魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第十七話

「楓ちゃん!」

 

名前を呼ばれた瞬間、楓はまたかと手に二人分の食事を持った状態でため息をついてしまう。

今日も現れた仁岡は、にこにこと笑顔を浮かべて楓の前にやってきた。

またもわざとらしく偶然だねと言ってから、仁岡はふと楓の手に持ったものを見て、いいことを思いついたとばかりに目を輝かせる。

 

「これからお昼?だったら、一緒に食べようよ!」

 

それがいいよ!と勝手に一緒に食べる気満々になっているに仁岡の言動に、楓が一瞬でも嫌そうな表情を浮かべてしまうのは仕方がないだろう。

確かに手に持っているのは本日の昼食なのだが、一人分ではなく二人分なのが見えないのだろうかと呆れてしまう。

二人分ということは誰かがこの昼食を待っているということになるのに、そんなことお構いなしのようだ。

昨日久しぶりに達也とゆっくり過ごし、心も身体も落ち着きを取り戻した二人は、これからは無理をしてでも二人きりの時間を作ろうと決めた。

深雪には申し訳ないが、お昼は部屋で二人きりで取ることにしていた矢先の出来事に楓の気分は一気に下降してしまう。

さすがに限界だと思った楓は今度こそちゃんと断ろうと口を開いたが、その言葉は背後から聞き慣れた声がかけられたことで不発に終わる。

 

「楓、どうした?」

「あ、達也・・・・」

 

声をかけてきた相手はもちろん、楓が今手に持っているもう一人分の昼食の待ち人である達也だった。

どうやら昼食を取りに行って、戻ってくるのが遅い楓を心配して迎えに来てくれたようだった。

まだ調整しなければならないところがあったため手が離せなかったので楓に取りに行ってもらったのだが、今の状況を見てやはり自分が行くべきだったと達也は後悔する。

楓の前に立っている三高の制服を着た少年、彼が噂に聞いていた、彼女の昔の友人であるその人だとわかったからだ。

 

「遅いから心配した。・・・・彼が?」

「ええ。小学校の時の同級生で、仁岡君。」

 

さりげなく楓の隣に立ち、手から昼食の乗ったトレーを取ると左手で肩を抱いて引き寄せた。

知ってはいるが初対面であることに変わりはないので、一応楓に確認を取るとそう簡単に紹介される。

一方仁岡は、達也とは初対面ではあるが彼の名前はすでに知っていた。

いや、この大会で彼の名前を知らないものは関係者であれば存在していないだろう。

一年生でありながら担当した選手を必ず上位に、いや優勝させる凄腕エンジニア。

二年生である仁岡も彼の手がけたCADを見て、自分では到底不可能な技術だと理解していた。

彼が二年生でないことを不覚にも安心してしまったなどと、誰にも知られたくないくらいに嫉妬した。

その彼が今目の前に、しかも楓の肩を抱いているのだから顔が歪んでしまうのは仕方がないことだろう。

 

「初めまして、司波 達也です。」

「・・・初めまして、仁岡 健司だ。その、二人は・・・」

「達也は、私の恋人よ。」

 

言い淀みながらも自己紹介をした後、仁岡は気になっていたことを聞いてみた。

すると、楓は照れるでもなく自然に、当たり前のように達也を恋人だと紹介したのだ。

この登場にある程度予想してはいたが、その答えは予想以上に仁岡にショックを与えた。

今まで仁岡は彼女に恋人がいるという想像を、全く考えてもいなかったのだ。

目の前の現実に、どれだけ自分が楓との再会に浮かれていたのかを自覚して、恥ずかしくなる。

羞恥にうろたえる仁岡に、達也はタイミングよく声をかける。

 

「すまないが、そろそろ行かないと昼食の時間が終わってしまう。」

「あ、そうね。ごめんなさい仁岡君。私たちはこれで・・・」

「ああ・・・引き留めて、ごめんね。」

 

ちらりと時間を確認して、午後から始まる競技の準備を考えると確かに昼食を取る時間はもう少ししかなかった。

だから言った言葉だったのだが、それは二人で一緒にお昼を食べると言っているのと同じだった。

場を離れることを謝って歩きだした楓は、自然に彼に寄り添って歩いていた。

達也が耳元で何かを囁くと、楓は小さく微笑んで小声で言葉を返している。

 

「っ・・・」

 

その笑みは仁岡が見たこともない優しく綺麗な笑みで、胸の奥で黒い炎が渦巻いてしまう。

恋人だという言葉に嘘を感じさせることもない自然な雰囲気に、強く嫉妬してしまう。

自分の方が早く彼女に会っているのに、なぜあんな男が!と。

ぎゅっと拳を握り、ぎりっと唇を結んで二人の背中を、いや達也の背中を睨みつけたのだった。

 

 

 

 

達也と楓、仁岡のやりとりの少し前、ミーティングを終えた真由美と摩利が昼食を受け取りに向かっていた。

一応まだけが人という立場にいる摩利と生徒会長である真由美の護衛という形で、服部が付き添っている。

最初は必要ないと言った二人だったが、現在この九校戦で一高の生徒が狙われているのは事実であるため服部は護衛役を頑として諦めず結局摩利と真由美が折れた形である。

 

「今日のお昼は何だろうな。」

「ここのホテルは質が良いから楽しみよね。」

 

学生へ配られる昼食とは言え、さすが有名な軍施設というだけあり真由美の言うとおり質がとても良かった。

懇親会やバイキング制の夕食でもそれはすでにわかっているのだが、お昼も毎日メニューが違い美味しい。

ついつい楽しみにしてしまう摩利に、真由美も微笑む。

 

「あら、あれって・・・楓?」

「ん?本当だな。しかも、あいつは・・・」

 

向かっていた先で目に入ってきたのは、二人とも仲の良い楓だったのですぐにわかった。

だが、彼女一人ではないことに気付いて、摩利は噂の男が一緒にいると気付いた。

一方、二人の後ろを歩いていた服部は楓の名前が聞こえてきたことで前へとやってくる。

服部が見たのは、楓と制服からして三高生だとわかる男が一緒にいる姿だ。

 

「椎名と・・・誰だ?」

 

見知らぬ男と一緒にいるのを不信と不快に思いながら、服部が顔をしかめる。

どうやら服部は仁岡のことを知らなかったらしい。

彼らしいといえば彼らしいと思いながら、真由美は服部に仁岡のことを教えてやることにする。

 

「彼、楓の小学校の時の同級生なんですって。ここで偶然再会したらしいのよ。」

「そうだったんですか。しかし、椎名は嫌がっていませんか?」

「ん~。ここ最近かなり絡まれてるみたいだから・・・」

 

明らかに対応に困っているという表情をしている楓を見て、服部が聞くと真由美は苦笑して答える。

皆でお祝いをしたときもそうだが、再会をそれほど喜んでいるようには見えなかったし、ほぼ毎日捕まっているのも知っていた。

服部の目にも、好意があるのがはっきりとわかる仁岡と困っている楓の姿が映る。

 

「でしたら、俺が助けに」

「ああ、それなら大丈夫だ。ほら・・・」

 

不埒な男から楓を助けに行こうと意気込んだところで、服部の行動は摩利に止められる。

何故、と思ったところで視線を再度楓に向けると、そこには気に食わないながらも実力は認めつつある男、司波達也の姿があった。

ここからでは声が聞こえないが、どうやら楓を仁岡から助けているというのだけは理解出来た。

 

「どうして司波が・・・」

「そりゃぁ、恋人だから当たり前だろ。」

「ちょっと、摩利!」

「あっ・・・」

 

状況が理解出来ていない服部が漏らした疑問に、あっさりと摩利が答えてしまう。

二人の関係を知っている摩利からすれば、この場面で楓を達也が助けるのは当たり前だった。

むしろそうでなければ怒鳴りにいくところだと、摩利は腕を組んで頷く。

しかし、摩利が言った言葉を聞いて隣にいた真由美が慌てて止めた。

真由美の慌て具合に、どうしたのかと思ったが、今ここに服部がいるのだと思い出してしまったという顔をする。

案の定視線を向けると、服部が驚愕の表情で呆然と立ち尽くしている。

 

「恋、人・・・・?椎名と司波が・・・?」

 

許容量を超えた事実に、服部は頭の中が真っ白になってしまう。

ありえないと感情が叫ぶが、目の前で達也が楓の肩を抱き寄せている場面がそれを許さない。

そのまま二人が、自然に恋人であることを隠さない親密さを見せながら去っていくのを呆然と見つめてしまう。

 

「お~い、服部~?」

「もう、摩利の馬鹿・・・」

 

隣で摩利と真由美が声をかけていたが、服部は思考の海に飲まれて全く聞こえていない。

想像以上にショックを受けている様子の彼に、摩利は申し訳なくなり、真由美は迂闊な摩利に呆れてしまう。

 

「そうか、だからあの時・・・」

 

事実を知り、あの時、達也がエンジニアとして代表入りする時の騒動で、楓がありがとうと礼を言った意味を理解してしまった。

恋人である達也を、代表入りさせる決定的な言葉を口にしたことにたいしてだったのだ。

そのことを理解して、自分がことのほか衝撃と落胆を覚えていることに気付き不思議になる。

何故自分がそんな風に思うのかと。

 

「これじゃ、まるで俺が椎名のことを好きみたいじゃないか・・・」

 

楓のことは同級生として、同じ生徒会に携わるものとして親近感と友情のようなものを感じている。

だが、今自分の胸にわき起こるもやもやはその関係では起こり得ないものだ。

自分の感情に戸惑い、動揺する服部に、独り言が聞こえていた真由美と摩利は心底呆れてしまう。

 

「え?はんぞー君、気付いてなかったの!」

「に、鈍いにもほどがあるぞ・・・」

 

まさか服部自身が、楓に抱いている感情を理解していなかったと知って驚いた。

理解していなかったにも関わらず、楓にあの態度を取っていたのかと思いながらも、これでは達也から奪うことなど到底不可能だと理解した。

ただでさえ真由美と摩利は生徒会室での昼食時に、二人の仲の良さを目の当たりにしているからだ。

 

「いや、そんなはずは・・・しかし・・・っ」

 

ぶつぶつと自分の気持ちを否定したり悩んだりしている服部を、結局二人は放置して昼食へと向かうことにしたのだった。

取り残された服部の意識が現実に戻ってきたのは、昼食の時間がとっくに終わってしまった頃だった。

 

 

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