここの人達は魔境を荒らしすぎました………主は怒っています。私は、その声が聞こえるのです」

 

 全身を覆う土がボロボロと崩れ落ち、主の口が見えた。

 

「ゴアアアアアァァァァァッ!!」

 

 ビリビリと大気を揺らす咆哮。バリバリと身体にまとわりついている土が崩れ落ち、その全貌が明らかになる。

 

 四つ目の巨人。カラータイマーみたいなのがついて、一部が毛皮の基本的に鎧のような皮膚に覆われた怪物。

 崩れ落ちる土の塊ですら建物を倒壊させるほどの質量だ。

 

「っ! 逃げてください! もうすぐ頭目が帰ってきます!」

「え? え?」

 

 アンジェリカの言葉にラミアは下を見る。ラミアの身長の倍はある高さ。ゴクリと唾を飲み躊躇っていると頭目が戻ってきてしまった。

 

「アンジェリカ! 何をしている、早く逃げるぞ! ここはもう駄目だ、とんでねー化け物がこっちに………む!」

 

 と、頭目はラミアに気付く。

 

「ふん、例の王族の関係者か。娘を取り返しに来たようだが、残念だったな。回り込んで殺せ! 油断するな、仲間もいるはず。先生も呼べ!」

「「「は!!」」」

 

 頭目の言葉に直ぐに集まってくる盗賊達。

 

「おいおい、こりゃ大ピンチってやつじゃねーか?」

「何で嬉しそうなんだよ。ラミア、危ないからそこにいろよ」

 

 嬉しそうな男鹿に呆れながら構える古市。屍猫も萌え袖から刃物を飛び出させる。

 

「嬉しいだろ。ワクワクする」

「しねえよ。何処の戦闘民族だ」

「楽しめよ。男ってのはな、ピンチの時ほど笑うもんだぜ。そーすりゃ自然と力も湧いてくる。なあ、ベル坊」

「…………ん?」

 

 本当にベル坊からとんでもない魔力が溢れ出し思わず振り返る古市。ベル坊はヴラドの主を見ながらニタァと笑っていた。

 

「何を突っ立っておるのだ! ええい、のけ! 私がやる!」

 

 と、幹部らしき男が攻めあぐねている盗賊たちを押しのけ叫ぶ。

 

「王族の者とやら! 儂は目付役ザンガと申す! いざ尋常にぃぃ! 勝……ぶぅ!?」

 

 ザンガは吹き出した。男に背負われていた赤子の頭があまりに巨大だったからだ。

 そう、ベル坊の頭が巨大化していた。

 

「ベル坊君、これは一体………」

「力が、溢れてらっしゃるんだわ………って、きゃあ!?」

 

 直ぐに他の場所も巨大化していき腕がラミアの寄りかかっている壁を破壊する。落下するラミアだったが屍猫が壁を駆け上がり後襟を咥え剣を壁に突き刺し落下を止める。子猫を守る親猫のようだ。

 

 ベル坊はというと………。

 

「ダ──────!!」

 

 でっかくなっちゃった。

 ヴラドの主にも匹敵する巨大な赤ん坊になった。

 

「ベルゼ坊ちゃま!? て、古市! 男鹿は!?」

「…………ベル坊の頭」

 

 男鹿はベル坊から落ちないように髪に掴まり、そのままよじ登る。

 

「化け物が二匹!?」

「なんなんだこれは!?」

 

 ヴラドの主も突然現れた自分に匹敵するサイズのベル坊を警戒し、ベル坊もヴラドの主を敵と定めたのか睨みつけている。

 頭に無事登った男鹿が叫ぶ。

 

「ゆけ! ベツ人28号!」

「ダッ!」

「ガッ!」

 

 ドスドス街を踏み潰しながら突っ込むベル坊を迎え撃つように叫ぶヴラドの主。互いの掌を掴み、衝撃で足元がズンと吹き飛ぶ。

 

「…………何だこれ」

有趣的(おもしろー)




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