魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第十一話

「う~ん。やっぱりエンジニアが足りないのよねぇ。」

 

生徒会でのいつもの昼食。

このメンバーが集まっての会話はやはり、今一番の行事である九校戦のことになる。

機材や必要な備品の準備に車の手配、そして選手となる生徒の選出と本当にこの時期は忙しい。

まぁ、ある程度のことはどうにか決まっているのだが現在真由美の頭を悩ませているのは口に出したようにエンジニアのことだった。

 

選手については前から種目もわかっているし、それに即した部活に属している者や実技の優秀な生徒を選べば問題はない。

だが、どちらかというと実技に重きを置いている一高においてエンジニアを確保するのは思っている以上に難しい。

去年もどうにか確保したという形だったため、当時の三年生が抜けた枠を埋めるのが予想以上に困難を極めていたのだ。

 

「う~どうしよう・・・」

 

ぐたりと机に突っ伏して悩む真由美の姿を見て、達也は無言を貫いている。

ここで何かを言えば矛先が自分に向きかねないと思っているからだ。

自分からやっかいごとを抱える気はないので、出来れば早々にこの場を去りたいと思っていた。

達也の考えに気付いていたので楓も深雪も何も言わなかったのだが、そう簡単に達也の思い通りに事は進まない。

 

「あ、なら司波君に頼むのはどうでしょうか?」

「・・・・その手があったぁ!!!」

 

弁当も食べ終わったし、帰るのはいいタイミングだと立ち上がったところであずさがついに言ってしまったのだ。

生徒会室でたまに自分のCADを調整している姿を見ているし、深雪と楓のものを調整しているのも達也だと聞いていた。

ならば、選手として深雪が参加するのだし問題ないのではと考えたのだ。

同じように考えが至った真由美は、天恵だとばかりに立ち上がって達也を見る。

 

「私もお兄様に見ていただければ安心です。」

 

どうにか回避を、と粘ろうとしたが思わぬ裏切りというか真由美の援軍を深雪がしてしまったためすぐさまチェックメイトとなってしまった。

可愛い妹にそう言われてしまえば、達也にはそれ以上の反論は不可能だったのだった。

その様子を無言で見ていた楓は、相変わらず深雪に甘いなぁと思いながらくすくすと笑っていた。

思った通りの展開になったと人事のように傍観していたのだが、ふと真由美と視線が合う。

 

「とういわけで、楓も救護班として同行よろしく」

「え?」

「今年は絶対一緒に行くんですからね!」

 

にっこり笑顔で言われ、今度は楓が固まってしまう。

まさか自分にも矛先が向くとは思っていなかったので、反論の言葉さえ口に出来ない。

去年の九校戦は、一年生だったこともあって楓は全くの不参加だった。

 

真由美には手伝いだけでもとお願いされたのだが、その時の楓はまだ椎名の仕事の多くを抱えていたため手を離すことが出来なかったのだ。

ことのほか真由美は去年一緒にいけなかったのを気にしていたようで、今年は拒否権なしだとその笑顔が言っていた。

 

まぁ、去年よりは仕事も任せられているし負担も少ないから大丈夫か、と楓は表情には出さず頭の中で夏の間の予定を立てる。

 

「了解。私も今年は参加しましょう!」

 

問題なし、と判断した楓はいい笑顔で真由美に答えたのだった。

だが、楓について問題はなかったのだが達也については問題が起こってしまった。

というより、ここでも一科と二科のくだらない壁である。

二科生である達也をエンジニアとして参加させることを、無駄にプライドの高い一科の何人かが不服を申し立てたのだ。

 

やれ成績がとかやれ実力がなどと言っているが、学科の成績は文句なしのトップだし実力だって風紀委員の活躍を知らないはずもないのだから本当にただの当てこすりだ。

聞くに耐えない罵声に我慢出来ずに楓が声を上げようとしたタイミングで、十文字が文句があるのであれば実際にテストしてみようと提案した。

これにも誰がCAD調整を受けるかひと悶着があったが、桐原が受けることで収まった。

彼が部活勧誘週間で達也に捕まったのは有名なことなので、桐原なら厳しい目で見るに違いないと一科の生徒も納得したのだ。

 

結果はプロ並みの(実際にプロなのだが)プログラミング能力と違和感を感じさせない調整力を示した。

調整が苦手な人間は達也の凄さを理解出来ていなかったが、技術を少しでも齧っているものにはわかったようで反対の声が幾分と減った。

そこに服部の一言が大きく影響した。

 

「肩書きに関わらず能力的にベストなメンバーを選ぶべきです。」

 

あの服部の言葉とは思えず、誰もが驚いた表情を浮かべていたが彼の言葉を否定出来るものもいなかった。

事実技術者が根本的に不足しているのは誰もが知っていることであり、学校の威信をかけた大会を前につまらないプライドなど必要ないとわかっていたのだ。

気まずそうに最後まで反対していた生徒が目をそらしたのを見て、十文字が達也の代表入りを決定した。

とりあえず一件落着となったところで、楓は服部の隣に何気なく近寄って小さな声で囁く。

 

「ありがとう、服部君」

「え?」

 

嬉しそうな笑みを浮かべて礼を言った楓の意図が理解出来ず、服部は問いかけようとしたが、楓はそのまますり抜けていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「許可。明後日までに具体案を提出させて。」

「却下。話にならない、やり直し。」

 

楓は机の上に山のように積み重なっている大量の書類を流れるような早さで目を通し、次々と指示を出していく。

許可のトレーにサインまたは印を押したものを納め、没の書類については机の下の箱に無差別に投げ込む。

めまぐるしく仕事を続ける楓の背後は外の景色が丸見えになる鏡張りで、澄み渡った空と競い合うようなビル群がよく見えている。

景色からしてビルの40階くらいであろう部屋は、椎名家のメイン事業を担う会社の社長室だった。

 

「何、この経理書。計算間違ってるわ。」

「こんなの次のプロジェクトで提案出来るわけないじゃない。」

 

一瞬しか見ていないように見えても、次々不具合点を見つけて目の前に立っている女性秘書である久我山に押しつける。

渡された久我山は書類を隅々まで見て、やっと楓の言う不具合を見つけることが出来た。

高校生とは思えない楓の高い処理能力に、久我山は何度見て感嘆してしまう。

最初にあの無能社長(これは一族の総意)を押し退けて地位についたのが、当時まだ中学生の少女だとわかった時には目眩がしたものだ。

あの社長のせいで経営は傾き、倒産するのも秒読みかと次の就職先を考えなければと悩んでいた当時が懐かしい。

 

「社長、お茶をどうぞ。」

「ふう、ありがとう。」

 

大量にあった書類も残るは今手に持っているものだけになったところで、休憩のためのお茶を差し出す。

別に書類が溜まっていたのは、楓が仕事をさぼっていたとかでは決してなく、学生を本業とする彼女が仕事に当てられる時間が少なすぎるのが原因だった。

これでも秘書や幹部の人間が仕事を分けて極力減らしているにも関わらずあの量なのだから、どれほどこの会社が忙しいかわかるだろう。

新しい企画の発案、プロジェクトチームの立ち上げ、舞い込む業務提携の話と、今や椎名グループの商品は各方面で引っ張りだこだ。

それがこのまだ成人もしていない少女の手腕だと言うのだから、才能というものはあるところにはあるのだと思ってしまう。

 

コンコン

 

「はい。」

「姉上、失礼します。」

 

最後の書類もガコンとトレーに入れたところで、社長室の扉がノックされた。

一応まだ名目上は前社長が就いていることになっているので、楓が出社している時に訪ねてくる人物はかなり絞り込まれる。

椎名グループを動かしているのが楓だと知っている人間、今回訪ねてきたのはその中の一人である楓の弟清貴だった。

 

「清貴、どうしたの?」

「あの、姉上にこちらを見ていただきたくて・・・」

 

三つ下の彼はまだ少年のあどけなさの残しており、目元が少しばかり楓と似ていた。

最近成長期が始まっているらしく、久しぶりに会った清貴の身長が一気に伸びているのがわかった。

そんな彼の手に持っているのは、先日楓が彼に任せていたプロジェクトの報告書らしいことがわかった。

楓が出社していると知って、急いで報告に来たらしい。

姉弟ではあるが、現在楓は司波家に住んでおり、清貴は椎名本家に住んでいるため普段はあまり顔を合わせられない。

だからその機会を逃さないようにしているのだ。

 

「・・・良く出来てるわ。期待以上よ。」

「っ!!」

 

報告書を読みながら、弾き出された結果を確認した楓は優しい笑みを浮かべて清貴を誉めた。

清貴は姉に誉められて、最初は不安そうに揺れていた瞳を喜びに輝かせる。

腹違いの弟である清貴は、あの無能な父親の息子とは思えないくらい大人しく聡明な性格だった。

幼心に父親のしていることがよくないことだと思っていたらしく、楓が父親を表舞台から排除する際も積極的に賛成した。

突然現れた姉であるにも関わらず真っ直ぐに懐いてくれる清貴を、楓は思いの外可愛いと思っていた。

達也が深雪をついつい甘やかしてしまうのもわかるなぁと思いつつ、楓は誉めて誉めてと瞳で雄弁に訴えてくる清貴の髪を撫でてやる。

 

「ん、僕もっと姉上の期待に答えられるように頑張ります!」

 

当初清貴は才能ある楓に、このまま椎名を継いでほしいと強く主張していた。

だが今は楓の説得に納得し、経営学を学んで次期当主となる覚悟を持って日々励んでいる。

提出した報告書を見ながら改善点と、今後の課題について説明を受ける清貴の目は真剣だった。

 

「そうだわ、清貴。私、今年は九校戦のスタッフとして参加することにしたの。」

「あの九校戦ですか?」

 

九校戦と言えば、魔法学校に通っている者や今後魔法を学ぼうと考えているものなら誰もが知っている大会である。

かくゆう清貴もまだ中学生ではあるが、毎年九校戦をテレビで見るのを楽しみにしている一人である。

その栄えある九校戦にスタッフとはいえ参加出来るなんてやっぱり自分の姉はすごい!と清貴は興奮する。

そんな弟を見て、ついつい類は友を呼ぶと言うか、弟は弟で深雪と何となくリアクションが似ているなんて考えてしまう。

 

「とにかく夏はそっちで忙しくなるから、秘書の久我山さんと清貴に負担をかけてしまうと思うけどお願いね?」

「はい、姉上。僕に任せてください!!」

 

優しい笑みを向ける姉に、まだ子供の雰囲気を残した弟が背伸びをしたように元気よく答える。

その二人のやりとりを見て、久我山は彼らがこの大企業を動かしているとは誰も思わないだろうなと苦笑してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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