智将古市 作:蠅の王
「一番の重症は頬だね」
「…………………」
保健室にて古市の手当をしながら呟く寧々。千秋は寧々の言葉にスッと目を逸らす。
「確かにキモかったけどさ」
「………いえ、すいませんでした。結果として助けられたのに」
「私達だけじゃなくて、姐さんもね」
「まあ、あのままじゃ男鹿とやり合ってたかもしれませんしね」
寧々達は他のメンバーに男鹿に話をつけに行くと言っていた。その状態で2人が闇討ちされれば、男鹿のせいだと思いぶつかりあったことだろう。
寧々は邦枝が負けるとは思わないが、それでも男鹿相手ともなれば疲労し、そこをMK5に狙われる可能性を危惧する。というか、MK5の目的もそれだろう。
「裏で糸引いてんのは、多分美破ね。あのオカマ野郎!」
「オカマも居るんすね、うち………」
キャラが濃いのが多いなこの学校。男鹿とか一周回って普通な気がしてきた。
「腕の方は本当に大丈夫なの?」
「問題ないっす」
痣にもなっていない。人間鍛えればそこそこ強くなれるのだ。
「………あの、ありがとうございました」
腕の傷は自分をかばったせいだと思ったのか、千秋がお礼をいってくる。と、その時………
「!? 寧々さん!」
保健室のドアが開き女子生徒が入ってくる。保健室にいた寧々を見て思わずといったふうに叫んだ。その背にはボロボロの女子が担がれている。
「てめぇ、男鹿の取り巻きの!」
「ん?」
「あんたら、何があったの?」
「っ! 男鹿です、男鹿がうち等のメンバーを………!」
「……………は?」
目撃証言は男子生徒のことだが、これも美破の仕込みだろう。寧々達の襲撃が失敗し作戦を切り替えたのか。
「おっと、ここは通さねえぜ!」
「確かにてめぇは俺達一人一人より強い」
「だが、俺達はチームなんだよ!」
「教えてやる、絆の強さをな!」
ドゴゴゴゴォ!
「急ぎましょう、寧々さん、千秋さん!」
「あ、うん………」
「強い……」
碇を除いたMK5が壁にめり込んだ。その惨状に寧々と千秋は引いていた。
「男鹿!」
「葵姐さん!」
「姐さん!」
屋上に飛び込んだ瞬間、邦枝の大技が放たれ屋上が揺れ砂埃が舞う。コンクリートが抉れている。
「どういう威力だよ………ヒルダさんか」
「寧々、千秋? それに、あんたは男鹿の………」
「姐さん! うちのもん襲ったのは、男鹿じゃないっす! 恐らく…………」
「あら、見張りはなにやってたのよ」
と、寧々の言葉を遮るようにオカマが現れた。恐らく彼奴が美破だろう。隣の碇は古市を見て目を見開き、美破に何かを言おうとして固まる。
「んふふ、あんたが男鹿の連れ? 可愛いじゃない」
「あ、すいません俺普通に女が好きなので」
「私が乙女じゃないって言うの!?」
乙女ではないだろう。どうみてもオカマだ。
「ふん、でもあんたの寄生先の男鹿も邦枝にやられちゃったわよ? 新しい寄生先が必要なんじゃないの?」
「男鹿が………? 解ってねえな、あんた」
「あ?」
ドゴォ! と男鹿にとどめを刺そうとした碇が吹き飛ばされる。
「人がせっかく我慢してるのに、邪魔すんじゃねーよ」
吹き飛ばしたのは男鹿だ。美破の後頭部を掴み、床に叩きつけた。直径2メートルは凹んだ。
「……なにを、してくれてんのよこのボケがぁぁ!」
「おお、流石卑怯でもクイーンを狙うだけある」
男鹿のあの一撃で意識を失わないなんて、と感心する古市。
「てゆーかなんなのあんた!? さっきまでボコボコにやられてたじゃない! 空気読みなさいよ! あんたの出番はもう終わりなの! こっからは
めこ、と再び床に叩きつけられる美破。寧々も千秋も邦枝もドン引き。古市も容赦ねーと引いてる。でも男鹿にしては言葉を聴いていたほうか、とも思う。
「うーん、何言ってんだ? このオカマ」
「ちょっとおおおあ!! ひどいじゃないの! あんた悪魔!? さっきから乙女の顔を容赦なくガンガンと!!」
「タフなやろうだ」
また叩きつける。
「ごらああああ! まだ人が話してる途中でしょうが! てかさっきからその赤ん坊の顔ムカつくんですけど!?」
ベル坊は何度も顔を叩きつけられる美破を見てニヤニヤと笑っている。流石悪魔の王の血筋。
「うるせー」
「あの、そのへんに………」
はめられた邦枝すら同情する男鹿の行動。でも流石に強くは止めなかった。
そのまま美破はコンクリートに犬神家のように沈み、キャッキャッと喜ぶベル坊。
「ふー、やっと静かになったね」
「………………」
全員引いてた。ただしベル坊はとても楽しそう。
「ウィー!」
「お、ベル坊も機嫌直したな。よしよし、ちょっと血が出たぐらいでもう泣くんじゃねーぞ?」
「ダッ!」
そのやり取りに、毒気が抜かれる。男鹿はそのまま邦枝に視線を向けた。
「さて、と。じゃ、続きやろうぜ」
「──」
どう出るか、と見守る3人。しばし無言の数秒が続き、邦枝が口を開いた。
「私の負けよ」
「あん?」
「いえ、そうじゃないわ。ごめんなさい、私……なんて言ったらいいか………!?」
男鹿はそのまま笑顔でベル坊を差し出す。
「 そうか、じゃあはい!!」
「は? ………はいって?」
「あん? だってお前の攻撃耐えきったら、こいつのこと貰ってくれるんだろ?」
何だそのルール。
というか男鹿がやけにボロボロなのはあえて食らっていたからか。さっきの会話からして、そのせいでベル坊が泣きかけたようだ。
「ちょ、ちょっと待って。貰うって何? その子は、あなたの子じゃないの?」
「あん? 俺の子の訳ねーだろ。無理矢理押し付けられて育ててるだけだぜ?」
「「「??」」」
烈怒帝瑠の面々は揃って困惑する。
「え、じゃああの金髪の人は? 奥さんじゃないの?」
「全然違う」
「じゃあ一体何なの!?」
「何ってつまり、悪魔だよ悪魔」
間違ってないが、つい最近まで自分達も悪魔を空想の存在だと思っていたことを忘れてんのか男鹿は。
邦枝達は明らかに悪魔のような女という意味だと勘違いしている。子供を押し付けて育てさせる悪女とでも思っていそうだ。
「何時までくだらん話をしている」
と、男鹿と邦枝の戦いを見ていたヒルダが会話に入ってくる。
「帰るぞ。その女は親になりえん」
「え? いやー、でも…………」
まあ別に悪人でもなんでもないから当然だろう。
「さあ坊ちゃま、参りましょう」
「アー」
「帰ってお風呂入りましょうね〜」
「待ちなさい!」
と、邦枝がヒルダを止める。邦枝の中ではヒルダは子供の世話を他人に押し付ける悪女になっている。
「あなた、恥ずかしくないの? 自分の子を人に押し付けて…………」
「フン、文句があるなら腕を磨いて出直してくるんだな」
バチリと二人の間に稲妻が走ったような気がした。男鹿だけは気づかず困惑している。いいな、美女二人に囲まれて………。
「ところで古市君と寧々達はなんで一緒に?」
ヒルダと男鹿が去った後、邦枝が古市に問いかける。3人揃って屋上に入ってきたあたり、偽の情報に騙された自分と違い罠だと気付いたのだろうが3人揃って来る理由としては弱い。
「あー、彼奴等が最初に襲撃したのうち等になんすよ」
「古市が巻き込まれて、助けてくれた」
「その際古市が怪我したんで保健室に連れて行って………」
まあ千秋の拳が一番のダメージだが。
そして、保健室で烈怒帝瑠の一員から男鹿が烈怒帝瑠を襲ったと聞かされ、タイミング的にMK5だと当たりを付け向かえばやっぱり居た。
邦枝の加勢をしようとしていた烈怒帝瑠のメンバーを全員倒していたあたり、一応ちゃんと強かったのだろう。
「もっとしっかり気絶させておくべきでしたね」
「いえ、結局騙された私の責任よ。二人を助けてくれてありがとう、なにかお礼がしたいんだけど………」
「マジっすか!? じゃあ一緒にお茶でも……あだ!?」
邦枝にナンパする古市を寧々が蹴った。
「ちょーしになるんじゃないよ! だいたい、助けられたのはあたし等だろーが! 誘うならあたしらを誘いな、姐さんじゃなくて残念だったな!」
「え、誘ったら来てくれるんですか?」
「は?」
「いやー、お二人も綺麗ですし、全然構いませんよ!」
「な、きれいって………はぁ!?」
顔を真赤にする寧々を見て、千秋は可愛いと呟く。
「どうですか? 俺とデートでも」
「で、で、で!?」
「ゲームセンターなら………」
「千秋!?」
「お、良いですね」
因みに千秋は「HIME001」で、目茶苦茶強かった。格ゲーではボコボコにされ射撃ゲーではスコアに差をつけられ絡んできた不良をぶっ飛ばした数で漸く勝てた。勝てたっていうのか、これ?
で、翌日。天候は雨。
「結局駄目だったな」
「ああ、だが心配するな古市、俺は諦めん!」
「心配してねーよ」
「次の目星は付いてるしな!」
「次の目星って、東条か? 石矢魔最強の」
「おうよ!!」
気合入っているが、本当に大丈夫なのだろうか? 夏目の話では勢力争いに興味がないとのことだが………力任せに暴れ回らないとなれば、邦枝のように悪いやつではない可能性も……。
「ちょっ…待ってください姐さん! 何やってんすか!」
と、不意に聞き覚えがおる声が聞こえてきた。寧々だ。
「これくらい当然よ、私が浮ついたせいで皆に迷惑かけたんだから」
「だからって何もやめなくても………あ、ほら! 恋愛禁止は初代の言葉でなくなりましたし!」
「れ!? ち、違うわよ! 別にそのために抜けるんじゃ………!」
もう一人は邦枝。ただし足音は3つ。更に一人いる。千秋だろう。
「千秋、あんたもなにか言いなさい!」
千秋だった。
「似合ってます」
「千秋!!」
「それに、前々から考えていたことなのよ。そろそろ烈怒帝瑠を寧々に任せても良いんじゃないかって……」
「………姐さん」
「だから、勘違いしないでよね。ケジメよ!」
と、烈怒帝瑠の特攻服ではなく石矢魔の制服になった邦枝が言う。なんか色々いっていたがでも絶対恋愛できるように抜けたのが大きいと、その顔で察せられる。
「男鹿ああああ!!」
「何だようるせーな」
「畜生、なんでこいつばっかり!!」