魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第十五話

料理を乗せた皿を持って皆のところへ戻ると、にやにやといやらしい笑みを浮かべている友人たちが目に入る。

先ほどまで仁岡と何やら話をしているところを見ていたらしく、この年代の少女なら仕方がないが興味津々になっているようだった。

彼が誰なのか、何を話していたのかと聞かれ、小学校の時の友人であることを説明する。

 

「でも彼、楓に気があるんじゃない?」

「絶対そうだよ!すっごい嬉しそうにしてたし。」

「楓的には彼、どうなの?」

 

案の定彼女たちの興味は恋愛のことで、大したことは話していないと言っているにも関わらずすぐにそちらへと結びつけようとする。

ここであからさまに大げさに否定すれば余計友人たちを刺激するとわかっているので、楓は苦笑して落ち着いた口調で否定だけする。

予想通り思った反応がなかったので彼女たちも諦めたのか、つまらないという表情を浮かべる。

このやりとりも、彼女たちが楓に達也という恋人がいるのを知らないのだからなのだ。

ここで話題を提供するのもどうかとは思ったが、変な風に話が広まるのも困るからと達也のことを話そうと考えた。

 

「あのね、私にはちゃんと恋人が・・・」

「本日は九校戦の懇親会にお集まり頂き、誠にありがとうございます。」

 

だが、楓の言葉をかき消すように懇親会の司会者の放送が入ってしまう。

友人たちも楓の声が聞こえなかったようで首を傾げたが、問いただす前に魔法協会の重鎮九頭烈の挨拶が始まってしまうとわかり視線を正面へと向けた。

真っ暗な会場の正面、舞台の上には一つのマイクが置いてあり、そこに人がくることがわかる。

全員の視線がそこに集まっている中、楓は一瞬の違和感を覚えて顔を歪める。

 

「・・・っ」

 

音もなく前触れもなく発動したのは魔法、それもおそらく精神干渉系のものだ。

きっと楓以外には誰も、この魔法が発動した瞬間を捉えた者はいないだろう。

これは、精神干渉系魔法のエキスパートである楓だからこそ感じた違和感だった。

一体どんな魔法が発動されたのか意識を澄ませようとしたところでぱっとスポットライトが照らされ、マイクの後ろに一人の美しい女性が姿を現す。

そこには先ほど紹介された九頭烈が姿を表すはずなのに、全員が困惑しざわつき出す。

だが魔法に気付いていた楓には女性の後ろに初老の男性が立っているのがしっかり見えていたし、きっと今なら達也も現状を理解しているだろう。

数秒後、女性がその場を動き会場の明かりが戻ると、そこに老人が立っているのに全員が気付くことが出来た。

 

「使い方を誤った大魔法は、使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。私は諸君の工夫を楽しみにしている。」

 

驚きが治まらない状態で始まった老師の演説。

その言葉はまだ実践を知らない魔法師に驚愕を与え、知っているものにも重く胸に響いた。

楓は、そして達也も今までの経験でそれを嫌と言うほど知っていたからだ。

ただ使うだけでは意味がない、どのように使い、どんな工夫をするかで効果も価値も大きく変わるのだ。

静寂の後、会場中が大きな拍手に包まれる中、楓も手を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ふう・・・」

 

誰もいない広い湯船で、楓は肩まで浸かって吐息を漏らしてリラックスする。

時刻は11時半を少し過ぎた頃で、楓は一人ホテルの地下にある温泉へと来ていた。

深雪にも友人たちと一緒にここに来ないか誘われたが、楓は丁重にそれを断った。

というのも、楓には彼女たちと一緒に入れない理由があったのだ。

 

「さすがに、これを見られるのは恥ずかしいしね・・・」

 

ぱしゃりと湯を跳ねさせながら手で掬って肩にかけてから、鎖骨あたりにあるものを指でなぞる。

それは、赤くついた鬱血痕・・・つまり達也がつけたいわゆるキスマークというやつだ。

楓と達也が恋人同士であることはすでに知られていることとはいえ、行為を連想させる生々しい痕をまだ高校生の純粋な女の子に見せるのはどうかと思ったのだ。

なので、コネで貸し切りにしてもらった風呂に一人で入っているというわけなのだ。

折角貸し切りにしたのだしと、最初は達也も誘ったのだが、やはり大会直前ということで選手たちのCADの最終調整が忙しく時間が取れなかった。

 

「まぁ、それも仕方ないかな・・・」

 

一年女子ほどんとのCAD調整を行うことが決まっているのだから、それは当たり前といえばその通りだった。

一度に何人もの得意魔法とスタイルを分析して、競技にあった作戦と魔法式を選んでいく。

そして既存、オリジナル両通りのCADの構築を短い期間でしなければならないのだからさすがの達也でも容易なことではない。

だが達也がエンジニアとして参加するのであれば、その選手の好成績は約束されているようなものだ。

きっとこの九校戦で、達也の名前は有名になってしまうだろう。

シルバーホーンではなく司波達也としてだ。

それを考えて、自然と楓の表情は緩み、笑みを浮かべてしまう。

目立ちたくないと苦笑しながらも、頼られ信頼されることを嬉しいと恥ずかしそうな表情を浮かべる達也を想像して。

 

「そうだ・・・深夜さんに連絡しとかないと。」

 

きっとすでに知っているとは思うが、達也が自分からこの大会のエンジニアとして参加することを深夜にいうとは思えない。

親馬鹿な彼女のことだから、手段を選ばずに試合を撮影しようとしているに違いない。

深雪の活躍も撮影されるであろう映像を、後で貰えるようにお願いしておかなければと、楓は風呂場を出たのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「あ、楓ちゃん!」

「・・・仁岡くん・・・・」

 

一高の設営テントから出て、真由美に頼まれていた選手の練習場所の予約を終えて飲み物の補充に向かっているところで声をかけられる。

振り返ると案の定そこにいたのは、ここで再会した幼なじみである仁岡であった。

嬉しそうに駆け寄ってくる彼を見ながら、楓は内心ため息をつくのを止められなかった。

 

「偶然だね。どこに行くの?」

 

笑顔で聞いてくる仁岡に遭遇するのは、実は今回が初めてではなかった。

偶然と彼は言うが、それにしては遭遇回数があまりにも多いので楓はどこかで監視されているのではと思ってしまうくらいだ。

それぐらい頻繁に目の前に現れては、楓にいろいろなことを質問してくる。

引っ越してからの生活のことや今どこに住んでいるのか、反対に自分は今どうしているかなどマシンガントークを始めてしまうのだ。

これが1・2回くらいならまだしも、回数が重なれば楓も辟易としてしまう。

いっそこれ以上は止めてほしいと言ってしまおうかとも思ったが、頻繁に会えるのも大会の間だけだからとこの場を逃げるだけにしてしまう。

テントが近くなって離れていった仁岡に、どうにかしないととため息をついた。

 

 

 

 

「かんぱ~い!!」

 

ある一室で、生徒会などの上層部女子メンバーが集まってジュースの入った紙コップを掲げて乾杯していた。

全員の顔には喜びの表情が浮かんでいる。

それもそのはずので、大会が始まって数日経った今日、初めての優勝者が出たのだ。

 

「スピードシューティング優勝おめでとうございます!」

「おめでとう、真由美。」

「ありがとう。摩利も準決勝進出だし、まずはひと安心ね。」

 

あずさと楓の言葉に笑顔で礼を言うと、摩利に視線を向ける。

そう今回優勝したのは生徒会長である真由美だったのだ。

去年の優勝者で、今大会でも優勝候補であった真由美が優勝するのは予想通りだったが嬉しいことは変わらない。

まだまだ試合は続いているので大々的なお祝いは出来ないが、部屋で仲のいいメンバーと楽しむのなら問題ないだろう。

 

「ああ。男子はひやっとしたがな・・・」

 

真由美に摩利と安定感のある女性陣とは反対に、今大会では一応成績を残しているものの男性陣の試合は見ていて冷や冷やしてしまうのが正直な反応だった。

楓も服部のバトルボードを見学していたのだが、どうにもはらはらしてしまったのを覚えている。

本人も気にしているのか、今日はずっとスタッフと一緒に調整しているらしい。

 

「幸いなことに休みだからな好きなだけやらせてあげましょう。」

「でも、それだとほかの競技に影響が出るんじゃない?」

 

納得いくまで調整し、練習するのは選手として当たり前のことだ。

だから誰もが服部の行動を推奨し、好きなだけやらせてあげようと考える。

だが、技術スタッフは数が限られているため、種目を重複して受け持っているものがほとんどだ。

選手がオフでも、スタッフが同じくオフになるとは限らない。

それを懸念して楓が聞くと、鈴音が少し考えて頭の中にうスタッフの予定を思い出す。

 

「なら、オフの司波君に頼むのはどうでしょうか。」

「・・・・うん、それが一番かな。」

 

結局、まだ新人戦が始まっておらず手が空いている達也に矛先が向いてしまったことに楓は苦笑する。

 

「そうね・・じゃぁ、深雪ちゃん達也に伝えてくれる?」

「はいお姉様。ですが、私でよろしいのですか?」

 

隣に座っていた深雪に達也への伝言を頼むと、元気よく返事が戻ってきたが首を傾げて尋ねられる。

恋人である楓を差し置いてという気持ちがあるようだった。

 

「ふふ、きっと楓は達也君に顔向け出来ないのよ。」

「そうそう。あの三高の生徒のせいでな。」

「ちょっと、真由美に摩利さん!勝手なこと言わないで!」

 

深雪の疑問に勝手な憶測で答えたのは、意地の悪そうな表情を浮かべている真由美と摩利だった。

ここ連日楓に声をかけてきている仁岡の姿は彼女たちの目にも入っており、まるで浮気現場を押さえたかのようだった。

楓の性格からして浮気などはまずあり得ないと思っているだけに、彼女の浮いた話は面白かったようだ。

逆に楓からすればたまったものではないのだが。

 

「達也君という恋人がいながら、浮気はいけないと思うなぁ~」

「彼は知っているのか?その三高生のこと。」

「小学校の頃の同級生ってだけよ。何度も説明したでしょ。」

「でも、楓に気があるのは間違いないようだしな・・・」

「そうよねぇ。どう見ても・・・・・」

 

真由美が追い打ちをかけるように言おうとした言葉は、突然閉ざされることになる。

空調の利いているはずの部屋が極寒の冷気に覆われたことで。

 

「お姉様にちょっかいを出している男がいるのですか?」

「み、深雪ちゃん?」

「どこの身の程知らずでしょうか。お姉様。おっしゃっていただければ、この深雪がその男を亡きものに・・・」

「深雪ちゃん、大丈夫だから・・・っ」

 

長い髪を冷気で揺らし、暗い怨念の籠もったような低い声で言う深雪に誰もが凍り付く。

ここにきて、言ってはいけないことを聞かせてはならない人物の前で話したことに気付いたのだ。

最愛の兄である達也の恋人であり、敬愛する楓につきまとう男がいるとわかれば彼女が何もしないはずがないのだ。

下手をすれば今すぐにでも仁岡を滅ぼしに行きそうな様子の深雪を、楓は必死に宥める。

 

「ですが・・・・」

「大丈夫。私が達也以外に気が向くわけないでしょ?」

「それはもちろん疑ってなどおりません!!」

 

肩を撫でて聞いた楓に、深雪ははっきりとこれ以上ないほど自信満々に答えた。

周りはそんなやりとりにあっけに取られてしまう。

楓がのろける姿を見るのが初めてだという驚きと、それを疑っていない深雪の信頼への驚きにだ。

 

「それに、あれで達也は結構嫉妬深いから話しちゃだめよ?」

「はい、わかりましたお姉様。」

 

友人たちがいる目の前で恥ずかし気もなく言うのろけと達也が嫉妬深いと言い切ったこと、しかも楓の言葉を全く疑っていない深雪。

もうどこから突っ込んでいいのかわからない二人の会話に、部屋の中は一気に何とも言えない雰囲気になってしまったのだった。

 

 

 

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