「先日の実験の結果をお知らせ致します。」
研究員は定例の報告書を差し出しながら説明を始める。
今回の実験は、楓と達也に事前の連絡をせずに行われたものだった。
先日十二歳になり初潮が始まった楓は、その身体を少女から女性になるための変化が始まっていた。
これに合わせて研究員は、ある疑問からこの実験を提案しした。
それは、性交による結果の変動だ。
たまたまではあるが、楓と達也は異性なのだからこれを確かめないのはもったいない。
親類であることなどから魔法効果の相性がいいのだから、肉体関係をもったことで相乗効果がもたらされるのではないかと考えられたのだ。
「まず、二人の食事に催淫剤を導入し行為を促し、見事性交に至りました。」
達也に関しては再生の魔法があるので強いものは使えないが、どの程度で魔法が発動するかも把握しているので処方を間違えなければ服用に問題はなかった。
初回の実験は成功、しかし一度だけの行為で簡単に変化がでるわけもないので、それ以降毎日薬を飲ませ行為を強制させた。
その上で今まで通りの実験を行いどのような変化が起こるか検証した結果が、報告書に記載されている。
「結論から申し上げますと、術式の効果が増加し、達也に関してはサイオンの回復まで見られることがわかりました。」
研究員の目論見通り、達也への魔法による影響が大きくなり今まで以上に感情起伏の変動が見られるようになった。
またどのような理由かはまだ解明出来ていないが、達也の魔法力の回復が早くなり、今までは大きな魔法訓練を行った際、翌日の魔法行使は控えられていたのだがその必要がないくらいには回復していたのだ。
思った以上の成果が出せたことに、提案した研究員は満足の表情を浮かべている。
「つきましては、今後も性交を行わせる方向で考えておりますがいかがでしょうか。」
「・・・・いいんじゃないかしら。」
「そうね、成果があるのなら問題ないわ。」
研究員の報告を聞いて、真夜と深夜はあっさりと提案を飲んだ。
求める返事がもらえた研究員は、ありがとうございますと頭を下げてから部屋を退出していった。
残された女性二人は、報告書を何度も見直しながらあることを思案していた。
「深夜・・・これなら、あなたにも効果があるんじゃないかしら。」
「ええ・・・私も楓と相性が良いはずだし、可能性はあるわ。」
強い感情を司る部分を魔法演算領域へと変える魔法実験によって、達也は感情の起伏をほぼ失った。
だが実験の影響は達也だけではなく、行使した側にもあったのだ。
同じ四葉一族には、現在深夜に影響を与えられるような能力者は存在しない。
だが、ここに来て達也にも影響を与えられるほどの人物が現れたのだ。
これなら、と二人が考えるのは至極当たり前だった。
「でも、もう少し経過を見る必要があるわ。」
「そうね、もう半年様子を見てから決めましょう。」
少しの希望を持って呟かれた言葉は、半年後大きな成果を出した楓によって現実となる。
「やぁ、初めまして。今日から配属された東雲だ。よろしく。」
いつも講義が行われる部屋に向かうと、そこには見たことのない男が立っていた。
楓が声をかけることなく席に着くと、男は勝手に自己紹介を始める。
身長は178センチと高めで、年齢は25歳と若かった。
この四葉の研究所に配属されるくらいなのだから、相当優秀なのだろう。
優しげな風貌で女性受けも良さそうな東雲は、楓に微笑みながら話しかけてくる。
今までの研究員ならばほとんど会話もなく講義が始まるのだが、彼は楓のことをいろいろと聞いてきた。
初対面の人間にぺらぺらと話すのはあまり好きではない楓は、苦い顔をしながら簡潔に差し支えない程度に答えるに止めた。
「ああ、結構時間が経ってしまったね。それじゃぁ、今日の講義を始めようか。」
やっとのことで講義が始まり、質問から解放された楓はほっとしてため息を漏らす。
想像の通り頭はいいようで、講義の内容も高度でありながらもわかりやすい説明であった。
講義の内容には満足しながらも、今後も東雲が中心に講義を行うと知り、楓はついつい憂鬱になってしまう。
講義の後の実験を行い昼食の時間になると、研究員たちも使う食堂へと向かう。
同じように昼食の時間になった研究員たちが固まって話をしながら食事をしている中、楓は端の方で一人黙々と食事をしていた。
昼食は講義の時間や実験の経過によってずれることがあるので、達也と一緒になるのはあまり多くない。
だからと言って研究員と話すこともないため、必然的に一人で食事をすることになる。
しかし、今日は楓の前に一人の男が食事を持って現れた。
「やぁ、楓君。前、いいかな?」
「・・・・・・どうぞ。」
いっそ、ダメだと言ってやりたかったが渋々前に座ることを許した。
現れたのは東雲で、にこにこと笑みを浮かべながら楓の前に座り食事を始める。
そして案の定色々と楓に話しかけてくるため、ゆっくりと食事をすることが出来ない。
いつもなら次の予定の時間まで食堂にいるのだが、東雲がいつになっても側から離れないため、楓は早々に食堂から移動することにした。
楓が嫌がっていることなどわかるはずなのに、東雲はまたねと気軽に楓の背中に声をかけていた。
「楓?どうした、疲れているようだけど・・・」
どうにかその日の予定を終えて部屋に戻ると、すでに部屋に戻ってきていた達也が楓の様子を見て声をかけてくる。
言葉の通りぐったりと疲労している楓は、今日のことを話し出す。
「今日から新しい研究員が来たんだけど・・・すごく気持ち悪い。」
「気持ち悪い?何があったんだ?」
「なんていうか、すごく絡んでくるの。」
達也の隣に座って、肩にうなだれかかりながら東雲のことを説明する。
色々なことを質問してくるし、無駄に話しかけてくるしでとにかく休まらない。
初日でこれだけ疲れてしまうのに、今後講義で毎日顔を合わせるのかと思うと憂鬱だと愚痴をこぼす。
「そうか、大変だったな。」
「うう、達也~」
慰めるように柔らかな髪の毛を撫でてやると、楓は甘えるように達也に抱きつく。
自分とは違う堅い身体と、安心する彼の匂いに安心感を覚えてやっと心が落ち着いてくる。
すっかりいつも通りになると、楓はぱぱっとシャワーを浴びてベッドに潜り込み達也に抱きつく。
互いの温もりを確かめ合いながらじゃれついて、見つめ合ってからいつものように自然と唇を重ねる。
「ん、んっ・・・」
最初は触れるだけの口付けは段々と深くなり、舌を絡め合いながら互いの身体を触り合う。
初めて身体を重ねた日以降、毎日二人はこの行為を繰り返していた。
初めての夜の翌日、二人は研究員に行為は実験の一環であり今後も毎日行うように義務づけられたのだ。
義務づけられたとは言え、二人にとってこの行為は思っていた以上にしっくりとくるもので、抵抗なく受け入れられた。
身体を重ねる行為は二人の心を安定させ、相手に対する気持ちを確定付けた。
この過酷な環境の中で、互いの存在は自分の心の安定に必要不可欠なものだった。
環境による吊り橋効果、それを完全に否定することはできないが、それでも楓も達也も相手を大事に思っていたし、明確な好意を抱いていた。
そう、行為はきっかけに過ぎない。
行為によって、明確に気持ちを伝える方法を知ることが出来たのだ。
だから、二人は周りの思惑など関係なく今日も抱きしめあいながら眠りに落ちたのだった。