魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第二話

女性が「実験」と称したように、ここは研究施設だった。

主な研究内容は肉体強化と精神構造への干渉だ。

知識の植え付けも行われるため、受けた講習で楓は今まで知らなかった自分のことを知った。

 

この世界は、魔法という非科学的だったものが統制・科学化され実用が可能となった世界。

日本における絶対的力を持っている一族達を十師族といい、この研究を行っているのはその中でも一際力を持った四葉家であること。

楓はその四葉家の末端、椎名の当主である男・・・名前は興味がなかったので忘れた・・・のいわゆる愛人の子供であった。

 

四葉家の特質は精神系統の魔法。

男も少し話していたが、楓は母親が亡くなった病院で箍を無くしたように泣き、周りの人間に影響を与えたのだ。

突然のサイオンの波を受け、悲しくもないのに涙が止まらなくなる。

影響を与えた規模は病院全体で、老若男女関係なかった。

それはまさに精神系統の素質であり、規模から考えて大きな魔法力を秘めているというわけだ。

報告を受けた男、父親は今まで歯牙にもかけていなかった愛人の娘を引き取ることにし、本家である四葉家に提供し媚びを売ろうと考えたのだ。

 

「この魔法式を毎日彼に行うように。」

 

楓に対して行われたのは、ある魔法式をたたき込まれることとその魔法をもう一人の研究対象である達也に行使することだった。

魔法はイメージが大事ということもあるので、達也についての説明も受けた。

 

強い感情を司る部分に魔法を使い改善していくのが主な研究内容だ。

精神系統の中でも脳に直接影響を与えるのは難しく、相当な魔法力を使うことになる。

毎日一度成功するにしろ失敗するにしろ行使するだけで、楓は失神するほどの力を使うことになる。

 

達也の実験内容を時折見学させられるのだが、それは楓以上に過酷に見えた。

肉体改造と銘打っているので仕方がないのだが、あらゆる格闘技・武術の修得と訓練、肉体へ過度の負荷をかけ強化するというものだった。

楓が来る前から行われていたのか、達也の身体はすでに多くの傷が刻まれていた。

 

著しく身体能力を低下させるものは、組み込まれた魔法式であっと言う間に消えるが、それがどの程度なのか確かめる実験などでついた傷は消えない。

相当な痛みが伴うはずなのに、達也は表情を変えない。

痛みを感じていないといわけではないようだが、強い感情を抑えられているせいで表情に出るまでに至らないのだ。

 

「また傷が増えてる・・・」

「問題ない。」

 

部屋に戻ってきた達也の身体を見てそう呟くと、やはり感情の籠もらない声で答えが返ってくる。

二人は無駄に広い研究所にも関わらず、同じ部屋で寝食を共にしていた。

どうやら共同生活における精神的影響などを調べるためらしい。

最初は会話らしい会話もなかったが、一週間ほど経てば簡単な会話をするようになる。

本当に別々の実験が行われているのならまだしも、楓は実際達也に魔法をかけているので意識が向きやすいようだ。

二人は今日の実験内容を簡単に教えたり、あまりレパートリーのない食事について会話をする。

 

「もう寝よう。明日も早い。」

「そうだね・・・・おやすみ。」

「・・・・・・・おやすみ。」

 

10時頃になると会話を打ち切り就寝する。

楓はごそりと毛布の中に入ってから、達也と身体を寄せて眠りに入る。

部屋にベッドは一つしかないため、必然的に二人は寄り添うように寝ることになる。

最初は抵抗があったが、唯一の肉親であった母親を失い寂しさを感じていた楓にとって他人・・・実際には遠い親戚になるのだが・・・の体温は安心させてくれた。

 

もっと小さい頃から研究所にいた達也は、最初寝る際の挨拶も知らなかったようだったので楓が教えた。

今ではぎこちないながらも日常の挨拶が出来るようになった。

おはよう、おやすみ、おかえり、行ってきますなどを知らないと言われた時には驚いたが楓は根気よく教えたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「今日から、医療関係の知識を講義する。」

 

研究所に来てから五年が経ち、楓が十二歳になった頃には魔法の行使にも慣れ、達也への魔法一回で失神することもなくなっていた。

魔法式を見ることの出来る達也による無駄の削除や楓自身による改善によるものが大きい。

嬉しくもないが、楓も達也も魔法の才能があったようで研究員に嫉妬を抱かせるほどの成果をあげることがあった。

 

二人からすれば、それは相手のため自分のためであり、研究員の嫉妬など知ったことではないのだが、そう上手くはいかないようだ。

とにかく、今日から次の研究段階に入ったのか、今までのカリキュラムに加え新たな内容が始まるようだ。

 

「まずは、人体の構造から・・・」

 

十二歳相手に始まる講義ではないのだが、楓は文句一つ言わずただ男の話を聞き頭に叩き込む。

初回は基本的な内容、といってもすでに高等教育並の講義が終わり部屋へと戻ると、そこにはすでに達也が戻ってきていた。

 

「おかえり、楓。今日はどうだった。」

「ただいま、達也。今日から、医療の講義が始まったよ。」

 

簡素な部屋にはベッドしか置かれていないため、二人の会話はいつもベッドに並んで行われる。

楓が十二歳になったのと同じように達也も十二歳になっており、初めてあった七歳の時と比べると身長も伸び、少しばかり顔も子供から少し大人びた少年へと変わっていた。

表情も当初と比べれば格段に変化が見えるようになっており、今は心配そうな表情を浮かべている。

魔法のおかげなのか、楓が日常常識を教えているからなのか判断は出来ないが感情の起伏も大分現れていた。

とはいえ、研究員の前では今まで同様無表情無感動なのだが。

 

「大丈夫か、無理はするなよ?」

「うん、大丈夫。ありがとう、達也。」

 

安心させるように微笑んで答えると、達也も少しだが笑みを浮かべてくれた。

達也の瞳に映る自分の姿に、楓は成長した自分を知ることが出来る。

母親の面影がある顔に、肩より少し長い黒髪。

七歳の時よりは身長が伸びたが、最近はそれもほとんど止まっているように思う。

今は達也と同じくらいの身長だが、もう数年すればあっと言う間に追い越されてしまうのだろう。

 

「もう寝よう。明日も早いもんね。」

「そうだな。・・・・おやすみ、楓。」

「おやすみ、達也。」

 

お決まりの挨拶をして、二人はお互いの体温を確かめるように寄り添って眠った。

その次の日は、恒例の達也の実験見学が行われた。

多くの格闘技・武術を修めた達也は、数年前から武器への講義に移っていた。

今日も見たことのない銃器を手に、ずいぶん遠くにある的へと撃っていた。

彼の特異魔法を行使しながらの射撃はすばらしく、目視出来ないはずの的の中心を狂いなく打ち抜いている。

それをおそらく軍事関係の人間らしい研究員は苦い表情を浮かべながら見ている。

達也のその力は、敵に回れば厄介以外の何者でもないのだから当たり前だろう。

しばらく様子を見つめていた楓だったが、途中から気持ち悪くなってきて立っているのも辛くなっていた。

何故突然具合が悪くなっているのか自分でもわからない。

いつもと同じ食事だったし、講義はあったが実験は行っていないので身体を酷使したわけでもない。

 

「っ・・・気持ち、悪い・・・」

 

だが身体が言うことを聞かず、気がつけばぐらりと貧血のような目眩が襲い、そのまま倒れてしまった。

目が覚めた時には医務室の簡素なベッドに寝ており、女性の研究員に楓の身体が大人になったことを説明された。

いまいちぴんとは来なかったが、身体の変化は顕著で特有の痛みと気持ち悪さを味わうことになった。

今後は毎日飲むようにと渡された錠剤を受け取り、それから一週間ほどで身体の変調は収まった。

今後月に一度それがくるのかと思うと、楓は憂鬱になってしまう。

 

だが、楓の体調の変化にすぐ気がついた達也に心配され、変調のことを教えると、彼も内容は知っていたのか優しく気遣ってくれた。

痛む腹部を撫でて暖めてくれたり、顔色が悪いことを心配する達也を少し嬉しく思ってしまったため、完全に嫌な時間とは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

「こちらが、現在までの経過状況です。」

 

研究員の一人である男が、この研究の発案者であり実権を握る四葉家の当主姉妹、真夜と深夜に定期報告である資料を渡して説明をする。

資料を見ると、そこには実験の内容と成果、グラフが載せられている。

グラフは達也の七歳当時と現在の感情起伏の変動グラフだ。

様々な刺激を脳に与えることで起こる変化やストレスを測り、数値かされたものだ。

 

一番最初のグラフはほとんど底辺を這っているといって良いだろう結果で、これはどんな刺激にも大きな感情の変化がないということを表している。

次の最新結果は縦グラフの半分ほどの位置から始まった変化が表示されており、最初と比べても達也の感情起伏が大きく変動しているのを示している。

常人のグラフも載っているのでそちらと比べるとまだ数値は低いと言えるが、本来強い感情を司る機関を失っているはずの人間であることを考えれば劇的な成果と言えた。

 

様々な実験の結果、特に二人の間には遠いとはいえ血の繋がりがあることで互いの相性が良かったからだということも立証されている。

椎名家の独断と欲によって追加された楓という要素は、実験に想像以上の成果をあげる大きな要因になったのだ。

 

「実は、先日彼女に変化が起きました。」

「ああ、そのことなら聞いているわ。」

「つきましては、次の実験を行いたいと考えております。」

「そうね、始めてちょうだい。」

 

研究員が資料に載っている内容を説明してから提案すると、すでに報告を受けていた真夜と深夜は抵抗なく提案を受け入れた。

それがどれだけ人権を無視しているのかを理解しているにも関わらず。

 

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