翌日大会は進み、その日はバトルボードでも一高に好成績を期待出来る摩利が出場していた。
レース開始直後のボードに立つ摩利の姿は自信に溢れており、同じ一高生徒である楓にも安心感を与えていた。
女性でありながら凛々しい姿は一高生だけでなく他校生にも人気があり、黄色い声援が飛び交っている。
周りに注目されることに慣れている摩利は、笑顔で手を振り声援に答えていた。
そんな様子に笑みを浮かべながら、楓はサポートとしての役割を果たすべく端末のソフトを立ち上げる。
今回楓は摩利のセコンドに入り、レースのデータを取る役割になっていた。
このレースのデータを取って、決勝レースに生かそうと考えていたのだ。
「オンユアマーク」
ついにレースが始まった。
このレースのデータを取る理由となった去年の決勝で優勝を争った摩利と、七高の生徒が入っていたため接戦となっていた。
事実上の決勝レースに、会場全員の視線が釘付けになる。
おそらくこのレースで勝った方が、優勝すると思われているのだから当たり前だ。
最初のコーナーで、もつれ合うようにして流れ込んでいく二人の選手。
だが、そこであり得ないことが起こった。
摩利の後をついてコーナーに入った七高の選手が、減速せずに突如加速したのだ。
常識では考えられない行動に、誰もが、行った七高生でさえも驚愕の表情を浮かべていた。
そのまま壁へと突っ込むであろうコースで、摩利が間に現れ彼女を受け止めようと魔法を展開する。
しかし、摩利はそのまま七高生の巻き添えで壁へと衝突してしまった。
「摩利さんっ!!!」
サイドで見ていた楓は叫んで、急いで摩利のもとへと駆けだした。
丁度事故現場とは反対にいたために、たどり着くのに時間がかかることを悔しく思う。
どうにか現場に到着すると、そこにはすでに観覧席で見ていたはずの達也が駆けつけていた。
「達也っ!」
「楓、肋骨骨折だ!」
「了解」
目を合わせただけで楓の意味を理解し、求めていた答えがすぐに帰ってきた。
楓はすぐに魔法を展開し、折れている肋骨を強制的に繋ぐことに集中する。
一本ならまだしも数本となれば、集中が必要になる。
もしそれば綺麗な断面で折れていれば問題ないが、砕けていれば難易度が格段に増すのだ。
楓が意識を集中している間に、達也が駆けつけた会場のスタッフに適切な指示を出してくれていると信じているので気が散ることはない。
「・・・・ふう。」
「楓。」
「応急処置は大丈夫。あとは病院で。」
「ああ。・・・では、お願いします。」
大事には至らないように処置を終えたところで達也に声をかけられ、スタッフにお願いして摩利を慎重に近くの病院へと運んでもらった。
もちろん病状を説明するために二人も同行し、病院に駆けつけた真由美に摩利が目を覚ますまで側にいてもらえるように頼んだ。
とりあえずひと段落ついたところで、楓と達也は会場へ戻る道すがら先ほどの事故の件を話し合う。
「達也・・・気づいた?」
「ああ。あれは事故じゃない何者かの仕業だ。」
「ええ、私もそう思う。」
先ほどの七高のオーバースピードの件、それだけではなく本来摩利であれば受け止めることも可能だったなずなのに、結局は衝突してしまった件。
そのどちらもが本来ならあり得ないことであり、自然に事故として発生するとは到底思えなかった。
そして二人はそれらが故意に起こされたことを表す片鱗を目にしている。
「俺は映像をもらって解析してみることにする。」
「私は少し聞き込みをしてみるわ。」
大会中は中継もそうだが、不正行為を防ぐために録画されている映像がある。
それを借りて解析すれば、それが達也であれば何かがきっとわかるに違いない。
楓はそれを助けることが出来ないので、独自に聞き込みをすると口にする。
だがそれは魔法を使ってだということを理解している達也は、視線を楓に向ける。
「無理はするなよ?」
「わかってる。」
心配そうな表情で言う達也に、楓は柔らかい笑みを浮かべて答える。
そっと近づいて楓が腕を絡めると、達也は優しく楓の髪の毛を撫でてから額に唇を落とす。
家ではない外で、これだけ二人が恋人の雰囲気を出すのは珍しい。
幸い周りには誰もいなかったので、その姿を目にするものはいなかった。
「そうだ、幹比古と美月を呼んでおいてくれないか。」
「わかった。」
すぐにいつもの雰囲気に戻ると、達也は楓にそう声をかけて早速映像を借りるために本部へと向かったのだった。
***
「・・・・・」
一高の会議室は暗い雰囲気に包まれていた。
理由は簡単で摩利の怪我による棄権と、男子の成績不振により成績が思わしくなかったからだ。
その上、達也が調べた結果やはり何らかの妨害工作が行われているとわかったのだから暗くもなるだろう。
優勝が必須のミラージバッドの選手だった摩利が抜けてしまった穴をどうするか、それが大きな課題だった。
摩利の優勝に絶対の自信を持っていただけに、補欠選手の準備もしていなければ他に練習をしているものもいなかった。
重苦しい空気が払拭出来ない中、楓、真由美と鈴音、摩利に服部、そして十文字が集まり今後のことを話し合っていた。
そこで、真由美はある大きな人選を行うことを決めて口をひらいた。
「ひとつ提案があるのだけれど・・・・」
達也と深雪が呼ばれて会議室へやってくると、鈴音に本日の成績と今後の総合優勝への道のりを説明される。
その説明で、すぐになぜ呼ばれたのかがわかった。
察しのいい二人に、真由美が先ほど決めた人選のことを説明する。
「深雪さん、貴方に本戦ミラージバットに出場してもらいたいの。」
そう、新人戦のミラージバットに選ばれていた深雪に本戦のミラージバットへと出てもらうというものだったのだ。
理由は摩利の補欠を決めていなかったこと、そして何より彼女であれば優勝も可能だと判断したからだ。
「しかし・・・・」
「深雪ちゃん、貴方なら優勝出来る。私はそう思って真由美の提案に賛成したわ。ね、達也もそう思うでしょ?」
「ああ。・・・妹なら優勝も可能です。やれるな、深雪。」
まだ納得出来ず首を縦に振らない深雪に、楓はだめ押しのように言うと、達也もそれに賛同する。
提案した真由美、そして優勝を確信している楓に強く頷き、深雪へと確認する。
そこまで言われてしまえば、もう深雪に断る理由など皆無だった。
「お兄様、お姉様・・・・・はいっ!!」
二人に期待されて嬉しそうに頬を染めながら、元気のよい返事を返す深雪に満足そうに楓と達也は頷いた。