魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第二十話

試合は出だしから会場を湧かせる戦いが繰り広げられた。

次々と繰り出される一条の魔法、それを正確に打ち砕く達也の攻撃。

上空に砕かれた魔法の残滓が光り、こんな状況にはそぐわないくらい綺麗な光景が広がっていた。

息を飲む会場、その一瞬後に大歓声がわき起こる。

高校生の戦いとは思えない卓越した魔法と精神力、会場だけでなく映像を見ていた全国の人々が魅了された。

 

その後も息をつかせない一条と達也の攻防が続くかと思われたが、吉祥寺が動きを見せたことで試合も動く。

相手が動いたのを見て達也が吉祥寺を追おうとするが、それを許す一条ではなかった。

進ませない攻撃をどうにか交わしながらも、ついに目視での限界を迎え、エレメンタルサイトを使用するのが楓にはわかった。

楓から見てもあの数、正確さを持った攻撃を打ち消し続けるのは相当苦労するだろうとわかる。

他の選手だったら、いや戦場慣れした一流の魔法師の中でもほんの一握りの人間でなければあの攻防は不可能だろう。

 

モノリスへ向かってきた吉祥寺をレオと幹比古が二人がかりで妨害し、レオが決め手を放ち誰もが決まると思った瞬間に一条の攻撃が襲いかかった。

強い衝撃にレオが叫び声を放ちながら吹き飛ばされ、一対一の状況になったところで吉祥寺によって幹比古が地面に押さえつけられる。

一気に劣性となった一高の様子に全員が活目している中、吉祥寺の方に視線を向けていた一条に達也が迫った。

自己加速術式の様子は見られない、つまり純粋な身体能力で一瞬にして達也は相手との距離を詰めたのだ。

殺気までとは行かなくても気迫を放つ達也の目に、一条は頭が真っ白になりとっさに魔法を放った。

恐怖と本能で抑えが効かなくなり、規定違反の威力を持った攻撃魔法を。

実力のあるものが見るならば、それが人を殺傷しうる攻撃力を持ったものだとすぐにわかっただろう。

天幕で見ていた真由美達や、楓がそうだ。

達也は華麗な身のこなしで次々と魔法を打ち消していくが、それでもあまりにも数が多すぎた。

結果二つほど発動に間に合わず、大きな衝撃音とともに地面が抉れ達也が吹き飛ばされる。

 

「っ・・・!!」

 

人形のように吹き飛ばされた達也を見て、深雪がびくっと肩を揺らしてから硬直するのがわかり、楓はぎゅっと彼女の手を握りしめてやる。

大丈夫と、安心させるように。

そして、吹き飛ばされ大けがをしているはずの達也は地面を擦りながら体勢を整えて着地すると、目の前で呆然と立っている一条の耳元で指を弾いた。

瞬間、会場のまで響くほどの振動が伝わり、やっと衝撃が収まった時、達也の前で一条がゆっくりと地面へと倒れ込んだ。

すぐさま達也も地面に膝をつくが意識は保っており、彼が一条を倒したのがわかった。

十師族の次期当主であろう一条を、無名の生徒が打ち破った。

選手達はもちろん、会場も映像を見ている全国の人たちも騒然とした。

もうそこからはあっという間だった。

幹比古が決死の覚悟で吉祥寺を倒し、最後の一人の選手を倒れていたと思っていたレオが戦線復帰し倒したのだ。

会場に試合終了のサイレンが鳴り、モニターに一高が勝利し、モノリス・コードの優勝・・・そして新人戦の優勝を表示した。

 

おおおおおおおおっ!!!

 

状況を理解した瞬間、会場中が立ち上がり達也達の優勝に歓喜し興奮のともに叫び声を上げた。

会場を揺らすほどの歓声に、楓は驚きながらも隣で感動に涙を浮かべている深雪を抱きしめる。

 

「ううっ・・・ゆ、優勝しちゃった・・・すごいよ、達也さん~」

「うん、本当にすごい・・・」

 

後ろを見ると、ほのかも号泣しておりうっすらと涙を浮かべている雫と抱きしめあっている。

美月も眼鏡をはずして涙を拭いながら、同じく隣で涙を零しながら喜んでいるエリカにハンカチを差し出している。

少し以外だが、美月よりエリカの方が歓喜に取り乱しているようだった。

 

「エリカちゃん・・・」

「う、ぐすっ・・・もう、あいつらってば・・・っ」

 

言葉ではそう悪態をつくが、紅潮した頬と笑みに歪む口元がそれを裏切っていた。

三人は大小の怪我はあるものの動くことに支障はないようで、何かを軽く話しているようだった。

達也は二人に声をかけてから、ゆっくりとこちらへ楓達のいる観客席へとやってきた。

目的が自分達だということは明白なので、ぽろぽろと涙を流し震えている深雪に優しく声をかける。

 

「ほら、深雪ちゃん。達也に声をかけてあげないと。」

「・・・はいっ」

 

促されて観客席の最前列に身を乗り出すようにして立つと、目の前まで達也がやってきた。

姿を目の前で見てまたこみ上げてくるものがあったのか、深雪は涙を再度こぼしながらもどうにか声をかける。

 

「お兄様・・・優勝おめでとう、ございますっ」

「ああ、ありがとう深雪。」

 

笑みを浮かべて返され、もう我慢出来なかったらしく深雪は歓喜して崩れ落ちる。

そんな深雪の肩を撫でてから、楓は達也を見る。

会場と観客席は高さが違うため、楓が上から見下ろす形になる。

とは言え、すごく距離があるというわけではない、そう手を伸ばせば簡単に届くくらいには近い。

そっと伸ばした楓の手を捕まえると、達也は彼女の目を見ながら恥ずかし気もなく言うのだ。

 

「この勝利を、我が姫に・・・・」

 

言ってから、捕まえていた楓の手の甲にそっと口付けを落とす。

それはさながら騎士が姫に忠誠を誓うかのように。

達也の行動に一瞬驚きながらも、すぐに微笑んで返す。

 

「ありがとう、私の騎士様。」

 

熱く甘い視線を交わしてから、達也は楓の手を離してレオと幹比古のところへと戻っていった。

会場は一高の優勝への歓声だけでなく、二人の今のやりとりにも沸き上がった。

一枚の絵のような、まさに騎士と姫というにふさわしいシーンに見ていたものは見惚れ、顔を真っ赤にしていた。

モニター越しや姿だけを見ているものがその反応なのだから、目の前で声までしっかり聞こえていた仲間達の驚きはすごかった。

 

「お熱いことで・・・・」

「はうっ・・・素敵です・・・・」

「さすが達也さん・・・」

「・・・・・」

「ああ、深雪は・・・深雪はっ!」

「ヒュー・・・やるなぁっ」

「た、達也・・・・君って奴は・・・」

 

上から呆れかえっているエリカ、感動しているほのか、先ほどとは違う感心をしている雫。

無言で真っ赤になっている美月に、くねくねと身体を捩らせながら身悶えている深雪。

口笛を鳴らして感心するレオに、真っ赤になりながら口元がひきつっている幹比古のそれぞれの反応だった。

実はこの二人の様子は誰が気を利かせたのか、というより吸い寄せられたかのようにモニターにもしっかり写っていた。

声は拾わなかったが、結構なアップで写っていたため読唇術を使える人にはちゃんとわかったし、わからない人にも甘すぎる雰囲気が十分に伝わっていた。

つまり、達也と楓が恋人であるということが全国区で明らかになったというわけである。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

まだモノリス・コード新人戦決勝の興奮、というかあるカップルの行動の余韻が残っている中、本戦が再開された。

本日はこの大会で注目される競技の一つミラージバットである。

選手達がそれぞれに美しい、妖精のような衣装を身に纏い空中を乱舞する姿は見るものの目を楽しませる。

そして今大会では、ここで一高が優勝すれば総合優勝まで決定してしまうこともあり、いつも以上に注目を浴びていた。

その試合に参加する深雪は衣装に着替えている最中で、達也もCADを大会委員へのチェックに出しているところだった。

楓は深雪の応援にしようと、会場でいい席を取りに行こうとあずさと一緒に向かっているところだった。

すでにほぼ優勝が決まったような現状のため、一高生の雰囲気は明るく隣を歩くあずさの顔も笑顔だった。

 

「楽しみだよね!深雪さんが出場するんだし、優勝は貰ったも同然です!」

 

興奮していうあずさに、普段ならそういう軽はずみな言葉は口にしないのだが相当高ぶっているのだなぁと楓は苦笑する。

少し落ち着いてと声をかけると、後ろから服部がこちらを見ているのに気が付いた。

何やら思い詰めたような表情をしている服部に、楓は首を傾げる。

 

「服部君、どうしたの?」

「椎名・・・聞きたいことがっ」

「楓!大変なの!!今すぐ来てっ!!」

 

声をかけられたことで意を決した様子の服部だったが、彼の更に後ろか走ってきた真由美によってその言葉は遮られる。

明らかに緊急を要すると思われる焦りの表情を浮かべている真由美に、楓は真由美と服部の間で視線を動かしながら申し訳なさそうに服部に言う。

 

「えっと・・・今度でいいかな?」

「・・・あ、ああ。」

「ごめんね?真由美、どうしたの!」

 

服部の言葉も気にはなるが、真由美の方が重要度が高いように見えたので断りを入れてその場を離れることにする。

席はあずさが確保してくれるということなので、安心して真由美に事情を聞くと驚いてしまう。

先ほど深雪のCADをチェックに出していた達也が、突然大会委員に襲いかかったというのだ。

理由までは明らかになっていないが、事と次第によってはかなりの大事になってしまう。

だから最悪楓に達也の暴走を止めてもらうつもりで、真由美な楓を呼び出したのだ。

走って一高の本部天幕へ向かう途中、真由美の携帯が鳴り、走りながら誰かと話している。

天幕の入り口まで来ると、中で深雪と達也が話しているのが聞こえてくる。

真由美は携帯での会話を切り、にやにやと笑いながら口を開く。

 

「あらあら、シスコンなお兄さんが妹にちょっかいを出されて怒っただけなのね。」

 

からかうような、場の雰囲気を変えるような言葉。

もちろん達也が暴れた理由がそれだけでないことは、先ほど届いた連絡で十分理解していた。

だが、大会委員が行った不正のことを公にすることもできないので、ここは達也のシスコン故の行動ということで茶化そうとしたのだ。

周りの視線が恐怖と拒絶を含んだものから呆れと生暖かさを含んだものに変わったところで、楓が達也の前までやってきた。

 

「達也・・・・」

 

すでに達也と楓の関係は誰もが知ることろなので、きっとあまりのシスコンぶりに呆れ怒るのだろうと誰もが思った。

しかし、ここでも期待を裏切るのが似た者カップルの所以である。

 

「その男は今どこ?私がしっかり強制排除(お話)しないと・・・」

 

淡々と冷たい口調で言う楓の目は全くもって笑っておらず、掛け値なしの本気であることがわかった。

もし本当に彼女の目の前に引き出したら、きっと相手はこの世に生を受けたことを後悔するに違いない。

あまりにも冷たい空気を放つ楓に、誰もが顔をひきつらせ、同時にある言葉を思い浮かべた。

 

『ブルータス、お前もか・・・』

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

 

事件はあったが無事ミラージバットで深雪が優勝を果たし、結果今大会の総合優勝が第一高校に決定した。

それを祝して、その夜は一高生だけでの簡単な祝賀会が行われた。

ずっと先延ばしにされていた新人戦の優勝も一緒に祝うとあって、彼らの顔には笑顔が多い。

 

「おめでとう、深雪ちゃん。」

「ありがとうございます、お姉様。」

 

楓に声をかけられて、深雪は嬉しそうに返事をする。

周りにはいつものメンバーであるほのかや雫が集まっており、それぞれにお祝いの言葉を口にする。

彼女たちも今大会では目を見張る大活躍をしたのだから、優勝はまさにみんなで勝ち取ったものだろう。

 

「あれ?そういえば、達也さんは・・・」

 

優勝に貢献したという意味では、彼女たちの多大なるサポートとモノリスコード優勝という偉業を成した達也はその筆頭であるだろう。

だがその肝心の達也の姿が見つからず、ほのかが首を傾げる。

確かにこの部屋はそこまで広くないので、見渡してみつからないということはないだろう。

ということは、この場にいないということになる。

 

「お兄様はお部屋で休まれているわ。さすがに疲れたからと。」

 

深雪の言葉に、誰もがすぐに納得する。

新人戦ではメンテナンスとサポートに奔走し、急遽抜擢された試合ではけがをしながらも大活躍で優勝したのだ。

その後でほとんど休む間もなく深雪のサポートに戻ったのだから、疲れていて当然だ。

ゆっくり休ませてあげようと誰もが納得したところで、祝賀会へと気持ちを戻したのだった。

 

 

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