智将古市   作:蠅の王

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お前が石矢魔最強だ

「しかし男鹿の方に問題が………」

「ああ、坊ちゃまの成長で魔力が増え、あのドブ男に気を使った結果だ………」

 

 そりゃまた、男鹿が舐めるなと怒りそうなことだ。強がってお前の癇癪なんて豆電球だとか言いそう。

 

「君の札も中々興味深かったよ」

「うお!?」

 

 ニュッと帽子を被った妙な生き物があらわれた。桃色の髪の美少女も。あれが魔界の医者? どっちが医者?

 RPGのスライムを更に適当にしたような生き物は………魔力の流れが妙だ。本体は別にいる?

 

「私はフォロカス、よければあの札の権利を売ってくれないかね? 王熱病の応急処置に使える」

 

 と、妙な生き物ことフォロカスが降りてくる。

 

「それは構いませんけど………」

「助かるよ」

「じゃあ、取り敢えずこれが終わってからで………」

 

 こっちが医者なら……じゃああの少女はナースとか?

 

「これが人間界でのベルゼ様の家来ですか? キモ、今絶対ヒルダ姉様の太ももガン見してましたよこいつ」

 

 可愛くねえ。

 

「違うぞラミア」

 

 そうだそうだ、言ってやれ!

 

「奴隷だ」

「あー……」

「いやあんたさっき俺のこと家来って言ってくれたじゃん!! いや、家来でもないですけど!」

「騒ぐな古市。冗談だ、奴隷ではなく家来程度には思っている。ただ………」

「ただ?」

 

 結局家来扱いなのかよと思いながらも次の言葉を待つ。

 

「私は貴様の嫌がる顔が好きなのだ」

「ドS……!」

 

『いや、俺はほら……お前ががっかりした顔してりゃ満足だから』

 

 というか以前男鹿にも言われた。悪魔か此奴等。悪魔だったな、片方は。

 

 と、二発目の花火が上がる。

 東条は男鹿へと歩んでいく。

 

「話は聞いたぜ男鹿辰巳。お前、ベルの親なんだってな。どうりであの時動揺してたわけだ。なんで言わなかったんだ? まぁ良い、とにかく返すぜ」

 

 ほれ父ちゃんだぞ、とベル坊を降ろす東条。

 

「子供が心配で力が出ねーなんて言ってほしくねーからな。それとも、取り返す為に戦うほうが上がるか?」

「……………」

 

 男鹿がどんな反応を示すのか、古市は黙って見守る。

 

「どっちもごめんだね。俺は俺のために戦う。第一……」

 

 そう言いながら、東条へと歩いていく男鹿。ベル坊はまだ外界に対してなんの反応も示さない。

 

「そいつは俺のガキじゃねー。てめぇと同じで拾ったから預かってた、それだけだ。俺のとこに戻って来るかてめーにひっつくか、それはこいつが自身で決める事だ」

「………お」

 

 さぁ、と風が木の枝を揺らす。ベル坊の魔力を感じ取る古市。人間界では自力で魔力を発散出来ないベル坊の魔力が戻ったということは……

 

「アー………」

 

 ベル坊は男鹿にテチテチと近づき、足にひっつく。

 

「ベルぼ……う!?」

 

 そのまますんごい勢いで男鹿の体を駆け上がる。

 

「ダー!!」

「………ははっ」

 

 元気に叫ぶベル坊に思わず笑いがこみ上げる古市。

 

「あはっ、戻りましたね!」

「ああ……どうやら正常に魔力が流れ出したようだな。これで一安心というところか」

「うむ………」

 

 しかしあれだけのやり取りで目を覚ますあたり、本当に懐いているんだな。頭にち●こ乗っけてるけど。

 

「アーアー、ダーダー」

 

 ペチペチ頬を叩いたり引っ張たり楽しそうなベル坊。

 

「だぁー! うるせえー! 離れろ、ベル坊!」

「オー」

 

 男鹿が振り落とそうと首を振るうが全然離れない。そんな様子を見て、東条は笑う。

 

「はは。何だよ、やっぱりお前が親じゃねえか。良かったなベル!」

 

 良かったのか? 結局元に戻っただけだが………というかこの人、本当に良い人だな。器が大きいと言うか……。

 と、その時。木々で眠っていたであろうカラス達が一斉に逃げ出す。ギャアギャアと騒がしく喚き立てる。

 災害の前兆のような光景は、たった一人の人間が放つ威圧感によるもの。

 

「じゃあ、とっとと喧嘩はじめようぜ。またてめーと闘い(やり)たくてウズウズしてたんだ。さっさとそいつを降ろせ、男鹿」

「…………ああ」

 

 男鹿はベル坊を校庭の端に移動させた。

 

「いいかベル坊、こいつは一対一の闘いだ。誰も邪魔しちゃならねえ、解かるな?」

「ダ!」

「ようし、そこでしっかり見とけ………」

 

 男鹿は東条へと振り返り、「いくぞ」という掛け声で2人同時に飛び出す。

 

「はっ! こりねーな! また馬鹿正直に力比べか!?」

 

 東条が男鹿を殴り飛ばそうとして、男鹿がその場で背を向ける。一瞬の硬直……男鹿の裏拳が叩き込まれる。

 そのまま連続して殴る男鹿。とどめとばかりに飛び蹴りを顔面に食らわせようとして、東条は頭で受けた。

 

「………まじかよ」

 

 そこらの不良なら反応できたとしてもそのまま吹き飛ばされる。それを頭で受け止めるなんて…。

 

「良いなぁお前。やっぱ最高だ!!」

 

 東条の拳がガードした男鹿を吹き飛ばす。そのまま仕返しとばかりに蹴りを放ち、拳を放つ。

 まるで猛獣のようだ。

 

「調子に、のんなボケ!」

「お……」

 

 男鹿の反撃に東条が膝を付く。男鹿の手には、掌からはみ出し輝くゼブルスペル。

 

「大きい………」

「ん?」

 

 何時の間に移動したのか、ラミアが巨大なゼブルスペルに驚いて最後の煙火筒を倒す。しかも男鹿の方に……。あと火がついてる。

 

「男鹿!!」

 

 放たれた花火。人の体など容易く粉々にする爆薬を、男鹿はゼブルスペルが浮かんだ右手で受け止め、男鹿の背後の地面に炎のゼブルスペルが刻まれる。

 

「………なんじゃそりゃ」

「すげえな、何者だお前………」

 

 男鹿は無言でゼブルスペルを見つめ、ベル坊を睨む。

 

「ベル坊!」

「ニョ!」

「てめぇ、邪魔すんなって言っただろ。聞こえねーのか、とっとこいつを引っ込めろ」

 

 男鹿に睨まれ困惑するベル坊。ベル坊からすれば手助けでも、男鹿からすれば横槍だからだろう。

 

「てめぇふざけんなよ。俺が負けると思ってんのか? 負けねえよ、絶対」

 

 真っ直ぐベル坊の目を見る男鹿。ベル坊も男鹿の目を見つめ返す。2人にしか解らないやり取りだろう。

 

「ちょ! あんた何言ってんのよ! バッカじゃない!? 誰のために私達がここまで来たと思ってんのよ! せっかく繋いだリンクをまた切るなんて許さないからね! だいたいあんたさっきまでボッコボコにされてたじゃない! 大口叩くんじゃないわよ!」

「……誰だ?」

 

 ギャイギャイ騒ぐラミアに東条は不思議そうな目を向ける。

 

「アンタが坊ちゃまの力無しで勝てるわけないでしょ!?」

「やかましい」

 

 妹のほのかにたまにやる程度の全く痛くない力加減でラミアの頭を叩く古市。

 しかし、あんな男鹿を見るのは何時以来か………。

 

「何すんのよ! この、くの!!」

 

 シュッシュッと拳を振るうラミアだが頭を抑えられて届かない。

 

「男鹿とベル坊の関係に、外野が口出しするもんじゃねえよ。特に、今の二人のな…………」

 

 そう言って男鹿とベル坊に視線を戻す古市。

 

「何度も言わせんなベル坊。こいつは俺の闘いだ、お前が水差していいもんじゃねえ。それにな………こんなもんがなくても、俺は何処にもいきゃしねーよ」

 

 そう言って再び東条に向かい歩いていく男鹿。その手からゼブルスペルが消えていく。

 

「………馬鹿な、そんなことがあり得るのか」

「ふむ、これは予想外」

「魔力の流れごと断ってますね。ベル坊にはリスクしか無いのに………」

「つまり、今の二人には契約を超えた信頼関係が築かれつつあるということ」

 

 蝿王紋(ゼブルスペル)と言えば、東条の肩のあれは何なのだろう?

 古市の魔力感知をすり抜けるあたり、ただの入れ墨? 魔力を隠しているなら模様ごと隠せば良いのだから十中八九そうだろうが、東条はどこであの模様を知った?

 

「………さっきの紋様。なるほど、どうりで強いわけだ」

「あ?」

「なんでもねえ、ただの独り言だ。決着をつけよう」

 

 やはりなにか知っている? 男鹿の他にいるのか、王家の契約者が………。

 まあ、今はどうでも良いか。

 

「ふぐ!」

「いで!?」

 

 ラミアが手に噛みつき、拘束を解かせる。そのまま腹に頭突をかましてきた。男鹿と東条も殴り合う。

 馬鹿みたいな正面からの殴り合い。どっちもフラフラだ。だと言うのに、何処からそんな力が出るのか二人とも倒れない。

 

「だがな……勝つのは俺だ!」

 

 東条の飛び蹴りがまともに入る。あれだけダメージを負ったうえでの一撃。東条本人も含め、誰もが東条の勝ちを確信する。ただ一人を除いて………

 

「ほんと、タフだよな………」

 

 古市が呆れたように笑う。男鹿は東条の背後に回り込み、腰に手を回し持ち上げ、勢いそのまま地面に叩きつけた。いわゆるスープレックスだ。

 

「やったか………?」

「男鹿が、東条を……?」

 

 その場で腰を落とす男鹿。倒れた東条は、立ち上がらない。

 

「………はは! やった、男鹿が石矢魔てっぺんとりやがったああ!」

「ダーイ!」

 

 古市とベル坊が嬉しそうに叫ぶ。邦枝も、男鹿を見て安堵したように微笑む。

 

「……何故だ」

「あ?」

「ん?」

 

 立ち上がれない東条が不意に呟く。

 

「赤ん坊と言葉をかわし、あの紋様が消えてから、お前の拳が重くなった。そんなはずはねー…あれは最強の証だ! ()()()()()強くなるなんてありえねー!」

 

 やはり東条は、何処かで魔王の契約者と会ったことがあるのか?

 

「何言ってんだか知らねーが、俺は彼奴に負けねぇって約束したんだよ。それだけだ………」

「…………約束か。フッ、守るものの違いか」

 

 男鹿はベル坊の下へと歩いていく。

 

「……勝ったぜ」

「ダ!」

 

 ベル坊は目を輝かせ男鹿に突っ込む。ボロボロの男鹿はふっ飛ばされるも、ベル坊を受け止めた。

 

「邦枝先輩は良いんすか、飛び付かなくて」

「な!? 別にしないわよ! 彼奴が勝ったんだから、それでいいの…………それに………」

 

 と、邦枝は顔を伏せた。

 

「今行っても、邪魔にしかならないでしょ?」

 

 めっちゃ乙女な顔をしていた。そのまま邦枝はさり、千秋と寧々も続く。

 

「…………俺も帰るか」

 

 その前に少し聞いておくべきことがあると、東条に近付く古市。

 

「東条さん、質問いいですか?」

「あん?」

「東条さんの肩のマークについてなんですけど………」

「……昔憧れた男が居た。こいつはそいつを真似て、その人みたいになりたくて入れた入れ墨だ」

 

 それが男鹿以外の契約者か。ベル坊の父親か、いるかは知らないが兄姉? 王位継承権とかで男鹿と戦うことになったりするのだろうか?

 

「あの時、お前の拳に光る紋様を見て思い出したよ。ああそうだ、彼奴もそうだった………彼奴もそうやって信じられないことをやってのけた。お前は俺と違う、本物だってな……男鹿。お前が石矢魔最強だ……もうこの学校は、お前のもんだ」

「…………よし男鹿、俺は避難するから、腕が吹っ飛ぶ前に何か殴れよ!」

 

 と、古市は逃げ出した。

 

「あ、おいまて古市! お前これ何か知ってんのか!?」

 

 男鹿の右腕は破裂寸前の風船のように膨らんでいた。歪んた形のゼブルスペルも現れている。

 

「ベル坊が興奮して魔力が暴走してるんだ! なんでも良いから殴れ! じゃ!」

「あ! クソ、一人だけ逃げやがってええええ!!」

 

 

 

 

 轟音に振り返る寧々と千秋。

 

「今のは凄い花火でしたね〜」

「いや本当、勝利の花火にしては派手過ぎますって」

「うお!?」

「!!」

 

 何時の間にか古市が居た。花火の爆発から逃げてきたのだろう。

 

「あ、男鹿は無事ですよ。それよりせっかくなんで祝勝会でもしません?」

「悪いけど疲れてんだ。一人でやんな」

「…………」

 

 千秋もコクコクと頷く。邦枝は祝勝会と聞き男鹿もくるのかしら、とか考えている。分かり易い。

 

「ちぇ〜………じゃあ俺は男鹿を回収してきますんで。いや〜、街が吹っ飛ばなくてよかった」

 

 古市はそう言うと学校の方に向かって走っていった。

 

「なんだかんだ彼奴が一番元気ね………」

「そうですね」




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