魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第十三話

八月一日。

いよいよ九校戦へ出発する日となった。

学校前には大型バスと、機材を積み込むための少し小さめの車が止まっている。

大型バスには選手を乗せ、小さめの車には機材と技術スタッフを乗せる予定になっている。

生徒たちが集合時間に合わせて続々と集合し、荷物を収容して乗り込んでいくのを達也が点呼していく。

 

「椎名もこっちに乗ればいいじゃないか。」

 

点呼をする達也の少し離れた場所では、荷物だけを大型バスに積んで、自分は技術スタッフと一緒に別の車に乗ろうとしていた楓を、服部がどうにか説得しようとしていた。

バスは座席にも余裕があり、楓が増えたところで何の問題はない。

だから、機材のせいで狭く男ばかりの車に楓が乗る必要はないと言う。

やはり女性を一人そちらに乗せるのは、服部にとってとても不安だったようだ。

色々なことを言って必死に説得しようとするが、楓が考えを変えることはない。

 

「私も機材が気になるし・・・・少しの間だから大丈夫だよ。」

「だが・・・」

「あ、全員揃ったみたい。ほら、服部君も急いで」

「おい、椎名っ!!」

 

CADの調整機器だけでなく、もしものための応急処置機器も持っていく予定になっていたので、楓はそちらに行くつもりだったのだ。

まぁ、達也と一緒に居たかったからというのも否定しないが・・・

あまりにもしつこい服部にどうしたものかと悩んでいたところで、遅れていた真由美が到着したのが見えたのだ。

最後の生徒をチェックした達也が車に乗ろうとしたので、楓は急かすように手を振って服部から逃げたのだった。

 

「ふう。」

「服部先輩、随分しつこかったみたいだな。」

 

車に乗って、機材の前の席に座っていた達也の隣に座ってため息をつくとそう言われる。

何故あんなにも頑固なのか、会場までそんなに遠いわけではないのだからどっちに乗っても別にいいじゃないかと楓は首を傾げてしまう。

何となく服部の気持ちを察している達也は、苦笑するだけで何も答えない。

他人の気持ちを言うのも悪いと思うのと、自分の彼女である楓に必要のない情報をわざわざ言おうとは思わなかったのだ。

 

全員の準備が整い、選手を乗せた大型バスを先頭に出発となった。

選手たちのバスはそれぞれに行く先のことで盛り上がったり持ち寄ったお菓子を食べたりと、楽しい時間を過ごしていることだろう。

楓も深雪との楽しい時間を少しは考えたが、騒がしいのがあまり好きではないのでこちらのバスの静けさにほっとする。

二人が別の車に乗ってしまったため、きっと深雪は相当ご立腹だろうなどと楓と達也は取り留めのない会話をしている。

しばらくそんな穏やかな時間が過ぎていた時、突然どこからか大きな衝突音と爆発音が響いた。

 

「「っ!!!」」

 

前方のバスが急ブレーキをかけたのと同時に、こちらの車も衝突を避けるためにブレーキをかけるキキィという甲高い音が鳴る。

それぐらい急にブレーキをかけたため、車内の機材ががこんっと大きく揺れ動いた。

いくら重い機材であっても、これほど大きく揺れれば動いてしまうのは当たり前だった。

 

「いけないっ!」

 

大きな機材が車の壁にぶつかればそれだけ衝撃が車にかかり、下手をすれば横転する可能性だってある。

楓はとっさに立ち上がり、背後の機材すべてに硬化魔法をかけその場に存在を固定した。

そうすることで機材の動きが止まり、車への衝撃がなくなった。

だが車の動きは止まっていないので、自然楓の身体が傾くことになる。

 

「楓っ!」

 

だがそれは隣にいた達也がすぐに抱き寄せたことで、事なきを得ることが出来た。

身体のバランスを取り戻した楓は、達也に触れたことで今彼が見ている光景が脳裏に浮かんだ。

前方のバスに隣車線で事故を起こした車が衝突しようとしている場面だ。

わざと見せたのかはわからないが、楓は彼が行動するために必要なことをする。

 

「皆、機材に不具合がないか急いで調べて!」

「は、はいっ!!」

「俺はこっちをチェックする!」

「了解!」

 

楓の声を聞いて、動揺と衝撃に身体が止まっていた生徒たちが息を吹き返したように動き出した。

全員の視線が二人から逸れた瞬間、達也がすっと手を伸ばして魔法を放つ。

それとほぼ同時にバスの向こう側で何かが起きた衝撃音。

 

「達也・・・どう?」

「ああ、深雪と十文字先輩がやってくれた。」

 

その言葉で、深雪が減速魔法で消火し十文字が車を止めたと理解出来た。

一瞬見えた光景には多くの魔法が重ねられた状態で流れてくる車体、あのままでは上手く魔法を発動させることが出来ない。

ならば、達也の魔法で解決出来る。

深雪もそれをすぐに悟ってくれたに違いない。

この場面でもっとも効果的な成果をあげられるのは、間違いなく深雪と十文字のコンビだろう。

達也の言葉からそれを知った楓は、ほっと息をついて身体の力を抜く。

 

「あの、ちょっといいかな・・・・」

 

楓が緊張を解いたのを見越したようなタイミングで五十里に声をかけられそちらを向くと、そこには申し訳なそうな顔をしているのが見えた。

何故彼が苦笑を含んだ表情を浮かべているのかと疑問に思ったが、ふと自分たちの状態に気付いた。

 

「あ・・・」

 

バランスを崩した楓を支えるために抱き止めた達也は、そのままずっと彼女を抱きしめたままだった。

恋人同士とわかる親密な抱擁の状態に、五十里はとてつもなく声がかけ辛かったのだ。

それに気付いて、楓と達也は顔を見合わせてからすぐに離れて他のメンバーと一緒に機材の確認を行った。

ここで恥ずかしさに顔を赤くしないのは、さすがこの二人というところだろう。

機材の無事を確認した後は、バスの前で十文字によって止められた車の検証を行う。

とはいえ、警察が来るまでの間状況を録画したりするくらいのことしか出来ないのだが。

 

「楓、どうだ?」

「・・・・これじゃぁ、無理ね。」

「そうか。」

 

現場確認をしている途中で楓は運転席を覗いたのだが、乗っていた男はすでに事切れていた。

もし男が生きていれば楓が色々と聞き出そうとしていたのだが、死んでいるのではどうすることも出来ない。

その意味を含んで答えた楓に、達也はわかっていたと頷く。

 

「達也の方はどう?」

「・・・・これは、事故じゃない。」

「まさか・・・・」

「ああ、自爆攻撃だ。」

 

成果なしの楓は達也が何か掴んだかどうか聞いてみると、思いもしない言葉がもたらされた。

目を見開いて驚きはしたが、達也の力を誰よりも知っているだけに疑ったりはしない。

つまり、何者かが第一高校の生徒を何らかの理由で狙っているということだ。

 

「何事もなく、っていうのは無理そうね。」

「ああ。不本意なことにな。」

 

 

 

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