智将古市 作:蠅の王
あたりに広がる瓦礫の山。その山の一つの上に立つ一人の男は、その破壊の跡を見て笑う。
「流石は、王家の契約者と言ったところか………」
男の姿は、夏の陽炎のように消えていた。
「…………ん?」
「どうしたの〜、たかちん?」
「いえ…」
フォルカスと共に美咲のマッサージをしていた古市は不意に顔を上げる。
一瞬だけ魔力を感じたような? 気の所為と言えば言ってしまえる程度。方角も石矢魔だし、残留魔力を感じだったのだろうか?
「たかちんたかちん、もうちょい上」
「はあい美咲さん!」
と、速攻で頭の中から疑問を消す古市。
「そう言えば、俺達の学校壊れたけどどーすんだろ?」
「えー、そりゃ学校側がなんとかしてくれるんじゃないの? 前に私の友達の学校が燃えた時も暫く全員別の学校に通ってさ〜」
友達の学校に何があったのだろうか?
「ま、何にしたって夏休みが終わってからでしょ〜」
「うむ、帰ってきたか…」
と、ヒルダがキッチンから出てくる。串に刺した生の食材が乗ったお盆を持っている。
「では始めよう。坊ちゃまの全快祝いだ…………」
「美味いっすね、これなんの肉?」
「地獄血吸いヒルよ」
男鹿家の庭でバーベキューを行う。古市は食ったことがない肉に舌鼓をうちなんの肉か尋ねるとラミアが得意げに答えた。王族の快気祝いだし、高級食材なのかもしれない。
「ヒルダ姉さん! 花火、花火!」
ラミアは東条の花火を見て花火にハマったようだ。それを見た美咲が浴衣を持ってくる。
「……良いものですなあ。金髪に浴衣」
「ぐっとくるよね」
古市と男鹿の父はウンウンと頷く。鮮やかな花火の光に照らされる浴衣姿のヒルダはそれだけ美しかった。嫌がる顔が好きと言ってた女? 別に問題ない。
「古市ー!」
と、ヒルダと何やら話していた男鹿が古市に話しかけてきた。
「見ろ! すげーぞ、ベル坊が成長して自由になったんだよ! こーんなに離れても………」
「アゥ………」
男鹿がベル坊から離れるように走り、ベル坊の魔力が高まる。
「だい………ぎゃあああああ!!」
「凄いぞ男鹿! 15m8cm!! 8cmも延びてる!」
古市は黒焦げになった男鹿にそう声を掛けた。
「あれ、アキチ〜!」
シャワシャワと蝉の声が喧しく陽炎の立ち上る道路を汗だくで超え、熱気の代わりにクーラーの冷気、蝉の声の代わりにゲームの音が響くゲームセンターで花澤由加は千秋を見つけ抱きつく。普段ならすぐに剥がされるのだが、今日の千秋は何やら反応が鈍い。
「あれ、どうしたんすかアキチー?」
「…………おじさんが、割れた」
「夏の暑さにやられたんスか?」
「で? 今日はまたどういうつもりだ………」
「ベル坊の特訓に付き合えよ」
「ふざけんな! せっかくのゲーセンデートを………!」
突如山に連れてこられた古市は流石に今回ばかりは怒った。
「アイダブ! ウッウ〜!」
「ほら見ろ古市! ベル坊もこんなにやる気なのに、お前だけ帰るつもりか!?」
「………で、特訓てのは?」
ベル坊がセミファイナルにビビり電撃を放ち、キレた男鹿が虫嫌いを治すために山に来たらしい。ちなみに山の名前は
「早速いろんな虫捕まえてきてくれ」
「死ねよもう………」
「ダゥ、ウ〜……」
ベル坊は「セミの野郎、あとちょっとで勝てたのに」とか言ってるし………。
「たく、取り敢えずクワガタは危ないからカブトムシと鳴かない雌のセミな……」
「ア、アウ!」
やってやらあ! と気合十分なベル坊。古市は山の中へと消えていった。
そして目が白いアルビノの激レアカブトムシを捕まえ戻ったら、男鹿の野郎は古市の事を忘れ帰っていた。
「いやー悪い悪い、子育て仲間の青井と話が弾んでムカつく爺まで現れて、すっかり忘れてた。ま、なにはともあれおかえり」
「ただいま!」
古市の拳が男鹿の腹にめり込んだ。
ちなみにベル坊はセミに勝てたらしい。
「ほのか〜、なんか買ってやるよ。買い物行こうぜ」
「え、お兄ちゃん? どうしたの急に………」
「バイト代が入ったからな………」
フォルカスから送られた報酬。人間界にも存在する魔界産の宝石類を売り得た金。最新式のゲーム機を買っても尚余る金でほのかに何かを買ってやることにした。
「えへへ〜、じゃあ何買ってもらおうかな〜」
服とか、髪飾りとか、或いは高くて手が出せないスイーツとか………。着替えてくる、と部屋に戻るほのか。
「わたくしが送りましょうか?」
「寝てろ」
「お兄ちゃ〜ん、はやくはやく〜!」
服、髪飾り、靴と来て、今度はフードコートに向かうほのか。我が妹ながら元気な事だ、と古市は微笑む。
「おいほのか、あんまり走るな」
と、荷物を持ちほのかを追いかける古市。と……
「あ………」
「ん? あ、寧々さん………」
不意に聞き覚えのある声に振り返ると寧々が居た。制服や特攻服ではない、私服だ。髪も下ろしている。
「あら、寧々の知り合い?」
そう声をかけてきたのは寧々にそっくりな美女。
「おお……大森先輩のお姉さんですか? おきれいですね!」
「あらあら、お姉さんなんて照れちゃうわ。はじめまして、寧々の母です」
「母? お若いですね」
「あらあら……」
「お兄ちゃん! なに立ち止まってるの!」
と、ほのかが戻ってきた。寧々達を見てさっと古市の背中に隠れる。
「あら、妹さん? かわいいわね〜」
「お、お兄ちゃん……この人達、誰?」
「学校の先輩とその母親。あ、改めまして。古市貴之です、大森寧々さんにはお世話になっています」
「まあ………寧々ったら、男の子の知り合いが居たなんて教えてくれればいいのに」
「マ、ママ! 違うから、そういうんじゃない!」
寧々さん、母親のことママって呼ぶのかと古市。
「寧々がどうしてもって言うけど、不安だったの。貴方みたいなしっかりした後輩がいるなら、噂程じゃないのかしら?」
石矢魔の事だろうか? もしかして寧々は自分がレディースであることを黙っている?
「これからも寧々をよろしくね」
「はい! 任せてくださいお母さん!」
「………………」
やはり不良であることを隠しているのか、寧々は余計なことを言うなと睨むばかり。
「でも、若いのに髪を染めるのは良くないわよ?」
「あ、これ地毛です」
「そうだったの? ごめなさいね、とってもきれいな髪ね」
「お兄ちゃん、早く行こうよ………」
と、ほのかが古市の腕を引っ張る。古市はおう、と応えようとして不意に止まる。
「お兄ちゃん?」
「あ、そう言えば大森先輩が欲しがっていたあれがあっちに売ってたんですよ!」
「は? ちょ、あんた何を………」
「いきましょう! ほのか、先にフードコートで席取っといてくれ!!」
「あ、ちょ! お兄ちゃん!?」
寧々の手を引いて走り出す古市。後に残されたのは困惑するほのかとあらあら、と何処か楽しそうな寧々の母。
「ふふ、あの子が挨拶に来るのは何時かしら?」
「ちょっとあんた! どういうつもりよ!」
駐車場まで移動し、寧々が古市の腕を振り払う。先程と打って変わって人の気配のない薄暗い駐車場。ここにつれてきて、何をするつもりかと警戒する。
「すいません、標的が俺から俺『達』に変わったので………」
「はあ? …………!!」
一瞬訝しむも、直ぐに振り返る寧々。その表情は険しい。
そして、ゾロゾロと現れる不良達。石矢魔の生徒ではない。
「ひひ、烈怒帝瑠四代目の大森寧々か……」
「こりゃ大物も連れたぜえ」
「俺憧れてたのに、結局顔かよ!」
「けけけ。なら攫っちまえば良いだろうが」
「………なんだいあんたら」
寧々は下卑た視線を送ってくる男達を睨みつける。
「へっ、強がった所で知ってんだぜ? あの天下の不良校石矢魔がたった一人の一年に敗れたってよ!」
「そんで、その一年に常にひっついてる腰巾着がいるってのもな………」
「かわいい顔してるんじゃねえか。もしかして女だったり?」
「…………寧々さん、今日武器は?」
「持ってきてるわけ無いだろ」
「………あれは?」
と、古市が視線を向けるのは鎖を持った不良。
「長さが足りないけど、まあこの程度の連中には十分だね……」
「じゃ、取ってきます」
と、古市は駆け出す。途中邪魔な不良達を蹴り、殴り、吹き飛ばす。
「な!? この!!」
慌てて鎖を振るう不良。その鎖を掴む古市。男は鎖を腕に巻き付けていたので、古市が鎖を振るうと投げ飛ばされた。
「な!? ただの腰巾着じゃなかったのか!?」
「クソ、女だ! 女を狙え!」
「………ああ?」
自分に近付いてきた不良の顔面を殴る寧々。武器がなくとも、この程度の連中にはやられはしない。ただ、数だけは厄介だ。
「寧々さん!!」
古市が投げた鎖を受け取る寧々。そして…………
「あ、お兄ちゃんおっそい!」
「悪い悪い、ちょっと混んでてて………」
ちなみに『欲しがってたもの』として古市が買ったのはヘアゴムだ。寧々は今何時もの髪型になっている。
「もう、ちゃんとしてよねお兄ちゃん!」
「ごめんて………ほら、これやるから…」
と、ぬいぐるみを取り出す古市。ほのかはむくれながらも受け取った。
その頃の駐車上。
ナンパに成功した男が「俺の車やべえから」と女を駐車場に連れて行く。うまく行けばホテルに、などと考えながら駐車場を進み……
「なにあれ、やばーい!」
「だろ、俺の車………やべー!!」
車には人が突き刺さっていた。