智将古市 作:蠅の王
「まったく卑怯なやつでしたね! 動揺させようとしてるのが丸わかりだっての! ねえ千秋」
「うん」
「姐さんもあんなのに引っかかちゃ駄目ですよ?」
「…………………」
「姐さん?」
「彼奴………バツイチなのかな?」
邦枝が男鹿について考える中、古市は「こんの裏切り者が!」とラジオをぶん投げる。
「なにすんだよいってーな」
「やかましい! 見損なったぞ、ヒルダさんと言うものがありながら! 他の女にまで手を出しやがって!」
「何いってんだよお前じゃあるまいし…」
と、男鹿はため息を吐く。
「お前も見たろ、あの女の強さ。ベル坊も珍しく喜んでやがった………彼奴なら、ベル坊も懐く」
故に、やってみせると決意する。必ずや邦枝にベル坊を押し付け育てさせると。情けない決意に古市は呆れた。
「誰に何を押し付けると? まったく、貴様は何時になったら坊ちゃまのミルクを忘れなくなるのだ」
と、何時の間にかヒルダがやってきていた。魔力を感じなかった。隠してきたのだろう。
その後強ければ性別関係なく懐くとヒルダの太鼓判を貰い益々決意を固める男鹿。
空気を読まず襲撃してきた
殺気の出所を追えば横一線に削り取られた校舎の壁。こんな事ができるのは、邦枝だろう。今の光景を見てなにか勘違いしたのかもしれない。
「で、男鹿よ」
親候補に会いに言い出したヒルダが先に行ってしまい、取り敢えず男鹿と2人で邦枝を探すベく校舎裏に来ていた。
「クイーンに押し付けるたってどうする気だよ? まさか渡したらそのまま懐くって? あの人お前と違って全然悪じゃねーじゃん」
「………っ!」
これは、勝手に懐くと思ってたパターンだな。多分懐いたとしても、側に男鹿がいないことに気付けば即死レベルの電撃を放つだろう。
むしろリスクが増してる気がするが、そしたら完全に懐くまで2人で過ごすとかこの馬鹿は言いそうなので黙ってよう。
「古市、男は気合だ」
「うるせーよ、要するにノープランなんだな」
思わず足が出る古市。
「馬鹿、お前女王だぞ。王! 魔王が懐かないわけねえだろ」
「それ単なるあだ名だから」
と、そんな会話をしている2人に話しかけてくる者が現れた。
「おーい、男鹿ちゃーん」
垂れ目ロン毛の男………確か、神崎と共にいた男だ。名前は夏目。
「邦枝とやりあったんだって? 何だよはえーよ、みたかったのになー」
一応は自分の大将が男鹿にやられたと言うのに、怒りは感じない。寧ろ面白がってる?
「決着はつかなかったんだって? 彼奴強ーもんな。後は東条だよなー、楽しみだなー、なにせ石矢魔最強だからなー」
「…………石矢魔最強?」
最大勢力は神崎ではなかったか……。
「ああ、連中勢力争いとか興味ねーから。でも、最強は間違いなく東条だよ」
「……………」
「……?」
男鹿が目を細め、ベル坊が何を考えているのか困惑している。と……
「男鹿辰巳…」
新しく現れたのは烈怒帝瑠の大森寧々と谷村千秋。
「ちょいとツラかしてもらおーか」
「おお」
夏目が楽しそうに笑みを浮かべる中、古市はヒルダを探す。何処行ったんだあの人……まあここに目当ての邦枝葵はいないけど………。
「あんた、邪魔なのよ」
男鹿を睨む千秋と寧々。特に興味もなく眺める男鹿。「ヴ〜」と猫を睨むベル坊。「シャアアアア!」と威嚇する猫。
「ん?」
「ヴ〜」
「フー! シャアアアア!」
「アダ! ダッ、アーダダダダダダダダ!! オアダァ!」
拳を振るい、キメ顔をするベル坊。その拳に猫が噛みついていた。
「…………」
「ベル坊ー!」
うりゅ、と涙目になるベル坊に男鹿が慌てて猫を剥がそうとする。
「でぇい! 離れろこの性悪猫ちゃんめ!」
「ミャアアア!」
「いた、ちょ! いたたたた!」
猫は男鹿へと襲いかかる。
「ちょっと、勝負」
「今それどころじゃねーよ! 泣くなベル坊! 傷は浅いぞー!」
「ヴー!」
男鹿は頭を猫に噛まれたままベル坊を連れて何処かに去っていった。
「あ、ちょ!」
残された烈怒帝瑠の2人は固まり、勝負が始まらなかったと夏目は帰っていく。
「…………えーっと」
取り残された古市は2人を見つめる。
「良かったらお茶でも一緒にどうです? 男鹿について聞きたいことがあるなら教えますよ?」
「……………」
「別にそこまで男鹿を敵視しなくても、あの馬鹿は手を出すことなんて無いと思いますけど」
「姐さんの方が問題なんだよ………」
まあ確かに、あのクソわかり易い反応だものな。でも彼女達には悪いが男鹿が邦枝と付き合う可能性は限りなく低いと思う。
「男に惚れてるって状況じゃ、下の者に示しがつかない! 「男作るべからず!」これは先々代から受け継がれてきたウチラの伝統!」
「成る程………あ、もしもし美咲さん?」
と、突然携帯を取り出し電話をかける古市。美咲? と寧々は聞こえてきた名前に困惑する。烈怒帝瑠の初代の名前が美咲だからだ。因みに苗字は知らない。
「はい、はい。じゃあ変わりますね………はい、初代からっす」
と、古市は携帯を寧々に渡した。
『えっと、なんだっけ? 男作るべからず? 私そんな事言ったっけ? いーよいーよ、そんなつまんねー掟破っちゃって』
「は、あ、あの! 初代っすか!?」
『そーでーす。私が烈怒帝瑠初代総長美咲でーす。やー、たかちんの友達に烈怒帝瑠の子がいるなんてねえ』
そのまま暫く会話する寧々。千秋は困惑しながらその様子を眺める。ていうかこの男何者?
「あっ、ありがとうございましたー!」
通話が終わったようだ。憧れの初代と話した興奮からか赤くなって息を荒げる寧々はそれでも丁寧に携帯を返してくれた。
「なんであんたが初代の番号知ってんのよ」
「昔からの知り合いなんで。他にも雫さんとか春香さんの番号も持ってます」
たかくんと呼んでくれるお姉様達は、昔よりもきれいになっていて、古市もたまに会う。
「初代を支えた烈怒帝瑠の両翼!?」
「えっと、まあ取り敢えずこれで男鹿に突っかからなくなるなら、俺とも仲良くしません?」
「……それはそれ、これはこれよ!」
と、寧々が叫んだ。まあそうだろうな、と古市も思う。チームルールで恋愛がオッケーになるのと憧れの人の恋路を応援するのは別の話だ。
「でも……悪いやつじゃないのかも」
「千秋!? あんたまで何言ってるのよ!?」
「そーっすね。男鹿は別にいい奴ではないっすよ」
男鹿はどちらかと言うと悪人に近いだろう。喧嘩好きだし。
「そうだぜ」
と、唐突に響く第三者の声。千秋が振り返るよりも早く、古市が肩を掴み引き寄せ振るわれたヌンチャクを受け止める。
「………っ!」
ちょっと赤くなってる。鍛えてよかった。
「ちっ、男鹿の腰巾着が………」
「お前ら………MK5!」
現れたのはMK5。ヌンチャクをふるったのはスキンヘッドの茶藤。ハートのペイントを入れた嶋村が改造エアガンを放つ。
「っ!!」
千秋を抱えたまま躱した古市だったが、細身の大男がライフルのモデルガンで頭を叩き………
「…………!?」
「空気読めよ」
片手で受け止められ、握り砕かれる。
「な!?」
そのまま顎を殴られ2階の窓から校舎の中に包み込むMK5中田。中田よりも大きく、横幅もがっしりした武宇がタックルを放つが、片手で止められ拳を叩きつけられ地面に埋まる。
「こ、こいつ!? ただの腰巾着じゃ……! クソ、引け!」
踵を返した嶋村の頭を掴み地面に叩きつけ、改造モデルガンを奪いリーダーの碇の足を撃つ。また後ろから不意打ちしようとした茶藤の指を撃ちヌンチャクをすっぽ抜けさせると奪い取り顎を叩く。
脳が揺らされ気絶。ころんだ碇が立とうとするが、その背中を踏み付ける。
「ヒッ、く、くそ………聞いてねえぞ、こんなに強いなんて………」
「そりゃ、強いなんて噂流されたら名を挙げようとあんたらみたいのが集まってくるからな。だから、黙ってて貰えませんかね先輩?」
ミシッと踏み付ける力を強くする。
「俺がそこそこ喧嘩できるってこと、噂にしないでほしいんすよ。気絶した連中にもよおく言い聞かせてもらいます?」
「わ、解った! 誰にも言わない!!」
「………………」
古市は背中から足をどけ、千秋達に向き直る。
「んじゃ行きましょうか。あ、それと、えっと…………千秋さん、突然掴んですいません」
「あ、うん……」
「でも超いい匂いでした!」
千秋の拳が古市の頬に叩き込まれた。
「………キモい」