魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第二十一話

「昨夜はご苦労だったな。」

 

風間の労う言葉に、達也は逆に申し訳ないことしたというように頭を下げた。

昨夜の総合優勝を祝う祝賀会の間抜けて、今回の九高戦にちょっかいを出してきた無頭竜の日本支部襲撃していた件についてだ。

大会にちょっかいを出す程度ならそれを阻止するくらいでとどめたのだが、よりによって妹の深雪に彼らは手を出してきたのだ。

しかも連絡を受けてしったことだが、ジェエネレーターを使って大会の人間を大量虐殺しようとしていたと聞いた時にはもう怒りを抑えられなかった。

もちろん深雪と楓を守ることは出来ただろうし、二人も自分の身を守ることだって出来たはずだ。

だがそんなこと達也には関係ないのだ、自分の大切な人間を危険に晒そうとしているという事実だけで十分だった。

敵と判断すれば、彼らをただ排除するだけだ。

ただ、自分の感情で勝手に行動し風間たちに迷惑をかけたのは事実なので、こうして謝っているというわけだ。

 

「はい、楓さんには紅茶。」

「ありがとうございます、藤林さん。」

 

この部屋に呼ばれたのは達也だけでなく楓も一緒に呼ばれており、隣に座って藤林が入れてくれたお茶を飲んでいる。

楓は軍に所属こそしていないが、彼らとは既知であるためこうして呼ばれているのである。

 

 

「任務を果たしただけなのだから、気にするな。ところで・・・君は「ソーサリーブースター」を知っているか?」

 

風間から今回の襲撃で得られたデータは今後大きく役に立つことなどからお咎めなしと言われた後、彼はそう切り出した。

もちろんその存在は達也も知っている。

どのような姿形をしているかまでは判明していないが、どの国の軍も血眼になって欲しがっているものだ。

ブースターと名が付いていることからもわかるように、使用者の魔法増幅装置だ。

魔法を使うものにとって、それはとてつもなく魅力的なものである。

もし今以上に強い演算能力があれば、魔法力があれば、きっと自分はもっと強くなれると誰もが夢想する。

 

「ソーサリーブースターは存在する。だが、製造も使用も許すわけにはいかない。」

 

人間の脳を材料とする悪魔の道具。

人道的に許されるはずのないそれを、それでも裏の人間や軍は欲してやまないのだ。

そして、もしそんな人間に楓という存在が知られたら、そう考えるだけで達也はぞっとした。

隣に座る楓も想像したのか、僅かに顔色が悪くなっているのを見て、達也はぎゅっと手を握ってやる。

 

「そう、奴らに楓嬢の存在を知られては決していけない。」

 

悪魔の道具、ソーサリーブースターなどなくとも、楓の魔法があれば限定的とはいえ魔法増幅が可能なのだ。

達也はまさにその増設メモリー機能によって感情を取り戻しているのだから、効果は立証済みと言っていい。

ここにいる人間は楓の魔法を知っているが、彼女の存在も魔法のこともトップシークレットだ。

もし捕らわれれば、どんな目にあうかなど想像もしたくない。

 

「達也くん、必ず楓嬢を守るんだ。」

「わかっています。俺の命にかえでも、楓は守ります。」

「達也・・・・」

 

楓が狙われば、達也の怒りは今回の比ではないだろう。

考えたくもないが、彼女を失いでもすればそれこそ達也は世界を滅ぼすこともいとわなくなるに違いない。

そしてそれをするだけの力を、事実達也は持っているのだ。

だから、楓を守ることは達也を、そして世界を守ることと同義だと言ってもいい。

二人のことを知っている人間は、それを心得ている。

 

「それにしても、相変わらずお二人は仲睦まじくて羨ましいですね。」

「ああ、見ていて恥ずかしいくらいにな。」

「まぁいいじゃないですか、若い証拠なんですし。」

 

手を取り合って見つめあう二人を見て、先ほどの真剣な雰囲気はどこへやら、独立魔装大隊の面々は呆れたような軽い口調で言い合うのだった。

 

 

 

 

その後、九高戦最後の種目である本戦モノリス・コード試合が行われた。

予想通り、去年優勝した一高選手が圧倒的な強さをもって優勝を飾ることとなった。

どんなステージにもどんな相手にも怯まず、隙を与えない攻防は安定感がある。

付け焼き刃で出場した達也たちと、はやはり違うことを実感させられた気分だった。

まぁ、こんなことを呟けばまた深雪とほのか二人からの猛抗議が始まると思うので達也は心の中でだけに止めておく。

何はともあれ、九高戦の長く短い期間は終了し、後夜祭が行われた。

初日以来二度目になる他校生との合同パーティで、今回は親睦会とは違い生徒たちが様々に行き交っている。

試合も終わって気を張る必要もなくなったからだろう、彼らの表情は皆穏やかだった。

 

「楓ちゃん・・・」

「仁岡くん」

 

達也から離れたところで声をかけてきたのは、もうおなじみになっている仁岡だった。

彼の顔は今までとは違い笑顔がなく、どこか落ち込んでいるように見える。

準優勝に止まってしまったことへの悔しさ、だけではなく再会した楓に恋人がいたというショックだろう。

しかもその恋人である達也は、エンジニアとしてだけではなくモノリスコード優勝という押しも押されぬ実力を見せつけたのだから仁岡は臍を噛む気持ちだった。

 

「優勝おめでとう。」

「ありがとう」

 

お決まりである言葉を口にしてから、仁岡は一度俯いてから再び顔を上げる。

そこには先ほどまでの暗い顔はなく、どこか吹っ切れたような表情だった。

今の一瞬の間に一体何があったのかわからないが、楓と言葉を交わしたことで何かを得たようだ。

そして、仁岡は晴れ晴れとした表情で楓に言う。

 

「やっぱり諦められない。」

「・・・・え?」

「俺、楓ちゃんが好きだ。それを覚えておいて。」

 

それだけ言うと、仁岡はその場を離れていってしまった。

残された楓はというと、去っていく仁岡の背中を呆然と見ていたのだが今の言葉を思い出して苦笑してしまう。

さすがの楓でも、あれだけ態度に出されていれば仁岡が自分に好意を抱いていたことくらいわかった。

だが目の前で堂々と言われるとは思わず、驚いてしまった

のだ。

自分を好きだと言ってくれるのはうれしいことなのだろうが、実際のところ達也以外を異性として見ることは難しいとわかっているので答えることは出来ない。

楓は達也のところへ戻ろうと振り返ると、先ほどまで彼が

いた場所姿が見えなかった。

食べ物でも取りに行ったのかと見回せば、十文字に連れられて外にでる姿が視界に入った。

なんとも珍しい組み合わせだと思いつつ、楓は二人を追いかけるべく同じく外へと出た。

ライトアップされた庭園はほの暗く、昼間とは違う美しさを見せている。

ホール内の喧噪から切り離されたような静けさのおかげか、少し先にいる十文字と達也が何かを話しているのが聞こえてきた。

 

「本来なら、ここで七草はどうかと薦めたいところだったんだがな・・・」

「すみませんが、自分は楓以外の女性は考えられないので。」

 

聞こえてきた言葉に、楓はぴくりと肩が揺れる。

内容からして、十文字が達也に対して真由美を薦めているというのはわかる。

薦める、とはつまり結婚相手にどうかということに違いない。

多少予想していたとはいえ、実際にその会話を聞くと楓は胸にもやもやとしたものが広がる。

だが、すぐさま表情を変えずに、しかし真剣な眼差しで答えた達也に十文字も苦笑を浮かべている。

どうやら、十文字は達也と楓が恋人関係にあることを新人戦モノリスコードのあの場面で初めて知ったようだった。

恋人がいる人間に他の女性を薦めることほど失礼なことはないと、さすがにわかっているのか十文字は配慮が足りなかったことを詫びた。

 

「・・・とにかく、十師族に勝ったというのはお前が思っている以上に大きな意味があることを忘れるな。」

 

こうして達也を呼びだして本来伝えたかったのは、おそらくこちらであろう。

たかが高校生の試合であろうと、十師族の力は追随を許さない絶対的な力を持っていると証明する必要がある。

それが十師族とは関わりがない、一般の生徒が一騎打ちをして勝ったというのは一大事と言えた。

達也の今後を考慮しての十文字なりの提案だったのだろう。

十文字は伝えたいことは伝えたとばかりに、そのまま達也をその場に残して会場へと戻っていった。

 

「・・・楓、いるんだろ。」

「達也・・・」

 

完全に十文字の姿が見えなくなったところで、達也はすでに気配を感知していた恋人へと声をかける。

あまり気持ちよくない会話を聞いてしまったこともあり、楓は姿を現しにくいとも思ったが、達也から隠れきることなど到底出来ないこともわかっている。

親しい友人でもある真由美を恋人に結婚相手として薦められる場面に遭遇してしまえば、誰であっても気まずいに違いない。

しかし、達也からすれば楓以外の女性を異性として意識することも難しいし、おそらくというかまず間違いなく欲を抱くことも出来ないだろう。

達也にとって楓という女性が現れたのは奇跡だと思っているのだ。

だから達也は楓をどんなことがあっても離さないし、どんな手を使ってでも守ると決めている。

 

「はぁ・・・どうやら俺にとって十文字会頭は鬼門みたいだな。どうにも苦手だ。」

「そうみたいね。あの人、天然なところがあるから。」

 

モノリスコードでの戦いを見たときにも思ったことだが、達也とはどうにも相性が悪いようだった。

別に気に入らないとかそういう意味ではなく、純粋に相性がよくないのだ。

楓も二人も性格や魔法特性を知っているだけに、それは思っていたことだった。

だからため息をついてそういう達也に、楓も肯定する。

 

「お兄様、お姉様。」

 

十文字についての論議をしていると、後ろから声をかけられて振り返る。

その声は聞き慣れたものであり、自分たちをそう呼ぶ人物は一人しか存在しないので相手が誰であるかはすぐにわかった。

 

「深雪。」

「深雪ちゃん。」

 

大事な妹である深雪の名前を呼ぶと、彼女はふわりと呼ばれたことにうれしそうな表情を浮かべる。

綺麗な身のこなしで近づいてきた深雪は、自分をおいて二人が姿を消したことを少し怒った。

達也の姿が見えないのを楓が探したように、二人の姿が見えなくなったので深雪も探していたようだった。

にしても、探してこんな会場から離れた場所、しかも暗がりで二人を見つけられるとは、深雪らしいといえばいいのだろうか。

 

「お兄様、深雪と踊ってくださるお約束ではありませんか。」

「そういえば、そうだったな。すまない。」

「もう、ひどいお兄様。」

「ふふ・・・そうだ、ならここで踊ったらどう?」

「ここで、ですか?」

「音楽も聞こえるし、最高のステージでしょ?」

 

薄暗い、でも幻想的な照明が照らす庭園は楓の言うとおり最高のステージだった。

しかも周りには誰もいないのだからこのすばらしい場所を独り占めすることが出来る。

深雪は頬を紅潮させて達也の方を見ると、苦笑してから達也が手を差し出す。

その手に自分の手を乗せると、兄妹は流れるような軽やかなステップで踊る。

大好きな兄と踊れることに深雪は心から嬉しそうな笑顔を浮かべているし、そんな妹を達也も優しい瞳で見つめている。

兄妹とわかっていても相思相愛に見えてしまう二人の様子に、楓は嫉妬しちゃうななどと考えてしまう。

それでも、二人の仲が悪かった頃も知っているだけにこうして仲睦まじい姿を見るのは嬉しかった。

深雪が最後にくるっとターンすると、聞こえてくる曲が終わる。

達也は胸に手を添えて恭しくお辞儀をし、深雪もスカートの端を摘んで美しく礼を返す。

一瞬の静寂後再び流れてきた曲は、フィナーレを飾るものだった。

それに気付いた深雪は、無言ですっと達也の前から端へと移動する。

 

「どうか、俺と踊ってください。我が姫。」

「喜んで・・・」

 

二人はしっかりと手を繋いでゆっくりと踊り出す。

自然に身体は密着し、お互いの目を見つめ合いながら熱い視線を交わしながらも美しく舞う。

フィナーレを飾るにふさわしい恋人同士のダンスを、深雪はうっとりと見つめる。

ダンスを見るだけで、二人がどれだけ通じ合っているかわかるようだった。

聞こえてくる楽器たちの美しい音と、月明かりと薄暗い照明がステージを煌めかせる。

そしてまるで計算したかのように、二人を飾るように背後の噴水が大きく沸き上がる。

踊る二人にきらきらと影が落ち、なんとも幻想的だった。

いつまでも見つめていたい、終わってほしくないと願ってしまうほどの光景に、心奪われる。

深雪はこの九高戦を、そしてこの美しい光景を絶対に忘れたりしないと心に焼き付けた。

 

 

END

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