智将古市   作:蠅の王

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中々男じゃない

 皆さんこんにちは、古市です。

 漸く夏休みに入りあの不良学校からも一時開放され、俺は今家族と南の島に来ています。

 ははは、知るか!

 だいたいそろそろ、あのむさ苦しい馬鹿ども(男鹿含む)の勢力争いにも飽きてた頃でしょ? 俺はもううんざり。

 てなわけで今回は古市貴之15才夏「アバンチュールな恋の予感」をお送りしたいと思います。

 

 などと気持ち悪いことを考えながら転がってきたビーチボールを拾う古市。手を降ってくる女子に渡そうとして、固まる。

 

 見覚えのある大きなおっさんが浮いていた。女子達も気付き慌てて逃げる中、おっさんがこちらに向かってくる。

 古市は即座にビーチボールを女子達に投げ渡し走り出した。そりゃもう全力で。

 

 色々教えてくれた師匠に対して体力づくりで山を走らせるとか鬼かよと何度も思ったが、今なら必要なことだったと解かる。

 

 転移して目の前に現れた大きなおっさんことアランドロンに対して寸前で踏みとどまり踵を返す。

 

「ふははは! 今の俺は誰にも捕まらねー!」

「あ、お兄ちゃん! どこ行ってたの!?」

 

 取り敢えずホテルの部屋に戻ってなにか武器になるものでも探そうと決めた古市だったが目の前にほのかが現れる。

 

 つい最近半年近くも居なくなっていた兄が何も言わず消えて探していたのか息が荒い。

 

「もう! 勝手に居なく………何その人!?」

 

 このままじゃほのかにぶつかる。速度を落とす古市。

 一瞬の硬直。ただし、相手は先程と違いこちらに向かって動いている。

 

「………クソ」

「カパアアア!」

 

 古市はアランドロンに飲み込まれた。

 

「…………え、お、お兄ちゃん!?」

 

 変なおっさんが真っ二つに割れたかと思えば飲み込まれ、消えた。兄とともに………何処にも、兄の姿がない。

 

 

 

■■■■■■■■■

 

 

 

「よ、古市! 市民プール行こうぜ!」

「……………」

 

 友達って、何だっけ?

 

「携帯貸せ」

「ん? おう」

「……………もしも」

『もしもし、男鹿さん!?』

 

 キィーンと耳鳴りがするほどの大声に古市は顔をしかめた。

 

『お、お兄ちゃんが! 変なオジサンに、開いて! パカって、消えちゃって! ど、どうしよう!?』

「落ち着けほのか」

『え、お、お兄ちゃん!?』

「さっきのおっさんは男鹿の知り合いの手品師らしくて、瞬間移動マジックが得意らしいんだ」

『瞬間移動マジックって……え、この距離で?』

「ほんと、不思議だよな〜」

 

 男鹿は何いってんだと言いたげな顔をしているのでシッシッと離れるようにジェスチャーする。

 

「まあそういうわけで、一足先に帰ってる。父さんと母さんにも伝えておいてくれ」

『うん……お兄ちゃん、帰ったらちゃんといるよね? またどっかに行ったりしない?』

「…………心配かけてごめんな。大丈夫だ、取り敢えずあのおっさんは一発殴っとくから」

 

 

 

 

 

「で、市民プールだったか? ちょっと待ってろ、財布部屋だから………」

 

 鍵をなくして家に誰も居なかった時の為に隠してある合鍵を取り家に入る古市。そのまま着替えて予備の財布を持ってくる。アランドロンは地面に埋まって犬神家のようになり散歩に訪れた子犬にめっちゃ吠えられていた。

 

 ちなみに市民プールの料金は古市が払った。

 

「…………なんの拷問だこれは」

「あ? なにって、夏といえばプールだろ?」

「ダッ」

「そうだな。俺も高級リゾートのプールサイドにいたはずなんだよ。なんだってこんな蒸し風呂みてえなすし詰め市民プールに来なくちゃならんのだ」

「なんかムカつくから」

「直球だな! つーかこれお前も楽しくないだろ!」

「いや、俺はほら……お前ががっかりした顔してりゃ満足だから」

 

 何言ってんだこいつ。

 聞けば古市宅に遊びに行っても誰もおらず、家族旅行に行ったと聞きムカついてたまたま通りかがったアランドロンに頼み古市を連れてこさせたらしい。

 

「………それ、お前がこっちのリゾートに来る選択肢はなかったのか?」

「はは、何言ってんだ。そんな事しても…………あっ!!」

 

 死ねよもう。

 

 

 

 

「たく男鹿の野郎………男二人でプールとか訳わかんねえよ。せめてヒルダさんがいりゃなあ」

 

 とは言いつつなんだかんだ金まで払う古市。自販機でジュースを買う。

 

「…………ん?」

「……………あ」

 

 と、隣の自販機でガコンと音がしてついそちらを向くと、見知った顔が居た。

 

「千秋ー、そっちの席座ってるわよ…………あ」

 

 千秋と寧々だ。古市は、神様に感謝した。

 

 

 

「いやー、偶然ですね〜。今日は二人っきりなんですか?」

「えぇ、まあ………てか、座んないの?」

「あ、座って良いっすか?」

「………どうする、千秋」

 

 席に座らず話しかける古市に、寧々は千秋へと問いかける。言外に自分は座っても構わないと言っているようなものだ。

 

「………構いません」

「だってさ、座りなよ」

 

 と、千秋達の許可もおりたので座る古市。

 

「あんたは一人で来たの?」

「いえ、男鹿も来てますよ。あっちで死体になってます」

「何があったの………」

「あー………俺家族で旅行行ってたんスけど、そこから無理やり連れて帰るのに使った金をこっちに来る金に使えばいいのに気付いたと言うか」

 

 我ながらうまい例えだと思う。寧々達はバカを見る目をプールの何処かにいる男鹿に向けた。

 

「あのあとオカマは大人しいっすか?」

「まあね。姐さんも鍛え直すって言ってたし、卑怯な策なんて正面から打ち破るさ………」

 

 あれ以上強くなるのか。まあ、男鹿もこれからまだまだ強くなるんだろうけど………。

 

「成仏しちゃったからなあ、師匠………」

「ん?」

「ああいえ、何でも………」

 

 小声で呟いた言葉を慌てて誤魔化す。成仏といったが、ヒルダ曰く悪霊の正体は肉体を持てない下級悪魔だから実際は成仏ではなく消滅なのだろうか?

 

「あんたも、確かに強いけど、東条ともやり合うならもう少し鍛えたほうが良いかもね。MK5なんか、束になってもかないやしないよ」

「や、戦うのは男鹿っすよ。俺、喧嘩苦手なんで」

「はあ? MK5は、一応石矢魔の中でも強いほうだよ」

「ああいえ、喧嘩出来ないんじゃなくて、あんまやりたくないんすよ………」

 

 そのせいで本来合格していた第一志望が落ちたし。そりゃまあ、小5の頃から変わらずワクワクはするんだけど。

 

「じゃあなんで男鹿とつるんでんのよ? 喧嘩嫌いなら、かかわらなきゃ良いのに」

「まあ男鹿の友達なんて俺ぐらっすからね………」

 

 と、その時……

 

「あれ〜? 古市じゃん………久し振りじゃん。相変わらず女連れか?」

 

 頬に傷のある男が数人の男を連れて現れた。

 

「知り合い?」

「…………………」

 

 寧々の言葉に、古市は男の顔をじっと見る。男はニヤニヤ笑っている。中学校の頃絡んできた高島だ。

 

「中学校の頃の先輩っす」

「おいおいなんだ、そりゃ。もっと好感度上がる紹介とかあんだろ。お世話になりまくったーとかよ」

「ひひっ。気を付けたほうが良いよー。此奴根っからのたらしだから」

「そうそう、君達の事エロい目でしかみてねーの」

「まあでも安心しな。此奴俺達に頭上がらねえから」

 

 と、寧々の肩に触れようとした手を古市が掴み買ったジュースの中身を高島の頭にジョボジョボとかける。

 

「…………てめぇ、なんのつもりだ?」

「暑いっすね。頭冷えました?」

 

 ニッコリ笑顔で答えてやる。他の取り巻きが最初に正気に戻った。

 

「てめぇこら古市!」

「何だそりゃ! ぶっ殺されてーのか!? ああ!?」

「………待てよ」

 

 古市が首にかけていたタオルを胸ぐら代わりに掴む取り巻き。それを止めたのは高島だった。

 古市のタオルを掴んできた男をどけ、高島が掴み直す。

 

「変わってねーな古市。女の前ですぐ格好つけるそのクセ。てめぇそのせいで痛い目にあったこと、まさか忘れたわけじゃねーよな?」

「………………」

 

 懐かしい。中学一年の夏、古市がデートに誘った女を高島達が手を出そうとしてそれを邪魔した古市を殴ってきたっけ。

 

「くく、傑作だったよなあ。あの時のお前」

「…………まあ、強かろうが弱かろうが……女の前でカッコつけなきゃ俺じゃないんで」

 

 ダン! と高島の足を踏み付ける古市。

 

「ぎっ!?」

「な、てめえ古市!」

「弱いくせに調子乗ってんじゃねーぞ! 男鹿が居なけりゃてめえなんて何時でもボコれるんだぞ!」

「そーっすね。俺、喧嘩とか本当勘弁なんで………逃げます。あでゅー」

 

 そう言うと古市はプールに飛び込み、高島達も後を追った。

 

「………ふぅん。中々男じゃない……ちょっと歯が浮くような台詞だけど」

「どうします、寧々さん………」

 

 一応助けようとしてくれようだが、と千秋。手をかすか、ということだろう。寧々はプールを見る。

 

「………大丈夫そうよ」

 

 人を掻き分け無理やり進もうとする高島達。高島の取り巻きが唐突に沈み、イルカ顔負けの勢いで水面から吹っ飛びフェンスを超え市民プールの外まで飛んだ。

 

「クソ! てめぇ等、何チンタラしてやがる!」

 

 プールの外に居る高島は人混みが邪魔して気付けない。携帯を取り出し何処かに連絡を取ろうとするが、ガシリとその腕を掴まれる。

 

「!? 古市………よぉし、ぶん殴られてえんだな!!」

「よっと」

 

 殴りかかってきた高島を逆に殴り返す古市。高島はプールを飛び越え向かいのフェンスを飛び越え木に引っかかった。

 

「男鹿ー、帰るぞ。ここに残ってたら高島が仲間連れてきて面倒くせえ事になる」

「めんそーれ」

「まだリゾートショック引きずってるのかよ………ベル坊」

「アウ! ダイイイ!!」

「ぎゃあああああ!?」

 

 古市が浮き輪に乗った男鹿を引き上げベル坊に頼むとベル坊が電撃を放ち、男鹿が正気に戻る。

 

「何だ今の光!?」

「すげえ光ったぞ?」

「電撃? どっかショートした?」

 

 その騒ぎに申し訳なく思いながらも人混みをすり抜ける古市。寧々と千秋と目があったので手を降ってその場から去る。

 

 

 

 

「高島? 誰だっけ、それ………」

「やっぱり忘れてんのか………まあ、お前にビビってたからな」

 

 あくまで古市が男鹿から離れたところを狙うような奴だった。

 

「古市ー!」

「お、ほらあれ………」

「…………いや、知らん」

 

 また高島が現れた。今度は目茶苦茶仲間を引き連れて。

 前だけではなく、逃げ道を塞ぐように後ろにも現れた。

 

「てめえ、さっきはどんな手を使った知らねえが調子に乗るんじゃねえぞ!?」

「た、高島さん………あれ、男鹿じゃ………」

「ああ!? ビビってんじゃねえ、こっちは西高70人以上連れてきてんだぞ! ヒヒ、西高の頭に喧嘩売ったんだ、今度はプールで5分ぐらい土下座してもらうぞ………」

「あー、古市。俺はこっちやるわ………」

「じゃあ俺こっち」

 

 

 

 

 

 5分後。

 

「全員土下座」

「「「調子乗ってすいませんでしたー!!」」」

「鬼かお前は………頭上げて良いっすよ高島先輩」

 

 古市の言葉にビクリと震える高島。

 

「いやー、でも高島先輩が西高のトップだったなんて都合がいいっすね………ここに来てない連中にも伝えてもらえます? 二度と女の子を無理やり連れてこうとするなって………」

「………!!」

 

 コクコクと何度も頷く高島。古市は肩から手を話す。

 

「じゃーな男鹿。お前のせいで家族旅行、俺だけ切り上げたんだ。明日は休ませろ」

「おー」

 

 男鹿と別れ、家に帰る古市。玄関のドアを開ける。

 

「おかえりなさいませ。ご飯にします? お風呂にします? そ・れ・と・も──」

 

 古市の部屋の壁が破壊され、現在修理中。今は業者は居ないが、きっと次の日驚くことだろう。

 玄関近くの壁も破壊され巨大なおっさんという不審者が塀に突き刺さっているのだから。




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