智将古市   作:蠅の王

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経験の差

 石矢魔にて男鹿が悪名を轟かせる中、古市は特に有名になることはなかった。喧嘩に参加しないからだ。

 確かに強くなったし、男鹿の隣に立ってやるという昔掲げた目標を忘れた訳では無いが、まあ別に隣に立ってやるほど苦労もしてないしね、男鹿。

 

 基本的に物陰に隠れている古市につけられた評価は男鹿の腰巾着だ。まあ別に良いけど。

 不良に憧れる他校の女子なんかをデートに誘いながら過す高校生活。その日もデートの約束をしていたのだが、突然男鹿がやって来た。

 

「昔々あるところに、ハンサムでかっこよくてモテモテで皆に尊敬されまくっている心優しい若者が居りました。若者は河原で馬鹿な不良達をボコボコにして全員土下座するだけで許してやると言いました」

「…………おいちょっと待て」

 

 いきなりやって来て変な話を始めた男鹿に古市が待ったをかける。ていうか心優しいと言っておきながら全員土下座ってなんだ、悪魔か。

 

「馬鹿め、古市馬鹿め。お前の母ちゃんでべそ」

「ガキか!」

「良いか、良く考えてみろ。俺が理由もなく人を土下座させるような男だと思うか?」

「ああ。俺デートだからもういいか?」

 

 興味なさそうにデートに備え眉毛を整える。

 

「そうかそうか続きを聞きたいか!!」

「いだだだだ!!」

 

 その態度に切れた男鹿が首を腕で締めてくる。部屋の中で暴れられたくない古市は仕方なく話を聞くことにする。

 

「その前に、お前部屋の外に何連れてきた」

「…………解かるのか?」

「髪の毛伸びる人形でも見つけたか?」

「なんだそりゃ、ちげえよ。ほら………」

 

 部屋の外から感じていた尋常ならざる霊気に呪いの人形でも持ってきたのかと思えば、男鹿が部屋の外から連れてきたのは緑の髪の赤ん坊だった。

 

「アー!」

「…………………なにこれ」

 

 途轍もない霊気を感じる。師の連れて来る悪霊と呼ばれる肉体を持たない存在とは比べ物にならない膨大な気配。格が一つ二つどころではない程桁違いな存在だ。

 

「心優しい若者は………」

 

 え、続けんの?

 

 

 

 心優しい若者は死ねば良かったのにとか抜かしやがるクソヤローを川で洗濯してあげました。すると、川上から大きなおっさんがどんぶらこっこどんぶらこと流れてきました。

 不良達はビビリなので逃げ出し、若者は一人で大きなおっさんを引き上げ2つに割ると中から元気な男の子が……。

 

「割るなー!」

 

 なんか霊が絡んでることだし、と聞き流していたが、それには流石に突っ込む古市。

 

「割・る・なー!!」

「若者は言いました。『おお、なんとかわいい赤ん坊』」

「続けんなよ! 割るなよ! てかなんで割ろうと思った!?」

「いや、なんか勝手に割れた」

「勝手に割れた!?」

 

 どういうことだ? そういうタイプの霊? どういうタイプの霊だ!? 水子霊が中に潜んでいたおっさん型のマネキン? もうとりあえずこれで納得しよう。意味がさっぱりわからないけど。

 

「アブー、ダーイ。ウー!」

「ふむふむ、え? いや、俺は此奴の家来じゃないから」

「そうだぞガキ、奴隷だ」

「ああん!?」

 

 何言ってやがんだこいつは。

 

「アー!」

「目をキラキラさせるな!」

 

 なんか子供が喜んだ。聞けば男鹿の怖い顔に対してもキャッキャッと喜んでいたらしい。最終的に凶悪な顔で蝋人形にしてやろうかと脅してもめっさ懐いてきた。感性がおかしい……奴隷を持ってる男に尊敬の目を向けるってなんだ。

 てか、この赤ん坊の霊力が男鹿に向かって流れているような………憑かれたのか?

 

「なついた? ふん、勘違いも甚だしいな。貴様ごときに坊ちゃまが懐くわけなかろう」

 

 と、不意に窓から声が聞こえる。何時の間にか金髪ゴスロリの美少女が窓際の机に立っていた。

 

「!?」

 

 この女もまた、高い霊力。気付けなかったのは、赤ん坊の気配に隠れていたから。

 そしてその女は赤ん坊を連れて行こうとしたが赤ん坊が電撃を食らわせた。途轍もない霊力だ………。

 

 

 

 

 

 

 男鹿が拾った赤ん坊は、本名を「カイゼル・デ・エンペラーナ・ベルゼバブ4世」………魔王の子供らしい。

 そして女はヒルダ……ヒルデガルダ。悪魔だ。

 なんでも明日から人間を滅ぼすと決めた大魔王だったが、知り合いの結婚式とか予約したバスツアーとかで予定が埋まってるので、じゃあ最近生まれた末の子に任せよう。人間に育てさせながら滅ぼせ、なっ! だそうだ。

 適当にも程がある。

 

 当然断る男鹿だが、それは幸いとぶっ殺そうとしていたヒルダにより古市の部屋は破壊された。

 闘争の邪魔をしようとしてきたアクババとか言う鳥は男鹿の蹴りで沈み、ひっついて離れない赤ん坊を連れ逃げるも追い付かれ剣で頬を切られ、その血が赤ん坊にかかった瞬間霊力のリンクが強くなり泣き出した赤ん坊により辺り一帯を破壊する放電。

 

 そこは男鹿が泣き止ませた。その姿は本当に親のようだったが、その電撃の余波で鉄塔の一部が壊れ赤ん坊に向かい倒れ、男鹿が赤ん坊の魔力を引き出し消し飛ばした。

 

 その後2日間眠っていた男鹿は赤ん坊………ベル坊と15メートル離れると即死レベルの電撃を食らうことになるわ悪魔の女に家に住み着かれ(しかも孕ませたと勘違いされたらしい。なんだそれ羨ましい)家族公認になるわ夜泣きで起こされるわ………。

 

 そして男鹿は、ベル坊を誰かに押し付けることに決めた。割れたおっさんこと次元転送悪魔アランドロンによると強くて凶悪なクソヤローにベル坊が懐くと聞き、石矢魔東邦神姫の一人神崎の元を訪れることになった。

 

 因みに神崎は3年。2年の幹部というか名前持ちは瞬殺していたので3年に取り敢えず会いに行こうとなったのだが、クソヤローはクソヤローでも男鹿が気に入らないタイプのクソヤローだったのでぶちのめしてしまった。

 

 そして排尿期とか言う盛大なおもらしを終えたベル坊。その良くわからん期間を超えたからなのかは知らないが、男鹿とベル坊の繋がりは強くなり蝿王紋(ゼブルスペル)なる紋様が現れた。

 

 ベル坊との繋がりを表し、全身に広がるほどベル坊の魔力を引き出せるようになり本物の魔王に近付いていくらしい。

 

 

 

 

「いいかベル坊」

「アウ」

「男ってのはな、一度決めたことは貫き通さなきゃならねえ。解かるな?」

「ダ」

 

 何故か海で誓いを立て始めた男鹿。古市は釣りをすることにした。

 

「俺はもう喧嘩しねえ。人を殴らねえ。土下座もさせない。スーパーいい人と呼ばれるようになろう」

「それは普通の人だ」

 

 その程度でスーパーいい人なら席を譲る若者は聖人になれる。

 

「だからお前も約束しろ。もしも俺がそれを守れたら、そん時はもう絶対泣かねえって……男と男の約束だ。出来るな?」

「ダ!!」

 

 解っているのか解ってないのか………多分解ってるんだろうベル坊が返事をする。そんな誓いなど知ったことかと現れる不良から逃げようとする男鹿は回り込まれ殴り飛ばす訳にも行かず海を泳いで逃げていった。

 

「どーするよ」

「これじゃあ嫁の番号も聞けねえよ。しょーきんもらえねー」

「………………」

 

 しょーきん…………賞金? 金? 嫁は、多分ヒルダの事だろうが………番号で賞金?

 

「……………お」

「あ……」

 

 と、不良達が古市に目を向ける。相手が男鹿の腰巾着だとわかるとニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

「よーお前何時も男鹿とつるんでるよな? 彼奴のヨメの携帯番号とか知ってるだろ?」

「知らねーッス。つか持ってないと思うっすよ」

 

 威圧のつもりか息がかかる距離まで顔を寄せてくる不良。ちけーよと内心思いながらも、とりあえず笑みを浮かべる。

 

「あの、暴力とかなしにしません? 俺、喧嘩とか嫌いなんで」

 

 と、古市の言葉虚しく殴りかかってくる不良の手首を掴み拳打を止める。

 

「は!?」

「やめましょーよ。ね?」

「づ! いだだだだ!! は、放せ!?」

 

 腕を捻り膝をつかせる古市。内心ではきんもちーと思ってる。

 

「この……っ! なめんな!!」

「………………」

 

 遅いな。向かってくる不良の拳を手を添えそらし、足を払う。浮かび上がったその不良を別の不良に向かって蹴りつけ二人揃って海に落とす。

 残り3人。腕を抑えたのはもう向かってこなさそうだし、2人か。と………

 

「何をしている?」

 

 ヒルダがやって来た。

 もう終わりだな此奴等。と、海に落とした奴等も上がってくる。その様子を眺めていると……

 

「よぉし動くな!!」

「は?」

 

 不良の一人がヒルダにナイフを向けていた。ヒルダは、気絶しているのか?

 

「何しやがった………が!?」

 

 頭に走る衝撃。振り返れば、警棒を持った不良。

 

「ってえな!!」

 

 再び振り下ろして来た警棒を受け止める。と、全身に広がる激痛。

 

「ひゃは! ザマア…………あ?」

 

 反射的に蹴りを放つと、男は遠くまで飛んでいき海に落ちる。

 

「く、くそ!!」

 

 と、別の不良が何かを向け、次の瞬間目と鼻と舌に激痛。

 

「ぐぇ、ごほ!?」

「お、俺達はヨメ連れてくぞ!」

「お、おう! はは、目が見えなけりゃ………!!」

 

 取り敢えず向かってきた奴は堤防にめり込ませ、ヒルダの後を追う。霊力………ヒルダ曰く、古市が悪霊だと思っていたのは正確には体を持たない下級悪魔(思い返せば師匠も悪霊ぽいものと曖昧な表現していた)なので魔力を追う。

 

「み、見えてんのか!」

「急げ急げ!!」

 

 エンジン音………車!

 手を伸ばすが、一歩遅かった。車が走り出す。そのまま全力でおうが、横から飛び出してきた車にふっ飛ばされた。

 

「う、うおお!? 大丈夫か坊主! 馬鹿野郎、急に飛び出して来るなんて…………今救急車を………!」

「救急車とかいいんで、ちょっと水貰えます?」

 

 

 

 

「頑丈になりましたねえ彼」

「まあ才能がねえわけじゃねえからな。そこらの下級悪魔いれただけで、並の祓い屋ならぼっこぼこに出来るほどの身体能力を得られるし」

「でも、あそこまで強くすると悪魔の力に頼ることはないのでは?」

「それはねえな。確かにある程度の悪魔でも未契約ならやれるだろうが、魔王の契約者の友で、一時的にも隣に立てた以上はどうしたって悪魔の力が必要になる」

 

 器は大きい。だが、まだ脆い。入り切る量に対して耐えられる量が少ないのだ。だから古市を悪魔と契約させ、器を鍛えさせるのが一番。

 

「我々の手持ちを渡してみますか?」

「最終手段だな……あの商会、正確には俺じゃなくて妻の一人が立てた奴だし、俺の意志とか全然ついでないもん」

 

 金にがめつい妻を思い出しながらため息を吐くぬいぐるみっぽいの。

 

「しかし実戦なれしてねえなぁ。今回はそれが悪い結果に出たか」

「本人は喧嘩をさける方向性らしいですからね……どうします? 適当に襲わせますか?」

「まあまだいいさ。今お前等の存在が知られて俺にたどり着かれても困る」

「精神の摩耗を防ぐために、精神を若返らせている割には考えてますよね王って」

「馬鹿にしてんのか? 俺は子供の頃から天才なんだよ。ヨップル星人語だって3歳で話せた」

 

 何故人間の子供が3歳で魔界の秘境部族の言語を覚えたのだろうか。

 

 

 


 

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